90 / 90
五章L:神は高らかに告げる
十話:ディナーは始まる
しおりを挟む
暗くなって久しい部屋の中、窓の外から月明かりが差し込む。その光を眺めながら、俺は思い出話にふけっていた。
「……そうしてリンが街まで山賊を追い詰め、無事貴族の元に指輪は返されたのです」
「たまたま通りがかっただけでこんなことが出来るだなんてまさに人の鑑よ! やっぱりステキ!アタシが一目惚れしたリンさんその人よ!」
ゼラは興奮し、腕を振り上げてそう言った。 実は助けに行ったタイミングには護衛任務があったので、リンの怠慢の隠蔽に俺が奔走した話はしないでおこう。
そうだった割とあいつ暴走しがちだったんだよ。……まさか今までの行動も暴走癖が原因で……?
「はぁ~やっぱ優しいじゃないリンさん。身分を問わずどんな人でも困っていたら助ける……欠点の欠けらも無いわ……」
ゼラは蕩けた顔でそう言う。
「まぁ……そうですね。気は優しくて力持ちを地で行ってましたから。ですが、弱点がひとつありまして」
「へ……? リンさんに?」
「実はリン、ああ見えて極度の虫嫌いなんですよ。 見つけた時にはすぐ飛び上がるんです」
「へぇ、意外ね! 可愛いところもあるのね……やっぱ素敵だわ……!」
ゼラはうっとりと目を輝かせ、身震いした。
「飛び上がった後殺意むき出しで切りかかるんですよ? それでもですか?」
「アグレッシブなその動きもカッコイイと思うわ」
「本当にブレませんね貴女」
痘痕もえくぼってやつだろうか。
ともかくゼラはふふんと得意げに鼻を鳴らす。その吐息はしばらく続き、いつしかため息に変わった。ソファに深く背を預け、青白く照らされる天井を眺める。
「ほんとにリンさんはお父様とお母様を……そんなに優しくて……素敵な人が……」
「さぁ……殺したと言っていましたが『誰を』殺したとまでは言っていませんでした。依然として第三者が介入している可能性は……捨てきれませんよ」
「そうよねぇ……」
「元々何を考えているか分からない男でしたから。しかし、理由なく何かをする奴ではありません。……真相は本人に聞き出すしかないですね」
「ええ、前回はいきなりすぎて聞きそびれちゃったものね。 次こそは……必ず……!」
ゼラはそう言って息巻く。俺はその様子を黙って見ていた。
リンが修道士を手にかけたのは少なくとも事実。それ以外はハッキリしないにしろ、犯した罪には裁かれるべきだ。俺も例外ではない。ゼラはあまり触れないでくれているが、そそのかされたとはいえリンを殺そうとしたのは事実。……ツケは全て払わなければならない。
[ギィ……]
静かになった部屋のドアがいきなり開けられた。目を向けると、ナナカがうやうやしく礼をしていた。
「ローレル様、ゼラ様。 お食事の準備が出来ました……今からご案内いたします 」
震える声でそう言う。
「ありがとうございます。 それではゼラ、ディナーに参りましょう」
「えぇ。 みっちり挨拶してやらないとね」
そう言って俺らは部屋を後にした。
悠然と廊下を歩く。暗さと部屋から時折聞こえる話し声は不気味さを加速させた。
ものの五分ほどでホールの前の大扉に俺らは立つ。扉の隙間から明かりが漏れていた。
「……頼んだぞ」
ナナカは言う。俺らは頷き返した。
そしてゆっくりとドアに手をかけた。
「……そうしてリンが街まで山賊を追い詰め、無事貴族の元に指輪は返されたのです」
「たまたま通りがかっただけでこんなことが出来るだなんてまさに人の鑑よ! やっぱりステキ!アタシが一目惚れしたリンさんその人よ!」
ゼラは興奮し、腕を振り上げてそう言った。 実は助けに行ったタイミングには護衛任務があったので、リンの怠慢の隠蔽に俺が奔走した話はしないでおこう。
そうだった割とあいつ暴走しがちだったんだよ。……まさか今までの行動も暴走癖が原因で……?
「はぁ~やっぱ優しいじゃないリンさん。身分を問わずどんな人でも困っていたら助ける……欠点の欠けらも無いわ……」
ゼラは蕩けた顔でそう言う。
「まぁ……そうですね。気は優しくて力持ちを地で行ってましたから。ですが、弱点がひとつありまして」
「へ……? リンさんに?」
「実はリン、ああ見えて極度の虫嫌いなんですよ。 見つけた時にはすぐ飛び上がるんです」
「へぇ、意外ね! 可愛いところもあるのね……やっぱ素敵だわ……!」
ゼラはうっとりと目を輝かせ、身震いした。
「飛び上がった後殺意むき出しで切りかかるんですよ? それでもですか?」
「アグレッシブなその動きもカッコイイと思うわ」
「本当にブレませんね貴女」
痘痕もえくぼってやつだろうか。
ともかくゼラはふふんと得意げに鼻を鳴らす。その吐息はしばらく続き、いつしかため息に変わった。ソファに深く背を預け、青白く照らされる天井を眺める。
「ほんとにリンさんはお父様とお母様を……そんなに優しくて……素敵な人が……」
「さぁ……殺したと言っていましたが『誰を』殺したとまでは言っていませんでした。依然として第三者が介入している可能性は……捨てきれませんよ」
「そうよねぇ……」
「元々何を考えているか分からない男でしたから。しかし、理由なく何かをする奴ではありません。……真相は本人に聞き出すしかないですね」
「ええ、前回はいきなりすぎて聞きそびれちゃったものね。 次こそは……必ず……!」
ゼラはそう言って息巻く。俺はその様子を黙って見ていた。
リンが修道士を手にかけたのは少なくとも事実。それ以外はハッキリしないにしろ、犯した罪には裁かれるべきだ。俺も例外ではない。ゼラはあまり触れないでくれているが、そそのかされたとはいえリンを殺そうとしたのは事実。……ツケは全て払わなければならない。
[ギィ……]
静かになった部屋のドアがいきなり開けられた。目を向けると、ナナカがうやうやしく礼をしていた。
「ローレル様、ゼラ様。 お食事の準備が出来ました……今からご案内いたします 」
震える声でそう言う。
「ありがとうございます。 それではゼラ、ディナーに参りましょう」
「えぇ。 みっちり挨拶してやらないとね」
そう言って俺らは部屋を後にした。
悠然と廊下を歩く。暗さと部屋から時折聞こえる話し声は不気味さを加速させた。
ものの五分ほどでホールの前の大扉に俺らは立つ。扉の隙間から明かりが漏れていた。
「……頼んだぞ」
ナナカは言う。俺らは頷き返した。
そしてゆっくりとドアに手をかけた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~
テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。
しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。
ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。
「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」
彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ――
目が覚めると未知の洞窟にいた。
貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。
その中から現れたモノは……
「えっ? 女の子???」
これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる