87 / 109
87. 愛する者を抱きしめて
しおりを挟む
「なにが起きてるの?」
「これ……レイさんが言ってた、本の争いとかいうのじゃ……」
「まさか……そんな……」
会議室が消えてなくなり、再びリコ達の目の前は真っ白な世界が広がっていた。今見た不思議な光景に戸惑いつつも冷静になろうとするリコ達。あれこれと三人で話していると、
後ろからバタンと倒れる音が聞こえて慌てて振り返ると、本を下にして倒れているミクがいた
「ミク!」
リコが慌ててミクを抱きしめ起こすが、目を閉じぐったりと動かず、名前を読んでも起きないミクに、泣きそうなリコ。すると、ミクの側に開いたまま置きっぱなしになっている本を見つけた
「もしかして、さっきのはミクの魔術……?」
「……お父様、僕には分かりません。どうして、本を書き続けなければならないのですか?」
クルミが目の前で起きた原因を理解した瞬間、後ろから聞こえた声に振り向くと、見たことのない男の子が、向かいにいるあまり表情の見えない男性に問いかけていた
「たくさんの人々を不幸にした本を、お父様が書き続ける理由が、僕には分かりません」
不思議そうに問いかける男の子に、男性はクスッと笑って話はじめた
「……いいかい、ライ」
「私達、本の一族は、人々の幸せのためにある。それは、分かるね?」
「……はい」
ゆっくりと語りはじめた男性の話に、頷き答える男の子。それを見て男性が、また語りはじめた
「だが、一番に大切なことは、愛する者のためだ」
「愛する者……ですか?」
「そう。友達や村の人々の幸せを願うことも大切だが、愛しき守るべき者の幸せを願うことも大切なんだよ」
と語り終えると、少し振り返った男性。後ろにいるリコ達は気づかれたかと思い、一瞬身構える。だが、男性はリコ達とは違う名前を言った
「レイ」
と、優しい声で名前を呼ぶ。誰もいないその視線の先に、ぼんやりと少しずつ小さな男の子が現れた。その男の子の名前だったのか、絵本を持って後ろに振り返った
「レイ、こっちにおいで」
再び男性に呼ばれて、読んでいた絵本を床に置いて、ゆっくりゆっくりと歩いてくると、男性の足に抱きついて、ニッコリと笑う。男性も、小さな男の子を愛しそうに微笑むと、二人の様子を側で見ていた男の子にも微笑み、そっと体を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。リコ達が、抱きしめあう三人の姿を呆然と見ていると、ゆっくりと消えていく三人。完全に姿が消えると、さっきまでいた本部の古い書庫が現れた
「なに……今の」
目の前の出来事が理解できず戸惑うクルミ。モモカと目を合わせうろたえている
「レイって、レイさんのことかな?」
と。モモカがさっきの男の子の話をしていると、二人の側でリコが慌てはじめていた
「ミク!しっかりして!」
突然聞こえたリコの叫び声に、驚き振り返るクルミとモモカ。そこには、リコに抱かれて、さっきよりもぐったりしているミクの姿があった
「どうしたの?」
「凄い熱なの!」
と、ミクを抱いてうろたえるリコ。モモカがミクの額に手を置くと、予想よりもかなり高い熱に、驚き緊迫した面持ちでクルミの方に振り向いた
「本当だ……。急いで医務室に行かないと……」
モモカの言葉に、一瞬静かになったリコとクルミ。三人がうろたえている間も、更に苦しそうな表情になっていくミク。その姿を見て、クルミがリコに抱かれているミクの手をつかみ、おんぶをすると不安そうに見ているリコとモモカに少し大声を上げ声をかけた
「私がミクをおんぶして医務室まで連れていくから、モモカは部屋の扉開けて。リコはミクの本を持って、急いで行くよ!」
「これ……レイさんが言ってた、本の争いとかいうのじゃ……」
「まさか……そんな……」
会議室が消えてなくなり、再びリコ達の目の前は真っ白な世界が広がっていた。今見た不思議な光景に戸惑いつつも冷静になろうとするリコ達。あれこれと三人で話していると、
後ろからバタンと倒れる音が聞こえて慌てて振り返ると、本を下にして倒れているミクがいた
「ミク!」
リコが慌ててミクを抱きしめ起こすが、目を閉じぐったりと動かず、名前を読んでも起きないミクに、泣きそうなリコ。すると、ミクの側に開いたまま置きっぱなしになっている本を見つけた
「もしかして、さっきのはミクの魔術……?」
「……お父様、僕には分かりません。どうして、本を書き続けなければならないのですか?」
クルミが目の前で起きた原因を理解した瞬間、後ろから聞こえた声に振り向くと、見たことのない男の子が、向かいにいるあまり表情の見えない男性に問いかけていた
「たくさんの人々を不幸にした本を、お父様が書き続ける理由が、僕には分かりません」
不思議そうに問いかける男の子に、男性はクスッと笑って話はじめた
「……いいかい、ライ」
「私達、本の一族は、人々の幸せのためにある。それは、分かるね?」
「……はい」
ゆっくりと語りはじめた男性の話に、頷き答える男の子。それを見て男性が、また語りはじめた
「だが、一番に大切なことは、愛する者のためだ」
「愛する者……ですか?」
「そう。友達や村の人々の幸せを願うことも大切だが、愛しき守るべき者の幸せを願うことも大切なんだよ」
と語り終えると、少し振り返った男性。後ろにいるリコ達は気づかれたかと思い、一瞬身構える。だが、男性はリコ達とは違う名前を言った
「レイ」
と、優しい声で名前を呼ぶ。誰もいないその視線の先に、ぼんやりと少しずつ小さな男の子が現れた。その男の子の名前だったのか、絵本を持って後ろに振り返った
「レイ、こっちにおいで」
再び男性に呼ばれて、読んでいた絵本を床に置いて、ゆっくりゆっくりと歩いてくると、男性の足に抱きついて、ニッコリと笑う。男性も、小さな男の子を愛しそうに微笑むと、二人の様子を側で見ていた男の子にも微笑み、そっと体を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。リコ達が、抱きしめあう三人の姿を呆然と見ていると、ゆっくりと消えていく三人。完全に姿が消えると、さっきまでいた本部の古い書庫が現れた
「なに……今の」
目の前の出来事が理解できず戸惑うクルミ。モモカと目を合わせうろたえている
「レイって、レイさんのことかな?」
と。モモカがさっきの男の子の話をしていると、二人の側でリコが慌てはじめていた
「ミク!しっかりして!」
突然聞こえたリコの叫び声に、驚き振り返るクルミとモモカ。そこには、リコに抱かれて、さっきよりもぐったりしているミクの姿があった
「どうしたの?」
「凄い熱なの!」
と、ミクを抱いてうろたえるリコ。モモカがミクの額に手を置くと、予想よりもかなり高い熱に、驚き緊迫した面持ちでクルミの方に振り向いた
「本当だ……。急いで医務室に行かないと……」
モモカの言葉に、一瞬静かになったリコとクルミ。三人がうろたえている間も、更に苦しそうな表情になっていくミク。その姿を見て、クルミがリコに抱かれているミクの手をつかみ、おんぶをすると不安そうに見ているリコとモモカに少し大声を上げ声をかけた
「私がミクをおんぶして医務室まで連れていくから、モモカは部屋の扉開けて。リコはミクの本を持って、急いで行くよ!」
0
あなたにおすすめの小説
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる