こねくとノイズ

シャオえる

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1. 私の本と唄をあなたに

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「今日も疲れた……」
 トボトボと一人、少しうつむき疲れた顔をして歩く女の子。独り言を呟くと今度は、はぁ。とため息をついた
「……あの公園から聞こえる?」
 と、いつも通る帰り道にある小さな公園から、歌声が聞こえてきて聞き入るように足を止めた
「綺麗な声……」
 段々と大きくなっていく唄声に誘われるように聞こえてくる方へと歩き出す。すると、公園にある一番大きな木の一番上で目を閉じ唄う紙の長い女の子がいた。その姿に見とれていると、息づきがてらに唄い終わった女の子。ふぅ。と一つ深呼吸をしているのを見て、更に近づき、こちらもふぅ。と一つ深呼吸をした

「素敵な唄だね!」
 また唄おうとしていた女の子に大声で話しかけると、驚いた女の子が一瞬、木から落ちそうになり慌てて木の枝を掴んだ
「はじめましてだね。ここの近くに住んでいるの?」
 ふぅ。と安堵からため息ついている女の子に、エヘヘと笑ってまた話しかけると、女の子がふわりと飛ぶように木から降りてきた

「私の名前はサクラ。よろしくね」
 降りてくるなり、手を伸ばして握手をしようとするサクラに、困った顔で何度もサクラの顔と手を交互に見る
「……サクラ」
「うん、サクラって呼んで。あなたの名前は?」
 そう言われて、顔を背ける女の子。それを見て、握手をしようとしていた手を下げて、心配そうに女の子の顔を覗こうとするサクラ。それに気づいた女の子がクスッと笑い、名前を言おうとした時、女の子がふと空を見上げた
「……風が吹くよ」
「風?」
 サクラも空を見上げながら問いかけると、そよ風だったのが突然強風に変わり、ぎゅっと目を強く閉じた
「……あれ?」
 風はすぐ止み、そーっと目を開けると、側にいたはずの女の子の姿が消えていた。慌てて辺りを見渡し探してみるが、どこを見ても居らず首をかしげていると、サクラに気づいた友達が近づきいてきた
「サクラ、何してるの?一緒に帰ろ!」
「う、うん。帰ろう……」
 手を振り呼ばれて慌てて返事をして、友達の方へと駆け寄り、家路へと一緒に歩き出す。途中ふと公園の方に振り返ってみても、女の子の姿は見当たらなかった
「ねえ、女の子見なかった?髪がとても長い女の子なんだけど」
「いや、見てないよ」
「そっか……」
 友達からの返事を聞いて、ちょっとうつ向きながら返事をしていると、いつの間にか友達は少し離れて歩いていた

「あの子、唄が聞こえたんだ」
 そんなサクラの様子を、近くの建物の屋上で女の子がクスッと笑って呟いていた
「渡してもいいのかな……。でも巻き込むわけにはいかないし」
 一冊の本を見つめながら、また呟くとまた空を見上げた








「あっ、あの子!」
 数日後、公園の方を見たサクラが、前にあった時と同じに木の枝に座っていた女の子を見つけ、バタバタと走って近づいていく
「今日も来てたんだね」
 息を切らして声をかけてきたサクラに女の子がクスッと笑う。またふわりと飛ぶように木から降りてきた
「今日はうたを唄わないの?」
「……あの」
 会えて嬉しそうなサクラの問いかけに答えず、うろたえている女の子。その様子に、サクラが少しくびをかしけていると、突然一冊の本を差し出した
「これ、あげる!」
「えっ、なんで?貰えないよ」
「あげるから、今日はすぐお家に帰って!」
「えぇ……。なんで?」
「いいから、早く!お願い!」
 突然のお願いに戸惑うサクラにグイグイと本を差し出しながら近寄る女の子。サクラもその歩調に合わせるように後退りをするが、諦める様子がない女の子に負けて、はぁ。とため息をついた
「わかった……。貰えないけど、預かるよ」
「ありがと!それじゃ、私は帰るから」
 渡してすぐそうお礼を言うと、サクラから背を向け走り出した女の子。急な出来事に追いかけられなかったサクラが女の子の後ろ姿を見て呆然としていると、公園から出て道路の向こうにいた女の子が、くるりとサクラの方に振り向いた
「ねえ!私の名前…!」
 微かに聞こえる女の子の声に耳を傾けるが、時々車や人が通り、うまく聞こえない
「えー?なにー?」
 サクラも大声で聞き返すが、同じく車や人に遮られ届かない。何度か車が通りすぎた時、女の子が居なくなっていた
「消えちゃった。名前聞こえなかったけど……。まあ今度聞けばいいか」
 本を見つめながら呟くと、落とさないように強く抱きしめながら家へと走り出した







「サクラ。もう寝ないと。明日、起きれなくなるよ」
 その日の夜、リビングでのんびりと過ごしていたサクラに、父親のノドカが声をかけた。時計を見るといつも眠る時間より少し過ぎていた
「本当だ。もう寝なきゃ。お父さん、おやすみなさい」
「おやすみ」
 ニコッと微笑み言うサクラに、ノドカも微笑み返事をする。部屋へと戻るサクラの後ろ姿を届けた後、少し残っていた洗い物をしにキッチンへと戻っていった





「この本、どうしよう……」
 部屋に戻ったサクラは、ベッドに横になりながら渡された本を見つめ、はぁ。とため息をついていた
「明日会えるかな。本、返さないと……」
 そう言うと、体を起こし本を机の上に置こうとした時、ふと窓を見ると、さっきまで無かったはずの雨粒が窓についていた
「……雨?」
 本の少し窓を開け、外の様子を見ると雨上がりの匂いがして、もう少し窓を開けると隣の家の屋上に見覚えのある子が月明かりに見えた
「あの子!」
 思わず大声で叫ぶサクラ。だが、その女の子にはサクラの声は聞こえないのか振り向かない。何度か呼んだ後、手を大きく振っていると、その動きに気づいた女の子が驚いた顔をすると、大きくジャンプをすると、あっという間にサクラの所へ飛んできた

「サクラ!早くあの本を!」
「えっ、本?」
「さっき渡した本!早く持ってきて!」
 飛んできた女の子に驚く間もなく言われて、ベッドに置きっぱなししていた本を慌てて取りに行く
「えーっと、これのこと?」
「持ってくるのが遅いっ!ほら、一緒にきて!」
 そう言うとサクラに手を伸ばすが、戸惑うサクラは動くことなく女の子を見ている。しばらく待ってみても手を取る様子のないサクラに痺れを切らした女の子が、無理矢理サクラの手を取った
「ほら。モタモタしていたら怒られるよ!」
「……怒られるって誰に?」
 と、サクラが問いかけた瞬間、グイッと強く引っ張られ窓の外へと飛び出した
「危ないっ!」
 落ちると思いぎゅっと強く目を閉じるが、地面についた感覚はなく、恐る恐る目を開けると、女の子に引っ張られるように空を浮かんでいた。驚いて声もかけられずに怯えていると、女の子と出会った公園の広場にゆっくりと降りはじめた。すると、髪の短い見知らぬ女の子が一人、降りてくる様子を待ちくたびれた顔をして話しかけてきた
「遅すぎる。逃げたのかと思った……」
「逃げないよ。ちょっとサクラがモタモタしてたから」
「サクラ?」
 そう言うと、サクラを少し睨むように見る女の子に一瞬ビクッとして本を抱きしめ、連れてこられた女の子の後ろに隠れた
「その子で良いの?大分鈍そうだけど」
「まあ、大丈夫だと思うよ、ねえ」
「えーっと、なにが……」
 話しかけられ答えられず、困ったように問いかけ返すサクラに、連れてきた女の子がニコッと笑う
「まあ、分かんないことは、これから無理矢理にでも覚えていくから気にしないで」
 そう言われてまたうまく言い返せず困っていると、二人の様子を見て髪の短い女の子が、呆れたようにはぁ。とため息をつく。すると、サクラの頭にポツリと雨粒が落ちて空を見上げると、髪の短い女の子がふわりと空に浮び、サクラ達を見るように少し振り向きながら話しかけてきた
「二人とも、のんびり話してる時間はないよ。後から色々面倒だから、急いで行くよ」
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