クローバーホリック

シャオえる

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67. 本に未来を描いて

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 食堂に着くと、誰もいない食堂にたくさんの食事が用意されていた。静かな食堂にナツメ達が椅子に並んで座る音が響く
「あれ?サクラは?」
「先程、お呼びしたのですが……」
 と、お茶を渡しながらナツメに答えると、ユリが廊下の方に走ってキョロキョロと辺りを見渡すが、サクラが来る気配はなく、ナツメとツバキの方に振り向いた
「私達、呼んでくるよ」
 とユリの様子を見て椅子から立ち上がり、食堂から出ていったナツメ。慌ててユリとツバキもナツメの後を追っていく


「サクラ……」
 アルノが眠る寝室に来たナツメ達。ベッドで眠るアルノの姿を見ていたサクラに声をかけたナツメ。声に気づいてサクラがゆっくりと振り向いた
「アルノさん、どう?」
「起きないね……どうしてかな?」
 サクラが困ったように笑って答えると、隣に三人も来てアルノの眠る姿を見つめた。ほんの少し騒がしくなった寝室でもアルノは起きる気配はない
「ミツバちゃんはどう?」
「まだ起きてないよ」
「……そっか」
 少し寂しげに返事をするサクラに、困ったように顔を見合わせてたナツメ達。アルノを見つめ、話さなくなったサクラに、ツバキが後ろからぎゅっと抱きしめた
「サクラもご飯食べよう。元気ない姿、アルノさんが見たら悲しむよ」
「……うん。そうだね」
 そう返事をしても、椅子から動かないサクラを、ユリとツバキが無理矢理サクラの手を引っ張って、食堂へとみんなで歩いていく



「本も本棚も無くなっている……」
 その頃、目が覚めていたミツバがアルノの部屋に勝手入って茫然と部屋の中を見渡していた
「やっぱり、私の本だけが残ったんだ……」
 部屋にあった椅子さえも無くなり、広くなった部屋の真ん中で、本をぎゅっと強く抱きしめて、しばらく立ち尽くしていると、パタパタと部屋に近づいてくる足音が聞こえてきた

「……ミツバちゃん、いるの?」
 声をかけながら、恐る恐る部屋の中に顔を出したサクラ。その声に気づいてミツバがゆっくりと振り返った
「サクラ……みんなも……」
「良かった!目が覚めたんだ」
 ミツバの姿を見るなり走って抱きしめたサクラ。部屋で寝ていると思っていたナツメ達は、ミツバの姿を見て驚いている。遅い足取りで部屋の中に入ってくる三人。側に来たナツメ達三人に気づいたミツバが、代わる代わるぎゅっと抱きしめあう。すると、隣で泣きそうなサクラを見て苦笑いするミツバ。本を抱きしめて笑っている姿を見てサクラ泣きながらまたミツバを抱きしめた

「サクラ、本はどうなったの……」
「それは……」
 ミツバの質問に抱きしめていたミツバの体を離して、答えずにうつ向いてしまったサクラ。ナツメ達も答えられずに困っていると、ミツバ達の後ろからクスッと笑うか細い声が聞こえてきた
「ミツバちゃん以外の本はもう全部無くなったわ」
 声に驚いて、その声がする方に振り返るサクラ達。視線を感じながら、ミツバの所にゆっくりと近づいて、優しくミツバをぎゅっと抱きしめ頭を撫でた
「ミツバちゃん、体調はどう?」 
「大丈夫です。アルノさんは……」
「私は大丈夫よ。ちょっと本を手放すのが辛くて、泣いちゃってただけよ」
 クスッと笑って話すアルノを、サクラやナツメ達が心配そうに見ていると、ミツバが大事そうに抱えている本を見つけたアルノが、その本を指差した
「もうミツバちゃん以外の本は無い。だから……」
 話の途中、ふぅ。と一つ深呼吸をするアルノ。その一瞬に、部屋に緊張感が走り、部屋にいる全員が息を飲む

「ミツバちゃんは、この本を守り続けなきゃいけないの。本を二度と作らないように」
「じゃあ、私達の本は……」
「ミツバちゃんが望まない限り無理ね。もちろん、私にも本がないから新たになんて作れないわ」
 ナツメに質問に淡々と答えるアルノ。その言葉を聞いて、ミツバが本を更に強く抱きしめた
「……ミツバがサクラの代わりに本を……」
「ミツバちゃんの本も消せないの?それなら……」
 不安そうに呟いたナツメの声をかき消すサクラの言葉に、アルノがふぅ。とため息ついた
「サクラ、ミツバちゃんの本を読んでみなさい」
 と、アルノが少し強い口調でサクラに言うと、ミツバの本を見つめたサクラ。ミツバから本を受け取り、ふぅ。と深呼吸をすると、ゆっくりと本を開いた


「さてと、私のご飯はあるのかしら?」
 後ろで待機していた家政婦達に振り向いて、ニコニコと笑って話しかけた
「はい。今、お食べになりますか?」
「そうね。ナツメちゃん達も食堂行きましょ」
「えっ、でも……」
 サクラとミツバを見て戸惑うユリ。あっという間に部屋から出ていったアルノと家政婦達の後を慌てて追いかけていった。サクラとミツバの二人だけが残った部屋。静まり返った部屋で見つめあう二人。少しうつ向くと、ミツバの本が見えたサクラ。慌ててミツバに勢いよくペコリと頭を下げた
「ごめんなさい!ミツバ!私、やっぱり……」
「いいの。私の本だし、望んだことだからね。頑張ってずっと守らなきゃね」
 本を強く抱きしめて微笑むミツバ。まだ頭を下げているサクラに近づいて、そっと抱きしめた。ゆっくりと顔を上げると、微笑んでいるミツバを見ると少し申し訳なさそうに顔を背けた
「でも本は私が……」
「それより、約束のお菓子はどうしたの?」
「えっ?えーっと、えーっと……」
 ミツバからの突然の質問に、あたふたしはじめたサクラ。その様子をミツバがクスッと笑っていると、また部屋へと来る足音が入り口から聞こえてきた

「サクラ、ミツバ。ご飯一緒に食べよう……」
 部屋の入り口からツバキが寂しげに声をかけた。後ろからナツメとユリも、どこか寂しげに顔を出している。そんな三人を見て、ミツバがクスッと笑った
「そうだね。サクラ、行こう」
 サクラの手を取り、一緒に三人の所へと走っていくミツバ。バタバタと食堂へと走っていく後ろ姿を、嬉しそうに見守るアルノに、家政婦達が心配そうに声をかけた
「アルノ様、本当に良かったのですか?ミツバ様に全て本の罪を被せても……。本来なら私達やアルノ様が……」
「大丈夫よ。二人なら支えあって本を守っていくでしょ。私達もナツメちゃん達のことも見守らなくちゃいけないしね」
 ニコニコと笑って家政婦達に返事をするアルノ。その言葉を聞いても、不安そうな家政婦達。すると、大分後ろにアルノ達がいるのに気付いたサクラが振り返り声をかけた
「あれ?お母さん、ご飯食べないの?」
「今、いくわ。待っててね」
 サクラの声に、慌てる様子もなく返事をすると、サクラ達の後を追うように食堂へと歩いていくアルノ。全員が食堂に着いて、食事が始まると久しぶりに明るく楽しい声が響いた










「ミツバちゃん!本!使おう!時間無い!」
「あのねぇ、サクラ……」
 それから数日後の朝、バタバタとあっちこっちと部屋中を動き回り着替えをするサクラに呆れてミツバが返事をしていた。その側で、サクラと同じくナツメ達三人もドタバタと慌ただしく制服に着替えて学校に行く準備をしていた
「だって学校遅刻する!」
「もう……それに私、今日学校行かないから。サヤカとマホにも休むって伝えてね」
「えっ?なんで?」
 ミツバの言葉を聞いて準備をしていたサクラだけじゃなくナツメ達の手が止まった
「今日からアルノさんから、これから本を守るための話しや文字の読み方を習うの。だから、制服着てないでしょ?」
 そう言うと、ミツバの服をじっと見つめたサクラ達。一人だけ制服を着てないことに気づいて、全員しょんぼりとしていると、
「ほらほら、みんな遅刻するよ!急がないと!」
「う、うん……」
 朝御飯も食べずドタバタと学校へと向かったサクラ達。玄関で家政婦達と見送ったミツバ。ふぅ。と深くため息ついて家の中に戻っていった






「アルノさん、ごめんなさい。遅れました!」
「いいのよ。サクラが遅刻しそうだったんでしょ?」
 アルノの部屋の扉を開けるなりすぐ、謝り頭を下げたミツバ。その声に気づいて振り返ったアルノ。何も無かったアルノの部屋に新たに置かれたソファーに座ってクスクスと笑い返事をした。その笑顔につられて、ミツバも微笑む。アルノの向かいにあるソファーに座って、二人の間にあるテーブルにそっとミツバの本を置いた
「さて……。今日はどんな話をしましょうか」
「小さい頃のサクラとナツメ達の話をしてください。本に書きたいんです」
「あらそう。それじゃあ紅茶でも飲みながら本のために、たくさん話をしなきゃね」
「はい。ここ本は、悲しい本じゃなく、楽しい本としてサクラだけじゃなくナツメ達も守っていきたいので」
 と、二人楽しく話が進んでいると、家政婦達が部屋に入ってきた
「お二人とも、紅茶が入りましたよ」
「アルノさん、今日は天気が良いのでベランダで話をしませんか?」
 と、家政婦達が持ってきた美味しそうなお菓子とティーポットを見て、ソファーから立ち上がり、勢いよく部屋の窓を開けて、テーブルと椅子を用意しはじめた

「アルノ様、本当に大丈夫ですか?」
「ええ。ミツバちゃんには辛い思いさせると思ってたけど……大丈夫そうね」
「私達やサクラ様もいますから大丈夫ですよ。きっと……」
「アルノさん、用意できましたよ。早く話をしましょう」
 テーブルにドンッとミツバの本を置いて、アルノ達を大声で呼ぶ。その声にアルノと家政婦達が顔を見合わせクスッと微笑んだ
「そうね。一緒に見守っていきましょう。本とあの子達の未来は私達の願いでもあるものね……」
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