シンフォニー・レイ

103. 悲しみを呼んだその人は

「あの人は、シキちゃんとシンクさんのお母さんじゃないの……」
「お母様は、ツミキの……」
　目の前にいる母親という車椅子に座る女性を、ただ呆然としているツミキと、ツミキと同じく戸惑うシキとシンク

「ゼフドさん……、ルモカさんも知っていたんですか？」
　ノア隊員が恐る恐る問いかける。また慌ただしさが戻っていた指令室が少し静かになって、ゼフドの答えを聞こうと、隊員達みんなが動きを止める。しばらく無言でいた後、ゼフドはゆっくりと語り始めた
「多分だろうと思っていた。シキ君とツミキ君のうた声のデータが全く一緒だったからな。理由は分からないが娘を探しているのかもしれないと。ここに有る自身のデータや家族等の全てのデータを消し、この施設を離れ娘を手放したことは、噂になっていたからな」
　
「もう、十年以上前の出来事だ。ミオリ君やカエデ君には秘密にしていたことでもある。君たちが知らなくても無理はないか……」
　話を聞いて静かになった隊員達を見ながら笑い話すゼフドの傍らで、ルモカが動けなくなっていた
「ルモカさん……」
　メルナが声をかけると、ハッと我に返って心配そうな顔で見ているメルナに、ちょっとぎこちなく微笑む

「……私は」
　ゼフドの話す内容は、ミオリやツミキ、カエデが付けているイヤホンにも聞こえて、ミオリがポツリと呟いた
「……ミオリさん」
　そのか細い声にツミキが気づいて声を掛かけると、ミオリが顔を上げてツミキを睨んだ。睨まれ一瞬、後を引くツミキに、ミオリは涙声で叫ぶ
「ツミキは、もしかしたら一人暮らしじゃなく、お母さんと楽しく過ごしていたかもしれないというの……。カエデだって、きっと……！」
「ミオリさん！それは違う……私はっ！」
　一人叫ぶミオリに対し、カエデが叫び返す。二人の間にいるツミキがその二人の剣幕に圧倒されて、あたふたと戸惑ってしまう。三人の戸惑い叫ぶ様子に、シキがお父様というその人が車椅子の女性にそっと右手で左頬を触り、悲しみの目でツミキ達を見つめる
「ああ、可愛そうに……でも、君を恨んだことは無いというのに……ねぇ」

「……お父様」
　シンクに抱きしめられながら、か細い声で呼ぶシキに気づいて振り向いた
「二人とも、すまないね。こんな話は、もう止めようか……」
　シキの呟いた声で何かに気づいたのか、驚いた表情のカエデがツミキを見る
「お父様……あの人は、ツミキのお父さんになるの？」
「……私の？」
　カエデの言葉に目の前にいる二人に、ツミキは目を向ける。ツミキ達の視線に気づいて、ゆっくり立ち上がると、ツミキに向けて微笑んだ
「そう、私は二人の父親でもあり、ツミキの父親さ」