転生個人投機家の異世界相場列伝

犬野純

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初めての仕手戦

10 動いた価格

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 僕は朝からヨーナスの事務所に来ていた。
 リアルタイムで塩の取引価格を確認するためだ。

 予定通り塩の価格はどんどん下がっていく。
 90,000マルクだった先物価格はあっという間に70,000マルクを切った。
 現物も当然下落していくが、先物より3,000マルク程高い価格で取引をされている。
 これは時間が経つに従って価格が下落すると人々が考えている証拠だ。
 期先になればなるほど値段は低い。

 尚、この前清算日となったために、次の清算日はまだ25日程先になっている。
 今持っている売りポジションをどこまで引っ張るかだな。
 商品価格というものは仕手戦になればオーバーシュートするものだ。
 上にも下にも適正価格を大きく超えていく。
 今回の下落も売り急ぐ人が多くなれば、適正価格よりも下で約定することもあるだろう。
 株式投資でも暴落時は買いっていうのはこのためだ。
 どうしても急ぎでお金が欲しい投資家は、市場で急いで換金するために発生する現象で、古今東西どこの市場でも見る事が出来る。

 特に、本尊の姿が見えないので提灯筋は不安になって売り急ぐだろう。
 何故本尊は買い支えないのかという不安が、値下がりと共に増大していき、雪崩を打って株価はさがっていく。
 値幅制限がない市場なので、兎に角止まらない。
 パニックが起きれば一瞬でどこまでも下がっていくのだ。

 午前11時になると日中足が下髭をつけて上がり始める。
 下髭とはローソク足で最安値からの戻りがあり、寄り付きの価格に近付いていく事である。
 一旦パニックが収まったのか、それとも本尊が買いを入れたのかはわからないが、強いリバウンドを見て売りポジションをクローズした。
 現在の最安値は55,300マルク。
 過去の値上がりを一気に解消した形となった。
 自分が手仕舞いしたのはそれよりも上の58,900マルクであるが、相場の頭としっぽはくれてやれの格言通り諦める。
 最安値最高値を取る事など不可能に近く、それを追いかけては損をするからなあ。
 その後取引価格はペナントを形成する。
 ペナントとは株価などの値動きが上値を切り下げ、下値を切り上げる事で次第に小さくなっていく事を指す。
 丁度右に行くにしたがって細くなっていく三角形のペナントの形になるからそう言われているのだ。
 このペナントが小さくなると、次に大きな値動きがあると言われている。

 そしてついにペナントがブレイクした。
 ブレイクとは上値や下値を結んだ直線を、価格が突破することを示す。
 基本的にはブレイクした方に価格は走るのだ。

「買い注文300枚。それと現物も20トン買う。6万マルク以下は拾って!」

 僕は急いでヨーナスに注文を出した。

「正気ですか?」

 ヨーナスが確認をするので、彼を急がせた。

「早く!」

「わかりました」

 現物については本日の取引終了時間に清算して、受け渡しは3日後となっていた。
 相手に連絡して運搬の準備などがあるので、即時の引き渡しは無理なのでそうなっている。
 日本でも株式の受け渡しが4日後になっていたのは名義の書き換えもいつ様になるという伝統があったのだが、上場企業の株式が電子化されて1日早くなった。
 それでも3日はかかっているのだけどねえ。

 それと、自分の魔法で塩を作り出せるが、あえて現物を購入したのはヨーナスに売るときに説明がつかないからである。
 ここでそれをやってしまえば、成人してから家を出て気ままに暮らすことが出来なくなるから、それをすることはしない。

 一度ブレイクした価格が再びサポート迄下落してくるので、そこでガンガン拾ってもらう。
 何故そうしているのかといえば、本尊が売り抜けていない可能性があるからだ。
 現在までの出来高が圧倒的に少ない。
 数か月にわたってひっそりと塩を買い占めてきた本尊が、売り抜けるのにはこんな出来高では無理だ。
 因みに現物の取引量が100トン程度。
 圧倒的に先物が多いのは、現物を持たない提灯筋の取引がそこに集中したからだろう。
 先物の出来高は1万枚を超えて大商いとなっていた。
 買いの本尊が仕込むならむしろ今だろうな。
 それまでは出来高が細くて大きなポジションなんて取る事が出来なかっただろうし。

「今日の手口情報がわかったら教えてね」

 とヨーナスにお願いする。
 手口とはどこの商会がどの程度のポジションを取ったのかという事だ。
 これが重要で、この手口に本尊が見え隠れしてくる。
 取引価格には嘘が混じるが、出来高は嘘をつけないのだ。
 取引価格を釣り上げるなら上値をガンガン買っていけばよいがこれには出来高は必要ない。
 しかし、ポジションの仕込みをするのなら出来高が膨らむ。

 なんとなくだが下髭をつけたのは本尊の買いな気がするんだよなあ。
 そしてこの出来高をコントロールするとなると、それなりの資金力が必要になる。
 どこまで価格を戻すことが出来るのかお手並み拝見といこうか。

 僕は引け値を確認してから屋敷に戻った。
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