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材木相場
47 放火
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清算日まであと20日となった。
ユルゲン商会とヨーナス商会はそれぞれの建玉が6万枚を超えて7万枚に迫ろうとしていた。
提灯筋の売買も活発で、今や国中の相場師が王都の材木価格の動向に目を光らせていた。
当然建玉の枚数は過去最高である。
そして、ユルゲンは焦っていた。
今日も今後のことについて、教皇との会合である。
そして、その場にはギルベルトも同席していた。
ユルゲンは焦った表情で教皇にうったえる。
「そろそろ行動を取りませんと、万が一雨が続いた場合計画が台無しになります」
「ふむ」
そう言って教皇は息子であるギルベルトを見た。
ギルベルトは満面の笑みで答える。
「教皇猊下、準備は整っております。あとは天候を待つばかり。既に乾燥した日が続いておりますので、あとは風の強い日に火を放てば、王都が炎に包まれることは間違いないでしょう」
彼らの計画はマクシミリアンが予想したとおり、王都に火を放つものであった。
ユルゲンも言葉に勢いがつく
「材木置き場にも火を放って、現物を燃やしてしまえば、あとは教団領から材木を持ち込み高値で売りさばくだけです」
「しかし、それでは材木の生産量を増やしているシェーレンベルク家とローエンシュタイン家も儲かってしまうのではないかな?」
「ご安心ください。火事で材木価格が高騰すれば奴らは破産です。現物をいくら高値で捌こうが、先物の損失が雪だるま式に膨らんでいきますから」
実際はマクシミリアンとヨーナスの自己資金だけでやっているのだが、連日の馬車から降ろされる箱を見て、あの中には証拠金が入っていると、見た者たちが勝手に勘違いしてくれたのだ。
そして、その話はユルゲンにも伝わった。
なので、ユルゲンもそう勘違いをしているのだ。
「宗教裁判にかける前に、自殺してしまいそうですね、教皇猊下」
ギルベルトも教皇にそういった。
「ギルベルト、絶対に尻尾は掴まれるなよ。付け火は大罪だ。いくらヴァルハラ教の力が強くとも、王都を放火で焼き払ったなどという罪は揉み消せないぞ」
「ご安心ください。必ず完璧に成功させてご覧にいれましょう猊下」
そして室内は三人の笑い声に包まれた。
それから三日後
今日は雨はひと月以上降らず、強い北風が吹くという天候に加えて、月が見えない新月という絶好の放火日和である。
ユルゲン達が仕掛けてくるのであれば、今日ほどやりやすい日は無いだろう。
僕は数日前に義父にお願いして、王都の警備兵の夜間パトロールを強化してもらっていた。
そして、特に風上にあたる北の地域は重点的にパトロールをお願いした。
連日警備兵が目を光らせてくれている。
今の所、放火未遂の報告は受けていない。
明暦の大火では諸説あるが一番死者が多いものだと10万人という説がある。
当時の江戸の人口は町方がおよそ28万5千人ほど。
実に1/3が死亡しているのだ。
それに火災旋風が発生する可能性もある。
一度火をつけられてしまえば、どれほど被害が拡大するかわかったものではない。
魔法学園の教室で、窓ガラスに叩きつけられる北風の音を聞きながら外を見ていたら、ドミニク殿下がやってきた。
僕のことを心配そうに見つめてくる。
「どうした、浮かない顔をして。婚約者と喧嘩でもしたのか?」
殿下、それ以上はいけません。
何処に腐女子の目があるかわかりませんので。
とも言えず、
「婚約者との仲は良好ですよ。今日も日の出前まで可愛がられていましたから」
と答えた。
勿論、悪い方の意味の可愛がりである。
もう、他にはお嫁に行けない。
僕も婚約者たちも。
何があったのかはご想像にお任せいたします。
「ドミニクは、王都の防火体制についてどう思う?」
「どうした突然?」
殿下は僕の質問が唐突すぎて、返答する前にその意図を訊ねてきた。
僕は前世の知識を使って説明する。
「王都の平民居住地域では、道幅がとても狭くなっております。火災が発生したら延焼しやすいと思いませんか?それに、延焼を防ぐために空き地を計画的に作るのも良いかもしれません」
そう言うと殿下は考え込んだ。
「フィエルテ王国はその長い歴史の中で、人口を増やしてきた。そのせいで、今では王都の土地が足りなくなっている。城壁の外に暮らしているものも多い。道を広げ、空き地を作るとなると簡単にはいかないだろうな」
「例えば王都を焼き尽くすような火事があったとしたら、更地からなら楽にできますよね」
そう言うと、殿下の顔色が変わる。
「マクシミリアン、まさかお前」
「付け火などしたりしませんよ。それに、殿下は僕の材木先物のポジションをご存知ないのですか?」
「そうだったな」
殿下も既に僕が材木相場に、かなりの資金を投じているのを知っている。
殿下の態度だと、知っていてわざとからかってきたのだろう。
大人びているようで、子供っぽい茶目っ気があるなあ。
休み時間の間、殿下とは防火対策の話をした。
今したところで、数日以内に行われるであろう、放火までには間に合わないが。
魔法学園から屋敷に帰ると、僕は直ぐに食事を取った。
ハーバーからの連絡も来ており、今日が本命だということだ。
ユルゲンは仕入れのため王都を離れたというし、教皇も視察のため王都には居ないという情報があった。
ハーバーが相手の立場なら、仕掛けるのは今日しかないと考えると言われると、その説得力に重みが増すな。
食事が終わると動きやすい服装に着替える。
そして、婚約者たちの待つ部屋に行った。
その部屋には婚約者の三人の他に、若い男が二人いる。
一人は赤毛のほっそりとした顔立ち。
気弱が服を着て歩いているように、頼りなさがにじみ出ている。
ニクラウス・フォン・ローエンシュタイン、僕の従兄弟である。
親は男爵だが、本人は家を継げないため、王都で仕事を探していた。
水属性の魔法が使えるので、今日のために臨時で雇ったのだ。
もうひとりは、短髪の黒髪に発達した筋肉。
ニクラウスとは対照的だ。
彼の名前はルーカス・フォン・シェーレンベルク。
シェーレンベルクというが、ブリュンヒルデの遠い親戚であり、彼の実家に爵位はない。
本家の所有する騎士団に入り、出世を狙っているとブリュンヒルデからは聞いている。
今夜の僕の護衛としてついてきてくれる事になっている。
そう、僕は今夜パトロールに加わるつもりだ。
加わるというか、別働隊として動く。
警備兵を信頼してないわけではないが、これだけ大きな勝負をしているのだから、他人に任せておくというのは落ち着かない。
「おまたせ」
僕はそう声をかけると、二人はお辞儀してくれた。
婚約者たちは顔から不安がにじみ出ている。
最初に口を開いたのはマルガレータだった。
「マクシミリアン様、外は風が強く吹いていて、夜は更に冷える事でしょう。もっと厚着されたほうがよろしいのでは」
ってお母さんか。
いや、ベッドの上ではママって呼ばされているけどさあ。
因みに、ママの日もあれば、お姉ちゃんの日もある。
「大丈夫、アイテムボックスにはコートやマフラーが入っているから。寒くなったらそれを取り出すよ」
それを聞いて、マルガレータはニッコリと微笑む。
ブリュンヒルデは
「ルーカス、マクシミリアンをしっかり守るのですよ」
とルーカスを見た。
ルーカスは首肯する。
「お任せください」
「さて、日も沈みかけている事だし、そろそろ行こうか」
僕はそう言って、ニクラウスとルーカスを連れて部屋を出た。
屋敷から風上に向かうのも徒歩である。
馬車では目立ちすぎて、放火犯が隠れてしまうので使えない。
吹き付ける冷たい北風に向かい歩いていくと、街は帰宅すると思われる人や、夜の街に繰り出す人で混み合っていた。
やはり道が狭いよな。
それでも午後8時もなると、通行人たちは少なくなってきた。
変わって、警備兵の姿が目立つようになる。
パトロールを強化したせいで、僕たちが職務質問を受ける頻度が高い。
何度目かの職務質問を受けて身分を明かすと、警備兵は恐縮して頭を下げた。
「職務ご苦労」
そう言って警備兵と反対の方に歩き去る。
その後、既に時を告げる鐘はならなくなり、星の位置から多分日が変わるくらいだと推測した時刻に、事態は動き始めた。
犯罪者を見つけた合図の警笛が、月明かりのない夜空に響き渡る。
それも一箇所だけではない。
あちらこちらから鳴り響いた。
「始まったねえ」
「はい」
ルーカスがうなずく。
「だ、大丈夫でしょうか?」
ニクラウスは震えだした。
こんな暗闇で賊と出くわしたら怖いのはわかる。
特に、ニクラウスは消火担当であり、戦闘はからっきしで期待はしていない。
それは僕も同じだけど。
その時、こちらに向かってくる気配がした。
「待てー!!」
警備兵が怒鳴り声をあげている。
放火犯を追いかけているようだ。
「ルーカス!」
「承知」
ルーカスは僕の意図を理解し、声の方に走り出した。
そして、直ぐに叫び声があがる。
「ギャア」
「痛え!」
ルーカスの後を追って、僕とニクラウスもそちらに向かうと、男たちが二人地面に転がっていた。
そして警備兵に捕縛される。
「ご協力感謝いたします」
「どういたしまして」
とルーカスは警備兵にこたえた。
よく見たら、数時間前に職務質問をしてきた警備兵だった。
彼らは捕まえた男たちを牢に入れるため、一度戻るという。
それを見送ると、僕たちは再び歩き始めた。
すると、直ぐに火事を知らせる鐘がけたたましく打鐘された。
「火事か、やられたな。何処だ?」
空を見上げると、少し東の方が明るくなっていた。
「行こう」
「「はい」」
僕たちは打鐘で目が覚めて、外に出てきた住民たちの間を縫って、火事が起きたと思われる方へ向かった。
そして火元にたどり着く。
「教会か」
燃えていたのは教会だった。
ここは平民用の小さな教会で、夜間は人がいないはずだ。
王都にはそんな教会がいくつがある。
大聖堂は平民は普通は入れないのだ。
そして、警備兵も建物の中までは入って確認することはしない。
してやられたな。
既に屋根まで火がまわっており、近づこうとすると、熱気で肺が焼けるのがわかる。
不謹慎だが、空に舞う火の粉がとても美しい。
「火のまわりが早すぎますね。中に油でも撒いて火をつけたのでしょう」
ルーカスはそう分析した。
「ニクラウス、消火出来る?」
「いいえ、ここまで火の勢いが強いと難しいです」
ニクラウスは首を振った。
「わかった。じゃあ、僕に水をかけてほしい」
「マクシミリアン様に?」
「そう。といっても、僕が今からマントを出すから、それをびちょびちょに濡らしてほしいんだ。それが終わったら風下の家の壁に水を掛けて、延焼しないようにしてほしい」
「わかりました」
そこで僕はアイテムボックスからマントを取り出した。
ニクラウスは魔法で水を作り出すとマントにかけた。
僕はそれを纏う。
「冷たっ!」
冬の夜中に水浸しのマントなんて纏うものではないな。
二度とやりたくないと思いながら、息を大きく吸って燃え盛る教会に向かって走り始める。
ニクラウスとルーカスが驚いたのがわかった。
教会に近づくにつれ、空気がどんどん熱くなっていくのがわかる。
マントの隙間から熱風が入り込んできた。
そして、すごい勢いで水分を奪っていく。
なんとか教会の手前3メートルまで来たところで、僕は燃え盛る教会をアイテムボックスに収納した。
アイテムボックスへの収納は、対象に触れてなくてもよいが、ある程度近寄らなければならない。
出す時はもう少し遠くに出せるのだが、収納は3メートルくらいの距離まで近寄る必要があった。
「あっつい」
大きく息を吐いた。
マントはすっかり乾き、熱の余韻が体に残る。
熱源が無くなったので、あとは徐々に冷めていくだけなので、一安心ではあるな。
一息ついて周囲を見ると、延焼した家の消火を行っているのが見えた。
ニクラウスや他の水魔法の使い手が、水を作っては燃えている箇所にぶつけていく。
「あっちも手伝うか」
僕は燃えている家に近寄ると、これもアイテムボックスに収納した。
周囲の燃えている家を全て収納したあとは、空き地となった教会の跡地に一個ずつ出していく。
燃えるものが周囲に無くなったので、ここならば消火に時間がかかっても安全だ。
消火したら元の場所に家を戻し、次の家を出すのを繰り返す。
全てが終わった頃には、空が瑠璃色になってきていた。
やれやれ、今日の魔法学園は休むかな。
そう考えて屋敷に戻った。
ユルゲン商会とヨーナス商会はそれぞれの建玉が6万枚を超えて7万枚に迫ろうとしていた。
提灯筋の売買も活発で、今や国中の相場師が王都の材木価格の動向に目を光らせていた。
当然建玉の枚数は過去最高である。
そして、ユルゲンは焦っていた。
今日も今後のことについて、教皇との会合である。
そして、その場にはギルベルトも同席していた。
ユルゲンは焦った表情で教皇にうったえる。
「そろそろ行動を取りませんと、万が一雨が続いた場合計画が台無しになります」
「ふむ」
そう言って教皇は息子であるギルベルトを見た。
ギルベルトは満面の笑みで答える。
「教皇猊下、準備は整っております。あとは天候を待つばかり。既に乾燥した日が続いておりますので、あとは風の強い日に火を放てば、王都が炎に包まれることは間違いないでしょう」
彼らの計画はマクシミリアンが予想したとおり、王都に火を放つものであった。
ユルゲンも言葉に勢いがつく
「材木置き場にも火を放って、現物を燃やしてしまえば、あとは教団領から材木を持ち込み高値で売りさばくだけです」
「しかし、それでは材木の生産量を増やしているシェーレンベルク家とローエンシュタイン家も儲かってしまうのではないかな?」
「ご安心ください。火事で材木価格が高騰すれば奴らは破産です。現物をいくら高値で捌こうが、先物の損失が雪だるま式に膨らんでいきますから」
実際はマクシミリアンとヨーナスの自己資金だけでやっているのだが、連日の馬車から降ろされる箱を見て、あの中には証拠金が入っていると、見た者たちが勝手に勘違いしてくれたのだ。
そして、その話はユルゲンにも伝わった。
なので、ユルゲンもそう勘違いをしているのだ。
「宗教裁判にかける前に、自殺してしまいそうですね、教皇猊下」
ギルベルトも教皇にそういった。
「ギルベルト、絶対に尻尾は掴まれるなよ。付け火は大罪だ。いくらヴァルハラ教の力が強くとも、王都を放火で焼き払ったなどという罪は揉み消せないぞ」
「ご安心ください。必ず完璧に成功させてご覧にいれましょう猊下」
そして室内は三人の笑い声に包まれた。
それから三日後
今日は雨はひと月以上降らず、強い北風が吹くという天候に加えて、月が見えない新月という絶好の放火日和である。
ユルゲン達が仕掛けてくるのであれば、今日ほどやりやすい日は無いだろう。
僕は数日前に義父にお願いして、王都の警備兵の夜間パトロールを強化してもらっていた。
そして、特に風上にあたる北の地域は重点的にパトロールをお願いした。
連日警備兵が目を光らせてくれている。
今の所、放火未遂の報告は受けていない。
明暦の大火では諸説あるが一番死者が多いものだと10万人という説がある。
当時の江戸の人口は町方がおよそ28万5千人ほど。
実に1/3が死亡しているのだ。
それに火災旋風が発生する可能性もある。
一度火をつけられてしまえば、どれほど被害が拡大するかわかったものではない。
魔法学園の教室で、窓ガラスに叩きつけられる北風の音を聞きながら外を見ていたら、ドミニク殿下がやってきた。
僕のことを心配そうに見つめてくる。
「どうした、浮かない顔をして。婚約者と喧嘩でもしたのか?」
殿下、それ以上はいけません。
何処に腐女子の目があるかわかりませんので。
とも言えず、
「婚約者との仲は良好ですよ。今日も日の出前まで可愛がられていましたから」
と答えた。
勿論、悪い方の意味の可愛がりである。
もう、他にはお嫁に行けない。
僕も婚約者たちも。
何があったのかはご想像にお任せいたします。
「ドミニクは、王都の防火体制についてどう思う?」
「どうした突然?」
殿下は僕の質問が唐突すぎて、返答する前にその意図を訊ねてきた。
僕は前世の知識を使って説明する。
「王都の平民居住地域では、道幅がとても狭くなっております。火災が発生したら延焼しやすいと思いませんか?それに、延焼を防ぐために空き地を計画的に作るのも良いかもしれません」
そう言うと殿下は考え込んだ。
「フィエルテ王国はその長い歴史の中で、人口を増やしてきた。そのせいで、今では王都の土地が足りなくなっている。城壁の外に暮らしているものも多い。道を広げ、空き地を作るとなると簡単にはいかないだろうな」
「例えば王都を焼き尽くすような火事があったとしたら、更地からなら楽にできますよね」
そう言うと、殿下の顔色が変わる。
「マクシミリアン、まさかお前」
「付け火などしたりしませんよ。それに、殿下は僕の材木先物のポジションをご存知ないのですか?」
「そうだったな」
殿下も既に僕が材木相場に、かなりの資金を投じているのを知っている。
殿下の態度だと、知っていてわざとからかってきたのだろう。
大人びているようで、子供っぽい茶目っ気があるなあ。
休み時間の間、殿下とは防火対策の話をした。
今したところで、数日以内に行われるであろう、放火までには間に合わないが。
魔法学園から屋敷に帰ると、僕は直ぐに食事を取った。
ハーバーからの連絡も来ており、今日が本命だということだ。
ユルゲンは仕入れのため王都を離れたというし、教皇も視察のため王都には居ないという情報があった。
ハーバーが相手の立場なら、仕掛けるのは今日しかないと考えると言われると、その説得力に重みが増すな。
食事が終わると動きやすい服装に着替える。
そして、婚約者たちの待つ部屋に行った。
その部屋には婚約者の三人の他に、若い男が二人いる。
一人は赤毛のほっそりとした顔立ち。
気弱が服を着て歩いているように、頼りなさがにじみ出ている。
ニクラウス・フォン・ローエンシュタイン、僕の従兄弟である。
親は男爵だが、本人は家を継げないため、王都で仕事を探していた。
水属性の魔法が使えるので、今日のために臨時で雇ったのだ。
もうひとりは、短髪の黒髪に発達した筋肉。
ニクラウスとは対照的だ。
彼の名前はルーカス・フォン・シェーレンベルク。
シェーレンベルクというが、ブリュンヒルデの遠い親戚であり、彼の実家に爵位はない。
本家の所有する騎士団に入り、出世を狙っているとブリュンヒルデからは聞いている。
今夜の僕の護衛としてついてきてくれる事になっている。
そう、僕は今夜パトロールに加わるつもりだ。
加わるというか、別働隊として動く。
警備兵を信頼してないわけではないが、これだけ大きな勝負をしているのだから、他人に任せておくというのは落ち着かない。
「おまたせ」
僕はそう声をかけると、二人はお辞儀してくれた。
婚約者たちは顔から不安がにじみ出ている。
最初に口を開いたのはマルガレータだった。
「マクシミリアン様、外は風が強く吹いていて、夜は更に冷える事でしょう。もっと厚着されたほうがよろしいのでは」
ってお母さんか。
いや、ベッドの上ではママって呼ばされているけどさあ。
因みに、ママの日もあれば、お姉ちゃんの日もある。
「大丈夫、アイテムボックスにはコートやマフラーが入っているから。寒くなったらそれを取り出すよ」
それを聞いて、マルガレータはニッコリと微笑む。
ブリュンヒルデは
「ルーカス、マクシミリアンをしっかり守るのですよ」
とルーカスを見た。
ルーカスは首肯する。
「お任せください」
「さて、日も沈みかけている事だし、そろそろ行こうか」
僕はそう言って、ニクラウスとルーカスを連れて部屋を出た。
屋敷から風上に向かうのも徒歩である。
馬車では目立ちすぎて、放火犯が隠れてしまうので使えない。
吹き付ける冷たい北風に向かい歩いていくと、街は帰宅すると思われる人や、夜の街に繰り出す人で混み合っていた。
やはり道が狭いよな。
それでも午後8時もなると、通行人たちは少なくなってきた。
変わって、警備兵の姿が目立つようになる。
パトロールを強化したせいで、僕たちが職務質問を受ける頻度が高い。
何度目かの職務質問を受けて身分を明かすと、警備兵は恐縮して頭を下げた。
「職務ご苦労」
そう言って警備兵と反対の方に歩き去る。
その後、既に時を告げる鐘はならなくなり、星の位置から多分日が変わるくらいだと推測した時刻に、事態は動き始めた。
犯罪者を見つけた合図の警笛が、月明かりのない夜空に響き渡る。
それも一箇所だけではない。
あちらこちらから鳴り響いた。
「始まったねえ」
「はい」
ルーカスがうなずく。
「だ、大丈夫でしょうか?」
ニクラウスは震えだした。
こんな暗闇で賊と出くわしたら怖いのはわかる。
特に、ニクラウスは消火担当であり、戦闘はからっきしで期待はしていない。
それは僕も同じだけど。
その時、こちらに向かってくる気配がした。
「待てー!!」
警備兵が怒鳴り声をあげている。
放火犯を追いかけているようだ。
「ルーカス!」
「承知」
ルーカスは僕の意図を理解し、声の方に走り出した。
そして、直ぐに叫び声があがる。
「ギャア」
「痛え!」
ルーカスの後を追って、僕とニクラウスもそちらに向かうと、男たちが二人地面に転がっていた。
そして警備兵に捕縛される。
「ご協力感謝いたします」
「どういたしまして」
とルーカスは警備兵にこたえた。
よく見たら、数時間前に職務質問をしてきた警備兵だった。
彼らは捕まえた男たちを牢に入れるため、一度戻るという。
それを見送ると、僕たちは再び歩き始めた。
すると、直ぐに火事を知らせる鐘がけたたましく打鐘された。
「火事か、やられたな。何処だ?」
空を見上げると、少し東の方が明るくなっていた。
「行こう」
「「はい」」
僕たちは打鐘で目が覚めて、外に出てきた住民たちの間を縫って、火事が起きたと思われる方へ向かった。
そして火元にたどり着く。
「教会か」
燃えていたのは教会だった。
ここは平民用の小さな教会で、夜間は人がいないはずだ。
王都にはそんな教会がいくつがある。
大聖堂は平民は普通は入れないのだ。
そして、警備兵も建物の中までは入って確認することはしない。
してやられたな。
既に屋根まで火がまわっており、近づこうとすると、熱気で肺が焼けるのがわかる。
不謹慎だが、空に舞う火の粉がとても美しい。
「火のまわりが早すぎますね。中に油でも撒いて火をつけたのでしょう」
ルーカスはそう分析した。
「ニクラウス、消火出来る?」
「いいえ、ここまで火の勢いが強いと難しいです」
ニクラウスは首を振った。
「わかった。じゃあ、僕に水をかけてほしい」
「マクシミリアン様に?」
「そう。といっても、僕が今からマントを出すから、それをびちょびちょに濡らしてほしいんだ。それが終わったら風下の家の壁に水を掛けて、延焼しないようにしてほしい」
「わかりました」
そこで僕はアイテムボックスからマントを取り出した。
ニクラウスは魔法で水を作り出すとマントにかけた。
僕はそれを纏う。
「冷たっ!」
冬の夜中に水浸しのマントなんて纏うものではないな。
二度とやりたくないと思いながら、息を大きく吸って燃え盛る教会に向かって走り始める。
ニクラウスとルーカスが驚いたのがわかった。
教会に近づくにつれ、空気がどんどん熱くなっていくのがわかる。
マントの隙間から熱風が入り込んできた。
そして、すごい勢いで水分を奪っていく。
なんとか教会の手前3メートルまで来たところで、僕は燃え盛る教会をアイテムボックスに収納した。
アイテムボックスへの収納は、対象に触れてなくてもよいが、ある程度近寄らなければならない。
出す時はもう少し遠くに出せるのだが、収納は3メートルくらいの距離まで近寄る必要があった。
「あっつい」
大きく息を吐いた。
マントはすっかり乾き、熱の余韻が体に残る。
熱源が無くなったので、あとは徐々に冷めていくだけなので、一安心ではあるな。
一息ついて周囲を見ると、延焼した家の消火を行っているのが見えた。
ニクラウスや他の水魔法の使い手が、水を作っては燃えている箇所にぶつけていく。
「あっちも手伝うか」
僕は燃えている家に近寄ると、これもアイテムボックスに収納した。
周囲の燃えている家を全て収納したあとは、空き地となった教会の跡地に一個ずつ出していく。
燃えるものが周囲に無くなったので、ここならば消火に時間がかかっても安全だ。
消火したら元の場所に家を戻し、次の家を出すのを繰り返す。
全てが終わった頃には、空が瑠璃色になってきていた。
やれやれ、今日の魔法学園は休むかな。
そう考えて屋敷に戻った。
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転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
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