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テクニカル戦争
59 二度目の買い
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規制の条件を二日までクリアーし、遂に三日目となった。
寄り付きからの値動きは上げしかない。
あっと言う間にストップ高に張り付いてしまった。
そして、マルガレータ・ローエンシュタイン銀行が購入できない投資家は、他の財閥企業の株を購入し始めて軒並みストップ高となった。
財閥全体の時価総額は直近一ヶ月で倍以上になっており、マルガレータ一門の評価資産もかなり増えている。
なので、マルガレータ・ローエンシュタイン銀行の株価をストップ高に貼り付けるなど雑作もないことであった。
ヨーナスM商会に来ていたゲオルグは財閥企業のボードを順番に眺めている。
これらが値下がりするのは少しもったいない気持ちがしていた。
ヨーナスM七世はそんなことには気づかず、嬉しそうに口を開く。
「これで信用規制は間違いありませんね。明日には市場の過熱感も冷まされるでしょう。信用でしか買えない連中は終わりですね」
「そこまで簡単だとよいがな。あれでもブリュンヒルデ一門の長だ。それに、教会との繋も持ったというのが気になる。ヴァルハラ教の資金援助があるとなるとかなり厄介だ」
ゲオルグは何か釈然としない気持ちであった。
相場師の勘とも言うべきものが警鐘を鳴らしているのである。
だが、その日の取引は圧倒的な買い注文を残して終わった。
これにより、マルガレータ・ローエンシュタイン銀行は翌日の取引から信用規制が入ることとなり、信用取引による新規の売付け及び買付けに係る委託保証金率を50%以上(うち現金20%以上)となった。
なお、ゲオルグも回転売買で株価を上げてきたために、新規では大した枚数を買ってはいない。
なので、信用規制が入ったとしても、損失は殆どない。
むしろ、トータルの成績ではプラスで終わろうとしていた。
翌日は前日の雰囲気を残してやや高いところからのギャップアップで始まったが、買いが続かずに直ぐに前日終値を割った。
後場に入っても売りの勢いは止まらずに、引け前にはストップ安に大量の売り注文が出た。
結局大引けまで寄らずに取引は終了となる。
他のマルガレータ財閥銘柄も売りが出て、多くの銘柄でストップ安となってしまった。
本尊であるマクシミリアンに相場を支える資金がないと判断し、提灯が逃げ出してしまったのである。
更には売りどきを狙っていた売り方の参戦もあった。
そして翌営業日は寄り付き前からの大量の売り注文で、ザラ場では取引は成立しなかった。
さらにその翌営業日も朝から大量の売り注文が出て、取引開始直後から徐々に気配が下がっていった。
今日もストップ安かと誰もが思ったときに、突然1億株の売りが全部食われた。
寄り付き価格は1,300マルク。
しばらくはそこで一進一退の攻防となる。
高値で掴んだ投資家の投げに加え、信用規制ながらも元の株価に戻ると睨んだ投資家の空売りが出てきたのだ。
直ぐに出来高は2億株を超える。
ゲオルグとヨーナスはこの状況を見ていた。
「元の1,000マルク付近で買い戻しをしたかったのですが、意外と早く寄りましたな」
ヨーナスはボードを監視したままそう呟いた。
ゲオルグは嫌な予感がした。
「誰かが買っていなければ、こんなところで株価が止まるはずはない。今それだけの資金を出せるのは王家か教会か。それとも、そのどちらかがマクシミリアンに資金を回したか。小麦価格の上昇で恨みを買っているからな」
ゲオルグの言うように、小麦の買い占めによる価格上昇は庶民だけでなく、統治する側からも恨みを買っていた。
領民の不満はまずは領主に向かうからだ。
すぐにでも市場のルールを改定したかったのだが、かなり先の期先までマルガレータ・ローエンシュタイン家の買いが入っているため、莫大な保証金を払わねばならず、ルールの改定に手が出せずにいた。
かといって、自分たちも提灯をつけると更に小麦価格が上昇してしまい、それもできないことから利益を積み重ねるゲオルグに恨みはどんどん募っていった。
取引開始から一時間が経過すると、売り買いのバランスがついに崩れた。
株価がジワリジワリと上がり始めたのだ。
「まずいな。ここいらで買い戻しを始めておくか」
同時刻、マクシミリアンはヨーナスB商会で買い注文をガンガン出していた。
「売りが枯れてきたから上値を買っていこうか」
「そうですね。もう元気な売り方もいませんし、踏んでもらいましょうか」
ヨーナスはニコニコしながら注文を受けて、それを実行する。
寄り付きで売りを受け止めたのはマクシミリアンだった。
受け止めたというか、空売りの買い戻しと新規の買いの複合注文である。
信用規制が来るのがわかっていたので、買いポジションは手仕舞いして、空売りをストップ高で入れていたのだ。
しかも、他のマルガレータ財閥の銘柄も全て売り抜けてだ。
「一門の一任勘定取引の委任状もあるし、教会から借りた資金もあるから、一先ず6億株を買って30%の議決権を確保したいね」
「この出来高なら今日一日でなんとかなりますかな?」
教会、ヨーナスB商会、シェーレンベルク家、ブリュンヒルデ一門などからかき集めた資金で最初の仕掛けをして、資金は2兆マルクを超えるまでに増えていた。
ただ、そのうちマクシミリアンの資金となると、2/3がいいところである。
まだ、大父のような相場を仕掛けることは出来ない。
なので、買い占めではなく買い占めてやろうかという姿勢を見せるための売買となる。
そのためにゲオルグの仕掛けた演出にのった。
普段なら30%の株を買おうとしたらとんでもなく値上がりさせてしまう。
が、今回は普段は出てこないゲオルグの保有する株と、売り方による空売りがある。
それに加えて、普段値動きの小さいマルガレータ・ローエンシュタイン銀行株が値上がりしたことで、利益を確定させようという個人株主の売りも出てきた。
浮動株が一気に増えたのである。
個人株主は株価が短期間で2倍以上になり喜んでいたところに、連日のストップ安が来たので、もとに戻る前に早いところ利益を確定させようと売却に動いたのである。
買っているのはほぼマクシミリアン一人であった。
マルガレータ財閥企業の株価暴落で、提灯は逃げてしまったし、他の投資家もマクシミリアンがゲオルグに敗北したと思っていたのだ。
だが、これこそがマクシミリアンの望んだ状況であった。
買う者が他にいないので安く購入できる。
前引けまでに出来高は5億株を越えて終わった。
流石に株価も1,500マルクの手前まで上昇している。
「お昼をご用意いたしました」
ヨーナスの従業員が報告に来た。
しかし、マクシミリアンはそれを断る。
「何かご不満でも?」
ヨーナスはマクシミリアンに訊ねた。
マクシミリアンは笑って答える。
「大父様は相場を張るときは朝ごはんや昼ごはんは眠くなるからと軽く済ませていたそうだからね。僕もそれに倣ってお昼はお茶だけにしようと思う。紅茶はあるかな?」
それを聞いたヨーナスは納得した。
「勿論、最高級の茶葉がありますとも」
従業員に目で合図すると、従業員は紅茶を用意するために部屋を出ていった。
暫くして、紅茶のセットを持って戻ってきた。
マクシミリアンは淹れてもらった紅茶を満足そうに飲む。
「これ、すごく美味しいね」
「自慢の一品ですからね」
紅茶の味を褒められたヨーナスは、相変わらずニコニコと笑っている。
「ヨーナスはお昼を食べてきてもいいんだよ」
マクシミリアンは気を使ってそう言ったが、ヨーナスは客であるマクシミリアンに付き合って昼食を抜いた。
そして、後場の寄り付き。
マクシミリアンはボードを見て気配を確認する。
前引けと変わらぬ1,493マルクで売り買いが拮抗していた。
「ゲオルグたちが気づく前になんとしても買い集めないとね」
「そうですが、大きな買いを入れれば気づかれそうですよ」
ヨーナスの言うことも尤もである。
仕手筋もひっそりと買い集めるときにはまとまった買いを入れるようなことはしない。
そんなことをすれば、直ぐに他の投資家に気づかれてしまうからだ。
今回も買い手はヨーナス商会しかいないのだが、資金力があることを匂わせないように、細かい買い注文を何度も出していた。
歩み値をみただけでは、弱小投資家が恐る恐る買いを入れているようにしか見えないだろう。
こんな注文をこなしているヨーナスのスキルは、証券会社のディーラーにも引けを取らない。
今でこそアルゴリズムやAIがトレードをしているが、それらが出てくる前は人が注文を出していた。
特に、特定の大金持ちは一度の注文が100億円にもなることがあったという。
そんなものを一度に市場に出せば、当然値がつかなくなるのだが、そうならないようにディーラーが注文を出していたのである。
なので、時にはキーボードの打ち間違いなどもあった。
作者は000ボタンのある特殊なキーボードなので、打ち間違い易いと元証券ディーラーから聞いたことがある。
ジェイコム株のIPOで溶け合いとなったのも、打ち間違いによるものだった。
そんな細かい注文を出していたが、いよいよ売りが枯れてきた。
チャートを確認していたマクシミリアンは難しい顔になる。
「まずいな、アセンディングトライアングルになってきた」
アセンディングトライアングルとは上昇チャートのパターンである。
水平な上値抵抗線に弾かれながらも、下値を切り上げていく形で、最後は上値抵抗線を突き抜けて上がっていく。
買い方のマクシミリアンが、上値を追わないようにしながら買っているので上に突き抜けはしないが、売り方も売るものがなくなってくるので下げる力が弱くなる。
資金力の差で買いが優勢なのでアセンディングトライアングルを形成してしまったのだ。
そして、それはもう安くは買えないということであった。
「ヨーナス、どれくらい集められた?」
「5億5000万株ですね。出来高が7億株ですから上出来ですよ」
日本であれば関与率からして間違いなく証券会社から確認の電話が来るレベルだが、フィエルテ王国にはそのような決まりがない。
関与率とは一つの銘柄に対しての、投資家の売買比率である。
これが高いと不正取引の可能性ありとして、証券会社や証券取引等監視委員会から目をつけられる。
出来高が少ない株を短期間で無理矢理買うと、間違いなくお叱りのお電話が掛かってくる。
そのため、複数の仲間と共謀して馴合売買をして関与率を下げたりするのだが、馴合売買も違法行為になるのでどっちもどっちだな。
「よし、取得単価は上がるけど上値を買おうか。そのうち価格が上がったことで売りが出るかもしれないしね」
「承知いたしました」
こうして株価はレンジブレイクして、次の価格帯でペナントを作ることになった。
寄り付きからの値動きは上げしかない。
あっと言う間にストップ高に張り付いてしまった。
そして、マルガレータ・ローエンシュタイン銀行が購入できない投資家は、他の財閥企業の株を購入し始めて軒並みストップ高となった。
財閥全体の時価総額は直近一ヶ月で倍以上になっており、マルガレータ一門の評価資産もかなり増えている。
なので、マルガレータ・ローエンシュタイン銀行の株価をストップ高に貼り付けるなど雑作もないことであった。
ヨーナスM商会に来ていたゲオルグは財閥企業のボードを順番に眺めている。
これらが値下がりするのは少しもったいない気持ちがしていた。
ヨーナスM七世はそんなことには気づかず、嬉しそうに口を開く。
「これで信用規制は間違いありませんね。明日には市場の過熱感も冷まされるでしょう。信用でしか買えない連中は終わりですね」
「そこまで簡単だとよいがな。あれでもブリュンヒルデ一門の長だ。それに、教会との繋も持ったというのが気になる。ヴァルハラ教の資金援助があるとなるとかなり厄介だ」
ゲオルグは何か釈然としない気持ちであった。
相場師の勘とも言うべきものが警鐘を鳴らしているのである。
だが、その日の取引は圧倒的な買い注文を残して終わった。
これにより、マルガレータ・ローエンシュタイン銀行は翌日の取引から信用規制が入ることとなり、信用取引による新規の売付け及び買付けに係る委託保証金率を50%以上(うち現金20%以上)となった。
なお、ゲオルグも回転売買で株価を上げてきたために、新規では大した枚数を買ってはいない。
なので、信用規制が入ったとしても、損失は殆どない。
むしろ、トータルの成績ではプラスで終わろうとしていた。
翌日は前日の雰囲気を残してやや高いところからのギャップアップで始まったが、買いが続かずに直ぐに前日終値を割った。
後場に入っても売りの勢いは止まらずに、引け前にはストップ安に大量の売り注文が出た。
結局大引けまで寄らずに取引は終了となる。
他のマルガレータ財閥銘柄も売りが出て、多くの銘柄でストップ安となってしまった。
本尊であるマクシミリアンに相場を支える資金がないと判断し、提灯が逃げ出してしまったのである。
更には売りどきを狙っていた売り方の参戦もあった。
そして翌営業日は寄り付き前からの大量の売り注文で、ザラ場では取引は成立しなかった。
さらにその翌営業日も朝から大量の売り注文が出て、取引開始直後から徐々に気配が下がっていった。
今日もストップ安かと誰もが思ったときに、突然1億株の売りが全部食われた。
寄り付き価格は1,300マルク。
しばらくはそこで一進一退の攻防となる。
高値で掴んだ投資家の投げに加え、信用規制ながらも元の株価に戻ると睨んだ投資家の空売りが出てきたのだ。
直ぐに出来高は2億株を超える。
ゲオルグとヨーナスはこの状況を見ていた。
「元の1,000マルク付近で買い戻しをしたかったのですが、意外と早く寄りましたな」
ヨーナスはボードを監視したままそう呟いた。
ゲオルグは嫌な予感がした。
「誰かが買っていなければ、こんなところで株価が止まるはずはない。今それだけの資金を出せるのは王家か教会か。それとも、そのどちらかがマクシミリアンに資金を回したか。小麦価格の上昇で恨みを買っているからな」
ゲオルグの言うように、小麦の買い占めによる価格上昇は庶民だけでなく、統治する側からも恨みを買っていた。
領民の不満はまずは領主に向かうからだ。
すぐにでも市場のルールを改定したかったのだが、かなり先の期先までマルガレータ・ローエンシュタイン家の買いが入っているため、莫大な保証金を払わねばならず、ルールの改定に手が出せずにいた。
かといって、自分たちも提灯をつけると更に小麦価格が上昇してしまい、それもできないことから利益を積み重ねるゲオルグに恨みはどんどん募っていった。
取引開始から一時間が経過すると、売り買いのバランスがついに崩れた。
株価がジワリジワリと上がり始めたのだ。
「まずいな。ここいらで買い戻しを始めておくか」
同時刻、マクシミリアンはヨーナスB商会で買い注文をガンガン出していた。
「売りが枯れてきたから上値を買っていこうか」
「そうですね。もう元気な売り方もいませんし、踏んでもらいましょうか」
ヨーナスはニコニコしながら注文を受けて、それを実行する。
寄り付きで売りを受け止めたのはマクシミリアンだった。
受け止めたというか、空売りの買い戻しと新規の買いの複合注文である。
信用規制が来るのがわかっていたので、買いポジションは手仕舞いして、空売りをストップ高で入れていたのだ。
しかも、他のマルガレータ財閥の銘柄も全て売り抜けてだ。
「一門の一任勘定取引の委任状もあるし、教会から借りた資金もあるから、一先ず6億株を買って30%の議決権を確保したいね」
「この出来高なら今日一日でなんとかなりますかな?」
教会、ヨーナスB商会、シェーレンベルク家、ブリュンヒルデ一門などからかき集めた資金で最初の仕掛けをして、資金は2兆マルクを超えるまでに増えていた。
ただ、そのうちマクシミリアンの資金となると、2/3がいいところである。
まだ、大父のような相場を仕掛けることは出来ない。
なので、買い占めではなく買い占めてやろうかという姿勢を見せるための売買となる。
そのためにゲオルグの仕掛けた演出にのった。
普段なら30%の株を買おうとしたらとんでもなく値上がりさせてしまう。
が、今回は普段は出てこないゲオルグの保有する株と、売り方による空売りがある。
それに加えて、普段値動きの小さいマルガレータ・ローエンシュタイン銀行株が値上がりしたことで、利益を確定させようという個人株主の売りも出てきた。
浮動株が一気に増えたのである。
個人株主は株価が短期間で2倍以上になり喜んでいたところに、連日のストップ安が来たので、もとに戻る前に早いところ利益を確定させようと売却に動いたのである。
買っているのはほぼマクシミリアン一人であった。
マルガレータ財閥企業の株価暴落で、提灯は逃げてしまったし、他の投資家もマクシミリアンがゲオルグに敗北したと思っていたのだ。
だが、これこそがマクシミリアンの望んだ状況であった。
買う者が他にいないので安く購入できる。
前引けまでに出来高は5億株を越えて終わった。
流石に株価も1,500マルクの手前まで上昇している。
「お昼をご用意いたしました」
ヨーナスの従業員が報告に来た。
しかし、マクシミリアンはそれを断る。
「何かご不満でも?」
ヨーナスはマクシミリアンに訊ねた。
マクシミリアンは笑って答える。
「大父様は相場を張るときは朝ごはんや昼ごはんは眠くなるからと軽く済ませていたそうだからね。僕もそれに倣ってお昼はお茶だけにしようと思う。紅茶はあるかな?」
それを聞いたヨーナスは納得した。
「勿論、最高級の茶葉がありますとも」
従業員に目で合図すると、従業員は紅茶を用意するために部屋を出ていった。
暫くして、紅茶のセットを持って戻ってきた。
マクシミリアンは淹れてもらった紅茶を満足そうに飲む。
「これ、すごく美味しいね」
「自慢の一品ですからね」
紅茶の味を褒められたヨーナスは、相変わらずニコニコと笑っている。
「ヨーナスはお昼を食べてきてもいいんだよ」
マクシミリアンは気を使ってそう言ったが、ヨーナスは客であるマクシミリアンに付き合って昼食を抜いた。
そして、後場の寄り付き。
マクシミリアンはボードを見て気配を確認する。
前引けと変わらぬ1,493マルクで売り買いが拮抗していた。
「ゲオルグたちが気づく前になんとしても買い集めないとね」
「そうですが、大きな買いを入れれば気づかれそうですよ」
ヨーナスの言うことも尤もである。
仕手筋もひっそりと買い集めるときにはまとまった買いを入れるようなことはしない。
そんなことをすれば、直ぐに他の投資家に気づかれてしまうからだ。
今回も買い手はヨーナス商会しかいないのだが、資金力があることを匂わせないように、細かい買い注文を何度も出していた。
歩み値をみただけでは、弱小投資家が恐る恐る買いを入れているようにしか見えないだろう。
こんな注文をこなしているヨーナスのスキルは、証券会社のディーラーにも引けを取らない。
今でこそアルゴリズムやAIがトレードをしているが、それらが出てくる前は人が注文を出していた。
特に、特定の大金持ちは一度の注文が100億円にもなることがあったという。
そんなものを一度に市場に出せば、当然値がつかなくなるのだが、そうならないようにディーラーが注文を出していたのである。
なので、時にはキーボードの打ち間違いなどもあった。
作者は000ボタンのある特殊なキーボードなので、打ち間違い易いと元証券ディーラーから聞いたことがある。
ジェイコム株のIPOで溶け合いとなったのも、打ち間違いによるものだった。
そんな細かい注文を出していたが、いよいよ売りが枯れてきた。
チャートを確認していたマクシミリアンは難しい顔になる。
「まずいな、アセンディングトライアングルになってきた」
アセンディングトライアングルとは上昇チャートのパターンである。
水平な上値抵抗線に弾かれながらも、下値を切り上げていく形で、最後は上値抵抗線を突き抜けて上がっていく。
買い方のマクシミリアンが、上値を追わないようにしながら買っているので上に突き抜けはしないが、売り方も売るものがなくなってくるので下げる力が弱くなる。
資金力の差で買いが優勢なのでアセンディングトライアングルを形成してしまったのだ。
そして、それはもう安くは買えないということであった。
「ヨーナス、どれくらい集められた?」
「5億5000万株ですね。出来高が7億株ですから上出来ですよ」
日本であれば関与率からして間違いなく証券会社から確認の電話が来るレベルだが、フィエルテ王国にはそのような決まりがない。
関与率とは一つの銘柄に対しての、投資家の売買比率である。
これが高いと不正取引の可能性ありとして、証券会社や証券取引等監視委員会から目をつけられる。
出来高が少ない株を短期間で無理矢理買うと、間違いなくお叱りのお電話が掛かってくる。
そのため、複数の仲間と共謀して馴合売買をして関与率を下げたりするのだが、馴合売買も違法行為になるのでどっちもどっちだな。
「よし、取得単価は上がるけど上値を買おうか。そのうち価格が上がったことで売りが出るかもしれないしね」
「承知いたしました」
こうして株価はレンジブレイクして、次の価格帯でペナントを作ることになった。
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