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テクニカル戦争
66 現物売り
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小麦価格が大陰線を作った翌日、ゲオルグは金融商品取引所に来ていた。
昨日ヨーナス・M・七世からの報告を受け、小麦相場の立て直しに出向いたのである。
マクシミリアンが売りに出した小麦は、全て約定している。
ゲオルグではない相場師が買ったので、先物価格が上昇すればそのうち売りに出されるかもしれない。
それを手に入れようとしているのだ。
何故ならマクシミリアンは先物の売り玉を持っている。
現渡しが出来なければ高値でポジションの買い戻しをしなければならないのだ。
そのため、ゲオルグはまずは先物の価格を上げることにした。
ゲオルグは金融商品取引所でマクシミリアンを見つける。
マクシミリアンも昨日に続いて金融商品取引所に来ていたのだ。
あえて近寄ろうとはしなかったが、ゲオルグはマクシミリアンを睨みつけた。
ただ、マクシミリアンはそんなゲオルグを歯牙にもかけず、ヨーナスとクリストフと話をしている。
距離が離れているので会話の内容は聞こえなかったが、相手にされないことがゲオルグのプライドに火をつけた。
「泣いても許すつもりは無い。男娼として一生を終えてもらうか」
と呟く。
「奴隷契約でしたら、是非とも我が商会に」
ヨーナス・M・七世がそう言うと、ゲオルグはうなずいた。
資金力から言えばゲオルグが勝つのは明らかで、彼は絶対の自信を持っていた。
売り買いが逆であればそれでも負ける可能性はあるのだが、買いならば負けるはずがない。
なにせ、現物を用意しなくて済むのだから。
そして、オープニングベルが鳴り響き、本日の取引が開始される。
前日終値と同じ41,000マルクから始まり、ゲオルグの買い注文に提灯がついて小麦価格はスルスルと上がっていった。
一方のマクシミリアンは買いに対抗せずに、値上がりを見続けている。
昨日急落した小麦価格はあっという間に値を戻し、前引け直前には45,000マルクまで上がっていた。
それまで何もしなかったマクシミリアンが、ここに来て突然売り注文を出していく。
「ヨーナス、45,500マルクに10万トン分の売りを出して」
「承知いたしました」
突然の巨大な売りの出現に金融商品取引所に来ていた仲買人たちのどよめきが聞こえた。
ゲオルグも驚いたが、彼はそれを顔に出さなかった。
「全部受けろ」
と指示を出す。
そして、一瞬で売り板は注文が約定して消えた。
そこで前引けとなる。
マクシミリアンは引けたあとに、仲買人達に聞こえるような大きな声でヨーナスに次の指示を出した。
「ヨーナス、後場になったら今日は5万トンの現物の売り注文を出して」
「承知いたしました」
そのやり取りを聞いていた仲買人たちはお昼を食べに行こうとしていた足を止めた。
勿論ゲオルグもだ。
そして、ゲオルグはマクシミリアンに詰め寄る。
「どこからそんな現物が出せるというのだ?三日後までに用意することなど出来ぬだろう。あるとすればマルガレータ家の倉庫だが、盗みに入るとでもいうのか?」
口調こそ穏やかではあったが、相手を威圧するオーラに包まれていた。
そんな威圧をマクシミリアンは受け流す。
「僕は大父様と同じ事が出来るのですよ。だから、毒入りのワインにも神の奇跡を起こして聖下となりました。そんな僕が大父様と同じような、無制限のアイテムボックスを持っていてもおかしくはないでしょう。先日婚約者と一緒にドリッテン王国に旅行しました。ドリッテン王国では小麦が豊作だというではないですか。なので、ここにいるドリッテン王国の商人であるクリストフにお願いして、大量の小麦を仕入れてきたのです」
その言葉に誰もが息を呑んだ。
その様子を見たマクシミリアンはイタズラが成功した子供のように笑う。
そして、アイテムボックスからほんの一つまみの小麦を取り出した。
「ほら、僕のアイテムボックスには小麦が入っているんですよ」
それを見たゲオルグは流石に動揺した。
しかし、すぐに証拠金のことに考えがたどり着いた。
「大量の小麦の仕入れに加えて、先物の売り玉を建てすぎたな。後場踏み上げてしまえば現物の販売代金が入る前に追証で破産だろう」
ゲオルグはおおよそのマクシミリアンの資産を掴んでいた。
前回のマルガレータ・ローエンシュタイン銀行の仕手戦で得た資金でも、現物の買い付けと先物の証拠金の両方のに使えばすぐに底をつくはずだった。
それを聞いたマクシミリアンは神妙な顔となった。
「ご心配なく。聖下となった僕のところには教会から資金が提供されます。その資金の原資は浄財ですよ。あなた方マルガレータ一門によって吊り上げられたこむの価格に苦しむ人たちが、それでも神に助けを求めて寄付したお金の重みで、この馬鹿げた小麦価格を元の価格まで押し下げてみせます」
とは言ったものの、実際には庶民の寄付よりも貴族や王族からの寄付の方が多かった。
マルガレータ一門以外の貴族や王族も、やはり小麦価格の高騰に頭を悩ませており、教会を通じてマクシミリアンに資金を提供していたのだ。
表立って動けばゲオルグに睨まれて、銀行からの融資を止められてしまったり、領地経営にマルガレータ一門の企業を使えなくなるので、教会を挟むことで名前を出さないようにしたのだった。
なので、今の所追証の心配はないし、追加で売り玉を建てることが可能だった。
そんな裏事情を知らないゲオルグは、マクシミリアンの言うことが何処まで本当なのかをはかりかねていた。
すべてが事実だとしても、マクシミリアンがドリッテン王国から仕入れてきた小麦は有限のはずであり、全てを買い切ってしまえば勝てる。
しかし、今回の事でマクシミリアンにも提灯がつくことは確実だった。
すると、今度は先物の証拠金不足が自分に襲いかかってくる。
今の段階では行くべきか、引くべきかを考えあぐねていた。
今ならまだ自分は損をせずに手仕舞いできるのだが、それをやってしまえばマクシミリアンに負けたという事になる。
次の相場では提灯が付きにくくなるし、マクシミリアンと反対売買となれば形状は劣勢になる。
元々の狙いが大父マクシミリアンの残した秘伝の書であり、それを入手してフィエルテ王国の相場を牛耳る目的からしたら、ここで逃げずにマクシミリアンを叩き潰さなければならない。
「アイテムボックスが如何に大きかろうと、ドリッテン王国の小麦がどれほどのものか。小麦は無限ではないはずだ」
とマクシミリアンに訊ねた。
すると意外にもマクシミリアンは頷いた。
「勿論小麦が無限などという事はありません。しかし、僕の持っている量でも小麦価格を下げるには十分ですよ」
「随分と正直だな。無限に小麦を作り出す魔法があるとでも言っておけば、簡単に相場を崩せたものを」
「嘘が苦手なので」
とマクシミリアンが言うと、ゲオルグはクククっと笑った。
「破産したら貴様の債務を買い取って奴隷にしてやる。大父様そっくりの容姿であれば、男娼として客も取れるだろうしな」
「教会関係者が毎日通ってくると思いますよ」
「大した自信だな」
「いいえ、自信などこれっぽっちもありませんよ。相場は勝ったと思った時に思わぬことで足をすくわれるものですから」
そう会話して二人はそれぞれ昼食をとるために別れた。
後場になるとマクシミリアンは金融商品取引所には現れなかった。
取引所が所有する倉庫に現物を納めに行ったからである。
そこで、合計7.5トンの小麦を出して職員に渡した。
職員も重量を計測して間違いがない事を確認する。
買い手は既に代金を支払っていたので、マクシミリアンはそれを受け取った。
一部はクリストフのものなのだが、彼はそれを預かっても置いておくところがないので、マクシミリアンが預かり後でヨーナスが送金処理をすることとなった。
マクシミリアンが現物を納品したことが金融商品取引所にも伝わり、後場の取引では売りが増えていった。
ゲオルグも防戦買いをしたが上値を追うような事はしなかったので、終値は41,600マルクと前日比ほぼ変わらずで引けた。
昨日ヨーナス・M・七世からの報告を受け、小麦相場の立て直しに出向いたのである。
マクシミリアンが売りに出した小麦は、全て約定している。
ゲオルグではない相場師が買ったので、先物価格が上昇すればそのうち売りに出されるかもしれない。
それを手に入れようとしているのだ。
何故ならマクシミリアンは先物の売り玉を持っている。
現渡しが出来なければ高値でポジションの買い戻しをしなければならないのだ。
そのため、ゲオルグはまずは先物の価格を上げることにした。
ゲオルグは金融商品取引所でマクシミリアンを見つける。
マクシミリアンも昨日に続いて金融商品取引所に来ていたのだ。
あえて近寄ろうとはしなかったが、ゲオルグはマクシミリアンを睨みつけた。
ただ、マクシミリアンはそんなゲオルグを歯牙にもかけず、ヨーナスとクリストフと話をしている。
距離が離れているので会話の内容は聞こえなかったが、相手にされないことがゲオルグのプライドに火をつけた。
「泣いても許すつもりは無い。男娼として一生を終えてもらうか」
と呟く。
「奴隷契約でしたら、是非とも我が商会に」
ヨーナス・M・七世がそう言うと、ゲオルグはうなずいた。
資金力から言えばゲオルグが勝つのは明らかで、彼は絶対の自信を持っていた。
売り買いが逆であればそれでも負ける可能性はあるのだが、買いならば負けるはずがない。
なにせ、現物を用意しなくて済むのだから。
そして、オープニングベルが鳴り響き、本日の取引が開始される。
前日終値と同じ41,000マルクから始まり、ゲオルグの買い注文に提灯がついて小麦価格はスルスルと上がっていった。
一方のマクシミリアンは買いに対抗せずに、値上がりを見続けている。
昨日急落した小麦価格はあっという間に値を戻し、前引け直前には45,000マルクまで上がっていた。
それまで何もしなかったマクシミリアンが、ここに来て突然売り注文を出していく。
「ヨーナス、45,500マルクに10万トン分の売りを出して」
「承知いたしました」
突然の巨大な売りの出現に金融商品取引所に来ていた仲買人たちのどよめきが聞こえた。
ゲオルグも驚いたが、彼はそれを顔に出さなかった。
「全部受けろ」
と指示を出す。
そして、一瞬で売り板は注文が約定して消えた。
そこで前引けとなる。
マクシミリアンは引けたあとに、仲買人達に聞こえるような大きな声でヨーナスに次の指示を出した。
「ヨーナス、後場になったら今日は5万トンの現物の売り注文を出して」
「承知いたしました」
そのやり取りを聞いていた仲買人たちはお昼を食べに行こうとしていた足を止めた。
勿論ゲオルグもだ。
そして、ゲオルグはマクシミリアンに詰め寄る。
「どこからそんな現物が出せるというのだ?三日後までに用意することなど出来ぬだろう。あるとすればマルガレータ家の倉庫だが、盗みに入るとでもいうのか?」
口調こそ穏やかではあったが、相手を威圧するオーラに包まれていた。
そんな威圧をマクシミリアンは受け流す。
「僕は大父様と同じ事が出来るのですよ。だから、毒入りのワインにも神の奇跡を起こして聖下となりました。そんな僕が大父様と同じような、無制限のアイテムボックスを持っていてもおかしくはないでしょう。先日婚約者と一緒にドリッテン王国に旅行しました。ドリッテン王国では小麦が豊作だというではないですか。なので、ここにいるドリッテン王国の商人であるクリストフにお願いして、大量の小麦を仕入れてきたのです」
その言葉に誰もが息を呑んだ。
その様子を見たマクシミリアンはイタズラが成功した子供のように笑う。
そして、アイテムボックスからほんの一つまみの小麦を取り出した。
「ほら、僕のアイテムボックスには小麦が入っているんですよ」
それを見たゲオルグは流石に動揺した。
しかし、すぐに証拠金のことに考えがたどり着いた。
「大量の小麦の仕入れに加えて、先物の売り玉を建てすぎたな。後場踏み上げてしまえば現物の販売代金が入る前に追証で破産だろう」
ゲオルグはおおよそのマクシミリアンの資産を掴んでいた。
前回のマルガレータ・ローエンシュタイン銀行の仕手戦で得た資金でも、現物の買い付けと先物の証拠金の両方のに使えばすぐに底をつくはずだった。
それを聞いたマクシミリアンは神妙な顔となった。
「ご心配なく。聖下となった僕のところには教会から資金が提供されます。その資金の原資は浄財ですよ。あなた方マルガレータ一門によって吊り上げられたこむの価格に苦しむ人たちが、それでも神に助けを求めて寄付したお金の重みで、この馬鹿げた小麦価格を元の価格まで押し下げてみせます」
とは言ったものの、実際には庶民の寄付よりも貴族や王族からの寄付の方が多かった。
マルガレータ一門以外の貴族や王族も、やはり小麦価格の高騰に頭を悩ませており、教会を通じてマクシミリアンに資金を提供していたのだ。
表立って動けばゲオルグに睨まれて、銀行からの融資を止められてしまったり、領地経営にマルガレータ一門の企業を使えなくなるので、教会を挟むことで名前を出さないようにしたのだった。
なので、今の所追証の心配はないし、追加で売り玉を建てることが可能だった。
そんな裏事情を知らないゲオルグは、マクシミリアンの言うことが何処まで本当なのかをはかりかねていた。
すべてが事実だとしても、マクシミリアンがドリッテン王国から仕入れてきた小麦は有限のはずであり、全てを買い切ってしまえば勝てる。
しかし、今回の事でマクシミリアンにも提灯がつくことは確実だった。
すると、今度は先物の証拠金不足が自分に襲いかかってくる。
今の段階では行くべきか、引くべきかを考えあぐねていた。
今ならまだ自分は損をせずに手仕舞いできるのだが、それをやってしまえばマクシミリアンに負けたという事になる。
次の相場では提灯が付きにくくなるし、マクシミリアンと反対売買となれば形状は劣勢になる。
元々の狙いが大父マクシミリアンの残した秘伝の書であり、それを入手してフィエルテ王国の相場を牛耳る目的からしたら、ここで逃げずにマクシミリアンを叩き潰さなければならない。
「アイテムボックスが如何に大きかろうと、ドリッテン王国の小麦がどれほどのものか。小麦は無限ではないはずだ」
とマクシミリアンに訊ねた。
すると意外にもマクシミリアンは頷いた。
「勿論小麦が無限などという事はありません。しかし、僕の持っている量でも小麦価格を下げるには十分ですよ」
「随分と正直だな。無限に小麦を作り出す魔法があるとでも言っておけば、簡単に相場を崩せたものを」
「嘘が苦手なので」
とマクシミリアンが言うと、ゲオルグはクククっと笑った。
「破産したら貴様の債務を買い取って奴隷にしてやる。大父様そっくりの容姿であれば、男娼として客も取れるだろうしな」
「教会関係者が毎日通ってくると思いますよ」
「大した自信だな」
「いいえ、自信などこれっぽっちもありませんよ。相場は勝ったと思った時に思わぬことで足をすくわれるものですから」
そう会話して二人はそれぞれ昼食をとるために別れた。
後場になるとマクシミリアンは金融商品取引所には現れなかった。
取引所が所有する倉庫に現物を納めに行ったからである。
そこで、合計7.5トンの小麦を出して職員に渡した。
職員も重量を計測して間違いがない事を確認する。
買い手は既に代金を支払っていたので、マクシミリアンはそれを受け取った。
一部はクリストフのものなのだが、彼はそれを預かっても置いておくところがないので、マクシミリアンが預かり後でヨーナスが送金処理をすることとなった。
マクシミリアンが現物を納品したことが金融商品取引所にも伝わり、後場の取引では売りが増えていった。
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