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テクニカル戦争
71 小麦相場の終わったあとで
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ゲオルグはポジションを解消したが、多額の損失を確定させていた。
そのため、不足金の入金を迫られて、売れる資産は全て売却することとなった。
しかし、国家予算を超える金額の仕手戦のため、資産の売却額も相当のものとなり、それを買うことができるのはごく一部の貴族と豪商のみであった。
なにせ、王族でさえも小麦の値上がりで疲弊していたので、現金を持ってはいなかったのである。
また、マクシミリアンもゲオルグが銀行の引き出しを優先しており、損失分の金を払えないので、利益を受け取ることは出来ていなかった。
今の所小麦の現物の売却益のみである。
それでも10兆マルクは超えているのだが。
結局現金化を待っていても遅くなるので、代物での受け取りを認めて領地や株券を貰うことにした。
そのおかげでマルガレーテはマルガレータ・ローエンシュタイン銀行の頭取となった。
マルガレーテ・ローエンシュタイン銀行の行員も転職している。
その他にもマルガレータ一門の所有する爵位を受け取ったりした。
ローエンシュタイン伯爵家は当主のゲオルグが急な病死となり、息子が跡を継ぐ事になった。
が、めぼしい資産はマクシミリアンに差し出したため、もはや一門をまとめるだけの力は無かった。
それに、ゲオルグに提灯をつけていたマルガレータ一門の多くは破産したり、多額の借金を抱えて没落していった。
代わってマルガレータ一門をまとめる事になったのはマルガレーテである。
彼女はここに来てマクシミリアンとの婚約を発表し、すぐに結婚をした。
そして、先述したようにマルガレータ・ローエンシュタイン銀行の頭取として、一門の資金を管理するようになったのである。
ただ、マルガレータ・ローエンシュタイン銀行は一度倒産して、マクシミリアンの資金を注入して再建中なので、そこから金を借りるマルガレータ一門はマクシミリアンには逆らえなくなった。
このことによりローエンシュタイン男爵、マルガレーテの父親であるデニスはマクシミリアンの権力をかさにきて色々と画策したのだが、マルガレーテに銀行での背任行為を咎められ、長男に家督を譲って引退させられることとなった。
最初は抵抗を見せたが病死と隠居の二択を迫られて、結局は隠居を選択したのである。
なお、マルガレーテ・ローエンシュタイン銀行を倒産させ、マルガレータ・ローエンシュタイン銀行と勘違いさせたとマクシミリアンを批判する意見もあったが、デニスの背任行為を公にすると、その声はトーンダウンした。
デニスが何もしなければ、マクシミリアンも銀行を倒産させるような事は出来なかったのである。
そのような経緯から、デニスはマルガレータ一門から恨まれたが、マクシミリアンの義父となったことで何かをされるようなことはなく天寿を全うした。
一通り清算が終わると、マクシミリアンは身内だけで祝勝会を開いた。
参加メンバーはマクシミリアン、ブリュンヒルデ、ジークフリーデ、エマ、マルガレーテ、ヨーナス、クリストフである。
クリストフは一度帰国したが、フィエルテ王国に支店を開設するために、再びこちらに来たのだ。
「みんな、お疲れ様。みんなのお陰で勝つことができました」
マクシミリアンの挨拶で祝勝会は始まった。
すっかりお腹の大きくなったブリュンヒルデはマタニティードレス姿でマクシミリアンにしなだれ掛かる。
「やっぱりマクシミリアンは大父様の生まれ変わりね。国内で向かうところ敵なしだったローエンシュタイン伯爵を、小麦相場で打ち負かすのだから。お腹の子も立派な父親を持って良かったわ」
その言葉を聞いたマクシミリアンは、いやこの場にいた誰もが固まった。
真っ先に立ち直ったジークフリーデがすかさず訂正をする。
「お母様、お腹の子はお父様との子ですわよ。ローエンシュタイン辺境伯家の血はお母様の分しか入っておりませんから」
「ええ、わかっているわ。立派な父親は勿論公爵閣下よ。最初にマルガレータ・ローエンシュタイン銀行の仕手戦で大金を作ったのも公爵閣下の手柄ですもの」
マクシミリアンは最初にシェーレンベルク公爵の名前を借りているので、あれは公爵の手柄でもあると認識されていた。
今回の小麦相場へとつながる最初の足掛かりであるが故に、国内でのシェーレンベルク公爵の評価も上がったのである。
そのおかげで公爵は自分の夫人がマクシミリアンと不貞を働いているのを咎めなかったのである。
元々愛の無い政略結婚であった相手を取られたとさわぐよりも、自分はマクシミリアンと良好な関係だと世間が思ってくれたほうが得だとそろばんをはじいたのである。
だが、公爵の胸の内を知らないマクシミリアンは、関係者しかいないとはいえ冷や汗ダラダラであった。
そんなマクシミリアンの腕をジークフリーデは掴んで、手を自分のお腹に当てさせる。
「この子が次の当主ですから」
ジークフリーデも妊娠していたのだ。
そこにエマとマルガレーテがつっかかる。
「まだ男児と決まったわけではありませんよ」
「そうです、私の子こそ辺境伯家の跡取り息子」
二人とも妊娠しており、自分のコドモが跡取りだと主張する。
ジークフリーデが第一夫人の立場なので、その子供で男児ならば生まれた順番がどうあれ、エマとマルガレーテの子供よりも家督相続順位は上になる。
当然みんなわかっていての会話である。
三人は仲が良く、夜になると揃ってマクシミリアンを攻めた。
この関係は大父と大母たちと同じである。
なお、後にエマとマルガレーテの子供たちにも、マクシミリアンが持っている辺境伯以外の爵位を与えて、爵位持ちの貴族とした。
ただし、マルガレーテの長男は伯爵家に婿入りして跡を継ぐことになる。
女性たちが姦しくしているのを横目に、ヨーナスがマクシミリアンに話しかける。
「お陰様で、ヨーナス商会もMが廃業となり吸収することが出来ました。あとはEが残っておりますが、あそこは派手に動いてないので勘違いされることも少ないですからねえ」
ヨーナスM商会はゲオルグに提灯をつけていたので、今回かなりの損害を被った。
さらに、証拠金の不正がバレて金融商品取引所の職員とともに、多額の罰金が課せられた。
罰金は破産するのを計算して課せられていたので、当然払えるはずもなく廃業となった。
この背景には、小麦価格を高騰させて、国内を混乱させたことへの罰も加味されており、それだけ王家の怒りが大きかったという事である。
ゲオルグの指示に従ったという言い訳も通用せずに、また、泣きつこうにもゲオルグがヴァルハラへと旅立っていたのでどうすることも出来なかったのだ。
それで、顧客や商品の仕入れルートはヨーナスB商会で引き受けたというわけだ。
「今回儲かったのに、まだ稼ぐつもり?」
マクシミリアンは意地悪くヨーナスに言う。
ヨーナスはマクシミリアンに貸した金の金利と、マクシミリアンにつけた提灯でかなり稼いだ。
マクシミリアンがどう動くのか知っているので、提灯をつけるのにも迷いがなかったのである。
なのでヨーナスは意地悪さを感じても余裕があって、ニコニコしてこたえる。
「死ぬまで稼ぎ続けますよ。次は何の相場を手掛けますか?」
「当分はやらないよ。今回だってギリギリだったからね。現物を売りに出したときに、ゲオルグに全部買われていたら、今頃僕はゲオルグに男娼の仕事をさせられていたからね。現物が無くなって純空だったら高値で買い戻すしかなかったよ。それに、教会への借りももう作りたくないし」
マクシミリアンは辟易した顔になる。
浄財を回してもらったお陰で、マルガレータ財閥企業に対して大規模な空売りができた。
が、そのことで大きな借りを作ってしまい、頻繁に教会で信者とのふれ合いイベントに呼ばれる事になったのだ。
聖下として奇跡を起こしたことに加え、小麦の価格を元通りにしたことで、現世御利益があるからと大人気になったのだ。
浄財は元々マクシミリアンの為に信者が出したものであったが、それでも教会の看板で集めたので借りである。
そして、ふれ合いイベントは信者とだけでなく、教皇を始めとする教会関係者とも行った。
聖歌隊の男の子たちとキャッキャウフフするのを、教皇たちが眺めるというソドムが滅びたのと変わらない状況だったが、こちらの神は寛大なようで神罰は起きなかった。
「聖歌隊の子たちはあのあと教皇たちと一緒に何処かに行ったけど、何があったかは想像したくないよ」
とマクシミリアンはゲンナリする。
「私の国でも宗教関係者は似たようなものですよ」
とクリストフが言う。
今回、小麦の現物を集めるにあたって、クリストフが働いてくれたのは大きかった。
彼のおかげで勝てたようなものである。
マクシミリアンはその功績に応えるべく、フィエルテ国内でクリストフに便宜を図った。
ローエンシュタイン一族の領地を通過するときは、クリストフの荷物を十年間無税とするようにし、その証明書をクリストフに与えた。
王都に開設した支店の土地はゲオルグから物納されたものを無償で与えた。
そんな支援のおかげで、数年後にはクリストフはドリッテン王国で一番の商人にのし上がる。
そして、商家では子供にクリストフの話を聞かせて、商機を逃さないようにと小さい頃から教えるようになったのだ。
「クリストフ、今回はありがとう。小麦の現物を集められなかったら勝てなかったよ」
マクシミリアンは笑顔で謝辞を述べた。
クリストフが商人人生を賭けて、借金してまでかき集めた事で、ゲオルグの資金を超えた売りを出す事ができたのだ。
決して大袈裟ではない。
「私もマクシミリアン様程ではないですが、人生を賭けた甲斐がありました。私の場合は失敗したら破産すればいいだけなので気楽でしたよ」
クリストフは笑う。
日本の投機家にもこういう考えの者は多い。
レバレッジをかけ過ぎて、相場が急変したときに借金を負う事になるのだが、返せないからと諦めて自己破産するのである。
免責になるかならないかは別として、返せないものは返せないし、命までは取られないからと気楽に考えているのだ。
勿論自殺するような投資家もいるが、自殺しない投機家もかなりいる。
大物相場師も借金まみれになっても生きていた例は枚挙に暇がない。
「確かに、僕は色んなところに体を賭けていたからねえ。ヨーナス、教会、ゲオルグ、ブリュンヒルデと何処かで破綻してたら、今頃首輪がついていたよ。それと奴隷紋か」
マクシミリアンの顔に影ができる。
「大父様はよく、毎回こんな状況で相場を張ってたと感心するよ、僕には無理かな」
マクシミリアンが心底疲れたと吐露するが、ブリュンヒルデはそれを許さない。
「何を言ってるのですか。ここから大父様を超える偉業を打ち立てるのですよ」
それにヨーナスも乗っかる。
「私も初代会頭の域まで連れて行って下さい」
とマクシミリアンに縋り付いた。
それを見たクリストフは苦笑する。
祝勝会が終わり、夜になるとマクシミリアンはベッドの上でマクシーネの格好をさせられ、ブリュンヒルデの水魔法で拘束されていた。
更に、マルガレーテの支援魔法で体の感覚が三倍に強化されている。
「あっ、駄目。今敏感だから」
マクシミリアンは涙目でマルガレーテに訴えるが、マルガレーテは一顧だにしない。
そして婀娜な笑みを浮かべる。
「私が泣いても銀行を潰すのを止めなかったのは何処の誰ですか?」
「ごめん……な……さい…………」
マルガレーテの手がマクシミリアンに振れると、快楽のあまり言葉に詰まってしまう。
そんな風にマクシミリアンと夫人たちとブリュンヒルデが戯れている時、エリーゼ・ローエンシュタイン侯爵家の屋敷では二人の若い女性が唇が触れるだけの口づけをしていた。
大母エリーゼに似た赤毛の女性は、侯爵家の女当主エリーザ・フォン・エリーゼ・ローエンシュタイン。
二十歳の若き当主である。
そして、エリーザは先程まで口づけをしていた女性に話しかける。
「アンネリース、貴女の出番がなくなってしまったわね。折角、帝国から来てもらったのに」
エリーザにアンネリースと呼ばれたピンクの髪の女性はどことなくアンネリーゼに似ていた。
そして続ける。
「まあいいわ。からめてなど無くとも、トレードだけで他のローエンシュタイン家に勝てることもわかったしね。MACDとRSIの1時間足と5分足に一目均衡表をあわせれば、商品の値動きが完璧に予測出来る事が確認できたもの。ローソク足とボリンジャーバンドしか使えない彼奴等なんて敵じゃないわ。オシレーターを使いこなしてこそ、大父様が残したテクニカルを使いこなせているというもの。それに、大母エリーゼ様が一族仲良くと言ったのに、男たちときたら一族で争うことばかり。私がそれに終止符をうつの」
そう言うと、再びアンネリースに口づけをした。
そのため、不足金の入金を迫られて、売れる資産は全て売却することとなった。
しかし、国家予算を超える金額の仕手戦のため、資産の売却額も相当のものとなり、それを買うことができるのはごく一部の貴族と豪商のみであった。
なにせ、王族でさえも小麦の値上がりで疲弊していたので、現金を持ってはいなかったのである。
また、マクシミリアンもゲオルグが銀行の引き出しを優先しており、損失分の金を払えないので、利益を受け取ることは出来ていなかった。
今の所小麦の現物の売却益のみである。
それでも10兆マルクは超えているのだが。
結局現金化を待っていても遅くなるので、代物での受け取りを認めて領地や株券を貰うことにした。
そのおかげでマルガレーテはマルガレータ・ローエンシュタイン銀行の頭取となった。
マルガレーテ・ローエンシュタイン銀行の行員も転職している。
その他にもマルガレータ一門の所有する爵位を受け取ったりした。
ローエンシュタイン伯爵家は当主のゲオルグが急な病死となり、息子が跡を継ぐ事になった。
が、めぼしい資産はマクシミリアンに差し出したため、もはや一門をまとめるだけの力は無かった。
それに、ゲオルグに提灯をつけていたマルガレータ一門の多くは破産したり、多額の借金を抱えて没落していった。
代わってマルガレータ一門をまとめる事になったのはマルガレーテである。
彼女はここに来てマクシミリアンとの婚約を発表し、すぐに結婚をした。
そして、先述したようにマルガレータ・ローエンシュタイン銀行の頭取として、一門の資金を管理するようになったのである。
ただ、マルガレータ・ローエンシュタイン銀行は一度倒産して、マクシミリアンの資金を注入して再建中なので、そこから金を借りるマルガレータ一門はマクシミリアンには逆らえなくなった。
このことによりローエンシュタイン男爵、マルガレーテの父親であるデニスはマクシミリアンの権力をかさにきて色々と画策したのだが、マルガレーテに銀行での背任行為を咎められ、長男に家督を譲って引退させられることとなった。
最初は抵抗を見せたが病死と隠居の二択を迫られて、結局は隠居を選択したのである。
なお、マルガレーテ・ローエンシュタイン銀行を倒産させ、マルガレータ・ローエンシュタイン銀行と勘違いさせたとマクシミリアンを批判する意見もあったが、デニスの背任行為を公にすると、その声はトーンダウンした。
デニスが何もしなければ、マクシミリアンも銀行を倒産させるような事は出来なかったのである。
そのような経緯から、デニスはマルガレータ一門から恨まれたが、マクシミリアンの義父となったことで何かをされるようなことはなく天寿を全うした。
一通り清算が終わると、マクシミリアンは身内だけで祝勝会を開いた。
参加メンバーはマクシミリアン、ブリュンヒルデ、ジークフリーデ、エマ、マルガレーテ、ヨーナス、クリストフである。
クリストフは一度帰国したが、フィエルテ王国に支店を開設するために、再びこちらに来たのだ。
「みんな、お疲れ様。みんなのお陰で勝つことができました」
マクシミリアンの挨拶で祝勝会は始まった。
すっかりお腹の大きくなったブリュンヒルデはマタニティードレス姿でマクシミリアンにしなだれ掛かる。
「やっぱりマクシミリアンは大父様の生まれ変わりね。国内で向かうところ敵なしだったローエンシュタイン伯爵を、小麦相場で打ち負かすのだから。お腹の子も立派な父親を持って良かったわ」
その言葉を聞いたマクシミリアンは、いやこの場にいた誰もが固まった。
真っ先に立ち直ったジークフリーデがすかさず訂正をする。
「お母様、お腹の子はお父様との子ですわよ。ローエンシュタイン辺境伯家の血はお母様の分しか入っておりませんから」
「ええ、わかっているわ。立派な父親は勿論公爵閣下よ。最初にマルガレータ・ローエンシュタイン銀行の仕手戦で大金を作ったのも公爵閣下の手柄ですもの」
マクシミリアンは最初にシェーレンベルク公爵の名前を借りているので、あれは公爵の手柄でもあると認識されていた。
今回の小麦相場へとつながる最初の足掛かりであるが故に、国内でのシェーレンベルク公爵の評価も上がったのである。
そのおかげで公爵は自分の夫人がマクシミリアンと不貞を働いているのを咎めなかったのである。
元々愛の無い政略結婚であった相手を取られたとさわぐよりも、自分はマクシミリアンと良好な関係だと世間が思ってくれたほうが得だとそろばんをはじいたのである。
だが、公爵の胸の内を知らないマクシミリアンは、関係者しかいないとはいえ冷や汗ダラダラであった。
そんなマクシミリアンの腕をジークフリーデは掴んで、手を自分のお腹に当てさせる。
「この子が次の当主ですから」
ジークフリーデも妊娠していたのだ。
そこにエマとマルガレーテがつっかかる。
「まだ男児と決まったわけではありませんよ」
「そうです、私の子こそ辺境伯家の跡取り息子」
二人とも妊娠しており、自分のコドモが跡取りだと主張する。
ジークフリーデが第一夫人の立場なので、その子供で男児ならば生まれた順番がどうあれ、エマとマルガレーテの子供よりも家督相続順位は上になる。
当然みんなわかっていての会話である。
三人は仲が良く、夜になると揃ってマクシミリアンを攻めた。
この関係は大父と大母たちと同じである。
なお、後にエマとマルガレーテの子供たちにも、マクシミリアンが持っている辺境伯以外の爵位を与えて、爵位持ちの貴族とした。
ただし、マルガレーテの長男は伯爵家に婿入りして跡を継ぐことになる。
女性たちが姦しくしているのを横目に、ヨーナスがマクシミリアンに話しかける。
「お陰様で、ヨーナス商会もMが廃業となり吸収することが出来ました。あとはEが残っておりますが、あそこは派手に動いてないので勘違いされることも少ないですからねえ」
ヨーナスM商会はゲオルグに提灯をつけていたので、今回かなりの損害を被った。
さらに、証拠金の不正がバレて金融商品取引所の職員とともに、多額の罰金が課せられた。
罰金は破産するのを計算して課せられていたので、当然払えるはずもなく廃業となった。
この背景には、小麦価格を高騰させて、国内を混乱させたことへの罰も加味されており、それだけ王家の怒りが大きかったという事である。
ゲオルグの指示に従ったという言い訳も通用せずに、また、泣きつこうにもゲオルグがヴァルハラへと旅立っていたのでどうすることも出来なかったのだ。
それで、顧客や商品の仕入れルートはヨーナスB商会で引き受けたというわけだ。
「今回儲かったのに、まだ稼ぐつもり?」
マクシミリアンは意地悪くヨーナスに言う。
ヨーナスはマクシミリアンに貸した金の金利と、マクシミリアンにつけた提灯でかなり稼いだ。
マクシミリアンがどう動くのか知っているので、提灯をつけるのにも迷いがなかったのである。
なのでヨーナスは意地悪さを感じても余裕があって、ニコニコしてこたえる。
「死ぬまで稼ぎ続けますよ。次は何の相場を手掛けますか?」
「当分はやらないよ。今回だってギリギリだったからね。現物を売りに出したときに、ゲオルグに全部買われていたら、今頃僕はゲオルグに男娼の仕事をさせられていたからね。現物が無くなって純空だったら高値で買い戻すしかなかったよ。それに、教会への借りももう作りたくないし」
マクシミリアンは辟易した顔になる。
浄財を回してもらったお陰で、マルガレータ財閥企業に対して大規模な空売りができた。
が、そのことで大きな借りを作ってしまい、頻繁に教会で信者とのふれ合いイベントに呼ばれる事になったのだ。
聖下として奇跡を起こしたことに加え、小麦の価格を元通りにしたことで、現世御利益があるからと大人気になったのだ。
浄財は元々マクシミリアンの為に信者が出したものであったが、それでも教会の看板で集めたので借りである。
そして、ふれ合いイベントは信者とだけでなく、教皇を始めとする教会関係者とも行った。
聖歌隊の男の子たちとキャッキャウフフするのを、教皇たちが眺めるというソドムが滅びたのと変わらない状況だったが、こちらの神は寛大なようで神罰は起きなかった。
「聖歌隊の子たちはあのあと教皇たちと一緒に何処かに行ったけど、何があったかは想像したくないよ」
とマクシミリアンはゲンナリする。
「私の国でも宗教関係者は似たようなものですよ」
とクリストフが言う。
今回、小麦の現物を集めるにあたって、クリストフが働いてくれたのは大きかった。
彼のおかげで勝てたようなものである。
マクシミリアンはその功績に応えるべく、フィエルテ国内でクリストフに便宜を図った。
ローエンシュタイン一族の領地を通過するときは、クリストフの荷物を十年間無税とするようにし、その証明書をクリストフに与えた。
王都に開設した支店の土地はゲオルグから物納されたものを無償で与えた。
そんな支援のおかげで、数年後にはクリストフはドリッテン王国で一番の商人にのし上がる。
そして、商家では子供にクリストフの話を聞かせて、商機を逃さないようにと小さい頃から教えるようになったのだ。
「クリストフ、今回はありがとう。小麦の現物を集められなかったら勝てなかったよ」
マクシミリアンは笑顔で謝辞を述べた。
クリストフが商人人生を賭けて、借金してまでかき集めた事で、ゲオルグの資金を超えた売りを出す事ができたのだ。
決して大袈裟ではない。
「私もマクシミリアン様程ではないですが、人生を賭けた甲斐がありました。私の場合は失敗したら破産すればいいだけなので気楽でしたよ」
クリストフは笑う。
日本の投機家にもこういう考えの者は多い。
レバレッジをかけ過ぎて、相場が急変したときに借金を負う事になるのだが、返せないからと諦めて自己破産するのである。
免責になるかならないかは別として、返せないものは返せないし、命までは取られないからと気楽に考えているのだ。
勿論自殺するような投資家もいるが、自殺しない投機家もかなりいる。
大物相場師も借金まみれになっても生きていた例は枚挙に暇がない。
「確かに、僕は色んなところに体を賭けていたからねえ。ヨーナス、教会、ゲオルグ、ブリュンヒルデと何処かで破綻してたら、今頃首輪がついていたよ。それと奴隷紋か」
マクシミリアンの顔に影ができる。
「大父様はよく、毎回こんな状況で相場を張ってたと感心するよ、僕には無理かな」
マクシミリアンが心底疲れたと吐露するが、ブリュンヒルデはそれを許さない。
「何を言ってるのですか。ここから大父様を超える偉業を打ち立てるのですよ」
それにヨーナスも乗っかる。
「私も初代会頭の域まで連れて行って下さい」
とマクシミリアンに縋り付いた。
それを見たクリストフは苦笑する。
祝勝会が終わり、夜になるとマクシミリアンはベッドの上でマクシーネの格好をさせられ、ブリュンヒルデの水魔法で拘束されていた。
更に、マルガレーテの支援魔法で体の感覚が三倍に強化されている。
「あっ、駄目。今敏感だから」
マクシミリアンは涙目でマルガレーテに訴えるが、マルガレーテは一顧だにしない。
そして婀娜な笑みを浮かべる。
「私が泣いても銀行を潰すのを止めなかったのは何処の誰ですか?」
「ごめん……な……さい…………」
マルガレーテの手がマクシミリアンに振れると、快楽のあまり言葉に詰まってしまう。
そんな風にマクシミリアンと夫人たちとブリュンヒルデが戯れている時、エリーゼ・ローエンシュタイン侯爵家の屋敷では二人の若い女性が唇が触れるだけの口づけをしていた。
大母エリーゼに似た赤毛の女性は、侯爵家の女当主エリーザ・フォン・エリーゼ・ローエンシュタイン。
二十歳の若き当主である。
そして、エリーザは先程まで口づけをしていた女性に話しかける。
「アンネリース、貴女の出番がなくなってしまったわね。折角、帝国から来てもらったのに」
エリーザにアンネリースと呼ばれたピンクの髪の女性はどことなくアンネリーゼに似ていた。
そして続ける。
「まあいいわ。からめてなど無くとも、トレードだけで他のローエンシュタイン家に勝てることもわかったしね。MACDとRSIの1時間足と5分足に一目均衡表をあわせれば、商品の値動きが完璧に予測出来る事が確認できたもの。ローソク足とボリンジャーバンドしか使えない彼奴等なんて敵じゃないわ。オシレーターを使いこなしてこそ、大父様が残したテクニカルを使いこなせているというもの。それに、大母エリーゼ様が一族仲良くと言ったのに、男たちときたら一族で争うことばかり。私がそれに終止符をうつの」
そう言うと、再びアンネリースに口づけをした。
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