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第49話 条件表をつくろう
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こんにちは、山岡でもないのに食い物関連の相談が多いアルトです。
今日も冒険者ギルドの食堂からの相談が来ています。
「聞いてくださいよ」
「どうした、メガーヌ」
「昨日ティーノのお父さんがここにやって来て、ティーノの作った料理を食べたのですが、突然怒り始めちゃって」
「お父さんの名前は雄山っていうのかい?」
「似ていますね、ユーコンです」
惜しいな。
「それで、どうして怒ったのか教えて欲しいんだが」
「ティーノの出した肉料理が不味いっていうんですよ。それで、ティーノに肉料理で味を決める大切なことを訊ねたのですけど、ティーノが言うことを聞いて、『それだけか』って言って」
「因みに、どんな事が肉料理の味を決めるの?」
「出したのは牛の肉だったのですけど、30ヶ月を越える頃から肉は美味しくなってくるから、余り若い肉はだめだって。それと死後硬直が解けてから時間が経つと肉が美味しくなるんだとか。だから10日間から14日間程度寝かせる必要があると。後は餌にも気を使うって言ってました」
うん、前世の牛とだいたい同じだな。
死後硬直が解けてから、タンパク質はアミノ酸に変わる。
アミノ酸は旨味成分だから、多ければ多いほど美味しい。
熟成肉だな。
「それで終わり?」
「はい。そうしたら『見せてやるからついて来い』って二人でどっかに行っちゃったんですよね。それで帰ってきてからティーノが落ち込んちゃって、今日はお仕事を休んじゃっているんですよ」
「そうか。でもそれって俺が相談に乗れることなのか?」
「アルトはいつだって相談に乗ってくれて、解決してきたじゃないですか」
そうだっけ?
「まあいいんじゃない。ティーノに話を聞くくらいしてあげても」
今日もここに遊びに来ていたオーリスは、ティーノの相談に乗るように促してくる。
「バーロー。俺はカウンセラーじゃねーぞ、灰原」
「灰原?」
ごめん、間違えた。
何ができるのか判らないが、兎に角話だけでも聞いてみようと、メガーヌ、オーリスと一緒にティーノの部屋に行った。
「僕はもう駄目です。肝心なことを見落としていた」
ティーノは自信を喪失していた。
去勢された雄牛のようだ。
「肉は子供を生んだ事のない雌牛が最高なんだろ」
「アルト、どうしてそれを知っているんだ!?」
俺が言ったことがどうやら正解だったようだ。
勿論、囲いの中は全て去勢された雄牛だと知っているからですよ。
「で、父親に凹まされて引きこもっているわけだ」
「悪いかよ」
「見返してやろうとは思わないのか?」
「ティーノ、アルトの言うとおりよ。お父さんを見返してやりましょうよ」
「そうしてやりたいんだが、また次も肝心なことを忘れてしまうのが怖くて。子供を生んだことがない雌牛の方が美味しいのを忘れるなんて、やってはいけないミスだったんだよ」
「それじゃあ条件表をつくろうか」
「条件表?」
俺が提案したのは条件表だ。
製造現場では加工条件表と謂われているものがある。
設備の設定条件を書いたものだ。
人間だれしも忘れることもあるし、不慣れな作業者が条件を設定する事などできない。
そのため、技術部門やベテラン作業者が一度条件を設定し、それを記録しておき再現させるのだ。
今回も、美味しい肉を仕入れる条件を忘れないうちに書いておこうと思う。
「できた。こんなものでいいかな」
俺はティーノから聞き取った条件を箇条書きにした。
「あとはこれをブレイドに見せて、確認をしてもらうだけだな」
「ティーノ、さあ早く着替えて。厨房に行くわよ」
「う、うん」
メガーヌに尻を叩かれるティーノを見てオーリスが
「結婚したら尻に敷かれるわね」
と、ぼそりと言った。
激しく同意だ。
「そんなわけで、今頃ティーノがブレイドに条件を確認してもらっているんだ」
「ふーん」
冒険者ギルドに帰ってきた俺は、相談窓口でシルビアに今日の相談内容を話している。
「あ、メガーヌが来ましたわ」
オーリスがこちらに向かってくるメガーヌに気が付く。
「聞いてくださいよ」
「どうした、メガーヌ」
「ティーノがブレイドに条件を確認したら、『仕入れ価格が高くなるから駄目だ』って言うんですよ」
「まあそうなるか。料理の値段が上がっちゃうものな」
「そしたら、ティーノが『じゃあ、俺は最高の料理を提供する店を開く』って言うんですよ」
「なんだってー!」
俺とシルビアとオーリスが驚く。
先ほどまで引きこもっていた人物とは思えないな。
「それで、今度は開業資金を貸して欲しいんですけど……」
「うーん、返せる当てはあるのか?」
俺には工房の売り上げがあるから、貸せないことはないが、それなりの金額になるだろうから、返済できるのか心配だな。
「それなら私が――」
メガーヌも必死だ。
俺が桑田さんなら、泡のお風呂に沈めてでも回収しちゃうぞ。
「私がここで働いている給料から少しずつお返しいたします」
「そ、そうか」
期待していた展開とちょっと違ったな。
「貸してあげなさいよ。食堂の味が落ちるのは残念だけど、ティーノの店で食べればいいだけだしね」
「ですわね」
シルビアとオーリスに押されて、俺は資金を貸す事に決めた。
数か月後、ステラの街には評判のレストランが出来たのである。
ティーノの店は繁盛して、人手が足りないので、メガーヌも冒険者ギルドを辞めて、そちらの店で働いている。
売り上げが凄いことになっているので、俺からの借金は既に返済済みだ。
それと、条件表なのだが、ティーノの店では色々な食材用の条件表が出来ているという。
ついでに火加減、塩加減などもあるそうだ。
それはレシピって言うんじゃないのかな?
まあ、基本的な考えは同じなのでいいんだけど。
「あの二人、今度結婚するんだって」
「羨ましいですわね」
シルビアとオーリスは式に着ていく服を選んでいる。
何故か費用は俺持ちだ。
オーリスは貴族令嬢なんだから、俺が出す必要もないだろう。
「ティーノとメガーヌをくっつけたのは俺なのに、何で俺が二人の結婚式のために、君たちに服を買ってあげなくてはならないのか、三行でたのむ」
「けち臭いこと言わないの」
「そうですわよ。若い二人の門出を祝う事に喜びを感じるべきですわ」
「あのなー」
俺は反論を諦めた。
※作者の独り言
異世界で獲った獲物をその場で捌いて料理している作品を見かけますが、肉は寝かせたほうがおいしくなったりしないのですかね?
タンパク質がアミノ酸に分解されない世界かもしれませんが。
今日も冒険者ギルドの食堂からの相談が来ています。
「聞いてくださいよ」
「どうした、メガーヌ」
「昨日ティーノのお父さんがここにやって来て、ティーノの作った料理を食べたのですが、突然怒り始めちゃって」
「お父さんの名前は雄山っていうのかい?」
「似ていますね、ユーコンです」
惜しいな。
「それで、どうして怒ったのか教えて欲しいんだが」
「ティーノの出した肉料理が不味いっていうんですよ。それで、ティーノに肉料理で味を決める大切なことを訊ねたのですけど、ティーノが言うことを聞いて、『それだけか』って言って」
「因みに、どんな事が肉料理の味を決めるの?」
「出したのは牛の肉だったのですけど、30ヶ月を越える頃から肉は美味しくなってくるから、余り若い肉はだめだって。それと死後硬直が解けてから時間が経つと肉が美味しくなるんだとか。だから10日間から14日間程度寝かせる必要があると。後は餌にも気を使うって言ってました」
うん、前世の牛とだいたい同じだな。
死後硬直が解けてから、タンパク質はアミノ酸に変わる。
アミノ酸は旨味成分だから、多ければ多いほど美味しい。
熟成肉だな。
「それで終わり?」
「はい。そうしたら『見せてやるからついて来い』って二人でどっかに行っちゃったんですよね。それで帰ってきてからティーノが落ち込んちゃって、今日はお仕事を休んじゃっているんですよ」
「そうか。でもそれって俺が相談に乗れることなのか?」
「アルトはいつだって相談に乗ってくれて、解決してきたじゃないですか」
そうだっけ?
「まあいいんじゃない。ティーノに話を聞くくらいしてあげても」
今日もここに遊びに来ていたオーリスは、ティーノの相談に乗るように促してくる。
「バーロー。俺はカウンセラーじゃねーぞ、灰原」
「灰原?」
ごめん、間違えた。
何ができるのか判らないが、兎に角話だけでも聞いてみようと、メガーヌ、オーリスと一緒にティーノの部屋に行った。
「僕はもう駄目です。肝心なことを見落としていた」
ティーノは自信を喪失していた。
去勢された雄牛のようだ。
「肉は子供を生んだ事のない雌牛が最高なんだろ」
「アルト、どうしてそれを知っているんだ!?」
俺が言ったことがどうやら正解だったようだ。
勿論、囲いの中は全て去勢された雄牛だと知っているからですよ。
「で、父親に凹まされて引きこもっているわけだ」
「悪いかよ」
「見返してやろうとは思わないのか?」
「ティーノ、アルトの言うとおりよ。お父さんを見返してやりましょうよ」
「そうしてやりたいんだが、また次も肝心なことを忘れてしまうのが怖くて。子供を生んだことがない雌牛の方が美味しいのを忘れるなんて、やってはいけないミスだったんだよ」
「それじゃあ条件表をつくろうか」
「条件表?」
俺が提案したのは条件表だ。
製造現場では加工条件表と謂われているものがある。
設備の設定条件を書いたものだ。
人間だれしも忘れることもあるし、不慣れな作業者が条件を設定する事などできない。
そのため、技術部門やベテラン作業者が一度条件を設定し、それを記録しておき再現させるのだ。
今回も、美味しい肉を仕入れる条件を忘れないうちに書いておこうと思う。
「できた。こんなものでいいかな」
俺はティーノから聞き取った条件を箇条書きにした。
「あとはこれをブレイドに見せて、確認をしてもらうだけだな」
「ティーノ、さあ早く着替えて。厨房に行くわよ」
「う、うん」
メガーヌに尻を叩かれるティーノを見てオーリスが
「結婚したら尻に敷かれるわね」
と、ぼそりと言った。
激しく同意だ。
「そんなわけで、今頃ティーノがブレイドに条件を確認してもらっているんだ」
「ふーん」
冒険者ギルドに帰ってきた俺は、相談窓口でシルビアに今日の相談内容を話している。
「あ、メガーヌが来ましたわ」
オーリスがこちらに向かってくるメガーヌに気が付く。
「聞いてくださいよ」
「どうした、メガーヌ」
「ティーノがブレイドに条件を確認したら、『仕入れ価格が高くなるから駄目だ』って言うんですよ」
「まあそうなるか。料理の値段が上がっちゃうものな」
「そしたら、ティーノが『じゃあ、俺は最高の料理を提供する店を開く』って言うんですよ」
「なんだってー!」
俺とシルビアとオーリスが驚く。
先ほどまで引きこもっていた人物とは思えないな。
「それで、今度は開業資金を貸して欲しいんですけど……」
「うーん、返せる当てはあるのか?」
俺には工房の売り上げがあるから、貸せないことはないが、それなりの金額になるだろうから、返済できるのか心配だな。
「それなら私が――」
メガーヌも必死だ。
俺が桑田さんなら、泡のお風呂に沈めてでも回収しちゃうぞ。
「私がここで働いている給料から少しずつお返しいたします」
「そ、そうか」
期待していた展開とちょっと違ったな。
「貸してあげなさいよ。食堂の味が落ちるのは残念だけど、ティーノの店で食べればいいだけだしね」
「ですわね」
シルビアとオーリスに押されて、俺は資金を貸す事に決めた。
数か月後、ステラの街には評判のレストランが出来たのである。
ティーノの店は繁盛して、人手が足りないので、メガーヌも冒険者ギルドを辞めて、そちらの店で働いている。
売り上げが凄いことになっているので、俺からの借金は既に返済済みだ。
それと、条件表なのだが、ティーノの店では色々な食材用の条件表が出来ているという。
ついでに火加減、塩加減などもあるそうだ。
それはレシピって言うんじゃないのかな?
まあ、基本的な考えは同じなのでいいんだけど。
「あの二人、今度結婚するんだって」
「羨ましいですわね」
シルビアとオーリスは式に着ていく服を選んでいる。
何故か費用は俺持ちだ。
オーリスは貴族令嬢なんだから、俺が出す必要もないだろう。
「ティーノとメガーヌをくっつけたのは俺なのに、何で俺が二人の結婚式のために、君たちに服を買ってあげなくてはならないのか、三行でたのむ」
「けち臭いこと言わないの」
「そうですわよ。若い二人の門出を祝う事に喜びを感じるべきですわ」
「あのなー」
俺は反論を諦めた。
※作者の独り言
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