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第52話 計測間違いを防ごう

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 その日はミゼットが俺を呼びに来た。

「エランがまた失敗して、親方に怒られているの」
「またか」

 俺はミゼットに袖を引かれて、ポーション生産部門にやってきた。
 見るとエランが親方に怒られている。
 取り敢えず訳を聞いてみよう。

「どうしました」
「アルトか。またエランがミスをしてよ」
「どんなミスですか」
「鍋に入れるマンドラゴラの量を間違えたんだよ。2キロ入れるところが少なくて、効果が薄いポーションが大量に出来ちまったんだ」
「ふむ」

 話を聞くと、原料の配分を間違ったということか。
 何故間違ったのかは本人に聞いてみないとわからないな。

「エラン、ちょっといいか。どうして間違ったのか教えて欲しい。親方は席を外して下さい」
「わかったよ」

 親方は察してくれて、どこかへ行ってくれた。
 エランが萎縮して本当のことを言えないかもしれないからな。

「エラン、まずは標準作業を教えてくれないか」
「標準作業?」
「いつもの作業ってことだよ」
「マンドラゴラを箱から出して、天秤に乗せて2キロになったら鍋に入れるんだ」
「どうして2キロにならないで、鍋に入れたんだい?」
「天秤が安定していないのに、2キロだと勘違いして天秤の皿からマンドラゴラを下ろしたんだよ」
「成程ね」

 2キロだと勘違いしたのは天秤が動いている内に判断してしまったからなのか。
 そして、次工程に流出したのは、2キロ未満でも皿からおろせたと。

「いつも失敗ばかりで、親方には怒られっぱなし。もう故郷に帰ろうかと思うんだ」
「エランのバカ!」

 弱気な発言をするエランをミゼットが叱った。
 小さな女の子に怒られて、エランが目を丸くしている。

「ミゼットの言う通りだよ。失敗して逃げていたら成長しないぜ」

 俺もエランに言う。

「でも、俺失敗ばかりしているから……」
「失敗してしまう環境にも問題があるのさ。まあ、暫くは仕事を続けて見ようじゃないか。その間にミスしないような仕組みを作ってみせるよ」

 そう約束して、エランの辞職を思いとどまらせた。
 そして、その日はそこまでで終わる。

「とはいってもなー。電子部品の無いこの世界でどうやってポカヨケを作ろうか」

 俺は自分の席で悩んでいた。
 重量間違いであれば、電子秤に連動したインターロックが有ればいい。
 が、そんな物がどこにもないのだ。
 困ったね。

「上皿天秤ならなんとかなるかな?」

 なんとなくイメージが湧いたのは、上皿天秤を使ったポカヨケだ。
 早速デボネアに相談してみよう。
 急いでデボネアの店に向かう。

「こんなイメージなんだけど、なんとかなりそうかな?」
「まあ、問題ないじゃろ。皿が水平になったら、皿を固定している爪が外れればええんじゃろ」
「はい」

 俺はポカヨケの大まかなデザインを書いた紙をデボネアに手渡し、ポカヨケの作成を依頼した。
 明日には完成するというので、また明日ここに来る約束をする。
 そして翌日。

「出来たぞ」
「早速試させてもらいますね」

 2キロのブロックゲージを2個スキルで作成し、一つを片側の皿に乗せる。
 そして、反対の皿がロックされるのを確認した。
 今度はロックされた皿にブロックゲージを乗せる。
 皿が下がることで、ロックしていた爪が解除される。

「ロックが見事に解除されましたね」
「当然じゃよ。それから、皿を取ろうとするとまたロックされてしまうから、反対の皿の下につっかえ棒を用意しておいた」
「これですね」

 つっかえ棒で皿が下がるのを防ぐわけだ。
 よく出来ているな。
 本当は2キロ以上乗せないような対策もしたかったのだが、流石にそこまでは考えつかなかった。

「じゃあ、早速これを冒険者ギルドに持っていくよ。代金はここに置いておくからね」
「あいよ」

 俺は出来たばかりのポカヨケを持って、冒険者ギルドのポーション生産部門に向かった。
 そこでは今日も従来の天秤を使って、エランが重量を計測していた。

「エラン、こいつを使ってみてくれ」
「これは?」
「2キロになったら皿のロックが外れて、取り外せるようになる装置だよ。こうやって使うんだ」

 俺はエランの前でポカヨケの使い方を実演してみせた。

「おお、これなら2キロ未満で鍋に入れることはなさそうだ」
「そうだろう」
「ありがとう、アルト。これでもう親方に怒鳴られなくて済むよ」
「そうそう、2キロ以上乗せるのは防げないからな」
「ええ、じゃあ間違っちゃうじゃないか」

 おいおい、そこまでは面倒見きれないよ。
 と言ってしまうのも可哀想か。
 どんなプワワーカーがやっても不良が発生しない環境が理想だ。
 エランがプアワーカーでいいのかとも思うが。

「ロボットみたいなのが有ればいいんだけどな」
「なんだそのロボットっていうのは」

 ポカヨケを見ていた親方が訊いてきた。
 そうか、ロボットなんて無いものな。
 この世界に在るもので例えるならなんだろう?

「ゴーレムみたいなものかな」

 と俺は答えた。

「ゴーレムなら賢者の学院で研究している奴がいたと思うぞ」
「本当ですか!?」

 親方から意外な言葉が返ってきた。
 ゴーレム研究者がいるのか。
 上手く行けば産業用ロボットみたいなのが作れるかもしれないな。

「まあ、奴らはちょっと変わっているからな。誰かの紹介がないと面会出来ないと思うぞ」
「そうかー。まあ希望が持てたので、あとはなんとかします」

 賢者の学院については、ギルド長にでも相談してみようか。
 気になることがもう一つ、ミゼットがこの職場で親方のサブみたいな動きをしているのが気になる。
 俺を呼びに来たのも、自分の判断だというし、エランの辞職を思いとどまらせていたり、他の職員への指示を出していたりと、まだジョブが判明していない子供なのに、既にここを仕切っている感じだ。
 遠くない将来、ここの責任者になっていそうだな。

※作者の独り言
重量計で重さを測ったから大丈夫と思いがちですが、測る行為を間違うこともあるので、全ての重量計にインターロックを設置していただきたいですね。
規定重量で解除されるやつが欲しい。
多品種少量生産だと、難しいとは思いますが。
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