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第60話 面取りの効果
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俺は工房で会った水島の事をギルド長に報告した。
「なるほど、アルトは転生者であり、前世で一緒に仕事をしていた水島という男がオッティの正体か」
ここまで来ると、自分の素性を隠すのは難しいので、ギルド長には転生者であることを伝えた。
口止めはお願いしてあるが、どこまで守ってもらえるかはわからない。
それでも、水島の危険性を伝えるにはこうするしかないのだと思う。
自分が監視対象になったとしても、水島を野放しにするよりはいい。
「彼の目的が産業革命という技術革新で、その目的の為にフォルテ公爵の依頼を受けているということか」
「はい。彼には生産するだけの力がないですから。製造業に必要な品質、技術、製造のうち、彼が持っているのは技術だけです。製造する力を持たれて、大量生産が始まってしまったら、止めるのは難しいかも知れません」
「すぐに将軍に報告しておこう。ただし、相手はこの国でも有数の権力を持った貴族だ。どこまで出来るかは約束できないけどね」
「お願いします」
「それと、別件だが」
ギルド長から俺は全く違う事を依頼された。
なんでも、カイロン伯爵のギルドで販売しているソードの評判が悪く、けが人が続出しているというのだ。
「うちのギルドには関係ないじゃないですか」
「そうなんだが、冒険者の安全を管理するのも仕事と将軍に言われてね。これから先程のことを報告しに行くのに、何もしていませんとは言いにくいじゃないか」
「そういう事なら」
そう言われて、俺はギルド長の依頼を受ける事にした。
将軍と冒険者ギルドはギブアンドテイクの関係なので、断るわけにもいかないだろう。
まずは、現物を見てみないとわからないので、カイロン伯爵の冒険者ギルドに行く事にした。
何故かシルビアとオーリスが一緒にいる。
まったく、この二人はいつも暇なのだろうか。
「どうしてついてくるのですか?」
「敵の本拠地に乗り込むんだから、襲われた時の護衛よ」
「うちは品格あるギルドなので、襲ったりしません」
シルビアは俺の護衛役ということであり、オーリスは経営者の娘として案内役であるそうだ。
どんだけ過保護なんだよ。
一人でもこれくらいの仕事こなせるぞ。
まあ、女性二人に囲まれるのは悪い気はしないので、これでもいいけどさ。
「さあ、こちらですわ」
オーリスに案内されたのは、冒険者ギルドの売店の一角にある、武器コーナーであった。
そこで売られているショートソードを手に取ってみた時に違和感がある。
「鞘が手になじまないわね」
「シルビアもそう感じるか」
何とも言えない違和感に、俺はじっくりとその外観を観察した。
そして、自分のショートソードと見比べる。
良品と不良品を比較するのは基本だ。
そして気がつく。
「あー、面取りがされてないのか」
「面取り?」
シルビアは面取りという言葉がわからないようだ。
一般的ではないのかな?
「ほら、角のエッジの事だよ。これが手に当たった時に痛いんだ」
「本当ね」
俺は角を指さして、面取りを説明する。
「面取りにはR面取りとC面取りの2種類があってね、R面取りは角を丸くしているやつなんだ。真っ直ぐに面取りしているのはC面取りだ。皮膚に当たる面積が小さいと、それだけ痛いからね」
「デボネアの工房で作られた鞘は、角が落としてあるわね」
これだもの、防具のない箇所にぶつかると痛いし、怪我もするだろう。
前世では設備設計をしていた若い設計者が、何度注意しても面取りを入れなかったのだ。
部品はアウトソーシングして、外部で加工してもらい、社内で組み立てを行ったのだが、組み立て職人から、面取り不足で毎回苦情が来たものである。
しかし、部品は加工図面どおりに出来ているため、品質管理としては修正させる訳にもいかなかった。
結局組付け工程で、サンダーやヤスリを使って面取りを追加工したのだ。
糸面取りだけだと、ぶつかった時痛いんだよね。
※糸面取りは細いC面取りで、バリの除去くらいしか効果がない。
次に鞘からショートソードを抜いてみる。
ソードの出来は悪いが、使えないこともないレベルだな。
お値段相当だと思う。
だが、それを戻そうとしたときに、鞘に入れづらいことが判った。
「ここも面取りがないのか」
見れば鞘口の部分にも面取りがない。
面取りは怪我をしないようにするのと、はめ込む時の案内としての役割がある。
面取りが無いから入れづらいんだろうな。
で、慣れない初心者が自分のショートソードで手を斬ってしまうと。
「見たところ、原因は面取りがない事だな」
「でも、面取りしたら販売価格が上がりますわ」
オーリスはそう反対する。
それも確かにあるな。
「自分で面取りしてもらうように説明しようか」
そう、安くて不完全ならば、自分で仕上げればよいのだ。
「自分で仕上げるのが面倒だって人もいるでしょ」
「シルビアの言うように面倒な人には、お金を払ってもらって仕上げるようにすればいいんだよ。オプション注文だね」
「それなら確かにいいかもしれないわね。お金に余裕のない新人は自分で仕上げて、ある程度余裕が出来たら、仕上げを依頼すればいいのね」
やはり安いものには安いなりの理由があるものですね。
因みに、案内の面取りは大きすぎても、組付け時のガタの原因になるので、適切な大きさにする必要があったりします。
設備の面取りは大きいほど痛くないので、積極的に大きくして欲しいです。
段取り時やメンテナンス時に、滑った手がぶつかる事があるんですよね。
品質管理レベル22
スキル
作業標準書
作業標準書(改)
ノギス測定
三次元測定
マクロ試験
振動試験
電子顕微鏡
塩水噴霧試験
引張試験
硬度測定
重量測定
温度管理
レントゲン検査
輪郭測定
蛍光X線分析
シックネスゲージ作成
ブロックゲージ作成
ピンゲージ作成
ネジゲージ作成 new!
品質偽装
リコール
※作者の独り言
鞘口の面取りって、画像で見ると大した事ないのですが、ここでは物語の都合上面取りが必要となってますのでツッコミ禁止です。
「なるほど、アルトは転生者であり、前世で一緒に仕事をしていた水島という男がオッティの正体か」
ここまで来ると、自分の素性を隠すのは難しいので、ギルド長には転生者であることを伝えた。
口止めはお願いしてあるが、どこまで守ってもらえるかはわからない。
それでも、水島の危険性を伝えるにはこうするしかないのだと思う。
自分が監視対象になったとしても、水島を野放しにするよりはいい。
「彼の目的が産業革命という技術革新で、その目的の為にフォルテ公爵の依頼を受けているということか」
「はい。彼には生産するだけの力がないですから。製造業に必要な品質、技術、製造のうち、彼が持っているのは技術だけです。製造する力を持たれて、大量生産が始まってしまったら、止めるのは難しいかも知れません」
「すぐに将軍に報告しておこう。ただし、相手はこの国でも有数の権力を持った貴族だ。どこまで出来るかは約束できないけどね」
「お願いします」
「それと、別件だが」
ギルド長から俺は全く違う事を依頼された。
なんでも、カイロン伯爵のギルドで販売しているソードの評判が悪く、けが人が続出しているというのだ。
「うちのギルドには関係ないじゃないですか」
「そうなんだが、冒険者の安全を管理するのも仕事と将軍に言われてね。これから先程のことを報告しに行くのに、何もしていませんとは言いにくいじゃないか」
「そういう事なら」
そう言われて、俺はギルド長の依頼を受ける事にした。
将軍と冒険者ギルドはギブアンドテイクの関係なので、断るわけにもいかないだろう。
まずは、現物を見てみないとわからないので、カイロン伯爵の冒険者ギルドに行く事にした。
何故かシルビアとオーリスが一緒にいる。
まったく、この二人はいつも暇なのだろうか。
「どうしてついてくるのですか?」
「敵の本拠地に乗り込むんだから、襲われた時の護衛よ」
「うちは品格あるギルドなので、襲ったりしません」
シルビアは俺の護衛役ということであり、オーリスは経営者の娘として案内役であるそうだ。
どんだけ過保護なんだよ。
一人でもこれくらいの仕事こなせるぞ。
まあ、女性二人に囲まれるのは悪い気はしないので、これでもいいけどさ。
「さあ、こちらですわ」
オーリスに案内されたのは、冒険者ギルドの売店の一角にある、武器コーナーであった。
そこで売られているショートソードを手に取ってみた時に違和感がある。
「鞘が手になじまないわね」
「シルビアもそう感じるか」
何とも言えない違和感に、俺はじっくりとその外観を観察した。
そして、自分のショートソードと見比べる。
良品と不良品を比較するのは基本だ。
そして気がつく。
「あー、面取りがされてないのか」
「面取り?」
シルビアは面取りという言葉がわからないようだ。
一般的ではないのかな?
「ほら、角のエッジの事だよ。これが手に当たった時に痛いんだ」
「本当ね」
俺は角を指さして、面取りを説明する。
「面取りにはR面取りとC面取りの2種類があってね、R面取りは角を丸くしているやつなんだ。真っ直ぐに面取りしているのはC面取りだ。皮膚に当たる面積が小さいと、それだけ痛いからね」
「デボネアの工房で作られた鞘は、角が落としてあるわね」
これだもの、防具のない箇所にぶつかると痛いし、怪我もするだろう。
前世では設備設計をしていた若い設計者が、何度注意しても面取りを入れなかったのだ。
部品はアウトソーシングして、外部で加工してもらい、社内で組み立てを行ったのだが、組み立て職人から、面取り不足で毎回苦情が来たものである。
しかし、部品は加工図面どおりに出来ているため、品質管理としては修正させる訳にもいかなかった。
結局組付け工程で、サンダーやヤスリを使って面取りを追加工したのだ。
糸面取りだけだと、ぶつかった時痛いんだよね。
※糸面取りは細いC面取りで、バリの除去くらいしか効果がない。
次に鞘からショートソードを抜いてみる。
ソードの出来は悪いが、使えないこともないレベルだな。
お値段相当だと思う。
だが、それを戻そうとしたときに、鞘に入れづらいことが判った。
「ここも面取りがないのか」
見れば鞘口の部分にも面取りがない。
面取りは怪我をしないようにするのと、はめ込む時の案内としての役割がある。
面取りが無いから入れづらいんだろうな。
で、慣れない初心者が自分のショートソードで手を斬ってしまうと。
「見たところ、原因は面取りがない事だな」
「でも、面取りしたら販売価格が上がりますわ」
オーリスはそう反対する。
それも確かにあるな。
「自分で面取りしてもらうように説明しようか」
そう、安くて不完全ならば、自分で仕上げればよいのだ。
「自分で仕上げるのが面倒だって人もいるでしょ」
「シルビアの言うように面倒な人には、お金を払ってもらって仕上げるようにすればいいんだよ。オプション注文だね」
「それなら確かにいいかもしれないわね。お金に余裕のない新人は自分で仕上げて、ある程度余裕が出来たら、仕上げを依頼すればいいのね」
やはり安いものには安いなりの理由があるものですね。
因みに、案内の面取りは大きすぎても、組付け時のガタの原因になるので、適切な大きさにする必要があったりします。
設備の面取りは大きいほど痛くないので、積極的に大きくして欲しいです。
段取り時やメンテナンス時に、滑った手がぶつかる事があるんですよね。
品質管理レベル22
スキル
作業標準書
作業標準書(改)
ノギス測定
三次元測定
マクロ試験
振動試験
電子顕微鏡
塩水噴霧試験
引張試験
硬度測定
重量測定
温度管理
レントゲン検査
輪郭測定
蛍光X線分析
シックネスゲージ作成
ブロックゲージ作成
ピンゲージ作成
ネジゲージ作成 new!
品質偽装
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※作者の独り言
鞘口の面取りって、画像で見ると大した事ないのですが、ここでは物語の都合上面取りが必要となってますのでツッコミ禁止です。
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