冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
86 / 439

第85話 LRの混入を防ごう

しおりを挟む
「アルトさん郵便です」

 俺が冒険者ギルドの相談窓口でうたた寝をしていると、郵便屋の声で起こされた。
 勿論郵便屋というのは比喩で、実際は手紙を運んできた冒険者のことだ。

「ここにサインを」
「はいよ」

 受取のサインをして、手紙を受け取る。
 俺に手紙を出してくるなんて、カレンか水島くらいなもんだろう。
 どちらだろうか。
 俺は手紙を開封した。

「工場爆発した……か」

 差出人は水島だな。
 やはり工場は水蒸気爆発させられたらしい。
 手紙を出せたということは、死んではいないようだな。
 これはいちいち将軍に報告することでもないか。
 どうせスパイを送り込んでいるんだろうから、生存確認は出来ているだろう。
 手紙を読見終えると、ちょうど相談者がやってきた。

「なんだ、デボネアか」
「なんだとはなんじゃ。今日はドワーフ仲間のこいつの相談にのってもらいたくてのう」

 そう言って紹介されたのは若いドワーフである。
 名前をスピアーノと言った。
 どうも他人の気がしないのだが、気のせいだろうな。
 ドワーフに親戚はいない。

「それでどんな相談ですか?」
「はい、実は私は鎌を作っているのです。鎌には右利き用と左利き用があるのです。この世界の人は殆どが右利きなのですが、極稀に左利きの人がいるので、左利き用の鎌も需要があるのです」
「ああ、知っているよ。鎌は体の内側に刃が来るように握るんだよな。左利きの人間が右利き用の鎌を使うと刃の向きが悪くて草を刈れないんだよな」

 日本では戦前だと左利き用の鎌が無かったので、左利きの人間は石で鎌の刃を叩いて、刃の向きを変えていたんだよな。
 刃こぼれ覚悟で刃の向きを変えたら、研ぎ直して刃を立てるのだけど、かなり面倒だった記憶がある。
 学芸員免許取得の一環で、刃物を研ぐ研修があったのだが、そんなことをさせられたのを覚えている。
 さて、俺に相談ということは刃物の研磨のことではないだろうな。

「それで、何が問題だったというのですか」
「右利き用と左利き用の表示を間違ってしまい、売った相手から苦情が来てしまったのです」
「相手だって見て買うんだろう。表示が間違っていたからと謂って、全てがスピアーノの責任というわけではないだろう」
「それが、冒険者ギルドからの注文だったので、商品を箱に詰めて運搬業者に渡したので、開梱した冒険者ギルドの職員が間違いに気がついたんです」

 なるほど、これはよくあるLRの間違いだな。
 Lはカリワ、Rはカナンである。
 タガログ語で言ってもわかりませんね。
 Lは左で、Rは右です。
 製造業でLRの製品が混入するのはかなりの確率であります。
 なぜなら、金型が左右同時取りになっていることが多いからです。
 車のヘッドライトなんて、LR同時成形にして、後工程でゲートカットするので、非常に混入しやすいですね。
 ただ、誤組は出来ないように設計的に工夫するのが普通なので、車両に組み付いて市場流出することは殆どありません。
 殆どというのは、能力のない設計者を根絶出来ないからですね。
 それと、異品出荷をしやすいのは混入だけではなく、品番が似ている事もあります。
 大抵の場合、LRの製品だと10桁くらいの品番のうち、一つだけが違うっていうはずです。
 ぱっとみで勘違いしやすいので、何度も間違いを繰り返しているのが実情となっています。
 対策はラベルの色を変えたり、バーコード照合をしたりとありますが、異世界でバーコードも無いだろうと。
 今回はどんな理由でLRを間違えたのかまずは確認だな。

「どうして右利き用と左利き用を間違ったのか教えてもらえますか」
「表示を間違えたのです」
「間違えたというのは?」
「作ってすぐに表示できるように、ラベルを金床の近くに置いてます。右利き用も左利き用も同じ台の上に置いてあるので、それを取り間違ったのが原因ですね」
「なるほど。表示ラベル同士は近い所に置いてあるのですか?」
「隣り合わせです」
「それでは取り間違いは起きやすいですね」
「今まで間違ったことが無かったので、取り間違いはしないと油断していました」

 ありがちだな。
 ミスをしないだろうという根拠のない自信が不良を生む。
 ラベルはできれば一品番ずつ出すのが望ましい。
 それが出来ないなら色を変える対策くらいはしておきたいな。

「それと、出荷前に箱に詰めるときに確認はしなかったのですか?」
「表示ラベルを見て問題ないと思ったんだよ。見ればすぐに左右逆だとわかったんだけど、どうしてラベルだけしか見なかったんだろうな」

 人間そんなもんだ。
 人間じゃなくてドワーフでも一緒。
 見ようと思った場所以外は、どんなに近くても目に入らないものである。
 外観検査で大きな傷を見逃す事がよくあるが、見るべき場所でない限りは見逃す。
 むしろ、見るべき場所以外を見ている事が問題ですらある。
 検査箇所以外の異常に気がつくのであれば、異常を保証する工程にフィードバックをかけるべきだ。
 見つけたことを咎める事はしないが、タクトが落ちていればそれは問題である。
 今回は個人事業主の一人作業だから、そこまでの事ではないが。
 自分で作ったものが間違いないか、しっかりと保証するべきだろうな。

「今回の対策ですが、表示ラベルは作成するものしか台の上に置かない。右利き用と左利き用の表示ラベルの色は変える。出荷品の梱包時に表示ラベルと製品が合っているか確認する。これで再発は防げるでしょう」
「はい」

 スピアーノは納得してくれた。

「なるほどのう。つい作業台の上に一緒に置いてしまうが、間違う原因になるのう」
「ポーションと解毒剤の瓶を隣り合わせに置いて、しかも瓶が同じ形なら間違うでしょう」
「確かに」

 デボネアも目から鱗が落ちたらしい。
 基本的なことだが、ついやっちゃうんだよね。

 後日

「あら、随分といい鎌を持っているわね」

 シルビアと迷宮に薬草を採取しに出かけた時に、俺が使っている鎌が気になったらしい。

「この前ドワーフのスピアーノの相談を解決したお礼に、鎌が送られてきたんだ」
「へぇ。これならオークくらいなら倒せそうね」
「武器じゃないから」
「鎌って切れ味がいいと、強力な武器になるのよ。街中に血塗れの鎌を持った奴がいたら逃げたほうがいいわ」
「そういうのやると、鉈とか鎌が放送禁止になっちゃうだろ」

 『妊娠が本当かどうか確かめさせて下さい』って台詞を吐く女はNBナイスボートだ。


品質管理レベル27
スキル
 作業標準書
 作業標準書(改)
 温度測定
 硬度測定
 三次元測定
 重量測定
 照度測定  new!
 ノギス測定
 輪郭測定
 マクロ試験
 塩水噴霧試験
 振動試験
 引張試験
 電子顕微鏡
 温度管理
 レントゲン検査
 蛍光X線分析
 シックネスゲージ作成
 ネジゲージ作成
 ピンゲージ作成
 ブロックゲージ作成
 溶接ゲージ作成
 リングゲージ作成
 ゲージR&R
 品質偽装
 リコール
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...