冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
125 / 439

第124話 比重3

しおりを挟む
「そんなわけで、もう隠れてびくびくする必要はなくなった」
「ありがとう。助かったわ。これで枕を高くして眠ることができるわね」

 俺はステラに帰ってきていた。
 そしてエッセの工房でグレイスにフォルテ公爵の関係者の捜索が打ち切られたことを告げる。
 当然見つかったところで罰せられることもない。

「アルキメデスがこの世界にいなかったのが良かったようね」
「別にアルキメデスがいなくとも、誰かがアルキメデスの原理を発見していると思うよ。ここに伝わっていないだけで」
「そうかしら?」

 グレイスはそういうが、社会の発展が似たようなものであれば、同じような物理法則の発見はされているとおもう。
 現に、この世界にもロウ付けやメッキは存在していた。
 真鍮という合金の作り方だって、俺が来る前からちゃんと発見されていたんだ。
 異世界人が物理法則とか技術を知らないって謂うのは偏見だぞ。
 他の異世界に転生したらどうだかしらないけど。

「これでいよいよ転生悪役令嬢として内政チートができるわね」
「なんだよそれ」
「現代の知識を持ち込んで、世界を一気に発展させるのよ」

 なんかグレイスがやる気をだしている。
 とても不安だ。

「一応聞いておくが、どんな内政チートを考えているんだ?」
「手っ取り早いのは金融ね。よくある銀行の設立なんてのは当り前よ。それに証券、保険、先物も導入するわ」
「まあ、数百年のうちには出てきそうな職業だよな」
「そう。だからそれを少しだけ早めるの。ゲーム理論とブラックショールズモデルも普及させるわ」
「それ、1000年時計の針が進むやつじゃ……」
「どうせ誰かが見つけるのよ。フェルマーの最終定理だって、ひも理論だって私が最初に見つけたことにするわ」

 それって、かなりの劇薬じゃないのかな?
 オプション取引については紀元前6世紀のギリシャのタレスだし、先物取引については江戸時代には存在した。
 株式にしてもニュートンが株取引を行っているのだ。
 バブルという言葉は1720年の南海泡沫事件から来ている。
 だけど、ゲーム理論やブラックショールズモデルはノーベル経済学賞だぞ。
 まあ、現代の品質管理手法を持ち込んでいる俺が言うのもおかしいか。

「大体、株取引なんか導入してメリットあるのか?経済活動は活発になるだろうけど」
「こう見えて、私前世では相場でかなり稼いでいたのよ」

 胸を張るグレイス。

「どんな銘柄で稼いだんだよ」
「株券が電子化される前の100分割バブルとかね。あれが分割発表して高値になったところで売り抜けたのよ」
「あれか!」

 心当たりが多すぎて困る。

「リリーマルレーンに乗っていたシー「あーあーあー」

 俺はグレイスの言葉を遮った。
 危ない。

「ガラって、ハウってなったのよ。あんまり詳しく言うと、突然行方不明になっちゃうかもしれないから、これ以上は詳しくいえないけどね」
「その銘柄の話はやめておこう」
「そうね。まあこの世界でも電子化されるまでは分割バブルで稼げると思うわ。あとは最後の相場師って言われたあの人の金山とかね。金山がどこにあるかわかれば大儲けできるわ」

 それについては俺が自分で金を地中に発生させればいいのかな。
 息子さんが癌で亡くなったせいで、晩年は癌研究をしている会社に投資してたな。
 詳しくは別紙参照。
 別紙はないけど。
 ついでに、銘柄が別紙なだけで、金山は菱刈だ。

「まあなんだ、後ろ盾もないのにそんなに金融関連で内政チートもできないだろう」
「言われてみればそうかもね。取引所の設立とかは権力がないと無理か」

 グレイスは前世で証取に捕まってないだろうな?
 何となくだけど、あれやこれという犯罪紛いの銘柄に関わってそうな気がする。
 っていうか、金山の相場なんて1982年だぞ。
 それが令和元年、つまり2019年に死亡してって何歳だったんだよ。

「なにか失礼なことを考えている顔ね」
「別に……」

 意外と鋭い。
 今日はグレイスに捜索打ち切りを知らせに来ただけなので、今後の内政チートについてはまた後で話そうということになった。
 俺は金融の知識なんてないから、手助けは出来ないけどね。

 数日後、王都から帰ってきた将軍とカイロン伯爵に呼び出される。
 俺が退室した後の話を聞かせてもらおうか。

「あの後国王からどうやって御使いと出会ったのか根掘り葉掘り聞かれてね。なんとか国内に留まってもらうよう説得してほしいと言われたよ。失敗しても死ぬのは私だけだからね」

 カイロン伯爵はその場面を思い出して語ってくれる。

「わしも国家に神罰が落ちないように御使いを拘束してこいと命令があってな」

 将軍は苦笑いだ。
 軍が動いた時点で国家の関与確定だろうが。
 俺が神様なら間違いなく神罰を落とすな。

「でも、お二人とも実利も取ったんでしょ?」
「ああ、私はもうすぐ侯爵に陞爵だよ。王冠云々よりもオリハルコンが大きかった。御使い様に褒美を出そうにも、どこかに消えてしまったからね。私の手柄となったわけだよ。フォルテ公爵の領地の大部分が転がり込んでくる」

 カイロン伯爵が侯爵になるのか。

「おめでとうございます。それで将軍はどうなりましたか」
「わしは王都の軍を指揮することになる」
「それって……」

 俺が戸惑っていると、将軍が説明してくれる。

「栄転だな。国王のおひざ元を守るのが一番に決まっておるわ」
「おめでとうございます」

 そうか、二人ともステラからいなくなるのか。
 ちょっと寂しいけど、栄転だしな。

「あ、オーリスは残るからよろしく頼むよ」
「え!」

 カイロン伯爵はオーリスを置いていくのか。

「だって冒険者ギルドの運営を任せられるのがいないからな。娘もこの街を気に入っておる。アルトさえよければどこかの貴族に養子になってもらい、それからオーリスと結婚してもよいぞ。御使いとして表舞台に立つなら養子縁組などいらんがな」
「それは御遠慮致します」
「なんで!!」

 カイロン伯爵としては、娘婿が御使いだと都合がよいだろう。
 どんな金属でも作り出せる能力者が身内なら、財力で負けることはない。
 しかし、他の貴族や王族がそんなカードを持たせたままにしてくれるとは思えない。
 刺客が常に送られてくるだろう。
 そんな生活はしたくない。

「そうだ、将軍はいつ頃王都に赴任されるのですか?」

 俺は将軍に確認するべき事を思い出した。

「次の異動が発表されるときだな。直ぐにだと、今王都にいる将軍が何かやらかしたのではないかと噂が出るから、流石にそれは出来んよ」
「それでは、それまでに迷宮盗賊の闇オークション対策を完結させないとですね」

 これである。
 元犯罪者を使って、闇オークション会場を特定し、その主催者を捕縛する。
 盗品の流通ルートを潰すことで、盗んでも換金できないと知らしめるのだ。
 そうすれば、少しは盗賊被害を減らせるだろう。
 ゼロには出来ないと思っている。
 それは、換金目的でない盗賊行為が残るからだ。
 例えば自分の武器、防具として使うものを他人から奪う目的とかね。
 慢性不良のFTAなんて、対策すべきところは無数に出てくる。
 FMEAだってRPNが高い。
 だからこその慢性不良である。
 今回はその中でも効果の高そうな対策をするのだ。
 被害が少なくなってくれたら、目的は達成である。

「仕込みは上々だ。次の闇オークション開催日に、会場に突入する予定になっている」
「腕がなりますね」
「まったくだ」

 将軍が豪快に笑う。
 これはシルビアとレオーネにも伝えないとな。


※作者の独り言
異世界で株式市場作って、明治から昭和迄の仕手戦っぽいのをやりたかったのですが、あまりにもあれなのでボツにした奴の再利用なので、品質管理とは全く関係ない前半になってます。
リアルに人が死んでいるので、品質管理以上に異世界という設定にしておかないとね。
鉄砲って、証券用語でもあるけど、どっちの意味だよって言いたくなるときありましたよね?
無いですか。
そうですか。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

処理中です...