冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
198 / 439

第197話 車両開発コードって何で漏れるの?

しおりを挟む
 溶鉱炉と、そこで溶かすための鋼鐵を用意し終えた俺たちはグレイス領に移動する。
 今では王都よりも、グレイス領の方が研究者と腕のいいドワーフが集まっているからだ。
 俺が鋼鐵を作っている間に、オッティはレベル上げのための冒険をこなしたので、蒸気機関車を作ることが出来るようになっている。
 なので、グレイス領に戻ってから、そこで蒸気機関車を作り出して、ばらして部品を図面にするのだ。
 必然的に、鉄道の製造・整備はグレイス領で行うことに決まった。
 当然最初の路線はグレイス領と王都を結ぶものとなる。
 途中途中で駅は作るが、これで更にグレイス領に人が集まりそうだな。
 馬車の窓から見える外の景色を見ながら、俺はそんなことを考えていた。
 若葉眩しい季節だというのに、俺の目線の先は線路の予定地であった。
 新緑の季節だとか、太陽が眩しいだとか、そういったことは、少しも心をふるわせない。
 何故ならそこに仕事があるからだ。
 工場の敷地に桜を植えたりされても、不具合の対策書なんか書いていたら、花が美しいという気持ちなんかわかないのが普通だろ。
 職場に花を持ち込むくらいなら、不良をひとつ減らしてくれた方が余程心をふるわせるぞ。
 偏見かな。

「ここを開拓して線路を敷くんだよな」

 俺はまだ窓の外をぼーっと眺めながら、頬杖をついている状態でオッティに話しかけた。

「ああ。ただし、アメリカの大陸横断鉄道みたいにはならないぞ。人夫を酷使して完成させるなんてのは無しだ。先住民族から土地は奪わないし、ダイナマイトを無知な作業者に扱わさせる事もしない。土魔法で整地しながらレールを敷設していく計画だぞ。トンネルはピクリン酸をお願いするけど」

 さらりと黒い歴史の知識をぶちこんでくるオッティ。
 アメリカ大陸横断鉄道はアイルランドと中国からの移民とアメリカ先住民族の犠牲の上に成り立っている。
 移民排斥とか言ってる場合じゃねーぞ。
 誰のお陰で大陸横断鉄道が出来たと思っているんだ。
 オッティとの会話はそこで終了し、グレイス領までお互いに無言だった。

 グレイス領につくと、既に鉄道車両製造工場の建設が終わっていた。
 レールの技術も既に持っていたようで、工場内にレールがしかれている。
 レールは既に表面が錆びており、敷設してから時間が経っているのがわかった。
 工場の中にはいると、天井の明かり取りから光が差し込んでおり、ライトの魔法がなくても十分に見渡せる程度には明るかった。
 晴れた日なら、外観検査をするのに十分な光量が確保できるな。
 中を見渡せば、奥の方にはRのついたレールが見える。
 直ぐとなりにはレールベンダーがあるので、レールを曲げる練習をしていたのだろう。
 レールはその使い道から、Rが大きくて曲げるのは楽そうだ。
 これがコックピットモジュールで使用する配管なんかになると、レイアウトの関係で1D程度で曲げる事もある。
 世の中には1Dベンダーもあるので、不可能ではないが、綺麗に曲げるのは難しい。
 曲げ皺も出るので、条件出しには熟練者が必要だ。

「ここは元々領内を結ぶトロッコ用のレールを作るために準備していたんだ。何せ住民が増えたのに、居住地が少ないから、山を切り崩して平地を作り出そうとしたのだが、大量の土砂を運び出さないといけないからね」

 オッティがいつの間にか俺の隣にきて、同じ方向を見ながら話す。

「山から出た土砂で海を埋め立てたら、倍の平地ができるというわけか」

「そのとおり。レールの幅は前世と同じ1,067ミリだ。1,435ミリでも良かったのだが、曲がることを考えて、この幅にしている」

 オッティの説明によれば、前者は日本の在来線の多くが採用する規格であり、後者は新幹線などの規格であるとのこと。
 レールの幅が広い方が、重心を高くしても安定するのだが、山岳部などの曲線が多くなるところでは、内外の軌間が狭い方が、車両が曲がりやすいのだ。

「そうだ、アルトには軌間ゲージを作ってもらいたい」

「軌間ゲージ?」

 オッティの言う軌間ゲージがどんなものかわからずに聞き返してしまった。
 オッティは一瞬説明が面倒だなという顔をした。
 俺はそれを見逃さなかった。
 ちょっとイラっとしたが、その気持ちを飲み込む。

「レールの幅、軌間は車両が通過すると少しずつ変化する。それを定期的に検査する必要があるんだ。それに使うゲージだよ。前世でも、北海道でそれをしなくて問題になっていたろう。予算が足りなくてやらなかったとかで」

 そう言われれば、そんなことがニュースになっていたな。

「それと、レールの幅は測定する箇所が国によって違うんだ。日本はレール上面から鉛直方向に16ミリ以内の最短内面距離となっているが、アメリカではレール上面から5/8インチ下がった位置での内面距離となっている。どこを測るのかもきちんと定義しないと、誤判定することになるからな」

 そう説明してくれた。
 確かに説明するのは面倒だな。
 しかし、そうなると気温も関わってきそうだな。
 夏と冬じゃレールの寸法も変化する。
 測定は摂氏20度に保たれた測定室でするべきだな。
 鉄道なので無理だけど。

「ちょっと待って。スキルツリーを確認するから」

 俺はスキルツリーを呼び出す。
 目の前に現れたツリーには、軌間ゲージ作成が入っていた。
 ならば、次に解放するスキルは決まりだな。
 俺はオッティにサムズアップで応えた。

「じゃあ、早速車両を呼び出してみるか」

 オッティが腕捲りをして、スキルを使おうとする。
 腕捲りは正直必要ない動作なのだか、ここは雰囲気だろうな。

「設計と職人は呼ばなくていいのか?」

「明日でもいいだろ。先ずは二人で車両をゆっくり見てみよう」

 そんなわけでオッティがスキルを発動する。
 まばゆい光が辺りに広がり、それが暫くして収まる。
 レールの上に一台の車両が現れた。

「Z33?」

 目の前に現れたのはフェアレディZの通称「Z33」だった。
 俺はゆっくりと首を横に回転させ、オッティの顔を見る。
 擬音が出ていたら、ギギギとなっていたろうな。

「呼び出し予定はこれじゃなかったんだ。貴婦人と呼ばれる蒸気機関車のC57の予定だったのだけど、これも貴婦人だしな」

 フェアレディとは貴婦人という意味だ。
 確かに同じと言えば同じなんだが、何故にC57とZ33を間違えるのだろうか?

「それはだな、Z33の車両開発コードが……」

「ワー!ワー!」

 俺は危険な事を口走りそうになったオッティの発言を無理やり止めた。

「それは口にしてはいけない」

 人差し指を自分の口の前に持っていき、しーっというポーズをする。

「まあ、そう言うなって。既に車両開発コードは車雑誌に掲載されていたぞ。それに、俺は開発や量産に関わっていないから、それが本当かどうかもわからない。まあ、スキルを使うときにほんの少しだけ、それが頭の片隅にあったから間違えただけなのだろう」

 車両開発コードとは、車両メーカーの機密事項であり、サプライヤーも当然それを外に漏らしてはいけないものだ。
 しかし、何故かそれが車雑誌には普通に載っている。
 記事の内容からして、車両メーカーの社員が漏らしているのは間違いないのだが、車両メーカーも犯人を突き止めたり、雑誌出版社にクレームを入れたりしないのかね?
 転生前に開発に関わっていた某車両なんかは、試乗インプレッション記事に車両開発コードがバッチリ載っていたぞ。
 因みに、試乗車両の弊社の部品は未だに正規工程が実現しておらず、量産時にはどうなっているかわからない。
 まあ、それについてはティア4だから、車両メーカーも試作作りだと気がつかないだろうけど。
 死亡して転生したから、今はどうなったか知りません。
 生きていれば今年発売ですね。


品質管理レベル42
スキル
 作業標準書
 作業標準書(改)
 温度測定
 荷重測定
 硬度測定
 コンタミ測定
 三次元測定
 重量測定
 照度測定
 投影機測定
 ノギス測定
 pH測定
 輪郭測定
 クロスカット試験
 塩水噴霧試験
 振動試験
 引張試験
 電子顕微鏡
 マクロ試験
 温度管理
 照度管理
 レントゲン検査
 蛍光X線分析
 粗さ標準片作成
 ガバリ作成
 軌間ゲージ作成 new!
 C面ゲージ作成
 シックネスゲージ作成
 定盤作成
 姿ゲージ作成
 テーパーゲージ作成
 ネジゲージ作成
 ピンゲージ作成
 ブロックゲージ作成
 マグネットブロック作成
 溶接ゲージ作成
 リングゲージ作成
 ラディアスゲージ作成
 ゲージR&R
 品質偽装
 リコール


※作者の独り言
車両開発コードは外にばらしてはいけないと、取り交わした契約書にも書いてあるのですが、どうしてばれているのでしょうかね?
とある車両メーカーの生産技術スタッフが、酒に酔った勢いでばらした話は聞きましたが。
日産はフェアレディZの車両開発コードが、蒸気機関車の貴婦人と同じC57にするつもりはありますかね?
関係者にしかわからない渾身のギャグですけど。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...