冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
223 / 439

第222話 かき氷をフルバックで

しおりを挟む
異世界でかき氷機作る話を結構見かけますが、主軸のねじ加工精度出てるんですかね?
文明レベルが低いところだと無理だと思いますけど。
それでは本編いってみましょう。


 今日は久しぶりにグレイスとオッティがステラの街に来たので、三人でティーノの店で食事をしている。
 折角の場なのに隣のテーブルがうるさい。

「どうなんや?滌除てきじょはのむんやろな?」

「そないなこと言われましても」

 いかにも悪徳金融といった感じの男が、気弱そうな細身の男を脅している。
 滌除なんてあるのか。
 前世では悪用するのが絶えずに、2003年に廃止されている。
 民法の改正で抵当権消滅請求に変わったのだ。
 やはり異世界は遅れているな。

 そんなうるさい隣を無視して、グレイスが話し始める。

「なんか新しい売りもの無いかしらねえ。新商品を次々に売り出すのが異世界転生の定番じゃない」

 グレイスがフォークでこちらを指しながら訊いてくる。
 とてもお行儀が悪いから止めさせたい。
 親の顔が見てみたい。
 勿論、前世の方だ。
 現世の方はアンデッドモンスターとして復活させれば見ることは出来るが、色々と面倒な事態になりそうだからな。
 謀反人ということで王家から睨まれるだろうし、神殿もうるさいだろうからな。
 さて、そんなグレイスの行儀はおいといて、異世界転生の定番は興味がある。
 前世の知識を持ち込んで、快適生活は夢だよね。
 品質管理の知識しか使ってない俺が言うのもなんだけど。

「暑くなってきたし、かき氷なんかどうかな?」

 昔読んだ異世界転生小説を思い出して、俺はグレイスに提案してみた。

「かき氷機ならスキルで作れそうだしな」

 オッティも頷く。
 スキルポイントが勿体なくないか?
 もっと違う工作機械作った方がいいぞ。

「あんなもん、氷をマシニングの上に置いて、フルバックで削ればいいんだろ」

 オッティからまさかの意見が。
 フルバックで氷を削れば、確かにかき氷みたいにはなるだろうけど、氷の切り粉がどこに飛ぶかわからないから、集めるのが大変だろう。
 というか、お前は前世で切り粉の掃除をしたこと無かったか?
 あ、無かったな。
 こいつは使ったら使いっぱなしで片付けることをしなかったので、工機部門の連中から嫌われていたんだっけ。
 樹脂を削っても切り粉の掃除をしないから、次に使う奴が分別で苦労していたんだよな。
 樹脂を削ったあとに、アルミや鉄を削ると切り粉が混ざるので、リサイクル業者に出せなくなるのだ。
 じゃあ、材質で機械を分けたらとなるが、工機部門の汎用機なんて、材質ごとに揃えるような予算はどこにもないから。
 そんなオッティなので、かき氷をフライスで作ろうとか思っちゃうんだろうな。

「オッティ、残念ながらフルバックで氷を削っても、飛び散るからかき氷として提供は出来ない。かき氷機は昔は鉋だったし、構造としては縦旋盤が近いだろ。鋳物で本体を作って、主軸を手回しハンドルで回転させる機械にするんだ。ついでに、フルバックみたいな複数の刃はいらないからな。刃を研磨するときに高さを合わせるのが大変になるから」

 俺の説明の最後の部分にだけオッティが食いついた。

「確かに、フルバックの刃物を再研磨して使うときに、同じような磨耗具合のやつを揃えないといけないんだよな。あれが面倒なので、俺は再研磨は設定しないラインにした」

「超硬の刃物を再研磨しないから儲からなかったんだよ」

 当時を思い出してそう返事をした。
 品質管理としては再研磨しない方が品質が安定するから助かるんだけどな。
 鉄やアルミのブロックを削るぶんには問題ないが、アルミダイカストなんかだと、中の異物が刃物に当たって欠ける、チッピングがよく起きる。
 五枚刃で一枚だけチッピングしたからといって、一枚だけ交換すれよい訳ではない。
 新品の刃物にすると、高さが変わってしまうので、全交換しなければならないのだ。
 そんなわけで、チッピングしても二枚までは我慢する。
 刃物が欠けた異常状態で加工しているので、勿論そんなものは記録に残せない。
 品質は問題ないから使っちゃえって奴だな。

「かき氷は消えものだから、食っちゃえば寸法なんて関係ないだろ」

「それは違うぞ、オッティ。ふわふわの食感が無くなる」

「その前にその食感を出す条件を出せてないぞ。今のままだと、出来損ないの氷の桂剥きにしかならん」

「条件出しはお前の仕事だろ」

「食感みたいな官能検査が出来るわけないだろ。それにそんな条件を見つけるために試食を繰り返したら腹を壊す」

「ちょっと、あなた達かき氷を売り出すんだから、機械の話だけじゃなくて、シロップどうするかも考えなさいよ!」

 グレイスが割って入ってきた。
 機械だけ売るんじゃないのか。
 それならば言わせてもらおう。

「食い物を売るのは大変だぞ。味もわからないくせに文句だけはいっちょまえのエンドユーザーからのクレームが有るんだぞ!※個人の感想です」

 俺はグレイスを怒鳴った。
 オッティも頷いている。

「ねじりパンのねじれ具合がばらついているとかクレームが来るけど、ねじりパンは数が出ないから機械化できずに、バイトが手でねじっているから、ばらついて当たり前だろ!味には全く関係ないのにクレームの電話しやがって。翌日班長からばらつきを抑えろとか言われても、どうしていいかわからなかったぞ!!魔女が居候しているパン屋にも同じ態度で望めるのか!オオン?ジャムおじさんだってストライキするっつーの!」

 俺のトラウマが甦る。

「こいつ、前世で大学時代に夜中パン工場でバイトしていたんだけど、その時の思い出が辛かったんだよ」

「そ、そう……」

 オッティがこそっとグレイスに耳打ちしたのが聞こえた。
 それで少し冷静になる。

「大体、シロップなんてスイが一番だって副部長も言っていただろ」

「何よ、スイって。それに副部長?そんなかき氷十杯食べようとして、お腹壊した人が出てくる、鼻血で打ち切りになった漫画なんてしらないわよ。シロップを作るの!!」

 グレイスとは意見が合わなかったので、かき氷の機械を俺とオッティが担当して、シロップはグレイスが担当することになった。
 氷は魔法で作り出すので、魔法使いの協力を仰ぐらしい。
 そう決まってふと隣のテーブルを見ると、気の弱そうな細身の男はいなくなって、悪徳金融とその部下になっていた。

「やりましたね、社長」

「オリンピアに浮かれて、本来価値の低いものに、高額な担保を設定したのが間違いなんや。バブルが弾けるのも気付かんと、アホやのー」

 よくわからないけど、首を突っ込むとお腹痛くなりそうな会話をしていたので、そそくさと店を出た。

 後日、かき氷は各都市で人気となったとか。


※作者の独り言
フルバックの話を書きたかったのに、どうしてこうなった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...