冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

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第235話 QRQC

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 これまでのあらすじ。

「こっちだカイエン、上から来るぞ」

「せっかくだから俺はこの赤いチェストを選ぶぜ」

 そんなやり取りがあったか無かったかは知らないが、今日はカイエン隊のメンバーと迷宮に来ている。
 カンチルが加入したので、連携をみて欲しいと頼まれたのだ。
 何故俺に?と思ってカイエンに訊ねたら、

「シルビアだと指導が荒く、モンスターよりもでかいダメージをもらうから」

 と、とても納得できる理由だったので、俺は引き受けることを承諾したのだった。
 今は五匹のゴブリンと戦闘しているところだ。
 既に前衛のカイエンとカンチルは接敵しており、後衛のナイトロとシエナがそれぞれ攻撃の準備をしている。
 シエナは今回臨時でパーティーに参加しているとのこと。


 ● ●
● ● ●

 剣  拳


魔    弓
  品

 このような配置になっている。
 ●がゴブリンで、漢字はそれぞれのジョブだ。
 ファンタジーに違和感を持ち込んでいるのが一個あるな。

「カイエンしゃがんでくれ」

 ナイトロが叫ぶ。
 カイエンはそれに素早く反応し身を屈めた。
 直後にヒュッという音が今までカイエンの背中があった場所を通過する。

「ゴブッ!」

 カイエンと向かい合っていたゴブリンの眉間を、ナイトロの放った矢が射抜いた。
 いい連携が出来ているじゃないか。
 カイエンは屈んだ状態から、後列のゴブリン目指して飛び出そうとした。
 その時、隣のカンチルが横なぎの攻撃で自分の前にいるゴブリンを牽制した。
 左から右へとないだ剣はカイエンに当たりそうになる。

「あぶねぇ」

 カイエンは間一髪体を捻ってかわした。
 だが、崩れた体勢をゴブリンが見逃してくれるはずもなく、棍棒による一撃が見舞われた。

「いてっ!」

 左腕で棍棒を受け止めるカイエン。
 まあ痛いよね。
 STKMで殴られるのとどちらが痛いかな?

 そんなカイエンをみて、ヒールを掛けてあげようかと思ったが、今日の目的は彼らの連携を確認することなので、戦闘に俺が加わるのはよくないな。
 死にそうなら助けてあげるけど、それ以外は見ているだけにする。

 カイエンはゴブリンとの距離が近く、ナイトロもシエナも援護出来ない。
 左腕を庇いながらの戦闘をしているカイエンは、ゴブリンといい勝負をしており、なかなか決着がつきそうにない。
 なので、二人は他の三匹へと攻撃を集中する。
 射線を確保出来たところから攻撃を浴びせていき、カンチルの負担を減らす。
 ゴブリンと一対一になったカンチルは、数回の攻撃の後、ゴブリンの脳天に致命傷を与えた。
 これでカイエンの援護に向かうことが出来るようになった。
 こうなると、残ったゴブリンは不利を悟って逃げ出す。
 だが、ナイトロが矢の射程範囲にいるうちに攻撃して、背中から入った矢が心臓を射ぬいて全滅となった。

 戦闘が終わったので、俺はカイエンの傷を治すことにした。
 カイエンの左腕に手をかざし、ヒールを使ってやった。

「ありがとう。いまのカンチルの攻撃は帰ってから反省会で取り上げるよ」

 俺に礼を言って先に進もうとするカイエン。
 そんなカイエンと他のメンバーを俺は止める。

「待つんだ。帰ってからの反省会では遅い。今ここで反省会をやるぞ」

「え?」

 カイエンだけでなく、他のメンバーも驚く。
 そうか、彼らはQRQCを知らないんだよな。
 QRQCとはクイックレスポンスクオリティコントロールの頭文字で、製造業では不具合への素早い対応をするために、工程内で不具合が見つかると実施されている。

「帰ってからだと忘れちゃうこともあるだろうし、帰るまで戦闘が無い訳じゃないだろ。今反省しておかないと、次の戦闘で同じことを繰り返すこともあるだろ」

 そう説明して納得してもらう。
 すぐに開かれた反省会では、カンチルがカイエンの動きをわかっていなかった事からのなぜなぜ分析があった。
 カイエンもカンチルがわかってくれて当然と考えていたところがあり、反省するべき箇所が明確にされ対策が決まったので、次の戦闘で対策の効果を確認してみようということになった。
 実にQRQCっぽい。

 そして今度こそ迷宮の奥へと進む。
 暫くすると、またゴブリンがいた。
 彼我の距離は20メートル。
 お互いに同時に気がついたので不意打ちはない。
 カイエンとカンチルが距離を詰め、ナイトロとシエナは攻撃の準備をする。
 前衛がいよいよ接敵かと思ったら、カイエンが転んだ。
 彼の足元を見ると、小さな窪みがあった。
 ゴブリンが笑っているのを見ると、ピットの罠を仕掛けていたのだろう。
 カイエンは罠感知スキルをもってないのかな?

 カイエンが転んだお陰で、後衛は射線を確保出来た。
 矢と魔法がゴブリンに襲いかかり、あっという間に殲滅する。
 俺は転んだカイエンに駆け寄ると、手を差し出してカイエンを立たせた。

「怪我はあるか?」

「いや、大丈夫だ」

 カイエンは服についた土を払う。

「そうか。じゃあ、QRQCだ」

 再びメンバーで集まりQRQCが始まる。
 そして、それが終わり奥に進み出す。

 戦闘、QRQC、戦闘、QRQCを繰り返す。
 とうとうカイエンから泣き言が。

「なあ、アルト。奥に進めないんだが」

「失敗があったらすぐ反省だ」

「こんなことならシルビアの方が良かった……」

 ガックリと肩を落とすカイエンに、再びなぜなぜ分析をさせる俺。
 まあ、頻度が多すぎだよね。


※作者の独り言
QRQCはどこでもやっているかとは思いますが、ラインQRQCの開催条件を「工程内不良がひとつでも出たら」ってしちゃうと、余程工程能力がある製品以外は生産が止まりますよね。
ルールを見直した方がいいと思います。
それにしても、カイエンとカンチルって字が似ているので、加入させるメンバーの名前の選定を間違ったな。
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