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第261話 ティア1って大変だよね
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偶々読んだ異世界小説が、鉄の玉を作ってベアリングにしていたのですが、実際はオーステナイト系ステンレスの鋼球でも、磨耗や噛み込みして動かなくなると思うんですよね。
文章で鉄って書いてあるので、鋼ですら無いのかなって思いますが、物理法則が必ずしも地球と一緒ではないので、きっと鉄で作ったベアリングも問題なく使えるのでしょう。
それか、作者のように具体的な数字を書くと企業秘密に抵触するから、わざと間違った事を知っていて書いているのかな?
鉄球の製造工程をみても焼き入れしてなかったし、そもそも鉄に焼きは入らないし、焼きをいれたとしても変形するから、そこからまた形状を作らなきゃならないとか考えると、思わずコメント欄に突撃したくなるよね。
ベアリングの外輪、内輪も鍛造で作るって書いてあったけど、金型のノウハウも無いのにベアリングとして要求される寸法精度を満足出来るのかドキドキしちゃいますね。
材料も均一に作れないと伸びが変わるから、寸法でないよ。
馬車の規格を統一して全国にばらまくとか書いてあって、ベアリングのリコール費用がとんでもないことになっちゃわないか心配です。
せめて試作車両を作った方がいいと思うよ。
いきなりドワーフに量産させるとか、リーマンショック後の某メーカーじゃないんだから。
当然酷い出来になりましたよ。
何がとは言えませんが。
ベアリングならNTNさんのホームページにベアリングの作り方書いてあるから読めばいいのにね。
補足で書いておきますが、仕事で使用する鋼球も鉄よりやや硬い程度ですが、簡単に変形します。
具体的な力のかかり具合は書けませんけど、基本的には変形を前提に使用しています。
SUS304で出来た鋼球も、硬度が不足していて大問題になったこともありました。
確かに柔らかい材質のボールベアリングもあるかも知れませんが、未舗装路を走る馬車の振動や重量を考えると、単なる鉄球には無理があるかなと思います。
そんな思いもあって書き始めたのがこの小説なんだけど。
拙著では、ベアリングが熊からドロップする設定なのは、ベアリングの製造工程を再現するのが面倒だったからという身も蓋もないお話。
おっと、話が関係ない方向に進み始めたな。
それでは本編いってみましょう。
「ねえ、ティア1とティア2の違いって何?」
グレイスが唐突にそんなことを訊いてきた。
今日は久々にティーノの店に転生者で集まっての食事だ。
オーリスも一緒にいるが。
グレイスと何かある事は絶対に無いのだが、どうも信用されていないらしく、常に監視の目が光っている。
「どうしてそんなことを訊くんだ?」
まさか、前世の彼氏がティア1メーカーだったとかかな?
「なんとなく気になったのよね。ほら、社会人経験無いから、会社ってどんなことしているのか興味あるのよ」
地主の娘の浮世離れした発言にイラッと来たが、グレイスも転生してからは苦労しているし、今の発言は多めに見ようか。
「下請けと孫請と言ってしまえばそれまでだけど、ティア1の方が要求されることが多いかな」
「どういうこと?」
さて、どうやって説明したらいいかな。
オッティはこういうとき役に立たない。
直感でものづくりしている奴だからな。
「冒険者で例えようか。パーティーリーダーが車両メーカーだ。色々な人材を集めてパーティーを作り上げる。その時加入申請を出した剣士が部品メーカーだ。ここまではいいかな?」
「ええ。それならわかるわ」
「ティア2から説明しよう。ティア2は要求された技能があれば勤まる。例えば銀等級って言われたらそれを満たせばいい。実際は言われた通りの加工が出来るってことだな」
「それが全てじゃないの?車両メーカーの求める部品が納入できればいいんでしょ」
そう思うよね。
でも、ティア1ってのはそれでは勤まらない。
「ティア1になると、剣士と戦士と格闘家の違いを比較して、何故剣士であるのかを説明出来ないと駄目なんだ。ソードによる攻撃と、戦斧、戦槌によるダメージの違い。細かく言えば、それらが当たった箇所の傷の付き合いから、何ニュートンの力が加わって、敵の皮膚の組織の破壊が始まるとかね。当然、ソードの材質による使い勝手の違いも説明出来ないと駄目なんだ。つまり、剣士の事を理解しているのは当然として、他のジョブの攻撃も理解していないと駄目だし、鍛治の知識も必要になる。パーティーリーダーが求める説明を全部出来ないと駄目なんだ」
「なにそれ。すごく面倒じゃない。そんなのやりたくないわね」
グレイスが心底嫌そうな顔をした。
オッティも会話に参加してくる。
「そうだ。言われた材質で、言われた寸法で加工しているだけでいいんだ。工程能力が未達の理由とか、A5052とA6063の違いを比較とかいらないだろ。図面を出した奴に訊け。工作機械の精度とか、材質の加工性の違いの説明を求めてこないでほしい」
思わず頷いてしまった。
「他人に訊く前に、自分で調べてほしいよな。転生しちゃったから関係ないけど」
ティア1メーカーにもなると、そんな要求が有るらしく、測定機や試験装置は図面に記載の有るもの全てを自前で測定出来る用にしているとか。
設備投資が多額になりますね。
あ、今持っているスキルがあればティア1メーカーに就職出来そう。
胃が痛くなるから止めておくかな。
それでも品証よりましか。
どっちもどっちかな?
「ティア1ってのはそれだけ大変なんだよ。決算を見るとみんな巨額の利益を出しているけど、責任がそれだけあるしね」
そう締めくくった。
まだ、ティア2が車両メーカーで見つかる不良を出したのに、対策しなかったせいでティア1が全数検査をする羽目になったとかもあるのだが、それはまたいつか。
「聞くとティア2の方が良さそうね。利益率考えたらティア1なんでしょうけど」
「やり方によっては車両メーカーよりも儲かるしね。どこがいいとは一概には言えないかな」
因みに、日本企業の時価総額だと、Tに次いで二位がなんとかエンスである。※2020年5月現在
志村化工じゃないよ、念のため。
会話が終わって食事が始まる。
しばらくすると、オーリスがグレイスに
「グレイス男爵は結婚されませんの?」
と訊ねた。
マウンティングか?
「別に結婚だけが人生じゃないしね。老後の面倒も家令がいれば十分でしょ。縁があれば考えるわ」
グレイスは結婚には興味は無さそうだ。
その辺りの価値観は転生者ではないオーリスにはわからないのかな。
「オッティは?」
オーリスがオッティに訊く。
オッティは前世でバツイチだったんだよね。
裁判所で月に一度だけ子供と会うのを認められていたから、その話題は知っていると訊けない。
「一度失敗しているからもういいかな」
そう回答した。
まあそうだよな。
その夜、オーリスには俺達のいた世界の結婚に対する多様性を説明することになった。
※作者の独り言
ティア1になると大変ですね。
下請法に守られたティア2でのんびりと仕事をしたい。
文章で鉄って書いてあるので、鋼ですら無いのかなって思いますが、物理法則が必ずしも地球と一緒ではないので、きっと鉄で作ったベアリングも問題なく使えるのでしょう。
それか、作者のように具体的な数字を書くと企業秘密に抵触するから、わざと間違った事を知っていて書いているのかな?
鉄球の製造工程をみても焼き入れしてなかったし、そもそも鉄に焼きは入らないし、焼きをいれたとしても変形するから、そこからまた形状を作らなきゃならないとか考えると、思わずコメント欄に突撃したくなるよね。
ベアリングの外輪、内輪も鍛造で作るって書いてあったけど、金型のノウハウも無いのにベアリングとして要求される寸法精度を満足出来るのかドキドキしちゃいますね。
材料も均一に作れないと伸びが変わるから、寸法でないよ。
馬車の規格を統一して全国にばらまくとか書いてあって、ベアリングのリコール費用がとんでもないことになっちゃわないか心配です。
せめて試作車両を作った方がいいと思うよ。
いきなりドワーフに量産させるとか、リーマンショック後の某メーカーじゃないんだから。
当然酷い出来になりましたよ。
何がとは言えませんが。
ベアリングならNTNさんのホームページにベアリングの作り方書いてあるから読めばいいのにね。
補足で書いておきますが、仕事で使用する鋼球も鉄よりやや硬い程度ですが、簡単に変形します。
具体的な力のかかり具合は書けませんけど、基本的には変形を前提に使用しています。
SUS304で出来た鋼球も、硬度が不足していて大問題になったこともありました。
確かに柔らかい材質のボールベアリングもあるかも知れませんが、未舗装路を走る馬車の振動や重量を考えると、単なる鉄球には無理があるかなと思います。
そんな思いもあって書き始めたのがこの小説なんだけど。
拙著では、ベアリングが熊からドロップする設定なのは、ベアリングの製造工程を再現するのが面倒だったからという身も蓋もないお話。
おっと、話が関係ない方向に進み始めたな。
それでは本編いってみましょう。
「ねえ、ティア1とティア2の違いって何?」
グレイスが唐突にそんなことを訊いてきた。
今日は久々にティーノの店に転生者で集まっての食事だ。
オーリスも一緒にいるが。
グレイスと何かある事は絶対に無いのだが、どうも信用されていないらしく、常に監視の目が光っている。
「どうしてそんなことを訊くんだ?」
まさか、前世の彼氏がティア1メーカーだったとかかな?
「なんとなく気になったのよね。ほら、社会人経験無いから、会社ってどんなことしているのか興味あるのよ」
地主の娘の浮世離れした発言にイラッと来たが、グレイスも転生してからは苦労しているし、今の発言は多めに見ようか。
「下請けと孫請と言ってしまえばそれまでだけど、ティア1の方が要求されることが多いかな」
「どういうこと?」
さて、どうやって説明したらいいかな。
オッティはこういうとき役に立たない。
直感でものづくりしている奴だからな。
「冒険者で例えようか。パーティーリーダーが車両メーカーだ。色々な人材を集めてパーティーを作り上げる。その時加入申請を出した剣士が部品メーカーだ。ここまではいいかな?」
「ええ。それならわかるわ」
「ティア2から説明しよう。ティア2は要求された技能があれば勤まる。例えば銀等級って言われたらそれを満たせばいい。実際は言われた通りの加工が出来るってことだな」
「それが全てじゃないの?車両メーカーの求める部品が納入できればいいんでしょ」
そう思うよね。
でも、ティア1ってのはそれでは勤まらない。
「ティア1になると、剣士と戦士と格闘家の違いを比較して、何故剣士であるのかを説明出来ないと駄目なんだ。ソードによる攻撃と、戦斧、戦槌によるダメージの違い。細かく言えば、それらが当たった箇所の傷の付き合いから、何ニュートンの力が加わって、敵の皮膚の組織の破壊が始まるとかね。当然、ソードの材質による使い勝手の違いも説明出来ないと駄目なんだ。つまり、剣士の事を理解しているのは当然として、他のジョブの攻撃も理解していないと駄目だし、鍛治の知識も必要になる。パーティーリーダーが求める説明を全部出来ないと駄目なんだ」
「なにそれ。すごく面倒じゃない。そんなのやりたくないわね」
グレイスが心底嫌そうな顔をした。
オッティも会話に参加してくる。
「そうだ。言われた材質で、言われた寸法で加工しているだけでいいんだ。工程能力が未達の理由とか、A5052とA6063の違いを比較とかいらないだろ。図面を出した奴に訊け。工作機械の精度とか、材質の加工性の違いの説明を求めてこないでほしい」
思わず頷いてしまった。
「他人に訊く前に、自分で調べてほしいよな。転生しちゃったから関係ないけど」
ティア1メーカーにもなると、そんな要求が有るらしく、測定機や試験装置は図面に記載の有るもの全てを自前で測定出来る用にしているとか。
設備投資が多額になりますね。
あ、今持っているスキルがあればティア1メーカーに就職出来そう。
胃が痛くなるから止めておくかな。
それでも品証よりましか。
どっちもどっちかな?
「ティア1ってのはそれだけ大変なんだよ。決算を見るとみんな巨額の利益を出しているけど、責任がそれだけあるしね」
そう締めくくった。
まだ、ティア2が車両メーカーで見つかる不良を出したのに、対策しなかったせいでティア1が全数検査をする羽目になったとかもあるのだが、それはまたいつか。
「聞くとティア2の方が良さそうね。利益率考えたらティア1なんでしょうけど」
「やり方によっては車両メーカーよりも儲かるしね。どこがいいとは一概には言えないかな」
因みに、日本企業の時価総額だと、Tに次いで二位がなんとかエンスである。※2020年5月現在
志村化工じゃないよ、念のため。
会話が終わって食事が始まる。
しばらくすると、オーリスがグレイスに
「グレイス男爵は結婚されませんの?」
と訊ねた。
マウンティングか?
「別に結婚だけが人生じゃないしね。老後の面倒も家令がいれば十分でしょ。縁があれば考えるわ」
グレイスは結婚には興味は無さそうだ。
その辺りの価値観は転生者ではないオーリスにはわからないのかな。
「オッティは?」
オーリスがオッティに訊く。
オッティは前世でバツイチだったんだよね。
裁判所で月に一度だけ子供と会うのを認められていたから、その話題は知っていると訊けない。
「一度失敗しているからもういいかな」
そう回答した。
まあそうだよな。
その夜、オーリスには俺達のいた世界の結婚に対する多様性を説明することになった。
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