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第277話 コントロールプラン
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冒険者ギルドに怪我人が運ばれてきた。
あちこち傷だらけで、生きているのが不思議な位だ。
手当てをしなければもうすぐ死んでしまうと誰が見てもわかる。
「治療するの?」
いつの間にか隣にいたシルビアがそう訊ねてきた。
「人としては助けるのが筋でしょうけど、俺が助けることで癒し手が仕事を失うとなると、助けるのが必ずしも正解とはいえませんね」
実に悩ましい事であるな。
俺は困ってシルビアを見た。
「そうね。そしてあんたはあの死にそうな男を助けるための口実を探している」
シルビアがニヤリと笑う。
「いいわ。あたしがあんたを脅した。助けなかったらぶん殴るわよって今言ったのよ。これでどうかしら?」
「ありがとう」
シルビアに礼を言って、怪我人のもとに駆け寄る。
そして直ぐにヒールを使って回復させた。
まだ意識は戻らないが、これで命は助かるだろう。
男を連れてきた冒険者たちに話を聞くと、ステラから半日くらいの街道沿いに倒れていたのだという。
他に6人の死体が転がっており、そちらは冒険者登録証と遺品の回収をしたそうだ。
異品も辛いけど、遺品も辛いよね。
しばらくして男の意識が回復した。
「ここは?」
男が周囲を見回す。
「ここはステラの冒険者ギルド。街道沿いで倒れていた貴方は、とおりがかった冒険者に助けられてここに連れてこられたってわけです」
俺は聞いたことを伝えた。
「な、仲間は?」
「残念ながら遺品の回収をしたのみです」
そう伝えると、がっくりと肩を落とした。
「そうですか……」
しばらく気まずい沈黙が続いた。
だが、その沈黙を破ったのも目の前の男だった。
「この冒険者ギルドにアルトって人はいますか?」
「アルトなら俺だけど」
「実はグレイス女男爵領のオッティっていう人から、あんたに渡す書類を預かって運んでいたんだ。中身は見てないが、コントロールプランだって言ってたな」
男はコントロールプランがなんだかわからないと付け加えた。
そりゃそうだろう。
コントロールプランといえば、製造業で製品に対する検査や設備の条件などを書いたものを指す。
そんなものがこの世界で存在するわけがない。
「その、コントロールプランを奪われちまったとはな。なんでも、魔王を倒すためのものだっていうのに……」
男は悔しさからか、拳で床を殴った。
魔王を倒すためのコントロールプランなんてあるのか。
なんでも出来る作業標準書があるのだから、あっても不思議は無いが。
「どんな奴に襲われたか覚えているのか?」
襲撃犯の確認をしないとな。
他の冒険者や旅人が襲われるといけない。
「ダークエルフの女とダイナと名乗る五人の戦士だったよ。それとキメラ」
ダークエルフ、五人の戦士ダイナ、キメラ……
「そいつらの肩当てに五個の穴は空いてなかったか?」
俺はつい興奮して男の肩を強く揺さぶってしまった。
「たぶん無かったと思う」
「そうか」
俺はそこで男の肩から手を離した。
「アルト、落ち着きなさい。キメラは露出の高い王女じゃなくて、合成されたモンスターの事よ。ダイナだって色が足りないわ。レッドなんてないし」
シルビアの言葉で俺の脳裏に稲妻が重力で落ちてきた。
稲妻重力落とし……
「シルビア、今からコントロールプランが奪われたところに行ってくる。すまないが、オーリスに伝えておいてくれないか」
俺は立ち上がるとシルビアにお願いをした。
「一人じゃ危ないわよ」
「いや、今日の勇気を出さないと。明日の希望に繋がらない。未来に星を輝き咲かせるそのためにね。なにせ魔王を倒すためのコントロールプランなんだから」
「それならあたしも行くわ」
結局シルビアと二人で襲撃現場に向かう。
まだそこに犯人が残っている可能性は低いが、何か手懸かりがあるかもしれない。
「ここか……」
現場に到着すると、そこには焼け焦げた死体があった。
ゾンビ化することを防ぐために、とおりがかった冒険者が火葬したのだろう。
埋葬する時間は無かったのだろうな。
もうすぐ日が暮れるので、俺もシルビアも埋葬はせずに、明るいうちに襲撃犯の痕跡を探し始める。
「足跡だ」
複数の人間の足跡と、ライオンのような足跡を見つけた。
「追ってみるわよ」
二人で足跡を追っていく。
すっかりと日は暮れたが、照度管理のスキルで昼と変わらない明るさを確保できるので、足跡を見失うようなことはない。
そう思っていたのだが、川に差し掛かったところで足跡が無くなってしまった。
「ここまでか……」
諦めてステラへと帰ることにした。
翌日、急いでオッティに会うために出発した。
コントロールプランが魔王の手に落ちたのなら、こちらの作戦が筒抜けになっているだろう。
コントロールプランを変更しないと危険だ。
「アルトじゃないか。コントロールプランを見てくれたか?」
オッティはコントロールプランが奪われたのを知らなかった。
「魔王の手下に奪われたよ」
俺の言葉を聞いても、オッティは驚かなかった。
一言
「そうか――」
とだけ言葉を漏らした。
「驚かないんだな」
俺は不思議に思い訊いてみた。
「スパイが潜り込んでいたのがわかったのでね。そいつはグレイスが処分したよ。運搬している冒険者は?」
「一人だけしか助からなかった」
「銀等級のパーティーにお願いしたのだがなあ」
オッティは天を仰いだ。
ただ、そんなに焦った様子はない。
「オッティ、随分と落ち着いているな。コントロールプランが魔王の手に渡ったんだぞ」
「なに、問題はないさ。あれは日本語で書いてある」
「向こうにも転生者がいたらどうするんだよ!」
あまりにも呑気なオッティに苦言を呈したくなる。
「それも心配ない。転注対策で殆どが『条件表による』ってなっているからな」
そういうことか。
コントロールプランには加工条件が細かく書いてあるんだよね。
だから、国内でコントロールプランを作らせて、量産直前に安い新興国に転注っていうのがある。
車両イベントを弊社にやらせておいて、量産は別の会社から部品を仕入れるとかやられるので、対策としてコントロールプランに条件は書かなくしたのだ。
その他にも、量産立ち上げ時の条件が合わなくて、現場で変更してしまう例もある。
その都度変更申請するのも大変なので、条件表によるってする場合もある。
どのみち条件変更なら申請必要だろっていう突っ込みはしないでください。
「人類の反撃はこれからだ!」
「それは言っちゃダメだろ」
オッティの打ち切り発言は否定しておく。
あちこち傷だらけで、生きているのが不思議な位だ。
手当てをしなければもうすぐ死んでしまうと誰が見てもわかる。
「治療するの?」
いつの間にか隣にいたシルビアがそう訊ねてきた。
「人としては助けるのが筋でしょうけど、俺が助けることで癒し手が仕事を失うとなると、助けるのが必ずしも正解とはいえませんね」
実に悩ましい事であるな。
俺は困ってシルビアを見た。
「そうね。そしてあんたはあの死にそうな男を助けるための口実を探している」
シルビアがニヤリと笑う。
「いいわ。あたしがあんたを脅した。助けなかったらぶん殴るわよって今言ったのよ。これでどうかしら?」
「ありがとう」
シルビアに礼を言って、怪我人のもとに駆け寄る。
そして直ぐにヒールを使って回復させた。
まだ意識は戻らないが、これで命は助かるだろう。
男を連れてきた冒険者たちに話を聞くと、ステラから半日くらいの街道沿いに倒れていたのだという。
他に6人の死体が転がっており、そちらは冒険者登録証と遺品の回収をしたそうだ。
異品も辛いけど、遺品も辛いよね。
しばらくして男の意識が回復した。
「ここは?」
男が周囲を見回す。
「ここはステラの冒険者ギルド。街道沿いで倒れていた貴方は、とおりがかった冒険者に助けられてここに連れてこられたってわけです」
俺は聞いたことを伝えた。
「な、仲間は?」
「残念ながら遺品の回収をしたのみです」
そう伝えると、がっくりと肩を落とした。
「そうですか……」
しばらく気まずい沈黙が続いた。
だが、その沈黙を破ったのも目の前の男だった。
「この冒険者ギルドにアルトって人はいますか?」
「アルトなら俺だけど」
「実はグレイス女男爵領のオッティっていう人から、あんたに渡す書類を預かって運んでいたんだ。中身は見てないが、コントロールプランだって言ってたな」
男はコントロールプランがなんだかわからないと付け加えた。
そりゃそうだろう。
コントロールプランといえば、製造業で製品に対する検査や設備の条件などを書いたものを指す。
そんなものがこの世界で存在するわけがない。
「その、コントロールプランを奪われちまったとはな。なんでも、魔王を倒すためのものだっていうのに……」
男は悔しさからか、拳で床を殴った。
魔王を倒すためのコントロールプランなんてあるのか。
なんでも出来る作業標準書があるのだから、あっても不思議は無いが。
「どんな奴に襲われたか覚えているのか?」
襲撃犯の確認をしないとな。
他の冒険者や旅人が襲われるといけない。
「ダークエルフの女とダイナと名乗る五人の戦士だったよ。それとキメラ」
ダークエルフ、五人の戦士ダイナ、キメラ……
「そいつらの肩当てに五個の穴は空いてなかったか?」
俺はつい興奮して男の肩を強く揺さぶってしまった。
「たぶん無かったと思う」
「そうか」
俺はそこで男の肩から手を離した。
「アルト、落ち着きなさい。キメラは露出の高い王女じゃなくて、合成されたモンスターの事よ。ダイナだって色が足りないわ。レッドなんてないし」
シルビアの言葉で俺の脳裏に稲妻が重力で落ちてきた。
稲妻重力落とし……
「シルビア、今からコントロールプランが奪われたところに行ってくる。すまないが、オーリスに伝えておいてくれないか」
俺は立ち上がるとシルビアにお願いをした。
「一人じゃ危ないわよ」
「いや、今日の勇気を出さないと。明日の希望に繋がらない。未来に星を輝き咲かせるそのためにね。なにせ魔王を倒すためのコントロールプランなんだから」
「それならあたしも行くわ」
結局シルビアと二人で襲撃現場に向かう。
まだそこに犯人が残っている可能性は低いが、何か手懸かりがあるかもしれない。
「ここか……」
現場に到着すると、そこには焼け焦げた死体があった。
ゾンビ化することを防ぐために、とおりがかった冒険者が火葬したのだろう。
埋葬する時間は無かったのだろうな。
もうすぐ日が暮れるので、俺もシルビアも埋葬はせずに、明るいうちに襲撃犯の痕跡を探し始める。
「足跡だ」
複数の人間の足跡と、ライオンのような足跡を見つけた。
「追ってみるわよ」
二人で足跡を追っていく。
すっかりと日は暮れたが、照度管理のスキルで昼と変わらない明るさを確保できるので、足跡を見失うようなことはない。
そう思っていたのだが、川に差し掛かったところで足跡が無くなってしまった。
「ここまでか……」
諦めてステラへと帰ることにした。
翌日、急いでオッティに会うために出発した。
コントロールプランが魔王の手に落ちたのなら、こちらの作戦が筒抜けになっているだろう。
コントロールプランを変更しないと危険だ。
「アルトじゃないか。コントロールプランを見てくれたか?」
オッティはコントロールプランが奪われたのを知らなかった。
「魔王の手下に奪われたよ」
俺の言葉を聞いても、オッティは驚かなかった。
一言
「そうか――」
とだけ言葉を漏らした。
「驚かないんだな」
俺は不思議に思い訊いてみた。
「スパイが潜り込んでいたのがわかったのでね。そいつはグレイスが処分したよ。運搬している冒険者は?」
「一人だけしか助からなかった」
「銀等級のパーティーにお願いしたのだがなあ」
オッティは天を仰いだ。
ただ、そんなに焦った様子はない。
「オッティ、随分と落ち着いているな。コントロールプランが魔王の手に渡ったんだぞ」
「なに、問題はないさ。あれは日本語で書いてある」
「向こうにも転生者がいたらどうするんだよ!」
あまりにも呑気なオッティに苦言を呈したくなる。
「それも心配ない。転注対策で殆どが『条件表による』ってなっているからな」
そういうことか。
コントロールプランには加工条件が細かく書いてあるんだよね。
だから、国内でコントロールプランを作らせて、量産直前に安い新興国に転注っていうのがある。
車両イベントを弊社にやらせておいて、量産は別の会社から部品を仕入れるとかやられるので、対策としてコントロールプランに条件は書かなくしたのだ。
その他にも、量産立ち上げ時の条件が合わなくて、現場で変更してしまう例もある。
その都度変更申請するのも大変なので、条件表によるってする場合もある。
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