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第290話 電食?電蝕?
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「アルト、これを見てほしかったんだ」
俺はホーマーに呼ばれて工房に来ていた。
そして、目の前に差し出されたのは銅とアルミがあしゅら男爵のようにロウ付けされた鍋だ。
これで相談とは嫌な予感しかしない。
「随分と珍しいものを作ったなあ」
素直な感想だ。
熱伝導率も違うし、これをどのように使うのか全く想像が出来ない。
俺は鍋を手に取り出来映えを確認する。
「それで、これを見てどうすれば?」
ホーマーに訊いた。
「熱のコントロールは完璧だったはずなんだ。それなのに、いざ鍋を使おうとしたら、水が漏れたんだ。確認するとロウ付け部に穴があいててね……」
ロウ付けは溶接と違って、母材を溶かさない。
ただ、アルミはロウ剤の融点と母材の融点が近くて、馴れない作業者がロウ付けすると、母材を溶かしてしまうのだ。
鉄ですら溶かした奴がいるので、他の種類の金属なら大丈夫とはいえないのだが。
そして、パッと見分かりにくいのだが、熱を掛けすぎると、表面が溶けていないまでも、泡立ったようになることもある。
それはオーバーヒート現象であり、母材の組織が変化してしまっている。
場合によっては内部に巣が発生しており、ちょっとした衝撃で穴があいてしまう事があるのだ。
それなので、ロウ付け後の外観検査では、オーバーヒートの確認も行うのが普通である。
ホーマーの言う、熱のコントロールとはこの事だ。
この鍋は俺が外観を確認しても、オーバーヒートは見られない。
「入熱量は完璧だよ」
ヌレの状態も問題ない。
となると、考えられるのは……
「電食だな」
「電食?」
ホーマーはおうむ返しに訊いてきた。
「そう。電気といってもわからないか。簡単に言えば、違う金属同士をくっつけると腐食するんだ」
まだ電気の事を理解していないホーマーに説明するのは難しいな。
スキルで電気抵抗溶接を持っているけど、肝心な電気の知識は前提条件にはないからな。
本来説明するなら、異種金属を接合した状態で金属に通電性の液体が触れると電気が流れる。
低電位の金属が+で、高電位が-だ。
そして、+側の金属がイオン化して腐食する。
電位差が大きいほど、湿度が高いほど電食しやすい。
アルミと真鍮をロウ付けした配管が、電食で穴があいた話なんてよく聞く事だ。
その設計はどうなの?
「アルト、じゃあこの鍋は二つの種類の違う金属をロウ付けしたから腐食したのか?」
「そういうことだね」
俺がうなずくと、ホーマーは深刻な表情をする。
「そんなに落ち込むことはないさ。知らなかっただけだろ。この知識を次に活かせば――」
「違うんだ!」
俺の言葉を遮り、必死の形相のホーマー。
「この前ランディに頼まれて、ステンレスのシールドにアルミの取っ手を溶接したんだ。今の話だと腐食するよね?」
「ステンとアルミか……」
ステンレスとアルミでは、電位差がとても大きい。
それにしても、よくもそんなものを作ったな。
ステンレスとアルミを溶接するなんて。
「ランディがこの世に一つしかない、オリジナルのシールドが欲しいって言ったから……」
「戦闘中に腐食で取っ手が取れてしまうと不味いな」
思わずホーマーと見つめ合う視線が絡んだ。
その時工房に男が入ってきた。
「いやー、まいったよ」
そう声を上げたのは、件のランディだった。
見れば汚れた鎧をまとっており、冒険から帰ってきたと容易にわかるいでたちだ。
そして、シールドを持ってない。
電食で使い物にならなくなったか?
「やあ、ランディ。何がまいったの?」
ビクビクしているホーマーの代わりに、俺がランディに話しかけた。
「この前ホーマーに世界に一つしかないシールドを作ってもらったんだけど、迷宮でスライムに遭遇してね。奴の酸でシールドが溶けちゃったんだよ。奴がシールドを食べている間に逃げてきたって訳さ」
スライムはその強力な酸で金属の武器や防具を溶かしてしまう。
ステンレスまで溶かすとはかなりのものだな。
民明書房に出てきそうな位の強酸だぞ。
「折角高額な買い物をしたのに、勿体なかったよ。これからは普通のシールドで冒険にでるかな。作ってもらってこんな結果になったのが申し訳なくて、こうして報告に来たってわけなんだ」
申し訳なさそうなランディ。
見ればホーマーも同じようなもんだ。
こんな時堂々としていられる位にハッタリをかませられる俺は、品管に毒されてしまったのかもしれない。
こちらが悪いなんておくびにも出しませんよ。
まあ、その後ホーマーから真実を語ることもなく、シールドの電食は無かったことになった。
※作者の独り言
電食しない設計にしてください。
俺はホーマーに呼ばれて工房に来ていた。
そして、目の前に差し出されたのは銅とアルミがあしゅら男爵のようにロウ付けされた鍋だ。
これで相談とは嫌な予感しかしない。
「随分と珍しいものを作ったなあ」
素直な感想だ。
熱伝導率も違うし、これをどのように使うのか全く想像が出来ない。
俺は鍋を手に取り出来映えを確認する。
「それで、これを見てどうすれば?」
ホーマーに訊いた。
「熱のコントロールは完璧だったはずなんだ。それなのに、いざ鍋を使おうとしたら、水が漏れたんだ。確認するとロウ付け部に穴があいててね……」
ロウ付けは溶接と違って、母材を溶かさない。
ただ、アルミはロウ剤の融点と母材の融点が近くて、馴れない作業者がロウ付けすると、母材を溶かしてしまうのだ。
鉄ですら溶かした奴がいるので、他の種類の金属なら大丈夫とはいえないのだが。
そして、パッと見分かりにくいのだが、熱を掛けすぎると、表面が溶けていないまでも、泡立ったようになることもある。
それはオーバーヒート現象であり、母材の組織が変化してしまっている。
場合によっては内部に巣が発生しており、ちょっとした衝撃で穴があいてしまう事があるのだ。
それなので、ロウ付け後の外観検査では、オーバーヒートの確認も行うのが普通である。
ホーマーの言う、熱のコントロールとはこの事だ。
この鍋は俺が外観を確認しても、オーバーヒートは見られない。
「入熱量は完璧だよ」
ヌレの状態も問題ない。
となると、考えられるのは……
「電食だな」
「電食?」
ホーマーはおうむ返しに訊いてきた。
「そう。電気といってもわからないか。簡単に言えば、違う金属同士をくっつけると腐食するんだ」
まだ電気の事を理解していないホーマーに説明するのは難しいな。
スキルで電気抵抗溶接を持っているけど、肝心な電気の知識は前提条件にはないからな。
本来説明するなら、異種金属を接合した状態で金属に通電性の液体が触れると電気が流れる。
低電位の金属が+で、高電位が-だ。
そして、+側の金属がイオン化して腐食する。
電位差が大きいほど、湿度が高いほど電食しやすい。
アルミと真鍮をロウ付けした配管が、電食で穴があいた話なんてよく聞く事だ。
その設計はどうなの?
「アルト、じゃあこの鍋は二つの種類の違う金属をロウ付けしたから腐食したのか?」
「そういうことだね」
俺がうなずくと、ホーマーは深刻な表情をする。
「そんなに落ち込むことはないさ。知らなかっただけだろ。この知識を次に活かせば――」
「違うんだ!」
俺の言葉を遮り、必死の形相のホーマー。
「この前ランディに頼まれて、ステンレスのシールドにアルミの取っ手を溶接したんだ。今の話だと腐食するよね?」
「ステンとアルミか……」
ステンレスとアルミでは、電位差がとても大きい。
それにしても、よくもそんなものを作ったな。
ステンレスとアルミを溶接するなんて。
「ランディがこの世に一つしかない、オリジナルのシールドが欲しいって言ったから……」
「戦闘中に腐食で取っ手が取れてしまうと不味いな」
思わずホーマーと見つめ合う視線が絡んだ。
その時工房に男が入ってきた。
「いやー、まいったよ」
そう声を上げたのは、件のランディだった。
見れば汚れた鎧をまとっており、冒険から帰ってきたと容易にわかるいでたちだ。
そして、シールドを持ってない。
電食で使い物にならなくなったか?
「やあ、ランディ。何がまいったの?」
ビクビクしているホーマーの代わりに、俺がランディに話しかけた。
「この前ホーマーに世界に一つしかないシールドを作ってもらったんだけど、迷宮でスライムに遭遇してね。奴の酸でシールドが溶けちゃったんだよ。奴がシールドを食べている間に逃げてきたって訳さ」
スライムはその強力な酸で金属の武器や防具を溶かしてしまう。
ステンレスまで溶かすとはかなりのものだな。
民明書房に出てきそうな位の強酸だぞ。
「折角高額な買い物をしたのに、勿体なかったよ。これからは普通のシールドで冒険にでるかな。作ってもらってこんな結果になったのが申し訳なくて、こうして報告に来たってわけなんだ」
申し訳なさそうなランディ。
見ればホーマーも同じようなもんだ。
こんな時堂々としていられる位にハッタリをかませられる俺は、品管に毒されてしまったのかもしれない。
こちらが悪いなんておくびにも出しませんよ。
まあ、その後ホーマーから真実を語ることもなく、シールドの電食は無かったことになった。
※作者の独り言
電食しない設計にしてください。
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