298 / 439
第297話 設備屋時代の思い出
しおりを挟む
「お盆といえば、設備屋にいた時は休めなかったな」
引き続きグレイス領にて、鯛の養殖を観察しながら、前世の思い出が口から出る。
鯛が餌に群がり、水面が荒れて水飛沫がこちらまで飛んで来るのを手で避けながら、前世を思い出していた。
「工場が長時間稼働停止するのなんて、年末年始、ゴールデンウィーク、お盆くらいだからな。俺も業者の搬入に付き合って休みは無しだったぞ」
餌をやるのを止めたオッティは、そんな俺の仕草を笑いながら見て、ひとしきり笑ったあとにそう言った。
オッティは業者の設備搬入と動作確認に付き合うので、長期連休はいつも出勤となっていたのだ。
これは日本中どこでも見かける光景だ。
レンタカーのトラックはこの時期逼迫するので、早めに予約をしておかないと大変なことになる。
自分も5t車をよくレンタルしては運転したものだ。
ガソリンスタンドに入るときに、間違ってバックギアにシフトをいれてしまい、後の車をびびらせたのは良い思い出だな。
排気量が大きかったから、運転するのは楽だったな。
高回転のスターレットは低回転トルクが無くて、常に2000回転発進だったから、比較するとかなり楽になっていた。
「設備の搬入で労災起こされると大変だったな」
「ああ、だから怪我をしたら工場から出て、車に飛び込めって言われたな。もちろん冗談だけど、それくらい客には迷惑をかけるなってことだったんだろうな」
「そうだ。なにせ死亡事故ともなると警察が入ってくるから、他の業者の作業も止まる。その結果、休み明けのラインも止めて、遅れた搬入業務をしなくちゃならないんだからな。車両メーカーで死亡事故を起こした設備屋は、その後指名停止になったんだぞ」
オッティの言う話は俺も聞いたことがある。
ただし、指名停止になっても、その設備屋しか出来ない仕事もあったので、別の会社の下請けという形で仕事は継続していたな。
汎用性の無い仕事なので、設備屋とか電気屋は転注しにくいってのはあるな。
某会社では、転注されるのを防ぐために、客の工場の電気配線の図面を作成せずに、社長の頭の中にだけしまっておいたというのがあった。
社長が急死したせいで、大混乱したと聞いたぞ。
まあ、見積りを出させて、それを他の業者に安くやらせるってのが横行したから、仕方がない部分もあるけどな。
なにせ、構想だけではお金にならないが、それでも手間はかかっている。
他人の構想があるなら、その分安く出来るから、構想が回ってきた業者は当然最初の業者よりも安くなる。
そんなことをやっているから、国内の設備屋が見積りを出すときに、曖昧な構想しか出さなくなるのだ。
そして、値段だけ見て海外に発注して、使い物になら無い設備を購入する羽目になる。
どこの会社とは言わないけどね。
「それと、設備の搬入では思いがけないアクシデントがあるな。そのお陰で、予備日も出勤になったぞ」
オッティが続けて言う。
そう、アクシデントは付き物だ。
ドリルの刃が折れたり、故障して動かなくなったりしたもんだ。
それなので、近くのホームセンターに工具を買いに走ることが何度もあった。
なにせ、商社と工具メーカーが休みになっているから、通常の仕入れルートが使えないのだ。
ボルトやナットも現合あわせだから、突然必要になったサイズが手持ちに無いとかもあったな。
そんな特殊なサイズも、ホームセンターには置いてあった。
ホームセンターの品揃えすごい。
工具ならまだ良いが、シリンダーの手配を間違っていたときは大変だった。
設計が間違っていたため、シリンダーを急遽変更する必要があったのだが、シリンダーメーカーが休みのため苦労した。
あの時の現場の慌てぶりといったら、蜂の巣をつついてもあそこまでにはならないだろうな。
結局、商社の社員の携帯に電話をして、同じ型番を売った会社から買い戻せないかお願いしたのだ。
奇跡的に入手できたのは、誰かの日頃の行いかな?
「今頃日本中で設備屋が仕事をしているかと思うと、頭が下がるな」
そう言う俺に、オッティは首を横に振った。
「俺たちにはお盆休みが無いんだぞ。というか、異世界は働きすぎだ。週7日で休みは1日だけ。祝日は収穫祭と新年のみだ。労組があったら国王があの時の部長みたいに吊し上げ食らっているさ」
異世界にも週休2日を!
※作者の独り言
自分が子供の頃は土曜日は半日学校に行ってました。
親も仕事だったかと思います。
いつの間にか週休2日になれてしまいましたが、元々はそんな感じでしたね。
自営業者は今でも休みは少ないですね。
自動車業界では、ディーラーの休みが少なくて、年間休日100日を切っていたかと思います。
最近だと、お盆でもディーラーは営業していますね。
みんなが休まなければ、設備の仕事で調達で苦労することもなかったのに!
あ、でもそれだとラインが止まらないから、設備を搬入出来ませんね。
引き続きグレイス領にて、鯛の養殖を観察しながら、前世の思い出が口から出る。
鯛が餌に群がり、水面が荒れて水飛沫がこちらまで飛んで来るのを手で避けながら、前世を思い出していた。
「工場が長時間稼働停止するのなんて、年末年始、ゴールデンウィーク、お盆くらいだからな。俺も業者の搬入に付き合って休みは無しだったぞ」
餌をやるのを止めたオッティは、そんな俺の仕草を笑いながら見て、ひとしきり笑ったあとにそう言った。
オッティは業者の設備搬入と動作確認に付き合うので、長期連休はいつも出勤となっていたのだ。
これは日本中どこでも見かける光景だ。
レンタカーのトラックはこの時期逼迫するので、早めに予約をしておかないと大変なことになる。
自分も5t車をよくレンタルしては運転したものだ。
ガソリンスタンドに入るときに、間違ってバックギアにシフトをいれてしまい、後の車をびびらせたのは良い思い出だな。
排気量が大きかったから、運転するのは楽だったな。
高回転のスターレットは低回転トルクが無くて、常に2000回転発進だったから、比較するとかなり楽になっていた。
「設備の搬入で労災起こされると大変だったな」
「ああ、だから怪我をしたら工場から出て、車に飛び込めって言われたな。もちろん冗談だけど、それくらい客には迷惑をかけるなってことだったんだろうな」
「そうだ。なにせ死亡事故ともなると警察が入ってくるから、他の業者の作業も止まる。その結果、休み明けのラインも止めて、遅れた搬入業務をしなくちゃならないんだからな。車両メーカーで死亡事故を起こした設備屋は、その後指名停止になったんだぞ」
オッティの言う話は俺も聞いたことがある。
ただし、指名停止になっても、その設備屋しか出来ない仕事もあったので、別の会社の下請けという形で仕事は継続していたな。
汎用性の無い仕事なので、設備屋とか電気屋は転注しにくいってのはあるな。
某会社では、転注されるのを防ぐために、客の工場の電気配線の図面を作成せずに、社長の頭の中にだけしまっておいたというのがあった。
社長が急死したせいで、大混乱したと聞いたぞ。
まあ、見積りを出させて、それを他の業者に安くやらせるってのが横行したから、仕方がない部分もあるけどな。
なにせ、構想だけではお金にならないが、それでも手間はかかっている。
他人の構想があるなら、その分安く出来るから、構想が回ってきた業者は当然最初の業者よりも安くなる。
そんなことをやっているから、国内の設備屋が見積りを出すときに、曖昧な構想しか出さなくなるのだ。
そして、値段だけ見て海外に発注して、使い物になら無い設備を購入する羽目になる。
どこの会社とは言わないけどね。
「それと、設備の搬入では思いがけないアクシデントがあるな。そのお陰で、予備日も出勤になったぞ」
オッティが続けて言う。
そう、アクシデントは付き物だ。
ドリルの刃が折れたり、故障して動かなくなったりしたもんだ。
それなので、近くのホームセンターに工具を買いに走ることが何度もあった。
なにせ、商社と工具メーカーが休みになっているから、通常の仕入れルートが使えないのだ。
ボルトやナットも現合あわせだから、突然必要になったサイズが手持ちに無いとかもあったな。
そんな特殊なサイズも、ホームセンターには置いてあった。
ホームセンターの品揃えすごい。
工具ならまだ良いが、シリンダーの手配を間違っていたときは大変だった。
設計が間違っていたため、シリンダーを急遽変更する必要があったのだが、シリンダーメーカーが休みのため苦労した。
あの時の現場の慌てぶりといったら、蜂の巣をつついてもあそこまでにはならないだろうな。
結局、商社の社員の携帯に電話をして、同じ型番を売った会社から買い戻せないかお願いしたのだ。
奇跡的に入手できたのは、誰かの日頃の行いかな?
「今頃日本中で設備屋が仕事をしているかと思うと、頭が下がるな」
そう言う俺に、オッティは首を横に振った。
「俺たちにはお盆休みが無いんだぞ。というか、異世界は働きすぎだ。週7日で休みは1日だけ。祝日は収穫祭と新年のみだ。労組があったら国王があの時の部長みたいに吊し上げ食らっているさ」
異世界にも週休2日を!
※作者の独り言
自分が子供の頃は土曜日は半日学校に行ってました。
親も仕事だったかと思います。
いつの間にか週休2日になれてしまいましたが、元々はそんな感じでしたね。
自営業者は今でも休みは少ないですね。
自動車業界では、ディーラーの休みが少なくて、年間休日100日を切っていたかと思います。
最近だと、お盆でもディーラーは営業していますね。
みんなが休まなければ、設備の仕事で調達で苦労することもなかったのに!
あ、でもそれだとラインが止まらないから、設備を搬入出来ませんね。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい
あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。
誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。
それが私の最後の記憶。
※わかっている、これはご都合主義!
※設定はゆるんゆるん
※実在しない
※全五話
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる