冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
340 / 439

第339話 スパッタの飛ぶ範囲ってどこまでなんだろうね

しおりを挟む
 今日はホーマーに呼ばれて、彼の作業を観察している。
 俺が溶接を指導するために、一度ホーマーの作業を見ながら作業標準書を作成したのだ。
 定期的に作業観察を依頼されている。
 ホーマーのジョブを知った時に、溶接作業の定期確認について話をしたことが切っ掛けだ。
 溶接作業を見学したいと、オーリスも一緒に来ている。
 保護用のサングラスに興味深々だ。
 おしゃれアイテムじゃないぞ。

「いつもと変わりはないな」

 俺がそういうと、溶接作業を終えたホーマーはほっとした表情を見せた。
 いつもと変わらないということがどれだけ難しいのか、ホーマーは知っているのだ。
 特に溶接については、破壊しないとわからない事もあり、また破壊したら商品として成り立たないので、変化がない事で問題ないと定期的に評価することもあるのだ。
 チェックシートの項目に、適当に〇をつけて返却してくるメーカーもあるけどね。

「出来栄えも問題ないし、これを維持継続していればいいよ」

 と評価をした。

「溶接って火花が飛んできて怖いですわね」

 とオーリスが感想を述べる。
 これはスパッタが飛び散るのを初めてみたオーリスが、先ほどまで声を上げて怖がっていたので本心だとわかる。
 自分も最初は怖かった。
 工場の天井まで飛び上がるスパッタの下を潜り抜けて、対象品の検査に向かうのは中々慣れないぞ。
 毎日あの環境にいる溶接作業者ってきついよね。
 工場内でも3Kの度合いってばらつきがある。
 溶接やメッキ、塗装工程なんかは不人気だな。
 それと比較して、組み立て工程はかなり綺麗だ。
 というか、コンタミ問題があるので当然なのだが。
 綺麗さでいえば塗装工程も綺麗なのだが、その他の問題で不人気なのだ。
 役所の目があるので具体的な事例は避けますが。

「あ、この木の板で火花を防いだらどうかしら?」

 オーリスが壁に立てかけてあった木の板を持ってきた。

「スパッタは高温だから、可燃物を溶接作業場の近くに持ってくると火事になる危険があるぞ」

 と俺は注意した。
 木の発火点はおよそ250℃である。
 因みに紙は450℃程度。
 学校で紙コップに水を入れて、アルコールランプであぶっても燃えないという実験をしたかもしれないが、あれは水があることで、紙コップの発火点まで温度が上昇しないので、結果として燃えないという現象を見ているのだ。
 で、スパッタによる火事は割とよくある事象である。
 箱の中に新聞紙を敷いて納品される部品もあるのだが、その箱の中の新聞紙がスパッタによって燃えたなんて事象は色々な会社で聞いた。
 そんなわけで、可燃物は極力溶接現場に置かないようにしているのだが、新人作業者が勝手にスパッタよけでダンボールを設置していたりするので困りものだ。
 じゃあ、お前がこの職場で仕事しろっていわれると、気持ちはわかるよってお茶を濁しますけど。
 勿論溶接ロボットの導入もしていますよ。
 ただし、数が多く出るものでないと、溶接治具の費用が出ませんので、全部をロボットで溶接するというのは無理です。
 月間の生産台数が弱小サークルの同人誌なみの車なんて、金型作る費用も出ないんじゃないかって感じなので、当然溶接も最低限の簡易治具で行います。
 ロボットじゃ不可能ですね。
 営業にはもっと数の出る仕事を取ってきて欲しい。

「そうでしたの。でもそれではホーマーは怖くないのかしら?」

 オーリスに訊かれて、ホーマーは

「ドワーフなので大丈夫です」

 と答えた。
 ドワーフだから大丈夫。
 パンツじゃないから恥ずかしくない。
 世の中の真理ですね。
 まあ、ドワーフは火に強いのは認める。
 鍛冶だって熱した鉄を扱うので、火傷をすることだってあるだろう。
 それを生業とするものが多い種族なので、火に強い個体が多いのは納得だ。
 酒に強い理由は不明だがな。

 ドワーフは火と酒に強くて、エルフと仲が悪いというのが定番だ。
 なんでそうなったのかは知らないが、俺の転生したこの世界でも似たようなもんだ。
 エルフと言い争っているのは見ないけど、きっとエルフがいたら言い争うのだろうな。
 是非ともここにエルフを連れてきて、ホーマーの反応を見てみたい。
 が、エルフを連れてくるという単語が不吉なので、実行に移すのはやめておこう。
 適当な事を書いていたら、何故か偶然にも呼び出ししたニュースが飛び込んでくることがあるからな。

 尚、一般的な溶接ではアーク溶接とスポット溶接があるのだが、自動車工場でスパッタが飛ぶ映像は大体スポット溶接だ。
 条件である程度は発生を抑えられるのだが、完全に無くすことは今の所不可能である。
 あのスパッタが靴の中に入るととても熱い。
 というか、火傷する。
 アレを経験すると、ダンボールでもいいからスパッタがこちらに飛んでくるのを防ごうという気持ちは理解できる。
 だが、火事になる危険があるので、同意は出来ないぞ。
 前世の工場ではスポット溶接はアーク溶接の前工程での仮止めだったので、とても弱い電流で行っていたので、そんなにスパッタは発生しなかった。
 ルールを無視して、作業ズボンのすそをまくっていた作業者でもなければ、靴の中には入ることはなかった。
 じゃあ何故靴の中に入った時の状況を知っているのかというと、それは禁則事項ですね。
 溶接工程って暑いんだよ。

「じゃあ、見学するのは遠くからしか出来ないですわね。貴族の前でホーマーが溶接を見せれば、きっといい商売になると思ったのですが、これでは皆様から不評を買ってしまいそうですわ」

 オーリスはそんなことを考えていたのか。
 パフォーマンスとして溶接作業を見せて、製品を販売しようとしていたのか。
 確かに溶接なんてホーマーしか出来ないから、物珍しいというのはあるな。

「あ、でもこの保護具のサングラスは珍しいので、これをホーマーから買い取って販売させていただこうかしら」

 そんなわけで、直ぐに契約をするはこびとなり、後に上流社会でサングラスが流通したのだが、それはまた別のお話で。



※作者の独り言
スパッタ起因の火災については色々とありまして、箱の中に新聞紙を敷いて納品というのはほぼ無くなりました。
昔はこんなのがあったよっていうくらいですね。
私の聞いた火災の話の中でのナンバーワンは、スパッタではなくトーチロウ付けによる火災です。
トーチから出ている火が手袋に引火し、慌てた作業者が手を振ったら手袋がスポッと抜けて、そんなに近くもない場所で塗装作業に使っていたシンナーの所に飛んでいき、今度はシンナーに引火したっていうのがありました。
漫画か!
誰も死ななくて良かったですね。
多分死亡事故なのに笑ってしまったと思います。
洒落にならなさでは、逆火による火災もありました。
逆火とはガス火炎を使用中に火炎が火口からガスの供給側へ戻る現象です。
爆発事故だったとか。
そんなにの比べたら、スパッタはボヤ程度にしかならないですね。
だからいいってもんでもないですけど。
いつか大きな火災になるとも限らないので、やはりルールは遵守しましょう。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...