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第350話 素手タッチからはじまる不具合狂騒曲
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「黒豆が食いたい」
前世では正月のおせちで必ず出てきた黒豆。
あの甘い味が忘れられずに、転生した異世界でも黒豆を食べたくなったのだ。
それでティーノの店の厨房を借りて、黒豆に似た迷宮大豆を煮る事にしたのだ。
黒豆は大豆の品種の一つであり、迷宮大豆があるのだからという単純な理由で迷宮内を探索したら、迷宮黒豆を見つけることが出来たのである。
見つかったら食べたくなるのが人情。
そんな経緯で料理を作ることになったのだ。
念のため断っておくが、別に横綱と結婚したいわけではない。
「なんで釘を一緒に煮るの?」
俺が鍋に釘を入れたのを見て、ティーノが質問した。
「黒豆の色素はアントシアニン系の色素で、金属イオンと結びつくと綺麗に発色するからね」
「???」
アントシアニンや金属イオンといっても、ここでは一般的ではないので通じなかった。
折角の知識が伝わらないのは辛いな。
アントシアニンは植物の色素として、phによっても色が変化する事が知られている。
紫陽花とか紫キャベツの色素でもあるな。
抽出したアントシアニンに、後から酸を添加すると色が変わるので、実験すると結構面白い。
「まあ、鉄の色が簡単に豆に付くって事だよ」
「なるほどねえ」
凄く端折った説明だったのだが、本当に理解できたのだろうか?
この辺は感覚的には理解できるのだろうけど、その原理を理解するには、きっと基礎知識が不足しているよな。
別に釘でなくて鉄鍋でもいいのだが、原理が理解できていないので、鉄と一緒に煮るとだけ覚えてもらえればそれでいいか。
ティーノとの会話はそのくらいにして、俺は鍋に集中した。
何故なら、水が沸騰した頃合いを見計らって、びっくり水を入れる事でしわの発生を抑える作業があるからだ。
会話に集中していると、タイミングを逃してしまう可能性がある。
その辺は、作業中の話しかけ禁止と同じだな。
尚、びっくり水でしわの発生が抑えられるのは、水による冷却で皮が縮むことによるものだ。
びっくり水を入れるタイミングはカンコツ作業となるので、黒豆を煮る作業標準書を作るとすると表現が面倒だな。
前世なら温度センサーやタイマーで管理していただろうか。
びっくり水を入れ終えて、今日の俺の作業は終了したが、完成まではまだまだ時間がかかる。
俺はこれからのことをティーノにお願いした。
「ここから五日ほど作業があるからよろしくね」
「わかったよ」
これがティーノの店を選んだ理由だ。
常に煮続けるので、厨房で監視してくれる人が必要なのだ。
煮るのは三日間程度で、そこからは砂糖水に浸して甘さを味付けする。
砂糖水もいきなり狙った甘さのものに浸すわけにはいかない。
濃い砂糖水にいきなり浸すと、浸透圧の関係で豆の水分が外に出て、皮にしわがよってしまう。
だから、薄い砂糖水から徐々に濃いものに徐々に浸け込んでいくのだ。
その他にも空気に触れたらしわになるし、冷やし方が急でもしわになる。
かなり手間のかかる料理なんだよな。
簡単にスーパーで購入できた前世が懐かしい。
そして五日後。
オーリスと一緒にティーノの店を訪れる。
俺一人でも良かったのだが、新しい料理を内緒で食べると後が怖いので、今回はオーリスにも同行してもらった。
「上品な甘さですわね」
皿の上に並べられた黒豆を、フォークで突き刺して口に運ぶと、オーリスの顔がほころんだ。
やはり甘いものは好きなようだ。
俺も一つフォークで取って口に運ぶ。
「やっぱりこれだよな」
前世で食べた物をほぼ完ぺきに再現出来た。
砂糖の種類が違うから、そのせいで甘みが少し違うが、それ以外は全く同じ出来栄えだ。
「これは甘くておいしいうえに、見た目も綺麗な黒になるのね」
メガーヌも一緒に品評に加わっている。
彼女は既に五つ目の黒豆を口に運んだ後だ。
「アルト、他の色も出来るのかな?」
ティーノは黒以外の色も着色して、料理に幅を持たせたいようだ。
「緑青をふいた銅を入れたら緑になると思うよ」
「緑青って毒じゃないのか!?」
「いや、そんなことはないぞ」
ティーノは緑青が毒だと思っているようだ。
昭和か!
確かに昔は緑青は毒なので、口に入れてはいけないと言われてきたが、そんなエビデンスは無い。
ただ、銅製品で緑青が出ている奴は不良だ。
簡単に酸化するので、素手で触るのは禁止だな。
梱包時に素手で触った銅板が、トラックへの積み込み時に酸化していたなんてのもあったな。
指紋がくっきりと残っていた。
何してくれてんのよ。
その他にも、ロウ付けで使った銅が緑青ふいてくれたりもしたね。
フラックスが酸素を吸収するんじゃないのか?
いいです、もう諦めました。
錆び無き事って図面にあるから、そうするしかないのですが、銅はなあ……
おっと、緑青による着色の件だったな。
とある野菜の漬物は、色鮮やかな緑を出すために、緑青びっしりの銅板と一緒に漬け込んでいたとか聞いたぞ。
それを体に悪いと攻撃していた組織があったが、残念ながらエビデンスは無かったな。
昔から言われているからっていうのが最大の理由だった。
それでいいのか?
まあ、金属イオンの過剰摂取は体に何らかの害はあるだろうから、過剰摂取はいかんよな。
それでも過剰ならというところだ。
海藻だって重金属が含まれているが、中毒になるほど摂取する前に、多分胃袋が破裂して死ぬと思う。
そんなもんですよ。
「そうなんだ。じゃあ他の金属と併せていろんな色を着色出来るか試してみたいな」
ティーノには協力してもらった恩があるので、鉄、銅、ニッケル、クロム、コバルト、モリブデン、金、銀、プラチナ、アルミの金属片をスキルで作って渡した。
まあ、あんまり金属を摂取するのは気持ちのいいものではないので、しばらくはこの店には近寄りたくはないな。
※作者の独り言
銅の加工は難しく、錆びも発生しやすいので扱いたくないですね。
あと、材料の単価が高いので、不良を作ったときのダメージがでかい。
前世では正月のおせちで必ず出てきた黒豆。
あの甘い味が忘れられずに、転生した異世界でも黒豆を食べたくなったのだ。
それでティーノの店の厨房を借りて、黒豆に似た迷宮大豆を煮る事にしたのだ。
黒豆は大豆の品種の一つであり、迷宮大豆があるのだからという単純な理由で迷宮内を探索したら、迷宮黒豆を見つけることが出来たのである。
見つかったら食べたくなるのが人情。
そんな経緯で料理を作ることになったのだ。
念のため断っておくが、別に横綱と結婚したいわけではない。
「なんで釘を一緒に煮るの?」
俺が鍋に釘を入れたのを見て、ティーノが質問した。
「黒豆の色素はアントシアニン系の色素で、金属イオンと結びつくと綺麗に発色するからね」
「???」
アントシアニンや金属イオンといっても、ここでは一般的ではないので通じなかった。
折角の知識が伝わらないのは辛いな。
アントシアニンは植物の色素として、phによっても色が変化する事が知られている。
紫陽花とか紫キャベツの色素でもあるな。
抽出したアントシアニンに、後から酸を添加すると色が変わるので、実験すると結構面白い。
「まあ、鉄の色が簡単に豆に付くって事だよ」
「なるほどねえ」
凄く端折った説明だったのだが、本当に理解できたのだろうか?
この辺は感覚的には理解できるのだろうけど、その原理を理解するには、きっと基礎知識が不足しているよな。
別に釘でなくて鉄鍋でもいいのだが、原理が理解できていないので、鉄と一緒に煮るとだけ覚えてもらえればそれでいいか。
ティーノとの会話はそのくらいにして、俺は鍋に集中した。
何故なら、水が沸騰した頃合いを見計らって、びっくり水を入れる事でしわの発生を抑える作業があるからだ。
会話に集中していると、タイミングを逃してしまう可能性がある。
その辺は、作業中の話しかけ禁止と同じだな。
尚、びっくり水でしわの発生が抑えられるのは、水による冷却で皮が縮むことによるものだ。
びっくり水を入れるタイミングはカンコツ作業となるので、黒豆を煮る作業標準書を作るとすると表現が面倒だな。
前世なら温度センサーやタイマーで管理していただろうか。
びっくり水を入れ終えて、今日の俺の作業は終了したが、完成まではまだまだ時間がかかる。
俺はこれからのことをティーノにお願いした。
「ここから五日ほど作業があるからよろしくね」
「わかったよ」
これがティーノの店を選んだ理由だ。
常に煮続けるので、厨房で監視してくれる人が必要なのだ。
煮るのは三日間程度で、そこからは砂糖水に浸して甘さを味付けする。
砂糖水もいきなり狙った甘さのものに浸すわけにはいかない。
濃い砂糖水にいきなり浸すと、浸透圧の関係で豆の水分が外に出て、皮にしわがよってしまう。
だから、薄い砂糖水から徐々に濃いものに徐々に浸け込んでいくのだ。
その他にも空気に触れたらしわになるし、冷やし方が急でもしわになる。
かなり手間のかかる料理なんだよな。
簡単にスーパーで購入できた前世が懐かしい。
そして五日後。
オーリスと一緒にティーノの店を訪れる。
俺一人でも良かったのだが、新しい料理を内緒で食べると後が怖いので、今回はオーリスにも同行してもらった。
「上品な甘さですわね」
皿の上に並べられた黒豆を、フォークで突き刺して口に運ぶと、オーリスの顔がほころんだ。
やはり甘いものは好きなようだ。
俺も一つフォークで取って口に運ぶ。
「やっぱりこれだよな」
前世で食べた物をほぼ完ぺきに再現出来た。
砂糖の種類が違うから、そのせいで甘みが少し違うが、それ以外は全く同じ出来栄えだ。
「これは甘くておいしいうえに、見た目も綺麗な黒になるのね」
メガーヌも一緒に品評に加わっている。
彼女は既に五つ目の黒豆を口に運んだ後だ。
「アルト、他の色も出来るのかな?」
ティーノは黒以外の色も着色して、料理に幅を持たせたいようだ。
「緑青をふいた銅を入れたら緑になると思うよ」
「緑青って毒じゃないのか!?」
「いや、そんなことはないぞ」
ティーノは緑青が毒だと思っているようだ。
昭和か!
確かに昔は緑青は毒なので、口に入れてはいけないと言われてきたが、そんなエビデンスは無い。
ただ、銅製品で緑青が出ている奴は不良だ。
簡単に酸化するので、素手で触るのは禁止だな。
梱包時に素手で触った銅板が、トラックへの積み込み時に酸化していたなんてのもあったな。
指紋がくっきりと残っていた。
何してくれてんのよ。
その他にも、ロウ付けで使った銅が緑青ふいてくれたりもしたね。
フラックスが酸素を吸収するんじゃないのか?
いいです、もう諦めました。
錆び無き事って図面にあるから、そうするしかないのですが、銅はなあ……
おっと、緑青による着色の件だったな。
とある野菜の漬物は、色鮮やかな緑を出すために、緑青びっしりの銅板と一緒に漬け込んでいたとか聞いたぞ。
それを体に悪いと攻撃していた組織があったが、残念ながらエビデンスは無かったな。
昔から言われているからっていうのが最大の理由だった。
それでいいのか?
まあ、金属イオンの過剰摂取は体に何らかの害はあるだろうから、過剰摂取はいかんよな。
それでも過剰ならというところだ。
海藻だって重金属が含まれているが、中毒になるほど摂取する前に、多分胃袋が破裂して死ぬと思う。
そんなもんですよ。
「そうなんだ。じゃあ他の金属と併せていろんな色を着色出来るか試してみたいな」
ティーノには協力してもらった恩があるので、鉄、銅、ニッケル、クロム、コバルト、モリブデン、金、銀、プラチナ、アルミの金属片をスキルで作って渡した。
まあ、あんまり金属を摂取するのは気持ちのいいものではないので、しばらくはこの店には近寄りたくはないな。
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銅の加工は難しく、錆びも発生しやすいので扱いたくないですね。
あと、材料の単価が高いので、不良を作ったときのダメージがでかい。
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