冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
365 / 439

第364話 国勢調査の回答に困る

しおりを挟む
「時代は聖女」

「「はあ?」」

 唐突に聖女と言い出したグレイスに、俺とオッティは露骨に嫌な顔をしてやった。
 今はいつものようにティーノの店で転生者の会食をしている。
 ワインを飲んで出来上がってしまったグレイスは聖女になりたいと言い出したのだが、これは酔っぱらいの戯言だろうか?

「聖女の奇跡で人々から崇められ、イケメンの王子達が私を巡って奪い合いをするのよ」

「俺は自分で勇者や賢者、聖女って言う奴は信用しないことにしているんだ。それって職業?」

 俺はグレイスをまっすぐにみると、そう言ってやった。

「そうよ。ゲームではみんなそういう職業じゃない」

「ゲームの中だけだろ。勇者ってなんだ?勇が有るものの事か?賢者って自分で賢いって言ってる時点で残念な人だろ。無知の知って知ってるか?知らないのに知っていると思い込んでいるだけでも笑い者なのに、さらに自分は賢いって言っちゃってるぞ。聖女にしても自ら聖であるとかなあ。神の奇跡とか使えるんだろうけど、そう名乗る奴は壺を売ってくるのが殆どだと思うんだ」

「なによ!印鑑ならいいの?」

「そういう問題じゃない」

 グレイスの反論は子供のそれだな。
 壺か印鑑かが重要な訳じゃないぞ。

「アルトの品質管理だって職業と言えるの?」

「品質管理はどこの会社だってあるだろ。部門の呼び名は様々だけど」

「じゃあ、なんで国勢調査や職業のアンケートで毎回悩むのよ。そもそも事務職か技術職かの線引きも曖昧じゃない」

「何故その秘密を」

「この前酔っぱらって愚痴っていたわよ」

 なんとそんなことが。
 異世界に転生したから、国勢調査はやらなくてよいのだが、酒が昔の事を思い出させたのか。
 またひとつ、ろくでもない過去を晒してしまった。
 職業アンケートについては、事務職と技術職の区分があるが、品質管理はどちらになるのか例にも出てこない。
 設計や生産技術は技術職だし、生産管理は事務職なんだろうけど、品管って中途半端なんだよな。
 測定器を扱う専門的な技術も必要だけど、文書作成がメインの品管だって同じ部署にいる。
 両方に首や足を突っ込んでいると、その線引きがわからない。
 俺がまた答えの出ない前世の事を考えていると、オッティが余計なことを口走った。

「聖女になるもなにも、悪役令嬢があるだろ」

 オッティがそう言うと、グレイスはキッと睨んだ。
 睨んだだけで人が殺せそうな勢いだ。

「そうよ。でも、その役割でキャラが立ってないじゃないじゃない。悪役令嬢が追放されて、そこから現代知識を使った内政チートが王道なのに、そういう描かれ方してないのよ!」

 バンバンとテーブルを叩くグレイス。
 ティーノに迷惑がかかるからやめてほしい。
 ほら、メガーヌが心配して見に来たぞ。
 心配っていうのは、店の物を壊されないかの心配だけどな。

「今となっては、他の異世界転生作品が化粧品をバンバン投入しているけど、その容器どうやって作って品質管理しているんだよっていうのを言いたかっただけとか告白しづらいと天啓があった」

「はあ?その為だけだっていうの」

 どうにもそうらしいな。
 一応内政チートみたいな感じにはなってはいるが、それは全部オッティのスキルによるものだ。

「あ、別の世界線で聖女枠が空いてるみたい」

「別の世界線?」

 聞き返してきたグレイスに頷いて見せた。

「そこでは俺はスターレットと付き合っていて、オーリスとは結婚しないらしい。そして、グレイスとは出会ってすらいないんだ。そこなら聖女枠が空いてるから、立候補するなら直ぐにでも成れるそうだぞ」

「じゃあ、それで」

 二つ返事でグレイスは聖女に立候補した。
 因みに、内容は全く考えてないし、今の時点で書くのかどうかもあやふやだ。

「それにしても、スターレットがメインヒロインとは、シルビアも可哀想ね。彼女がメインヒロインになることなんてあるのかしら?」

「あるとしたら、薄い本かな?」

「自費出版ね」

「紙になるだけ、ここよりも進んでいると考えることも……」

「どこで売るのよ?」

「コミケで」

「ジャンルは?」

「知人のサークルで委託しようかなと」

「あんたの本が壁サークルに並ぶの?笑い者よ」

「ですよねー」

「それに、当時最強のみ◯み美◯先生が挨拶に来たときにサークル主催者が不在で、サインの入った同人誌を預かったはいいけど、パクろうとしていたわよね」

「借りただけで……」

「借りパクする奴はみんなそうやって言うわよ」

「だって、当時『こみっくパーティー』で一世を風靡していた◯つ◯◯里先生だぞ。板垣作品で例えたらグレート巽位のランクだぞ」

「そこはグラップラーバキで例えなさいよ」

「じゃあ、現代に甦った宮本武蔵位のランクにしておくか」

「それでいいわ。で、あんたしかも当時童貞で女性と会話なんて出来ないから、テンパっちゃって取り巻きの人達にも本配ってたわよね」

「まあね……」

 ついでにいうと、サークル主催者が後でみつみ◯◯先生のところにサインをしに行ったりもしたのだが、もう異世界も品管も関係ないね。

「そんなわけで、シルビアは薄い本で二次元ドリームなんとかみたいなシチュエーションになる予定です!」



※作者の独り言
色々嘘です。
前の話が暗すぎたので、バランスを取ってみました。
職業アンケートで回答に困るのは本当です。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

処理中です...