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第380話 ボルトの緩みは気の緩み綺麗な寸法は心から
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「彼らについて調べたところ、実に興味深い結果となりましたわ」
「彼ら?」
夫婦の食卓、俺は目の前の愛妻から言われた彼らが誰を指すのかわからなかった。
なので、食事の手を止めてグレイスに訊ねる。
「ルーチェ、クレフ、シャンテ、この3人ですわ」
「ああ!」
言われて思い出したが、マンドラゴラの商人たちか。
「取り潰しになった男爵家を調べてみたら、ひとつだけしかありませんでした」
「じゃあそこか」
「ええ。ただ取り潰しになった理由は、一夜にして領地が消滅したからだと記録にありますわ。一夜にして消滅というのはにわかには信じらせませんが、国の記録であるならば本当なのでしょう。領地は更地になっており、領民の生存者はゼロ」
オーリスの話を聞いて疑問が浮かぶ。
「領民の生存者がいないのに、どうしてあの三人が生き残っているんだ?」
「それが疑問ですが、おそらくはルーチェの爆発を引き起こす能力で、爆心地にいた三人が助かったのではないかと」
確かに、ルーチェの能力は自分を起点としての爆発だ。
ただ、領地まるごと吹っ飛ばすとは、俺が見たスキルからは想像も出来ない。
「今までルーチェの領地は住民の移動が全く無かったみたいですわね。国家機密レベルの情報を確認したところ、あそこは古代魔法文明を築いた一族の末裔が住んでいるから、手を出すなと書いてありましたわ」
オーリスがさらりと怖いことを言う。
国家機密レベルの情報をどうやって確認したのだろうか?
「忍び込むのに苦労しましたわ」
俺は頭を抱えた。
捕まったらただじゃすまないだろ。
「というのは冗談ですが」
「オーリス、冗談がきついよ」
本当に冗談だよね?
「件の領地が部外者を受け入れなかったのは事実。そして、それは王国でも手出しできない理由があったのは間違いありませんの」
「じゃあ、領地が一夜にして更地になったというのは……」
「おそらく、外部からの侵攻に対しての防御措置。そして、今までその状態を認めていた王国が仕掛けるとは考えにくいので――」
「魔王軍か」
「ええ。おそらく、あの地にある秘密を察知して、魔王軍が攻め込んだと思われます」
古代魔法文明の子孫たちが守る土地にある何かだとすれば、戦況を一変させるような何かだろう。
古代魔法文明はその発達した魔法により、全世界を支配していたという。
エンシェントドラゴンすら使役していたと言われる文明だ。
一国を焼け野原にするくらいの事は朝飯前だろうな。
想像していたら背筋が冷たくなったので、一度暖かいコーヒーを飲んで落ち着く。
「今日のコーヒーはちょっと苦いな」
「豆がいつもの奴が切れてて、違う産地だと言ってましたわね」
「眠いときにはこっちの方がいいな」
眠くないときは、苦いので砂糖を入れたい。
「帰りにコーヒー豆を買ってきてくださいな」
「うん」
会話で止まっていた食事を済ませ、冒険者ギルドへと出勤する。
出勤途中にルーチェたちを見かけた。
彼女たちはデボネアの店に入っていく。
オーリスとの会話のせいで、彼女たちの動向が気になったので、俺もデボネアの店に入った。
「鋼鉄製のボルトねえ。重心が真ん中に来るようにと言われても、普通のボルトは鋳造だ。重心は出来なりじゃよ。それを手で研磨するとなると時間がかかるわな」
「ええ、それで構いません」
ルーチェがデボネアに鋼鉄の矢を注文していた。
クレフの持っているクロスボウで使うものだろうが、重心を真ん中に持ってくるのは至難の業だ。
なにせ、ボルトは消耗品なので、鋳型に溶かした鉄を流し込んで作っている。
当然、重心は真ん中にはこない。
手で研磨すると言っても、重心を確認しながら、丁寧に研磨することになるので、かなり手間がかかる。
そこまでして作った矢も、一度使えば曲がったりして使い物にならないだろう。
何故そんなに金を掛けるのか気になった。
「ちょっといいかな。どうしてそんなに矢にこだわるのか教えてほしいんだけど」
ルーチェにお願いすると、彼女は訳を教えてくれた。
「我が家の古い言い伝えに、『ボルトに気を遣え』というのがあります。なんでも、古代魔法文明が滅びたのは、魔力を供給する魔力炉の暴走だったとか。暴走を察知した当時の魔法使いが、兵士に命じて制御不能となった魔力炉のコアを射ぬこうとしたのですが、矢がまっすぐ飛ばなかった事から、子孫に同じ過ちを繰り返させないための言い伝えとなったのでしょう」
「そういうことでしたか。でも、どうして矢に気を遣えではなく、ボルトに気を遣えなんでしょうかね?暴走する魔力炉に矢ではなく、魔法を打ち込むんじゃダメだったんですか?魔力が供給されないから魔法が使えないなら、斧で破壊してもいいでしょうし」
俺の言葉にルーチェは言葉がつまる。
「あっ!」
そして、何かを思いだしてグーで握った右手を左手にポンと打ち付けた。
「もうひとつ伝わっている言い伝えに『ボルトのユルミは気の緩み』というものがありました。ユルミというのは何でしょうか?矢の種類?」
「ボルトをしらない?」
ルーチェはボルトを知らないようだ。
ボルトとは雄ネジの切ってある部品である。
六角形の頭をしており、スパナなどで回す六角ボルトや、頭の部分に六角形の穴があいている六角穴つきボルト、アイボルトなどがある。
ボルトの緩みは気の緩み、つまり魔力炉の暴走は炉のボルトが緩んでいたことによるものだろう。
前世の工場でも、金型の固定用のボルトを閉め忘れたがために、ロットアウトと金型破損を経験した事がある。
うっかりミスだけど、洒落になら無い結果をもたらしてくれる。
そして、転生してわかったことだが、この世界にはネジが無かった。
古代魔法文明では存在していたかもしれないが、文明が断絶してしまったため、ボルトが伝わって来ていないのだろう。
ルーチェがボルトを矢と勘違いするのも納得だ。
でもまさか、古代魔法文明が滅びた原因が、ボルトの緩みだったとはね――
※作者の独り言
ネジの緩みは必ず始業時に確認しようね。
「彼ら?」
夫婦の食卓、俺は目の前の愛妻から言われた彼らが誰を指すのかわからなかった。
なので、食事の手を止めてグレイスに訊ねる。
「ルーチェ、クレフ、シャンテ、この3人ですわ」
「ああ!」
言われて思い出したが、マンドラゴラの商人たちか。
「取り潰しになった男爵家を調べてみたら、ひとつだけしかありませんでした」
「じゃあそこか」
「ええ。ただ取り潰しになった理由は、一夜にして領地が消滅したからだと記録にありますわ。一夜にして消滅というのはにわかには信じらせませんが、国の記録であるならば本当なのでしょう。領地は更地になっており、領民の生存者はゼロ」
オーリスの話を聞いて疑問が浮かぶ。
「領民の生存者がいないのに、どうしてあの三人が生き残っているんだ?」
「それが疑問ですが、おそらくはルーチェの爆発を引き起こす能力で、爆心地にいた三人が助かったのではないかと」
確かに、ルーチェの能力は自分を起点としての爆発だ。
ただ、領地まるごと吹っ飛ばすとは、俺が見たスキルからは想像も出来ない。
「今までルーチェの領地は住民の移動が全く無かったみたいですわね。国家機密レベルの情報を確認したところ、あそこは古代魔法文明を築いた一族の末裔が住んでいるから、手を出すなと書いてありましたわ」
オーリスがさらりと怖いことを言う。
国家機密レベルの情報をどうやって確認したのだろうか?
「忍び込むのに苦労しましたわ」
俺は頭を抱えた。
捕まったらただじゃすまないだろ。
「というのは冗談ですが」
「オーリス、冗談がきついよ」
本当に冗談だよね?
「件の領地が部外者を受け入れなかったのは事実。そして、それは王国でも手出しできない理由があったのは間違いありませんの」
「じゃあ、領地が一夜にして更地になったというのは……」
「おそらく、外部からの侵攻に対しての防御措置。そして、今までその状態を認めていた王国が仕掛けるとは考えにくいので――」
「魔王軍か」
「ええ。おそらく、あの地にある秘密を察知して、魔王軍が攻め込んだと思われます」
古代魔法文明の子孫たちが守る土地にある何かだとすれば、戦況を一変させるような何かだろう。
古代魔法文明はその発達した魔法により、全世界を支配していたという。
エンシェントドラゴンすら使役していたと言われる文明だ。
一国を焼け野原にするくらいの事は朝飯前だろうな。
想像していたら背筋が冷たくなったので、一度暖かいコーヒーを飲んで落ち着く。
「今日のコーヒーはちょっと苦いな」
「豆がいつもの奴が切れてて、違う産地だと言ってましたわね」
「眠いときにはこっちの方がいいな」
眠くないときは、苦いので砂糖を入れたい。
「帰りにコーヒー豆を買ってきてくださいな」
「うん」
会話で止まっていた食事を済ませ、冒険者ギルドへと出勤する。
出勤途中にルーチェたちを見かけた。
彼女たちはデボネアの店に入っていく。
オーリスとの会話のせいで、彼女たちの動向が気になったので、俺もデボネアの店に入った。
「鋼鉄製のボルトねえ。重心が真ん中に来るようにと言われても、普通のボルトは鋳造だ。重心は出来なりじゃよ。それを手で研磨するとなると時間がかかるわな」
「ええ、それで構いません」
ルーチェがデボネアに鋼鉄の矢を注文していた。
クレフの持っているクロスボウで使うものだろうが、重心を真ん中に持ってくるのは至難の業だ。
なにせ、ボルトは消耗品なので、鋳型に溶かした鉄を流し込んで作っている。
当然、重心は真ん中にはこない。
手で研磨すると言っても、重心を確認しながら、丁寧に研磨することになるので、かなり手間がかかる。
そこまでして作った矢も、一度使えば曲がったりして使い物にならないだろう。
何故そんなに金を掛けるのか気になった。
「ちょっといいかな。どうしてそんなに矢にこだわるのか教えてほしいんだけど」
ルーチェにお願いすると、彼女は訳を教えてくれた。
「我が家の古い言い伝えに、『ボルトに気を遣え』というのがあります。なんでも、古代魔法文明が滅びたのは、魔力を供給する魔力炉の暴走だったとか。暴走を察知した当時の魔法使いが、兵士に命じて制御不能となった魔力炉のコアを射ぬこうとしたのですが、矢がまっすぐ飛ばなかった事から、子孫に同じ過ちを繰り返させないための言い伝えとなったのでしょう」
「そういうことでしたか。でも、どうして矢に気を遣えではなく、ボルトに気を遣えなんでしょうかね?暴走する魔力炉に矢ではなく、魔法を打ち込むんじゃダメだったんですか?魔力が供給されないから魔法が使えないなら、斧で破壊してもいいでしょうし」
俺の言葉にルーチェは言葉がつまる。
「あっ!」
そして、何かを思いだしてグーで握った右手を左手にポンと打ち付けた。
「もうひとつ伝わっている言い伝えに『ボルトのユルミは気の緩み』というものがありました。ユルミというのは何でしょうか?矢の種類?」
「ボルトをしらない?」
ルーチェはボルトを知らないようだ。
ボルトとは雄ネジの切ってある部品である。
六角形の頭をしており、スパナなどで回す六角ボルトや、頭の部分に六角形の穴があいている六角穴つきボルト、アイボルトなどがある。
ボルトの緩みは気の緩み、つまり魔力炉の暴走は炉のボルトが緩んでいたことによるものだろう。
前世の工場でも、金型の固定用のボルトを閉め忘れたがために、ロットアウトと金型破損を経験した事がある。
うっかりミスだけど、洒落になら無い結果をもたらしてくれる。
そして、転生してわかったことだが、この世界にはネジが無かった。
古代魔法文明では存在していたかもしれないが、文明が断絶してしまったため、ボルトが伝わって来ていないのだろう。
ルーチェがボルトを矢と勘違いするのも納得だ。
でもまさか、古代魔法文明が滅びた原因が、ボルトの緩みだったとはね――
※作者の独り言
ネジの緩みは必ず始業時に確認しようね。
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