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第407話 機密漏洩
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我々には守秘義務というものがありまして、職務上知り得た事をむやみに他人に伝えてはいけないのです。
なのでこの作品も100%フィクションなのですが、世の中にはそんな義務をゴミ箱に捨てちゃう人もいるようで、つい最近もどうやら炎上していたようですね。
火をつけたのは誰だよ。
皆さんも情報漏洩には気をつけましょうね。
それでは本編いってみましょう。
俺はオッティに呼ばれてグレイス領の賢者の学院に来ていた。
オッティが俺を呼んだ理由は、対魔王兵器の試作品が完成したからだというのだ。
「これが対魔王戦の切り札、『神殺しのハルバード』開発コードは65X03Cだ」
と彼は自慢げにハルバードを見せてくれた。
「対魔王の切り札なのに、神殺しっていう名前はいかがなものかと思うが……」
やれやれ、オッティのネーミングセンスの悪さは相変わらずだなと俺は苦笑した。
それに試作コードってなんだろう。
ちょっと気になったのでオッティに訊いてみた。
「開発コードといえば車両開発に付きものだろう。何をいまさら」
「だって、ここは車両開発なんてないだろう。どうしてそんなものが必要なんだよ」
「例えばロボットアニメの代表作のようなあれでも、開発計画に応じたコードが割り当てられているじゃないか。あのノリでやりたかったんだ」
それを聞いて納得した。
「それならば仕方がない」
俺は大きく頷いた。
開発コードが嫌いな男の子なんていないんですよ。
アニメに登場するロボットの開発コードを一生懸命覚えて、友達と話し合ったりした経験はみんな持っているはず。
俺は友達がいなかったからノートに書いていただけなんだけど。
前世辛い……
そんな俺の前世はさておき、開発コードは機密事項です。
特に車種と関連付けしてはいけないとなっております。
協力メーカーへの見積もりや発注の際にも、機密保持契約を締結してからでないとなりません。
究極のメニューを例にすれば、『KM-06、エイのエンガワのバターソース』なんてのをメールで送信しようものなら説教です。
究極のメニューに開発コードがあるかは知りませんけど。
これが帝都新聞にバレたらエライことですね。
しかも、漏らしたのが週刊タイムの編集部だったりしたら、編集部はまだ機密の取り扱いがキチッとしているけど、編集部を抱える出版社だったら。
この例えが伝わっているかとても不安です。
じゃあ例えるなって話なんですが。
ハルバードを手に持ったオッティは性能の説明をしはじめた。
「刃の部分が振動して物凄い切れ味になっているんだぞ」
「それって振動剣っていうやつだよね」
「そのとおり。超音波洗浄機を改造して作った代物だ」
「あれを改造したら振動剣になるの?」
「ファンタジーだからな」
超音波洗浄機っていうのはその名の通り超音波で製品を洗浄する装置だ。
一般的にはメガネの洗浄をする機械だと言えばわかってもらえるだろうか。
勿論工業用の機械もあって、ゴミやバリを除去するのに使用している。
付着したゴミどころか、バリも取れるのでその威力は強い。
どこぞの異世界転生小説のように、すぱすぱと切る事が出来るようなものではないんだけどね。
それをオッティのスキルで作り出したというわけだ。
どんな理屈でハルバードの刃に組み込んだのかはわからないが。
それに、
「普通はそういうのは剣でやるだろう」
と俺は疑問をオッティにぶつけた。
オッティはニヤリと笑う。
「ハルバードの方がリーチが長いだろ」
俺のことを素人と見下してくる。
扱いやすさは剣だと思うけどなあ。
ハルバードなんて勇者くらいしか使わないだろ、ただし石器時代のな。
ゼッフル粒子があれば銀河帝国時代でも使われますけど。
あれ?
ゼッフル粒子って引火性だから銃が使えない設定だと思ったんだけど、金属どうしがぶつかって火花が散っても引火しないのかな?
教えて、シェーンコップ。
話がだいぶそれました。
今ここで銀河の歴史を一ページめくる必要なんてないですね。
その後は試し斬りなんかをしたりしていたら夜になってしまった。
オッティが俺に夜のお誘いをしてくる。
恋人的な奴じゃなくてお酒ですけどね。
その仕草が昭和なんだけど、って二宮係長か!
わからない人は西部警察のオープニングをみてください。
あの頃の日産は凄く良かったですね。
勿論いまでも良いですけど。
…………………
「話がそれるから、さっさと行こうか」
「何故?」
俺の頭の中が見えていないオッティは不思議がったが、俺は無理やりに外に連れ出した。
夜のとばりが降りた街ではあるが、喧騒に包まれていた。
人が増えたお陰だな。
最初は500人くらいの領地だったのに、今では100倍くらいになっているんじゃないかな。
なにせ国中の失業者が集まってきたのだから。
当然その人口を期待した商売人も集まってきて、街はどんどん大きくなっていた。
当然のごとく酒場と風俗店もかなりの数になっている。
今回風俗店には行かないぞ、念のため。
で、そんな酒場の中でも静かな雰囲気の店に入る。
ここに居るのは冒険者のような粗野な連中ではなく、学者や役人のような頭脳で仕事をする人々だ。
体つきを見れば一目瞭然。
店内は低い仕切りがあって、席に座ってしまえば周囲の客は見えなくなる。
いかがわしい行為が行われる事も無く、落ち着いた雰囲気が嬉しい。
注文した酒と料理が来たので、それを口にしながらオッティと会話をしていると、近くの席から大声が聞こえてきた。
「酔っ払いか」
俺が顔をしかめると、オッティも同じようにした。
「全く、店の雰囲気をぶち壊しやがって」
「よし、オッティ俺が注意してくるよ」
そう言って席を立ちあがった俺はアイテムボックスから先ほどのハルバードを取り出した。
そんな俺の腕をオッティが掴んでグイっと引き寄せた。
「やめておけ、酔っぱらっているだろう」
「そんなことないってば」
そう言ったのだが、無理やり抑え込まれた。
「素面なのに店内でハルバードを振り回す奴はヤバイぞ。お前はそんな奴なのか?」
そう訊かれると首を横に振るしかなかった。
酔っていたようだな。
止めてもらわなかったら店を破壊していたかもしれん。
そんな感じでうるさいのを我慢するかとなったのだが、聞こえてきた会話の内容に俺とオッティは黙っていられなくなるのであった。
「対魔王の切り札、『神殺しのハルバード』65X03Cさえ完成すれば、超振動で魔王軍のモンスターも真っ二つだな」
「全くだ。これが月産200本の計画だ。これなら我々の勝利は間違いない」
という機密情報が大声で話されてたのである。
魔王軍に聞かれでもしたら、全力でここに攻め込んでくること間違いなし。
なにせ切り札を量産するわけなので、敵だったら見逃せるわけがない。
なんでそんなことを外で口にしているんだ。
いや、情報が漏れるのはこういった場所だからこそか。
天下の糸平こと田中平八が相場で勝てたのも、愛人のお倉がインサイダー情報を富貴楼でしいれたからである。
1881年(明治14年)、大隈重信が筆頭参議の座から突然追放されます。
追放したのは井上馨と伊藤博文で、富貴楼で計画は語られていたのだと思います。
なので、糸平はお倉を通じてこの政変を事前に知っていました。
そして松方正義が大蔵卿に就任すると、松方はインフレの原因を不換紙幣増発にあると断定し、緊縮財政を断行します。
これによりデフレとなって株価は下落に転じました。
糸平は売り方としてこの下落で資産を増やします。
因みに、糸平は銀相場で清国の商人に負けそうになって、贋金を証拠金として差し入れて後にそれがばれたりしました。
って、異世界相場列伝みたいな話になっちゃいましたね。
言いたいのは、酒の席では口が軽くなってしまい、誰が聞いているかわからないってことです。
「止めないとな」
「そうだな」
オッティが先に声の方へ向かった。
俺は後からついていく。
「あれ、所長じゃないですか」
相手はオッティの事を所長と呼んだ。
どうも顔見知りのようだな。
重要気密を知っているくらいだし当然か。
会話をしていたのは二人の若い男だった。
「お前ら、なんで機密情報をペラペラと喋ってるんだ。しかもここには関係者以外もいて、何処から魔王軍の耳に入るかわかったもんじゃないだろ」
オッティにそう言われて二人はしゅんとなる。
そして黙ってしまったので、俺が会話に加わった。
「守秘義務契約しているんだろう?」
「あっ」
俺の言葉に反応したのはオッティだった。
「あっ、てまさか?」
「契約してなかったわ」
まさかの事態だ。
計画違反じゃないなら、倫理的な部分で訴えかけるしかないじゃないか。
前世では、入社時に雇用契約とは別で守秘義務の契約書にサインさせられたぞ。
そして、この契約は生きている限り有効だ。
会社を辞めたからといって、守秘義務がなくなるわけではない。
それができたら、機密情報にふれた瞬間に会社を辞めてライバルメーカーに就職活動しちゃう奴が後をたたないだろう。
それをやっちゃったのがとある携帯電話会社なんですけど。
ついでに、海外の企業から高額でヘッドハンティングされた人が、再就職先の企業でっていうのはポスコが新日鐵(事件当時)の特許技術を他社にライセンス契約したのとかもありましたね。
今になってトヨタと日鐵の裁判になってますが。
そんな素敵な守秘義務があるのに、どういうわけか日経新聞には業績見通しが会社発表前に掲載されたり、TOB検討の記事が出たりしちゃうのよね。
誰が漏らしてるんだよ!
それに、自動車関連であれば、新車の開発情報なんていうのもポロリがある。
我々が最新の注意を払っているのに、そんな苦労を水泡に帰すような真似をされると腹が立ちますね。
何してくれちゃってるのと。
あ、リコールはみんな何となく雰囲気で感じ取るけど、具体的には発表まで教えてもらえないので、中々外に漏れることはありません。
新規開発に比べて関係する人が少ないせいでしょうかね?
いや、勿論リコールレベルの不具合を隠しているなんてことはなくて、単なる噂程度のことなんですけど。
不良を出すたびに市場への流出の可能性がない事を説明しておりますので大丈夫です。
それと、この物語はフィクションです。
さて、話を戻すとティア5くらいの小さな会社になると、社員との守秘義務契約がなかったりします。
本来はあるのでしょうが、書面になってなかったりして何処まで拘束力があるのかは疑問ですね。
ただし、ここは異世界。
ギアスの魔法で強制ができる。
「拷問にかけられても口を割らなくできるぞ」
「それは可哀想だろ」
俺の提案にオッティがドン引きした。
「だって、拷問するようなシチュエーションで、正直に喋ったところで魔王軍が開放してくれるわけ無いだろ」
「それもそうか」
そんなわけで二人にはギアスの魔法を使い、守秘義務違反が出来ないようにした。
ここで喋っていた事に関しては今回のギアスで勘弁してやることになった。
本当ならもっと厳しい処罰が下ってもおかしくないので感謝してもらいたい。
翌日からはグレイスの依頼で、賢者の学院の研究者にギアスを使うことになった。
勿論、論文などで発表する分には問題ない。
このへん、魔法がうまく自動で調整してくれるらしいので、何があっても俺に責任はない。
「そういえばは、内部通報どうするんだ?」
ふと気になってオッティに聞いてみた。
「そんな奴は死ねばいい」
「ああ、そうだな」
あまりにも清々しい断言だったので頷くしかなかった。
まあ、内部通報した奴は地獄の底まで追いかけますよ。
※作者の独り言
この物語はフィクションです。
なのでこの作品も100%フィクションなのですが、世の中にはそんな義務をゴミ箱に捨てちゃう人もいるようで、つい最近もどうやら炎上していたようですね。
火をつけたのは誰だよ。
皆さんも情報漏洩には気をつけましょうね。
それでは本編いってみましょう。
俺はオッティに呼ばれてグレイス領の賢者の学院に来ていた。
オッティが俺を呼んだ理由は、対魔王兵器の試作品が完成したからだというのだ。
「これが対魔王戦の切り札、『神殺しのハルバード』開発コードは65X03Cだ」
と彼は自慢げにハルバードを見せてくれた。
「対魔王の切り札なのに、神殺しっていう名前はいかがなものかと思うが……」
やれやれ、オッティのネーミングセンスの悪さは相変わらずだなと俺は苦笑した。
それに試作コードってなんだろう。
ちょっと気になったのでオッティに訊いてみた。
「開発コードといえば車両開発に付きものだろう。何をいまさら」
「だって、ここは車両開発なんてないだろう。どうしてそんなものが必要なんだよ」
「例えばロボットアニメの代表作のようなあれでも、開発計画に応じたコードが割り当てられているじゃないか。あのノリでやりたかったんだ」
それを聞いて納得した。
「それならば仕方がない」
俺は大きく頷いた。
開発コードが嫌いな男の子なんていないんですよ。
アニメに登場するロボットの開発コードを一生懸命覚えて、友達と話し合ったりした経験はみんな持っているはず。
俺は友達がいなかったからノートに書いていただけなんだけど。
前世辛い……
そんな俺の前世はさておき、開発コードは機密事項です。
特に車種と関連付けしてはいけないとなっております。
協力メーカーへの見積もりや発注の際にも、機密保持契約を締結してからでないとなりません。
究極のメニューを例にすれば、『KM-06、エイのエンガワのバターソース』なんてのをメールで送信しようものなら説教です。
究極のメニューに開発コードがあるかは知りませんけど。
これが帝都新聞にバレたらエライことですね。
しかも、漏らしたのが週刊タイムの編集部だったりしたら、編集部はまだ機密の取り扱いがキチッとしているけど、編集部を抱える出版社だったら。
この例えが伝わっているかとても不安です。
じゃあ例えるなって話なんですが。
ハルバードを手に持ったオッティは性能の説明をしはじめた。
「刃の部分が振動して物凄い切れ味になっているんだぞ」
「それって振動剣っていうやつだよね」
「そのとおり。超音波洗浄機を改造して作った代物だ」
「あれを改造したら振動剣になるの?」
「ファンタジーだからな」
超音波洗浄機っていうのはその名の通り超音波で製品を洗浄する装置だ。
一般的にはメガネの洗浄をする機械だと言えばわかってもらえるだろうか。
勿論工業用の機械もあって、ゴミやバリを除去するのに使用している。
付着したゴミどころか、バリも取れるのでその威力は強い。
どこぞの異世界転生小説のように、すぱすぱと切る事が出来るようなものではないんだけどね。
それをオッティのスキルで作り出したというわけだ。
どんな理屈でハルバードの刃に組み込んだのかはわからないが。
それに、
「普通はそういうのは剣でやるだろう」
と俺は疑問をオッティにぶつけた。
オッティはニヤリと笑う。
「ハルバードの方がリーチが長いだろ」
俺のことを素人と見下してくる。
扱いやすさは剣だと思うけどなあ。
ハルバードなんて勇者くらいしか使わないだろ、ただし石器時代のな。
ゼッフル粒子があれば銀河帝国時代でも使われますけど。
あれ?
ゼッフル粒子って引火性だから銃が使えない設定だと思ったんだけど、金属どうしがぶつかって火花が散っても引火しないのかな?
教えて、シェーンコップ。
話がだいぶそれました。
今ここで銀河の歴史を一ページめくる必要なんてないですね。
その後は試し斬りなんかをしたりしていたら夜になってしまった。
オッティが俺に夜のお誘いをしてくる。
恋人的な奴じゃなくてお酒ですけどね。
その仕草が昭和なんだけど、って二宮係長か!
わからない人は西部警察のオープニングをみてください。
あの頃の日産は凄く良かったですね。
勿論いまでも良いですけど。
…………………
「話がそれるから、さっさと行こうか」
「何故?」
俺の頭の中が見えていないオッティは不思議がったが、俺は無理やりに外に連れ出した。
夜のとばりが降りた街ではあるが、喧騒に包まれていた。
人が増えたお陰だな。
最初は500人くらいの領地だったのに、今では100倍くらいになっているんじゃないかな。
なにせ国中の失業者が集まってきたのだから。
当然その人口を期待した商売人も集まってきて、街はどんどん大きくなっていた。
当然のごとく酒場と風俗店もかなりの数になっている。
今回風俗店には行かないぞ、念のため。
で、そんな酒場の中でも静かな雰囲気の店に入る。
ここに居るのは冒険者のような粗野な連中ではなく、学者や役人のような頭脳で仕事をする人々だ。
体つきを見れば一目瞭然。
店内は低い仕切りがあって、席に座ってしまえば周囲の客は見えなくなる。
いかがわしい行為が行われる事も無く、落ち着いた雰囲気が嬉しい。
注文した酒と料理が来たので、それを口にしながらオッティと会話をしていると、近くの席から大声が聞こえてきた。
「酔っ払いか」
俺が顔をしかめると、オッティも同じようにした。
「全く、店の雰囲気をぶち壊しやがって」
「よし、オッティ俺が注意してくるよ」
そう言って席を立ちあがった俺はアイテムボックスから先ほどのハルバードを取り出した。
そんな俺の腕をオッティが掴んでグイっと引き寄せた。
「やめておけ、酔っぱらっているだろう」
「そんなことないってば」
そう言ったのだが、無理やり抑え込まれた。
「素面なのに店内でハルバードを振り回す奴はヤバイぞ。お前はそんな奴なのか?」
そう訊かれると首を横に振るしかなかった。
酔っていたようだな。
止めてもらわなかったら店を破壊していたかもしれん。
そんな感じでうるさいのを我慢するかとなったのだが、聞こえてきた会話の内容に俺とオッティは黙っていられなくなるのであった。
「対魔王の切り札、『神殺しのハルバード』65X03Cさえ完成すれば、超振動で魔王軍のモンスターも真っ二つだな」
「全くだ。これが月産200本の計画だ。これなら我々の勝利は間違いない」
という機密情報が大声で話されてたのである。
魔王軍に聞かれでもしたら、全力でここに攻め込んでくること間違いなし。
なにせ切り札を量産するわけなので、敵だったら見逃せるわけがない。
なんでそんなことを外で口にしているんだ。
いや、情報が漏れるのはこういった場所だからこそか。
天下の糸平こと田中平八が相場で勝てたのも、愛人のお倉がインサイダー情報を富貴楼でしいれたからである。
1881年(明治14年)、大隈重信が筆頭参議の座から突然追放されます。
追放したのは井上馨と伊藤博文で、富貴楼で計画は語られていたのだと思います。
なので、糸平はお倉を通じてこの政変を事前に知っていました。
そして松方正義が大蔵卿に就任すると、松方はインフレの原因を不換紙幣増発にあると断定し、緊縮財政を断行します。
これによりデフレとなって株価は下落に転じました。
糸平は売り方としてこの下落で資産を増やします。
因みに、糸平は銀相場で清国の商人に負けそうになって、贋金を証拠金として差し入れて後にそれがばれたりしました。
って、異世界相場列伝みたいな話になっちゃいましたね。
言いたいのは、酒の席では口が軽くなってしまい、誰が聞いているかわからないってことです。
「止めないとな」
「そうだな」
オッティが先に声の方へ向かった。
俺は後からついていく。
「あれ、所長じゃないですか」
相手はオッティの事を所長と呼んだ。
どうも顔見知りのようだな。
重要気密を知っているくらいだし当然か。
会話をしていたのは二人の若い男だった。
「お前ら、なんで機密情報をペラペラと喋ってるんだ。しかもここには関係者以外もいて、何処から魔王軍の耳に入るかわかったもんじゃないだろ」
オッティにそう言われて二人はしゅんとなる。
そして黙ってしまったので、俺が会話に加わった。
「守秘義務契約しているんだろう?」
「あっ」
俺の言葉に反応したのはオッティだった。
「あっ、てまさか?」
「契約してなかったわ」
まさかの事態だ。
計画違反じゃないなら、倫理的な部分で訴えかけるしかないじゃないか。
前世では、入社時に雇用契約とは別で守秘義務の契約書にサインさせられたぞ。
そして、この契約は生きている限り有効だ。
会社を辞めたからといって、守秘義務がなくなるわけではない。
それができたら、機密情報にふれた瞬間に会社を辞めてライバルメーカーに就職活動しちゃう奴が後をたたないだろう。
それをやっちゃったのがとある携帯電話会社なんですけど。
ついでに、海外の企業から高額でヘッドハンティングされた人が、再就職先の企業でっていうのはポスコが新日鐵(事件当時)の特許技術を他社にライセンス契約したのとかもありましたね。
今になってトヨタと日鐵の裁判になってますが。
そんな素敵な守秘義務があるのに、どういうわけか日経新聞には業績見通しが会社発表前に掲載されたり、TOB検討の記事が出たりしちゃうのよね。
誰が漏らしてるんだよ!
それに、自動車関連であれば、新車の開発情報なんていうのもポロリがある。
我々が最新の注意を払っているのに、そんな苦労を水泡に帰すような真似をされると腹が立ちますね。
何してくれちゃってるのと。
あ、リコールはみんな何となく雰囲気で感じ取るけど、具体的には発表まで教えてもらえないので、中々外に漏れることはありません。
新規開発に比べて関係する人が少ないせいでしょうかね?
いや、勿論リコールレベルの不具合を隠しているなんてことはなくて、単なる噂程度のことなんですけど。
不良を出すたびに市場への流出の可能性がない事を説明しておりますので大丈夫です。
それと、この物語はフィクションです。
さて、話を戻すとティア5くらいの小さな会社になると、社員との守秘義務契約がなかったりします。
本来はあるのでしょうが、書面になってなかったりして何処まで拘束力があるのかは疑問ですね。
ただし、ここは異世界。
ギアスの魔法で強制ができる。
「拷問にかけられても口を割らなくできるぞ」
「それは可哀想だろ」
俺の提案にオッティがドン引きした。
「だって、拷問するようなシチュエーションで、正直に喋ったところで魔王軍が開放してくれるわけ無いだろ」
「それもそうか」
そんなわけで二人にはギアスの魔法を使い、守秘義務違反が出来ないようにした。
ここで喋っていた事に関しては今回のギアスで勘弁してやることになった。
本当ならもっと厳しい処罰が下ってもおかしくないので感謝してもらいたい。
翌日からはグレイスの依頼で、賢者の学院の研究者にギアスを使うことになった。
勿論、論文などで発表する分には問題ない。
このへん、魔法がうまく自動で調整してくれるらしいので、何があっても俺に責任はない。
「そういえばは、内部通報どうするんだ?」
ふと気になってオッティに聞いてみた。
「そんな奴は死ねばいい」
「ああ、そうだな」
あまりにも清々しい断言だったので頷くしかなかった。
まあ、内部通報した奴は地獄の底まで追いかけますよ。
※作者の独り言
この物語はフィクションです。
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