冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
419 / 439

第418話 久しぶり

しおりを挟む
世間の皆様もニュースになったのでご存知かとは思いますが、色々とあって長期で車の生産が止まっている会社があるので、今年のゴールデンウィークはとても長いです。
どこに出かけようかという計画、通称「GW計画」に頭を悩ませていますが、GR計画を思い出して脱線してしまったりしますね。
孔明さんの次の作戦が見たいです。
いや、そうではなくて、例年長期休暇後には久しぶりの生産となるので、作業者の作業がルール通りなのかを確認してくださいなどというチェックシートが存在するのですが、まあ殆どのライン管理者はOKって書くだけですね。
勿論確認なんかしてません。
今年は人員不足の影響で、管理者がライン作業をしていたりと地獄の様相を呈していたりするのですが、勿論お客様には内緒です。
久しぶりの生産なのは、お前らが内示通りに注文を出さないからだぞ、オラっ!
それでは本編いってみましょう。


 今はシルビアと一緒に迷宮内のパトロールをしている。
 これは冒険者の異常作業の監視が目的だ。
 自分達のレベル以上の階層に挑んでいないか、トレインを発生させていないかなどを監視して、時にはその場で指導をしている。
 鉄拳制裁を指導と呼べるのはありがたい。
 やはり人類は拳で語る生き物なのだから。
 ま、今日はそんな熱血指導はしなくて済んでいるけど。

「手持ち無沙汰ね。折角の熱血指導したい気持ちがオイルレベルゲージの上限を突破してしまいそうよ」

 シルビアが右手をぐっと握りしめる。
 気持ちはオイルレベルゲージで測定出来るのだと初めて知った。
 上限を突破した場合はどうするのだろうか?

「ほら、当て事と越中ふんどしは向こうから外れるって言うじゃない」

「越中ふんどしが何かは知らないけど、今アルトを猛烈に殴りたいわ」

「オーリスが妬くから勘弁してよ」

 勿論嘘だ。
 そんなやきもちはない。

「嫉妬に狂うオーリスを見たいから、今からアルトを殴るわ」

 とシルビアがこちらに殴りかかろうとしたとき、シルビアよりも強い殺意が飛んできた。

「おわっ」

 首をひねって飛来するナイフを躱した。
 いままで俺の顔があったところをナイフが通過する。
 その刃は真っ黒であり、毒が塗ってあるのがわかった。

「逃がすか!」

 ナイフの飛んできた方にシルビアが脱兎のごとく、いやネコ科の猛獣の如き勢いで走り出した。
 そして逃げようとしていた相手の背中に蹴りを一撃。

「ぐえっ」

 蹴られた相手は地面につっぷした。

「殺した?」

「手加減はしたわよ。背骨が粉々になるくらいでね」

 自信満々に言うシルビアには、手加減の意味を教えてやる必要があるな。
 まあ、手加減などという曖昧な表現が良くないのか。
 相手を手加減して蹴る場合の運動エネルギーを数値で表現するべきだな、品管としては。

 俺は倒れている襲撃者に近寄った。

「ミンチよりひでえ、って程でもないか」

 息はある。

「嘘だと言ってよルーミー」

 シルビアがボケる。

「ちょっと違う」

「あそこが燃えて生産停止になったお陰で色々あったのよ」

「あ、はい」

 倒れている襲撃者は中年の男だ。
 ナイフの投擲をみるとそれなりの技術をもってはいるが、殺気を出したのは失敗だったな。
 ダメージを少し回復させて会話が出来るようにする。
 勿論結束バンドで拘束はさせてもらうが。
 後ろ手にして親指同士を結べば簡単だ。
 言うこと聞かない作業者もこれで折檻……、したりはしないよ!

「うっ」

「意識が戻ったか。何で俺を襲った?」

 俺は男に訊ねた。

「クッ、殺せ」

「いや、男に言われても困る」

「エロい展開ではなく、俺が襲撃に失敗した挙げ句、生き残ったとなったら娘の命が危ない」

「何だそれは?」

 事情が変わった。
 測定室作成スキルで外から見えない部屋を作り出し、そこで改めて尋問する。
 ここは異世界のグアンタナモ!
 安全なんとか委員会に怒られそうなのでこの辺で止めておきます。

 俺は男に再び尋問を開始した。

「さて、どうして俺を狙った?」

「娘を誘拐されて、解放する条件としてあんたの暗殺を引き受けたんだ」

「娘が人質か。事情はわかるが、随分と手慣れていたな」

「昔とった杵柄だよ。ただ、子供ができてからは足を洗って真っ当に生きてきた」

「それでか」

「何がだ?」

 男は俺が納得したことが不思議なようだった。

「ナイフを投擲するとき殺意を剥き出しにしたろう。手慣れている感じはしなかったが、それでもナイフの軌道は俺の眉間にまっすぐに向かってきた。その技術のアンバランスさが不思議だったのさ。久し振りの仕事なら納得だよ」

「腕がなまったか」

「ま、そういうことだ」

 どんなになれた作業者でも久しぶりの生産ならば、今までと同じように作業が出来るのかを確認しなければならない。
 過去の流出不良から出た答えである。
 どうしても勘やこつに頼った部分があり、そういうところが不良に繋がる。
 長期連休などを経て生産を再開する場合には要注意なのだ。
 たとえそれが何人もの命を奪ってきた暗殺者だとしてもな。

 訊問がひと段落すると、シルビアが呼びかけてくる。

「アルト」

「何でしょうか?」

「以前マトリックスが登場した回でも同じようなシチュエーションだったわよね」

「あ、はい」

 そりゃあたまには被る事もあるじゃない。
 今回の黒幕はバネットかな?

 さて、シルビアのツッコミは於いておこう。
 俺は男に向き直る。

「お前のミスは久しぶり作業において、過去と同じ事が出来るのかの確認を怠った事だ」

「次があればそうするよ。しかしそれは無理そうだ。そうだ、冒険者ギルドに依頼を出したい。娘を救い出してくれ。報酬は俺の命でどうだ?」

「貰っても困るような報酬は勘弁だな。しかし、俺の命を狙った奴は地の果てまでも追い詰めて、再発防止対策書を書かせなければならない。娘さんの救出はそのついでだな」

 そして俺は男を測定室に残して、シルビアと一緒に子供の救出へと向かうのであった。


※作者の独り言
自動車メーカー休み長すぎ問題。
前らのゴールデンウィークどんだけやねん!
というか、一部車種は夏休みまで繋がってしまいそうで、大学時代のモラトリアムを謳歌するワイ状態やんけ。
生産再開されると久しぶり作業の観察がいっぺんにくるので、ライン管理者がパンクする。
そして、適当なことをされて不良が流出するというのが予測できる。
占い師よりも当たると思います。
久しぶり作業にならないように2週間に一度だけ、ごく少数のみ生産するというルールの隙間をつくような事をしたりもしていますが、流石に生産再開未定の車種はなあ。
どことは言いませんけど!
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...