430 / 439
第429話 真円を除く時、真円もまたこちらを除いているのだ 前編
しおりを挟む
ある日の午後、いつものように冒険者ギルドの自分の席で眠気と戦っていると、そこに相談者がやってきた。
俺はこの眠気と戦うためのアイテムを使ってみる事にした。
「アルト、相談に乗って欲しいんだけど」
そう言ってきたのはホーマーだった。
「よござんすよ」
「よござんすよ?」
ちょっと勢い余って滑ったが、それは気にせずホーマーの相談とやらを聞く。
「それで、何があったんだい?」
「実はアルトに聞いた銃ってやつを作ってみようと思って、パイプで銃身を作って、それに弾丸と火薬も準備したんだけど、弾丸がセット出来ないんだよ」
「ご時世柄、非常に扱いにくい話題だけどとりあえず話を続けてくれないか」
後にこの会話が削除されるかもしれないと思いながらも、俺はホーマーに続きを話すように促した。
「銃口から火薬と弾丸を入れる仕様にしたんだけど、火薬はいいんだけど弾丸は銃口の寸法に合わせたのに、奥まで入っていかないんだ。途中でつっかえているのはわかっているから、電縫部のビードを何度も綺麗にカットしてみたんだけど、それでも駄目なんだ」
「なるほど。なんとなく原因はわかったけど、実物を見てみない事にはなんとも言えないなあ」
「そう言うと思って持って来てあるんだ」
ホーマーはそう言うと背負い袋を外して、飛び出している長い棒状のものの梱包をといた。
街中で銃を持ち歩くとは危ない奴、と思ったけどよくよく考えたら剣だの弓矢だのを持ちあるっている冒険者がごろごろいるので今更か。
ホーマーから銃を受け取ると、早速銃口のなかを覗こうと思ったが、万が一弾丸が入っていると危ないと気づいてすんでのところで止まった。
「慣れない工程に行くと怪我をするってのは基本だったな。どこが危ないのか知らない人間は、危険な場所と知らずに怪我をするってのは何度も見てきたことなのに、基本を忘れていたよ」
「流石に弾丸と火薬を入れた状態で持ち歩かないって」
とホーマーは言うが、その流石にが何度もあるので世の中の事故は無くならないのだ。
そこは注意しておくべきだな。
「そういった思い込みが事故に繋がるんだよ。確認は絶対にしなければだめなんだ。万が一俺が暴発で死んだら責任をとれないだろう?」
「それは確かに……」
ホーマーも納得したところで、あらためて弾丸と火薬の有無を確認して、銃身のなかに無かったので覗き込む。
銃身にはライフリングが施されていない状態で、いわゆる
「見た目にはなんの変哲もないパイプだね。つまりはそういうことだ」
と俺が結論付けるが、ホーマーはそれが理解できなかった。
理解できない不満から口吻をとがらせる。
「わかるように説明して欲しいんだけど」
「そうだねえ。パイプっていうのは丸いけど真円ではないんだ。外径にも内径にも歪みはある。それをどの程度まで許容できるかってのが公差になるんだよね。板を丸めて溶接するときにゆがみのない円をつくるなんて無理なのはわかるよね?」
「勿論だよ。出来るだけ丸くしようとはしているけど、どうやっても真円にはできない」
「それは電縫管じゃなくても同じだよ。表面の歪みがあるんだけど、ホーマーは今回弾丸を作る時に銃口の先端にあわせた寸法にしたんじゃないかな。それがあまりにもクリアランスがないから、途中で引っかかって奥までいかなかったんだ。弾丸を小さくすれば解決するんじゃないかな」
これは真円度の問題だな。
真円度とはどれだけ丸くすべきかという公差のことである。
内径の寸法に合わせて弾丸を作る時、どれだけ真円になっているかを考慮しないとならない。
図面でも真円度の公差を指定しているものがあるが、それは寸法公差のレンジだけでは足りないからそうなっているのだ。
例えば回転するシャフトなどでは、歪んだシャフトを使用すると径が公差内であったとしても、綺麗な回転運動とはならない。
そのため真円度の指定が必要になるわけだ。
まあ、円筒度とかもあるんですけど、それだとタイトルに使えないからここは真円度で押すよ!
「それだと爆発時のガスが逃げちゃうじゃない。威力が落ちちゃうよ」
「それなら火薬の量を増やせばいいんだよ。それかライフリング加工を施すかだけどね」
ライフリングの加工をするのであれば、旋盤があるから出来なくもないのだが、それを加工するための刃具の作成が難しいだろうな。
「火薬の量を増やしたら、パイプも板厚を厚くしないとならないじゃないか。それだと重たくなるよ」
「それならいっそ旋盤で内径を削るかい?それだとビビりを考えたら鉄パイプじゃなくて、鉄の丸棒の方がいいと思うけどね」
「うーん……」
その工法を採用するのであれば、ホーマーのパイプ作成という仕事が必要なくなってしまう。
それは流石に彼も承諾できないようだ。
「真円度なんて考えなくてもいいような構造に出来ないのかなあ」
とすがるようにこちらを見るホーマーに俺は首をふる。
「真円を除くとき、真円もまたこちらを除いているのだっていう言葉があってね。真円を無視した加工をしようとすれば、真円によって不具合が引き起こされるもんなんだよ」
って、ドゥーチェだかニーチェだかって人が言ってました。
確か、どこかの車両メーカーの設計者だったと思いますが、記憶が定かではありません。
「あとは、パイプの真円矯正かな。中にマンドレルを入れて外から叩いてあげれば真円はでるよ。その他にもパンチ成形ってのもあるけど、長さが長いと不向きなんだ」
真円矯正はリストライクとかいう言い方もされており、パイプをプレスして真円になるように再加工する方法だ。
パイプを曲げ加工したときに偏平するのだが、それだと組み付け時に問題になるので、元の丸い状態に戻してやるのだ。
パンチ成形はパンチと呼ばれるパイプ内側に入る金型と、外側を押さえる金型を使ってパイプを成形する工法である。
パイプの端部から成形していくのだが、パイプが長くなるとストロークも長くなるので加工時間が長くなる。
さらに、余っている材料を後方に押し込んでいくので、どこかでバリが発生したり歪みが発生したりする。
バリは無いようにしなくてはならないが、歪みは絶対に発生するので、問題ない場所にゆがみを作るように金型を設計する必要があるのだが、これが中々難しい。
金型の設計に失敗して材料を座屈させてしまった事が何度もあるのだ。
それと、油圧で動作させないといけないくらいの圧力が必要になる。
ステラでそれをやるとなると難しいだろうな。
あ、ハイドロもあったか。
どのみち金型の真円度が出てないと成り立たないんだけどな。
ちなみにJIS規格で作られているパイプだと、径の公差は大きいので、そのまま使おうとすると大変です。
金型に嵌め込もうとしても、ばらつきが大きすぎて嵌まらないのが出てくる程度には広い公差が設定されています。
±0.5mmっていったらレンジで1mmですからね。
そんなもん吸収できる金型や治具なんて無理無理。
まあ、立場上生産技術にはなんとかしろって言うんですけど、「じゃあお前がやってみろよ」って言われたら土下座しますね。
だって無理だもの。
そんなパイプを異世界でこれすげーって紹介しちゃっている作品見ると、後始末が大変ですよと生暖かい視線を送る事にしています。
余談ですが、パイプの曲げ加工をするのにどうやったら潰れないかっていうノウハウもないのに、パイプの使用方法とか語っちゃうの見るともうね。
とあるシャッターメーカーなんかも、シャッターのガイドレールをつくるノウハウって特殊なので、それを知らないとあのガイドレール作れないんですよね。
知ってはいるけど、コンプライアンスの関係でここで説明出来ないのが残念です。
話を元に戻すと、銃を作ったとしても銃身がまっすぐでないと、当然弾丸はまっすぐ飛びません。
鉄パイプやアルミパイプがあったからっていっても、それで命中精度の高いものをつくれるわけでもないので、ブドウ弾だのキャニスター弾だのみたいな散弾になるんじゃないでしょうか。
最近の事件で使われたのもそれでしたしね。
じゃあ銃として機能する真円度ってどのくらいなのかって言われたら答えられないんですけど。
「わかったよ、アルト」
ホーマーは拳をぐっと握る。
「何がわかったんだい?」
「俺、まっすぐなパイプを作ってみせる。ドワーフの名にかけて、必ずやってみせるよ」
「あ、うん。それは楽しみだね」
そう答えるのが精いっぱいだった。
パイプで真円を出すのは難しいから、造管時ではなくて後加工で真円になるようにしているのだが、ホーマーは敢えてその難しい方を選ぶのだという。
利益と効率を考えたらやらないほうがいいよと言いたいのはぐっと呑み込んだ。
「アルト、無駄な事をって思っているんでしょ?」
「ギクっ。よくわかったね」
ホーマーにジト目でみられてつい本音が出てしまう。
が、それでも彼は怒らなかった。
「実は好きな人が出来たんだ。だけど、彼女の父親から『ドワーフとして誰も成しえなかったことを成し遂げなければ結婚は認めない』って言われていてね。それで誰の力も借りずに銃をつくってみようと思ったんだ」
「やれやれそういうことか。それだとエッセに旋盤で加工してもらったりする訳にもいかないよなあ」
これは面倒なことになったなと、ホーマーの話を聞いて後頭部を指でかいた。
なにせ、ジョブが溶接工であるホーマーの特徴を活かそうと思えば、パイプは溶接で作る事になる。
それでいて真円度を出そうとすれば、それはドワーフといえども至難の業だろう。
そういえば、ホーマーはドワーフでもいままでいなかった溶接工のジョブだったな。
「なあ、ホーマー。相手のお父さんを説得するのに溶接っていう珍しいジョブじゃ駄目なのか?鉄の溶接が出来るなんてドワーフでもいないだろう?」
鉄などの金属の一部を溶かして溶接するというのは一般的ではなく、いまでも鉄や銅の接合についてはろう付けが行われている。
ならば溶接でいいんじゃないかと思った訳だ。
「単に溶接するだけじゃ技術って言えないよ。溶接したことで作られた道具が活かされてこそのジョブじゃないか。刀鍛冶が鍛造して終わりって訳じゃないようにね。鍛造したものが良く切れてこそ評価されるわけなんだから」
ホーマーに正論で返されて、それ以上は言えなくなった。
「大丈夫だよ、ドワーフの寿命は200年以上あるんだから。死ぬまでにはものにしてみせるさ」
ホーマーはそういって笑ってみせた。
俺にはそれにうっすらと空元気が混じっているような気がした。
後日、そんなに待てないと相手の女性が父親を説き伏せて結婚したと聞くことになる。
その情報を持ってきたのはオーリスだった。
午後のお茶の時にその事が話題に上がったのだ。
溶接っていうドワーフでも特殊なスキルに、父親がとても興味を示して是非とも婿にという話になったのだとか。
その相手の父親がオーリスと取引があって、義理の息子の自慢をしたのでわかったそうだ。
「真円がつくる合縁奇縁とかあるのかねえ」
カップに注がれたお茶を見ながら、そうつぶやいた。
※作者の独り言
本当は真円度の精度を出すための加工の話を入れる予定でしたが、どこまでが社外秘なのかわからなかったので一旦こんな感じで。
次で真円矯正の話を出来たらやりたい。
俺はこの眠気と戦うためのアイテムを使ってみる事にした。
「アルト、相談に乗って欲しいんだけど」
そう言ってきたのはホーマーだった。
「よござんすよ」
「よござんすよ?」
ちょっと勢い余って滑ったが、それは気にせずホーマーの相談とやらを聞く。
「それで、何があったんだい?」
「実はアルトに聞いた銃ってやつを作ってみようと思って、パイプで銃身を作って、それに弾丸と火薬も準備したんだけど、弾丸がセット出来ないんだよ」
「ご時世柄、非常に扱いにくい話題だけどとりあえず話を続けてくれないか」
後にこの会話が削除されるかもしれないと思いながらも、俺はホーマーに続きを話すように促した。
「銃口から火薬と弾丸を入れる仕様にしたんだけど、火薬はいいんだけど弾丸は銃口の寸法に合わせたのに、奥まで入っていかないんだ。途中でつっかえているのはわかっているから、電縫部のビードを何度も綺麗にカットしてみたんだけど、それでも駄目なんだ」
「なるほど。なんとなく原因はわかったけど、実物を見てみない事にはなんとも言えないなあ」
「そう言うと思って持って来てあるんだ」
ホーマーはそう言うと背負い袋を外して、飛び出している長い棒状のものの梱包をといた。
街中で銃を持ち歩くとは危ない奴、と思ったけどよくよく考えたら剣だの弓矢だのを持ちあるっている冒険者がごろごろいるので今更か。
ホーマーから銃を受け取ると、早速銃口のなかを覗こうと思ったが、万が一弾丸が入っていると危ないと気づいてすんでのところで止まった。
「慣れない工程に行くと怪我をするってのは基本だったな。どこが危ないのか知らない人間は、危険な場所と知らずに怪我をするってのは何度も見てきたことなのに、基本を忘れていたよ」
「流石に弾丸と火薬を入れた状態で持ち歩かないって」
とホーマーは言うが、その流石にが何度もあるので世の中の事故は無くならないのだ。
そこは注意しておくべきだな。
「そういった思い込みが事故に繋がるんだよ。確認は絶対にしなければだめなんだ。万が一俺が暴発で死んだら責任をとれないだろう?」
「それは確かに……」
ホーマーも納得したところで、あらためて弾丸と火薬の有無を確認して、銃身のなかに無かったので覗き込む。
銃身にはライフリングが施されていない状態で、いわゆる
「見た目にはなんの変哲もないパイプだね。つまりはそういうことだ」
と俺が結論付けるが、ホーマーはそれが理解できなかった。
理解できない不満から口吻をとがらせる。
「わかるように説明して欲しいんだけど」
「そうだねえ。パイプっていうのは丸いけど真円ではないんだ。外径にも内径にも歪みはある。それをどの程度まで許容できるかってのが公差になるんだよね。板を丸めて溶接するときにゆがみのない円をつくるなんて無理なのはわかるよね?」
「勿論だよ。出来るだけ丸くしようとはしているけど、どうやっても真円にはできない」
「それは電縫管じゃなくても同じだよ。表面の歪みがあるんだけど、ホーマーは今回弾丸を作る時に銃口の先端にあわせた寸法にしたんじゃないかな。それがあまりにもクリアランスがないから、途中で引っかかって奥までいかなかったんだ。弾丸を小さくすれば解決するんじゃないかな」
これは真円度の問題だな。
真円度とはどれだけ丸くすべきかという公差のことである。
内径の寸法に合わせて弾丸を作る時、どれだけ真円になっているかを考慮しないとならない。
図面でも真円度の公差を指定しているものがあるが、それは寸法公差のレンジだけでは足りないからそうなっているのだ。
例えば回転するシャフトなどでは、歪んだシャフトを使用すると径が公差内であったとしても、綺麗な回転運動とはならない。
そのため真円度の指定が必要になるわけだ。
まあ、円筒度とかもあるんですけど、それだとタイトルに使えないからここは真円度で押すよ!
「それだと爆発時のガスが逃げちゃうじゃない。威力が落ちちゃうよ」
「それなら火薬の量を増やせばいいんだよ。それかライフリング加工を施すかだけどね」
ライフリングの加工をするのであれば、旋盤があるから出来なくもないのだが、それを加工するための刃具の作成が難しいだろうな。
「火薬の量を増やしたら、パイプも板厚を厚くしないとならないじゃないか。それだと重たくなるよ」
「それならいっそ旋盤で内径を削るかい?それだとビビりを考えたら鉄パイプじゃなくて、鉄の丸棒の方がいいと思うけどね」
「うーん……」
その工法を採用するのであれば、ホーマーのパイプ作成という仕事が必要なくなってしまう。
それは流石に彼も承諾できないようだ。
「真円度なんて考えなくてもいいような構造に出来ないのかなあ」
とすがるようにこちらを見るホーマーに俺は首をふる。
「真円を除くとき、真円もまたこちらを除いているのだっていう言葉があってね。真円を無視した加工をしようとすれば、真円によって不具合が引き起こされるもんなんだよ」
って、ドゥーチェだかニーチェだかって人が言ってました。
確か、どこかの車両メーカーの設計者だったと思いますが、記憶が定かではありません。
「あとは、パイプの真円矯正かな。中にマンドレルを入れて外から叩いてあげれば真円はでるよ。その他にもパンチ成形ってのもあるけど、長さが長いと不向きなんだ」
真円矯正はリストライクとかいう言い方もされており、パイプをプレスして真円になるように再加工する方法だ。
パイプを曲げ加工したときに偏平するのだが、それだと組み付け時に問題になるので、元の丸い状態に戻してやるのだ。
パンチ成形はパンチと呼ばれるパイプ内側に入る金型と、外側を押さえる金型を使ってパイプを成形する工法である。
パイプの端部から成形していくのだが、パイプが長くなるとストロークも長くなるので加工時間が長くなる。
さらに、余っている材料を後方に押し込んでいくので、どこかでバリが発生したり歪みが発生したりする。
バリは無いようにしなくてはならないが、歪みは絶対に発生するので、問題ない場所にゆがみを作るように金型を設計する必要があるのだが、これが中々難しい。
金型の設計に失敗して材料を座屈させてしまった事が何度もあるのだ。
それと、油圧で動作させないといけないくらいの圧力が必要になる。
ステラでそれをやるとなると難しいだろうな。
あ、ハイドロもあったか。
どのみち金型の真円度が出てないと成り立たないんだけどな。
ちなみにJIS規格で作られているパイプだと、径の公差は大きいので、そのまま使おうとすると大変です。
金型に嵌め込もうとしても、ばらつきが大きすぎて嵌まらないのが出てくる程度には広い公差が設定されています。
±0.5mmっていったらレンジで1mmですからね。
そんなもん吸収できる金型や治具なんて無理無理。
まあ、立場上生産技術にはなんとかしろって言うんですけど、「じゃあお前がやってみろよ」って言われたら土下座しますね。
だって無理だもの。
そんなパイプを異世界でこれすげーって紹介しちゃっている作品見ると、後始末が大変ですよと生暖かい視線を送る事にしています。
余談ですが、パイプの曲げ加工をするのにどうやったら潰れないかっていうノウハウもないのに、パイプの使用方法とか語っちゃうの見るともうね。
とあるシャッターメーカーなんかも、シャッターのガイドレールをつくるノウハウって特殊なので、それを知らないとあのガイドレール作れないんですよね。
知ってはいるけど、コンプライアンスの関係でここで説明出来ないのが残念です。
話を元に戻すと、銃を作ったとしても銃身がまっすぐでないと、当然弾丸はまっすぐ飛びません。
鉄パイプやアルミパイプがあったからっていっても、それで命中精度の高いものをつくれるわけでもないので、ブドウ弾だのキャニスター弾だのみたいな散弾になるんじゃないでしょうか。
最近の事件で使われたのもそれでしたしね。
じゃあ銃として機能する真円度ってどのくらいなのかって言われたら答えられないんですけど。
「わかったよ、アルト」
ホーマーは拳をぐっと握る。
「何がわかったんだい?」
「俺、まっすぐなパイプを作ってみせる。ドワーフの名にかけて、必ずやってみせるよ」
「あ、うん。それは楽しみだね」
そう答えるのが精いっぱいだった。
パイプで真円を出すのは難しいから、造管時ではなくて後加工で真円になるようにしているのだが、ホーマーは敢えてその難しい方を選ぶのだという。
利益と効率を考えたらやらないほうがいいよと言いたいのはぐっと呑み込んだ。
「アルト、無駄な事をって思っているんでしょ?」
「ギクっ。よくわかったね」
ホーマーにジト目でみられてつい本音が出てしまう。
が、それでも彼は怒らなかった。
「実は好きな人が出来たんだ。だけど、彼女の父親から『ドワーフとして誰も成しえなかったことを成し遂げなければ結婚は認めない』って言われていてね。それで誰の力も借りずに銃をつくってみようと思ったんだ」
「やれやれそういうことか。それだとエッセに旋盤で加工してもらったりする訳にもいかないよなあ」
これは面倒なことになったなと、ホーマーの話を聞いて後頭部を指でかいた。
なにせ、ジョブが溶接工であるホーマーの特徴を活かそうと思えば、パイプは溶接で作る事になる。
それでいて真円度を出そうとすれば、それはドワーフといえども至難の業だろう。
そういえば、ホーマーはドワーフでもいままでいなかった溶接工のジョブだったな。
「なあ、ホーマー。相手のお父さんを説得するのに溶接っていう珍しいジョブじゃ駄目なのか?鉄の溶接が出来るなんてドワーフでもいないだろう?」
鉄などの金属の一部を溶かして溶接するというのは一般的ではなく、いまでも鉄や銅の接合についてはろう付けが行われている。
ならば溶接でいいんじゃないかと思った訳だ。
「単に溶接するだけじゃ技術って言えないよ。溶接したことで作られた道具が活かされてこそのジョブじゃないか。刀鍛冶が鍛造して終わりって訳じゃないようにね。鍛造したものが良く切れてこそ評価されるわけなんだから」
ホーマーに正論で返されて、それ以上は言えなくなった。
「大丈夫だよ、ドワーフの寿命は200年以上あるんだから。死ぬまでにはものにしてみせるさ」
ホーマーはそういって笑ってみせた。
俺にはそれにうっすらと空元気が混じっているような気がした。
後日、そんなに待てないと相手の女性が父親を説き伏せて結婚したと聞くことになる。
その情報を持ってきたのはオーリスだった。
午後のお茶の時にその事が話題に上がったのだ。
溶接っていうドワーフでも特殊なスキルに、父親がとても興味を示して是非とも婿にという話になったのだとか。
その相手の父親がオーリスと取引があって、義理の息子の自慢をしたのでわかったそうだ。
「真円がつくる合縁奇縁とかあるのかねえ」
カップに注がれたお茶を見ながら、そうつぶやいた。
※作者の独り言
本当は真円度の精度を出すための加工の話を入れる予定でしたが、どこまでが社外秘なのかわからなかったので一旦こんな感じで。
次で真円矯正の話を出来たらやりたい。
0
あなたにおすすめの小説
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる