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第430話 真円を除く時、真円もまたこちらを除いているのだ 中編
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「アルト、出来たよ」
エッセが冒険者ギルドにやってきた。
俺がお願いしていた金型が出来上がったのだ。
それを受け取るとできばえを確認することにした。
布で厳重に包まれたその金型は、円柱状のものとコップのように断面図にしたらU字状のものの組み合わせがいくつかある。
それと反対側で材料をクランプする金型だ。
こちらも半割になっていて、合わせる事でパイプをクランプすることが出来るようになっている。
こちらはなめらかではなく、むしろパイプが滑らないようにわざと波を打たせてある。
「磨きは完璧だし、真円度もいいね。硬度もHRCで測定限界を超える硬さとは、さすがアダマンタイト鋼で作っただけの事はある」
一通りスキルで鑑定するが、寸法も硬度も申し分ない。
アダマンタイトをここまで精密に加工するとは流石ドワーフだ。
なお、どんな刃物で削ったのかは企業秘密ということで俺には教えてくれなかった。
ただし、旋盤は既に何世代も進化しており、精度はかなり良くなってきている。
精度の良い旋盤を使って次世代の旋盤部品を作り出しているので、どんどん良くなっているのだ。
そして材料はいつものように、【ピンゲージ作成】スキルで調達している。
「満足してくれてよかったよ」
エッセはほっとした表情を見せた。
目の下にくまがあるので、睡眠時間を削って仕事をしたのであろう。
これは俺の趣味のようなはなしなので、そんなに無理な納期は要求していないし、なんなら納期を変更してもよかったのにと思ったが、それを言うとがっかりしそうなので素直に褒めておく。
「ステラ、いやこの国でもアダマンタイト鋼をここまで加工することが出来る職人はいないよ」
「それほどでもないよ」
とはいいながらも、まんざらでもないといった感じだ。
さて、俺がなんでこんな金型を用意したかと言うと、真円矯正をやってみようと思いついたからである。
勿論、ホーマーに言うと気を悪くするから、エッセにはホーマーにバレないようにと口止めを依頼してある。
真円を覗いてみたいと思ったが、そののぞき穴はホーマーとは別なのでね。
「あとはこれを使ってデボネアのところで試作をしてみることになるか」
「立ち会ってもいいかな?」
「勿論だよ。これ一発で真円が出来るとは思ってないからね。一緒に見てもらって金型の改造を相談したいんだ」
「ところで何でアルトが真円度を良くしようとしているの?ホーマーと違ってその必要はないよね」
エッセにそう問われる。
「そうなんだけど、少しでもこの世界の加工技術を進化させたいじゃないか。確かに俺やオッティがいるならそれで精密なものが出来るかもしれないけど、俺たちの命は有限なんだよ。だから俺たちがいなくなっても精密加工をできるようにしておかないとね」
と返答した。
今回オッティを入れていない理由はそれだ。
元々のこの世界の技術水準で出来るのかどうかというのを見てみたい。
アダマンタイト鋼はどうなんだと言われたら、入手可能ですよねと答えるつもりだ。
むしろ、熱処理が完璧な金型の方が入手不可能だろう。
■立金属を転生させるかって話よね。
というわけで、後日デボネアに用意してもらった特別な加工設備をつかって、鉄パイプの真円矯正をすることとなった。
パイプの真円を出すためにアダマンタイト鋼を使ったと言った時の、彼の呆れた顔は忘れられない。
まあ、俺もやり過ぎだとは思っているが、ここでの焼き入れの技術の未熟さを考えたら、アダマンタイト鋼やオリハルコン、もしくはヒヒイロカネなんかを使うしかないじゃないか。
これらを冒険者に依頼して採取しようとしたら、とてもじゃないが元は取れないが、俺のスキルだったら簡単に調達できる。
あんまり世間に知られたくはないけどな。
そして試作当日。
よくわからないドワーフの技術で動く横型のプレス機みたいなやつだ。
一応動力源は水力となっているが、魔石がどうのとか言っているのが聞こえた。
「まずは1パンチでの真円矯正をやってみましょうか」
そう言って俺が用意したのはインチパイプだ。
外径が1インチの鉄パイプである。
ミリで表現するなら25.4ミリとなる。
クランプする金型はその寸法に合わせてあるので、これ以外の規格では加工は出来ない。
クランプする金型は半割を上下にしてある。
パイプを受ける溝は「∪」と「∩」の上下の向きになるわけだ。
その溝、「∪」形状の下型にパイプを置いて、先端を定位置になるようにセットしてから上型を閉じる。
先端を定位置にというのは、金型のストロークが決まっているので、定位置にセット出来ていないと加工不良となってしまう。
勿論、突き当てるための仕組みがあるのだが、それは地球での話なのでここでは再現出来なかった。
なにせ、突き当てはクランプ金型と加工用の金型の間に板を出すのだが、クランプ終了後に板は自動で逃げるプログラムになっている。
そうしないと、加工用の金型が前進してきた時に板にぶつかるからそうしなければならないのだが、ステラではそんな仕組みを用意出来なかったのだ。
設備イメージ
突き当てる板
稼働方向 ↓
→ → →
□■■■■■■■
■■■■■■■ □
■■■■■■■ □
□■■■■■■■
↑↑↑↑↑↑↑ ↑↑↑↑↑↑↑
加工用金型 パイプ
で、その突き当てる板を手で取るので、設備の稼働範囲に手を突っ込む必要があるのだが、これがとても怖い。
助けて安全衛生委員会。
「アルト、なにをこわがっとるんじゃ。そんなもん、ビビるほどでもないぞい」
とデボネアが俺を見て笑うのだが、怖がるだろう普通。
「危ないんだって」
そう、前世で何人も指を潰してきたのを見た。
グロイ表現になりますが、金型に骨が張り付いていたのもあったしね。
「ドワーフのことわざに、『怪我をするのは己が未熟だから』ってのがあるんじゃが、その通りだとは思わんか?」
「全然」
昭和の職人か!
おもわず突っ込みたくなることわざだな。
「板を取ったから、加工してみようか」
一番危険な作業が終わった。
後は怪我するようなことは無いと思う。
まあ、そう思っていても稼働する金型に手を出しちゃうことがあるんだけどね。
「よし、やるぞい」
デボネアが工作機械を動かして金型がパイプを包み込む。
ドン、という音がして加工が終わる。
加工用の金型が後退すると、そこには真円矯正されたパイプが出てきた。
「クランプの金型を外してもらえるかな?」
「わかったわい」
上型が上がってパイプを取り出せるようになる。
この時うかつに手を出して、クランプの金型に挟まれるなんてこともあるので、作業をする際は一人でやることをおすすめする。
取り出す人間と、工作機械を操作する人間が別だと、手を出していないと思ったなんていう事故に繋がるのでね。
つい最近も社内の労災の連絡で回ってきたな。
最近?
まあ、今の俺には危機回避の作業標準書が有るので、デボネアが操作を間違ったとしても余裕で回避できる。
ここで怖がっているのは前世の経験からであり、今なら何の問題もないのだ。
だからといって安全対策を怠っていい理由にはならないけど。
みんなも労災、特に休業になる労災には気を付けてね。
さて、話を戻そう。
加工の終わったパイプを取り出してみると、真円矯正をした部分がより一層輝いている。
これは金型が当たって表面がツルツルになったせいだ。
なお、話の都合で真円矯正をしたらツルツルになったことになっているが、パイプの出来によってはバリが出ることもある。
25.4ミリよりも小さいパイプは広げられることになるが、逆に大きいパイプの場合大きい分だけ外径を金型で削り取ることになるからだ。
だが、
「まあ、1パンチだとこんなもんだよね」
と俺はそのパイプをデボネアに手渡した。
元々の真円度が0.33だったのが、真円矯正の結果0.13までは良くなったが、所詮はそこまでであり真円だとは言えない。
ファンタジーな力でこの程度でも真円になるかと思っていたが、やはりそう簡単な話は無かった。
「何がこんなもんじゃ?」
「光り方が均一じゃないでしょ。これは金型に当たっているところと当たっていないところがあるからなんだよ。原因はパイプの元々の寸法が真円が出ていないからだね。この凹凸のおかげで真円が出てないのがわかるんだよ」
「しかし、これをどうするんじゃ何度やっても寸法はこのままじゃろ?」
「たしかに、金型に当たらないところは凹んだままだからね。でも、それじゃあ話が進まないから次の金型に行こうか」
次の金型で試作を行う準備をする。
エッセが冒険者ギルドにやってきた。
俺がお願いしていた金型が出来上がったのだ。
それを受け取るとできばえを確認することにした。
布で厳重に包まれたその金型は、円柱状のものとコップのように断面図にしたらU字状のものの組み合わせがいくつかある。
それと反対側で材料をクランプする金型だ。
こちらも半割になっていて、合わせる事でパイプをクランプすることが出来るようになっている。
こちらはなめらかではなく、むしろパイプが滑らないようにわざと波を打たせてある。
「磨きは完璧だし、真円度もいいね。硬度もHRCで測定限界を超える硬さとは、さすがアダマンタイト鋼で作っただけの事はある」
一通りスキルで鑑定するが、寸法も硬度も申し分ない。
アダマンタイトをここまで精密に加工するとは流石ドワーフだ。
なお、どんな刃物で削ったのかは企業秘密ということで俺には教えてくれなかった。
ただし、旋盤は既に何世代も進化しており、精度はかなり良くなってきている。
精度の良い旋盤を使って次世代の旋盤部品を作り出しているので、どんどん良くなっているのだ。
そして材料はいつものように、【ピンゲージ作成】スキルで調達している。
「満足してくれてよかったよ」
エッセはほっとした表情を見せた。
目の下にくまがあるので、睡眠時間を削って仕事をしたのであろう。
これは俺の趣味のようなはなしなので、そんなに無理な納期は要求していないし、なんなら納期を変更してもよかったのにと思ったが、それを言うとがっかりしそうなので素直に褒めておく。
「ステラ、いやこの国でもアダマンタイト鋼をここまで加工することが出来る職人はいないよ」
「それほどでもないよ」
とはいいながらも、まんざらでもないといった感じだ。
さて、俺がなんでこんな金型を用意したかと言うと、真円矯正をやってみようと思いついたからである。
勿論、ホーマーに言うと気を悪くするから、エッセにはホーマーにバレないようにと口止めを依頼してある。
真円を覗いてみたいと思ったが、そののぞき穴はホーマーとは別なのでね。
「あとはこれを使ってデボネアのところで試作をしてみることになるか」
「立ち会ってもいいかな?」
「勿論だよ。これ一発で真円が出来るとは思ってないからね。一緒に見てもらって金型の改造を相談したいんだ」
「ところで何でアルトが真円度を良くしようとしているの?ホーマーと違ってその必要はないよね」
エッセにそう問われる。
「そうなんだけど、少しでもこの世界の加工技術を進化させたいじゃないか。確かに俺やオッティがいるならそれで精密なものが出来るかもしれないけど、俺たちの命は有限なんだよ。だから俺たちがいなくなっても精密加工をできるようにしておかないとね」
と返答した。
今回オッティを入れていない理由はそれだ。
元々のこの世界の技術水準で出来るのかどうかというのを見てみたい。
アダマンタイト鋼はどうなんだと言われたら、入手可能ですよねと答えるつもりだ。
むしろ、熱処理が完璧な金型の方が入手不可能だろう。
■立金属を転生させるかって話よね。
というわけで、後日デボネアに用意してもらった特別な加工設備をつかって、鉄パイプの真円矯正をすることとなった。
パイプの真円を出すためにアダマンタイト鋼を使ったと言った時の、彼の呆れた顔は忘れられない。
まあ、俺もやり過ぎだとは思っているが、ここでの焼き入れの技術の未熟さを考えたら、アダマンタイト鋼やオリハルコン、もしくはヒヒイロカネなんかを使うしかないじゃないか。
これらを冒険者に依頼して採取しようとしたら、とてもじゃないが元は取れないが、俺のスキルだったら簡単に調達できる。
あんまり世間に知られたくはないけどな。
そして試作当日。
よくわからないドワーフの技術で動く横型のプレス機みたいなやつだ。
一応動力源は水力となっているが、魔石がどうのとか言っているのが聞こえた。
「まずは1パンチでの真円矯正をやってみましょうか」
そう言って俺が用意したのはインチパイプだ。
外径が1インチの鉄パイプである。
ミリで表現するなら25.4ミリとなる。
クランプする金型はその寸法に合わせてあるので、これ以外の規格では加工は出来ない。
クランプする金型は半割を上下にしてある。
パイプを受ける溝は「∪」と「∩」の上下の向きになるわけだ。
その溝、「∪」形状の下型にパイプを置いて、先端を定位置になるようにセットしてから上型を閉じる。
先端を定位置にというのは、金型のストロークが決まっているので、定位置にセット出来ていないと加工不良となってしまう。
勿論、突き当てるための仕組みがあるのだが、それは地球での話なのでここでは再現出来なかった。
なにせ、突き当てはクランプ金型と加工用の金型の間に板を出すのだが、クランプ終了後に板は自動で逃げるプログラムになっている。
そうしないと、加工用の金型が前進してきた時に板にぶつかるからそうしなければならないのだが、ステラではそんな仕組みを用意出来なかったのだ。
設備イメージ
突き当てる板
稼働方向 ↓
→ → →
□■■■■■■■
■■■■■■■ □
■■■■■■■ □
□■■■■■■■
↑↑↑↑↑↑↑ ↑↑↑↑↑↑↑
加工用金型 パイプ
で、その突き当てる板を手で取るので、設備の稼働範囲に手を突っ込む必要があるのだが、これがとても怖い。
助けて安全衛生委員会。
「アルト、なにをこわがっとるんじゃ。そんなもん、ビビるほどでもないぞい」
とデボネアが俺を見て笑うのだが、怖がるだろう普通。
「危ないんだって」
そう、前世で何人も指を潰してきたのを見た。
グロイ表現になりますが、金型に骨が張り付いていたのもあったしね。
「ドワーフのことわざに、『怪我をするのは己が未熟だから』ってのがあるんじゃが、その通りだとは思わんか?」
「全然」
昭和の職人か!
おもわず突っ込みたくなることわざだな。
「板を取ったから、加工してみようか」
一番危険な作業が終わった。
後は怪我するようなことは無いと思う。
まあ、そう思っていても稼働する金型に手を出しちゃうことがあるんだけどね。
「よし、やるぞい」
デボネアが工作機械を動かして金型がパイプを包み込む。
ドン、という音がして加工が終わる。
加工用の金型が後退すると、そこには真円矯正されたパイプが出てきた。
「クランプの金型を外してもらえるかな?」
「わかったわい」
上型が上がってパイプを取り出せるようになる。
この時うかつに手を出して、クランプの金型に挟まれるなんてこともあるので、作業をする際は一人でやることをおすすめする。
取り出す人間と、工作機械を操作する人間が別だと、手を出していないと思ったなんていう事故に繋がるのでね。
つい最近も社内の労災の連絡で回ってきたな。
最近?
まあ、今の俺には危機回避の作業標準書が有るので、デボネアが操作を間違ったとしても余裕で回避できる。
ここで怖がっているのは前世の経験からであり、今なら何の問題もないのだ。
だからといって安全対策を怠っていい理由にはならないけど。
みんなも労災、特に休業になる労災には気を付けてね。
さて、話を戻そう。
加工の終わったパイプを取り出してみると、真円矯正をした部分がより一層輝いている。
これは金型が当たって表面がツルツルになったせいだ。
なお、話の都合で真円矯正をしたらツルツルになったことになっているが、パイプの出来によってはバリが出ることもある。
25.4ミリよりも小さいパイプは広げられることになるが、逆に大きいパイプの場合大きい分だけ外径を金型で削り取ることになるからだ。
だが、
「まあ、1パンチだとこんなもんだよね」
と俺はそのパイプをデボネアに手渡した。
元々の真円度が0.33だったのが、真円矯正の結果0.13までは良くなったが、所詮はそこまでであり真円だとは言えない。
ファンタジーな力でこの程度でも真円になるかと思っていたが、やはりそう簡単な話は無かった。
「何がこんなもんじゃ?」
「光り方が均一じゃないでしょ。これは金型に当たっているところと当たっていないところがあるからなんだよ。原因はパイプの元々の寸法が真円が出ていないからだね。この凹凸のおかげで真円が出てないのがわかるんだよ」
「しかし、これをどうするんじゃ何度やっても寸法はこのままじゃろ?」
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