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59話 落下品1
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今日は神殿から呼び出しがあって、俺とギルド長が神殿に伺っている。
呼び出しといっても、先日の王都の神殿近辺を調査した結果が出たので、その報告をしたいと言ったら指定されたのが今日というわけだ。
正直俺の出番はないんじゃないかと思うのだが、それでも役目上知っておくべきですよとギルド長に言われて一緒にこうして神殿へと赴くことになっている。
もう今時点で品管のトラブルに近寄っていますセンサーがインジケーターランプを赤で点灯させているのだが、ここから遠ざかるのは至難の業だと諦めている。
こんな気の重たさは、客先への選別へと向かう道中にそっくりであり、照り付ける日差しが尚の事足を重くする。
こうなってくると、往来で談笑する人々に怨嗟のまなざしを向けてしまうのは、転生しても治らない癖となっている。
この辺は、品質管理の仕事をしたことがないと理解されないだろう。
「アルト、周囲を警戒しすぎじゃないかな。今からそんなに気を張っていると、今日一日もたないですよ」
ギルド長は俺の事を気遣ってくれる。
残念な事に、その気遣いは、的を外しているのだが。
「この後の事を考えたら、つい力が入ってしまいました」
嘘ではない。
おそらく重たい話が出てきて、護衛する俺も巻き込まれることがわかっているので、ついこわばってしまうのだ。
そんなこんなで、神殿にたどり着く。
入口には10人ほどの僧兵がおり、神殿の前を行きかう人々を警戒するように見ている。
その僧兵たちは俺達の事を知っているので、すんなりと中に案内してくれる。
普段は僧兵が表にいることなんてないのだが、やはりこの前の事があって警戒を強めているのだろう。
一般信者は異常な雰囲気に、何事かと思っているだろうな。
事情は公に出来ないから。
そうそう、異常な雰囲気とはよく耳にするが、じゃあ正常な雰囲気の範囲ってどこまでなんでしょうね?
僧兵が4人までなら正常なのか、それともいないことが正常なのか、10人いても警戒している様子がなければ正常なのか。
などと、自分の思いついた異常な雰囲気という言葉に、自分で疑問を抱いてしまった。
でも、こういうのは作業標準書とか検査規格を作っているときに、自分の書いた文言についつい疑問がわくものだ。
疑問というか、客から突っ込まれたらどうやって言い訳をしようかだな。
異常と一言で言っても、その範囲の不明確さから、誰でも同じにはならないので、そこをどう取り繕うかが腕の見せ所だ。
「アルト、こっちですよ」
余計な事を考えていたら、神殿の柱に口付けをしそうになっており、ギルド長の呼びかけで我に返る。
恥ずかしさから下を向いて、小走りにギルド長に駆け寄った。
そして、案内されてグレイスたちの待っている部屋へと入った。
「おまちしておりました」
グレイスは椅子から立つと、こちらに一礼してくれる。
丸い大きなテーブルにはグレイスを中心として、左右にジーニアと騎士団長が座っており、ジーニアの隣にステラの神殿長がいる。
俺とギルド長は入り口に近い椅子に腰かける。
ここで案内してくれた僧兵は退室した。
この部屋には6人。
秘密が漏れることは無い。
この状況となってギルド長は口を開いた。
「調査の結果ですが、神殿の行事に関わることは全て金銭的な不正があると言って間違いないでしょう。過去にさかのぼって調べられる限りのことを調べましたが、神殿の補修や祭事などの金銭が動くもので、全て賄賂やキックバックが確認されています。また、その金の一部ですが――」
まず説明されたのは、王都の神殿長が不正に蓄財をしているということ。
これはよくある話で、発注先からの賄賂。
そして水増し請求からのキックバックだ。
まあ、美味しいだろうなとは思う。
なにせ、前世でも散々そういうのは見てきたから。
生憎と品管なんてものは動かせる資金がないので、そういったものとは無縁だったが、他部署についてはよくある話だった。
ニュースでも散々聞くことだし、歴史を遡っても記録は残っている。
異世界といえども、人が活動しているのであればあって当然だな。
問題はその先か。
「その金の一部ですが、王兄殿下に流れているとか」
「それは真か?」
ギルド長に疑問を投げたのは騎士団長だった。
その質問にギルド長は頷きで答える。
世情に疎い俺にグレイスが簡単に説明してくれたところによると、今の国王はアルファード国王であり、彼には兄が一人いる。
名をヴェルファイア。
本来であれば兄が継ぐのはこの世界でも常識となっているのだが、残念な事に彼はとても出来が悪かった。
実の親である先王がかばい切れないほどに。
そんなわけて、弟が王位を継承しており、兄は毎月幾ばくかの金をもらって王都にある屋敷で暮らしているのだ。
公爵位でも与えて地方に追いやってしまえばよさそうなものだが、領地運営がまともに出来るとも思えず、今の処置となっている。
ただ、当然王位継承の火種としては燻っており、ヴェルファイアを担ぐ非主流派が存在する。
そして、神殿長も聖女という存在が出てきてしまったために、非主流派に属することになってしまったのだ。
王兄による王位簒奪の暁には、王都の神殿のトップとしての地位を約束してもらうために、不正蓄財の一部を王兄に回しているというわけだ。
多分、それが王兄派の戦力増強に使われているだろうとも報告される。
思った通り、近づいてはいけない内容だった。
国家を巡る陰謀なんてものは、品質管理にとって全く関係ない。
なのに、そんなもんに巻き込まれるというのは、経営者一族の権力争いに巻き込まれた一般社員みたいなもんだ。
どっちについても反対から睨まれる。
こちらは給料さえ払ってもらえれば、どちらが経営権を握ろうと関係ないのだが、多数派工作やら反対派への嫌がらせやらと仕事外の厄介ごとを増やしてくれる。
命の危険がないだけマシだったなとは、今回の事で実感した。
出来る事なら前世の俺に伝えてあげたい。
「所詮は金で集めた連中と高を括っていた部分もありましたが、今回の襲撃犯の実力を見ると、放置しておけないところまで来てますな」
騎士団長がそういうと、重い空気がその場を支配した。
グレイスとジーニアがこちらに目線を投げてくるが、俺としてはそんなお家騒動に巻き込まれるのはごめんだ。
選別に行ったら客先の品管の課長と係長の仲が悪くて、お互いの指示が真逆だった時の数倍遠慮したい。
あれはあれで酷かったなと思い出し、苦笑してしまう。
「その不敵な笑みは、やる気ととってもよろしいのでしょうか?」
グレイスは俺の苦笑を不敵な笑みと捉えたようだ。
全く違うぞと言いたいけど、そんな雰囲気でもないな。
ここで言いださないと引き返せなくなると思うが、どうしてもその一言が言い出せない。
それくらい雰囲気が悪い。
トリクレンが充満した室内くらいの悪さだな。
「沈黙は肯定ですよ」
ギルド長が助け船を出してくれたので、ありがたく乗船させてもらうことにした。
「やる気という訳ではありません。自分はあくまでも聖女様の護衛。それ以上は期待されても困ります」
一緒に王都に乗り込んで、王兄派の討伐をするつもりなんで一切無い。
そんなもんは転生時にチートスキルを貰った人にでもお願いしてくれ。
英雄譚とは真逆のジョブだからな。
俺の望むのはスローライフ。
「そういう契約でしたね」
グレイスは俺に微笑みを向ける。
だが、それは素直に受け取れない何かを感じる。
怒ってるよね?
「襲撃してきた黒衣の男についての情報は?」
騎士団長がギルド長に訊ねる。
「残念ながら。聞いた話から推測する実力ならば、どこかで記録が残っていると思いましたが。他国から流れてきたか、あるいは人外の者か。この国の者ではないと思われます」
「正体不明か……」
騎士団長はそのまま目をつぶって腕組みした。
人は名前がわかることでライオンと戦えるようになるというが、確かに正体不明とは気持ちが悪い。
ただ、俺には多分転生者じゃないのかという思いはあった。
それをここで言う訳にはいかないが。
グレイスも黙っている事だし、それが正しいのだろう。
「調査結果はこんなところですね。王兄周辺に集まっている貴族や特権階級、商人などは既に国も調べているとは思いますが、怪しいからという理由で強権的に動くことはないでしょう。政情が不安になりますので」
ギルド長はそう締めくくった。
怪しいからって身内を攻撃していたら、他の連中も不安になってくる。
そうなると、やられる前にやれ的な考えに至っても仕方がない。
それでは国内が乱れるので、余程の確定的な証拠でもない限りは無理はしないだろうとの事だ。
余計な波風立てないようにするのは品管に似ているかな?
怪しい工程とはいえ、証拠もないのに徹底的に監査なんかしたら、心の溝がマリアナ海溝よりも深くなる。
「しかし、まいりましたね」
そう口を開いたのは神殿長だった。
「王都の神殿長を排除すれば、聖女様が問題なく王都の神殿にお戻りになれると思いましたが、神殿長のバックに王兄がいるとなると、下手に動くと問題が大きくなりそうです」
そうだな。
話は神殿内部の権力闘争から、国内の権力闘争へと規模が広がってしまった。
何らかの工作をするにしても、証拠が残らないようにしないとか。
「神殿内の暗部もどちらにつくかわかりませんしね」
ジーニアがサラッと怖いことを言う。
権力側なので、当然そういった組織はあると思っていたが、実際に聞くとドン引きだな。
味方になるなら躊躇なく使っていそうだ。
「しばらくは他の街の神殿に手紙を出して、多数派工作でもしましょうか」
神殿長の提案に全員が賛成した。
まずは味方を増やしてからか。
ここで報告会が終了となって、俺はやっとこの重苦しい雰囲気から解放されて帰る事が出来ると安堵していたのだが、グレイスが俺のところにやってきて
「実は一つ除霊を頼まれておりまして、護衛をお願いしたいのですが」
と言う。
「除霊?」
聞き返す俺に、グレイスは頷いた。
「強力なゴーストがいついてしまって、買い手がつかずに困っている物件があるのです」
「そんなものは冒険者に任せておけばいいんじゃないかな?」
俺の疑問にグレイスが小声で
「寄付額の太い客なのよ」
と耳打ちしてくれた。
神殿が太い客って呼ぶのはどうなんだろうか?
正しい気もするけど。
「行かなきゃダメですかね?」
すがるようにギルド長を見たが、護衛として同行するようにと言われてしまった。
呼び出しといっても、先日の王都の神殿近辺を調査した結果が出たので、その報告をしたいと言ったら指定されたのが今日というわけだ。
正直俺の出番はないんじゃないかと思うのだが、それでも役目上知っておくべきですよとギルド長に言われて一緒にこうして神殿へと赴くことになっている。
もう今時点で品管のトラブルに近寄っていますセンサーがインジケーターランプを赤で点灯させているのだが、ここから遠ざかるのは至難の業だと諦めている。
こんな気の重たさは、客先への選別へと向かう道中にそっくりであり、照り付ける日差しが尚の事足を重くする。
こうなってくると、往来で談笑する人々に怨嗟のまなざしを向けてしまうのは、転生しても治らない癖となっている。
この辺は、品質管理の仕事をしたことがないと理解されないだろう。
「アルト、周囲を警戒しすぎじゃないかな。今からそんなに気を張っていると、今日一日もたないですよ」
ギルド長は俺の事を気遣ってくれる。
残念な事に、その気遣いは、的を外しているのだが。
「この後の事を考えたら、つい力が入ってしまいました」
嘘ではない。
おそらく重たい話が出てきて、護衛する俺も巻き込まれることがわかっているので、ついこわばってしまうのだ。
そんなこんなで、神殿にたどり着く。
入口には10人ほどの僧兵がおり、神殿の前を行きかう人々を警戒するように見ている。
その僧兵たちは俺達の事を知っているので、すんなりと中に案内してくれる。
普段は僧兵が表にいることなんてないのだが、やはりこの前の事があって警戒を強めているのだろう。
一般信者は異常な雰囲気に、何事かと思っているだろうな。
事情は公に出来ないから。
そうそう、異常な雰囲気とはよく耳にするが、じゃあ正常な雰囲気の範囲ってどこまでなんでしょうね?
僧兵が4人までなら正常なのか、それともいないことが正常なのか、10人いても警戒している様子がなければ正常なのか。
などと、自分の思いついた異常な雰囲気という言葉に、自分で疑問を抱いてしまった。
でも、こういうのは作業標準書とか検査規格を作っているときに、自分の書いた文言についつい疑問がわくものだ。
疑問というか、客から突っ込まれたらどうやって言い訳をしようかだな。
異常と一言で言っても、その範囲の不明確さから、誰でも同じにはならないので、そこをどう取り繕うかが腕の見せ所だ。
「アルト、こっちですよ」
余計な事を考えていたら、神殿の柱に口付けをしそうになっており、ギルド長の呼びかけで我に返る。
恥ずかしさから下を向いて、小走りにギルド長に駆け寄った。
そして、案内されてグレイスたちの待っている部屋へと入った。
「おまちしておりました」
グレイスは椅子から立つと、こちらに一礼してくれる。
丸い大きなテーブルにはグレイスを中心として、左右にジーニアと騎士団長が座っており、ジーニアの隣にステラの神殿長がいる。
俺とギルド長は入り口に近い椅子に腰かける。
ここで案内してくれた僧兵は退室した。
この部屋には6人。
秘密が漏れることは無い。
この状況となってギルド長は口を開いた。
「調査の結果ですが、神殿の行事に関わることは全て金銭的な不正があると言って間違いないでしょう。過去にさかのぼって調べられる限りのことを調べましたが、神殿の補修や祭事などの金銭が動くもので、全て賄賂やキックバックが確認されています。また、その金の一部ですが――」
まず説明されたのは、王都の神殿長が不正に蓄財をしているということ。
これはよくある話で、発注先からの賄賂。
そして水増し請求からのキックバックだ。
まあ、美味しいだろうなとは思う。
なにせ、前世でも散々そういうのは見てきたから。
生憎と品管なんてものは動かせる資金がないので、そういったものとは無縁だったが、他部署についてはよくある話だった。
ニュースでも散々聞くことだし、歴史を遡っても記録は残っている。
異世界といえども、人が活動しているのであればあって当然だな。
問題はその先か。
「その金の一部ですが、王兄殿下に流れているとか」
「それは真か?」
ギルド長に疑問を投げたのは騎士団長だった。
その質問にギルド長は頷きで答える。
世情に疎い俺にグレイスが簡単に説明してくれたところによると、今の国王はアルファード国王であり、彼には兄が一人いる。
名をヴェルファイア。
本来であれば兄が継ぐのはこの世界でも常識となっているのだが、残念な事に彼はとても出来が悪かった。
実の親である先王がかばい切れないほどに。
そんなわけて、弟が王位を継承しており、兄は毎月幾ばくかの金をもらって王都にある屋敷で暮らしているのだ。
公爵位でも与えて地方に追いやってしまえばよさそうなものだが、領地運営がまともに出来るとも思えず、今の処置となっている。
ただ、当然王位継承の火種としては燻っており、ヴェルファイアを担ぐ非主流派が存在する。
そして、神殿長も聖女という存在が出てきてしまったために、非主流派に属することになってしまったのだ。
王兄による王位簒奪の暁には、王都の神殿のトップとしての地位を約束してもらうために、不正蓄財の一部を王兄に回しているというわけだ。
多分、それが王兄派の戦力増強に使われているだろうとも報告される。
思った通り、近づいてはいけない内容だった。
国家を巡る陰謀なんてものは、品質管理にとって全く関係ない。
なのに、そんなもんに巻き込まれるというのは、経営者一族の権力争いに巻き込まれた一般社員みたいなもんだ。
どっちについても反対から睨まれる。
こちらは給料さえ払ってもらえれば、どちらが経営権を握ろうと関係ないのだが、多数派工作やら反対派への嫌がらせやらと仕事外の厄介ごとを増やしてくれる。
命の危険がないだけマシだったなとは、今回の事で実感した。
出来る事なら前世の俺に伝えてあげたい。
「所詮は金で集めた連中と高を括っていた部分もありましたが、今回の襲撃犯の実力を見ると、放置しておけないところまで来てますな」
騎士団長がそういうと、重い空気がその場を支配した。
グレイスとジーニアがこちらに目線を投げてくるが、俺としてはそんなお家騒動に巻き込まれるのはごめんだ。
選別に行ったら客先の品管の課長と係長の仲が悪くて、お互いの指示が真逆だった時の数倍遠慮したい。
あれはあれで酷かったなと思い出し、苦笑してしまう。
「その不敵な笑みは、やる気ととってもよろしいのでしょうか?」
グレイスは俺の苦笑を不敵な笑みと捉えたようだ。
全く違うぞと言いたいけど、そんな雰囲気でもないな。
ここで言いださないと引き返せなくなると思うが、どうしてもその一言が言い出せない。
それくらい雰囲気が悪い。
トリクレンが充満した室内くらいの悪さだな。
「沈黙は肯定ですよ」
ギルド長が助け船を出してくれたので、ありがたく乗船させてもらうことにした。
「やる気という訳ではありません。自分はあくまでも聖女様の護衛。それ以上は期待されても困ります」
一緒に王都に乗り込んで、王兄派の討伐をするつもりなんで一切無い。
そんなもんは転生時にチートスキルを貰った人にでもお願いしてくれ。
英雄譚とは真逆のジョブだからな。
俺の望むのはスローライフ。
「そういう契約でしたね」
グレイスは俺に微笑みを向ける。
だが、それは素直に受け取れない何かを感じる。
怒ってるよね?
「襲撃してきた黒衣の男についての情報は?」
騎士団長がギルド長に訊ねる。
「残念ながら。聞いた話から推測する実力ならば、どこかで記録が残っていると思いましたが。他国から流れてきたか、あるいは人外の者か。この国の者ではないと思われます」
「正体不明か……」
騎士団長はそのまま目をつぶって腕組みした。
人は名前がわかることでライオンと戦えるようになるというが、確かに正体不明とは気持ちが悪い。
ただ、俺には多分転生者じゃないのかという思いはあった。
それをここで言う訳にはいかないが。
グレイスも黙っている事だし、それが正しいのだろう。
「調査結果はこんなところですね。王兄周辺に集まっている貴族や特権階級、商人などは既に国も調べているとは思いますが、怪しいからという理由で強権的に動くことはないでしょう。政情が不安になりますので」
ギルド長はそう締めくくった。
怪しいからって身内を攻撃していたら、他の連中も不安になってくる。
そうなると、やられる前にやれ的な考えに至っても仕方がない。
それでは国内が乱れるので、余程の確定的な証拠でもない限りは無理はしないだろうとの事だ。
余計な波風立てないようにするのは品管に似ているかな?
怪しい工程とはいえ、証拠もないのに徹底的に監査なんかしたら、心の溝がマリアナ海溝よりも深くなる。
「しかし、まいりましたね」
そう口を開いたのは神殿長だった。
「王都の神殿長を排除すれば、聖女様が問題なく王都の神殿にお戻りになれると思いましたが、神殿長のバックに王兄がいるとなると、下手に動くと問題が大きくなりそうです」
そうだな。
話は神殿内部の権力闘争から、国内の権力闘争へと規模が広がってしまった。
何らかの工作をするにしても、証拠が残らないようにしないとか。
「神殿内の暗部もどちらにつくかわかりませんしね」
ジーニアがサラッと怖いことを言う。
権力側なので、当然そういった組織はあると思っていたが、実際に聞くとドン引きだな。
味方になるなら躊躇なく使っていそうだ。
「しばらくは他の街の神殿に手紙を出して、多数派工作でもしましょうか」
神殿長の提案に全員が賛成した。
まずは味方を増やしてからか。
ここで報告会が終了となって、俺はやっとこの重苦しい雰囲気から解放されて帰る事が出来ると安堵していたのだが、グレイスが俺のところにやってきて
「実は一つ除霊を頼まれておりまして、護衛をお願いしたいのですが」
と言う。
「除霊?」
聞き返す俺に、グレイスは頷いた。
「強力なゴーストがいついてしまって、買い手がつかずに困っている物件があるのです」
「そんなものは冒険者に任せておけばいいんじゃないかな?」
俺の疑問にグレイスが小声で
「寄付額の太い客なのよ」
と耳打ちしてくれた。
神殿が太い客って呼ぶのはどうなんだろうか?
正しい気もするけど。
「行かなきゃダメですかね?」
すがるようにギルド長を見たが、護衛として同行するようにと言われてしまった。
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