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85話 わくらば 4
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翌日、スターレットと一緒にティーノの店で昼食となった。
スターレットは昨日の夜の事を話してくれる。
「全員ベッドで寝られるような広さじゃないから、私が床で寝るって言ったらデイズルークスが自分も床で寝るっていうのよ。こっちは商隊の護衛なんかで地面で寝るなんて慣れているのに、サクラにベッドを使わせたいからって無理しちゃってね」
「あの二人の身体なら、一緒にベッドで寝ても問題はないよね」
「そうね。結局説得してベッドで寝てもらったの。朝までぐっすりだったわ。スラムと違って誰かに所持金を狙われるような事も無いから安心したんでしょうね」
「そういえば、デイズルークスが迷宮に入る時に支払ったお金ってどうしたんだろうかねえ。どこかで日雇いの仕事でもしたのかな?」
「卒院するときに支度金が出るの。私も冒険者として使うものはその支度金で揃えたんだから。それがないと、卒院と同時に路頭に迷っちゃうじゃない」
「そうだね」
そう話したところでサラダが運ばれてきたので、会話を止めてサラダを食べる。
「ああ、やっぱりティーノの店のドレッシングは美味しいわね。これを食べちゃうと他の店のサラダが食べられなくなっちゃうのよ」
とスターレットはサラダドレッシングを絶賛した。
確かに、ここの店のサラダの味はステラで一番だと思う。
前世のサラダドレッシングを知っているので、現世ではサラダを食べるのが辛かったのだが、ティーノのおかげで今はそんなことはない。
「それで、デイズルークスに何の仕事をさせるのかは考え付いたの?」
スターレットに訊かれた時に、口の中にサラダが入っていたので首肯してみせた。
「やっぱり、どこかで農業をやらせるの?」
これは流石に無言では伝えられないので、口の中のものを胃に送り込んでから言葉で返事をする。
「いや、商売をやらせようかと思ってね」
「商売を?」
「そうだよ。ティーノに手伝ってもらって、屋台で食べ物を売るつもりなんだ。材料の提供についてはティーノに快諾してもらっているから」
スターレットは少し焦って
「でも、デイズルークスはジョブが農夫なのよ」
と言うが、俺は
「大丈夫だよ。ジョブなんて無い人よりもちょっと適性があるってくらいなんだから。料理人のジョブじゃなくても美味しい料理を作る事はできるじゃない。やり方を覚えさえすれば問題ないよ」
と答えた。
ジョブが有れば適性の他にスキルを使える事もあるんだろうけど、世の中の殆どの人はスキルを使って生活をしている訳ではない。
そんな世界だったら、家の掃除は全て家政婦に任せないといけないし、家庭で料理を作ることだって出来ないだろう。
そして、ジョブがあったとしても努力を怠れば、ジョブのない者に劣ることだってあるはずだ。
例えば全く訓練をしない格闘家がいたとしたら、日々肉体を鍛えている戦闘系のジョブではない者に喧嘩で負ける事だってあるというわけだ。
あとは、デイズルークスが仕事を覚えられるかという事にかかっている。
「まあ、アルトがそう言うなら大丈夫なんでしょうけど。いつからやるの?」
「デボネアに道具をお願いしてあって、それが一週間くらいかかるからそのあとだね。でも、商売をするにあたって計算と読み書きが出来ないといけないから、準備が出来るまでは勉強をしてもらうことになるかな。俺がデイズルークスを雇用するかたちになるから、勉強しているあいだも賃金は支払うけど」
「勉強していてもお金をくれるの?嬉しいけどそんなの聞いたことないよ」
俺の話を信じられないといた表情のスターレット。
ステラではたしかに聞いたことがないのかもしれないが、日本では企業内学校という制度は昔からあった。
社員として雇用した人物を、企業内の学校で学ばせるのである。
そして、その期間も給料はでるのだ。
技能オリンピックに出場するような社員を育てていたな。
工場では企業内の学校出身者はエリートであり、基本的な工程は全てマスターしているし、手先も器用だった印象がある。
「基本的な事を覚えずにやらせても、失敗するのが目に見えているからね。計算も出来ないのに商売は出来ないじゃない」
「それもそうね。そういえば、どんな食べ物を屋台で売るつもりなの?」
「小麦粉をつかったお菓子だよ。水で溶いた小麦粉を焼いて、その中に甘いのを詰めるんだ」
俺の考えているのは今川焼や大判焼き、たい焼きみたいなお菓子だ。
小麦粉の入手は問題ないが、あんこについてはティーノにお願いして作ってもらう。
ステラに小豆は無いが、豆を煮て砂糖で甘く味付けをすれば似たような物は出来るはずだ。
これから試作をしてもらい、あんこに使える豆の選定とかをお願いしてあるのだ。
そして、金型についてはデボネアにお願いしてある。
たい焼きみたいに魚や動物の模様ができる金型が出来ればよいが、難しいなら最初は単純な形状でもいいかと思っている。
「よくそんなのを思いついたわね」
スターレットに感心されるが、まさか前世の知識だとは言えずに偶然思いついたという事にしておいた。
そんな話をしていたら、メインの肉料理が運ばれてきたので仕事の話はいったん終了して、美味しいランチを食べる事にした。
食事が終わればデイズルークスにこれからやってもらう事を話すことになる。
スターレットは昨日の夜の事を話してくれる。
「全員ベッドで寝られるような広さじゃないから、私が床で寝るって言ったらデイズルークスが自分も床で寝るっていうのよ。こっちは商隊の護衛なんかで地面で寝るなんて慣れているのに、サクラにベッドを使わせたいからって無理しちゃってね」
「あの二人の身体なら、一緒にベッドで寝ても問題はないよね」
「そうね。結局説得してベッドで寝てもらったの。朝までぐっすりだったわ。スラムと違って誰かに所持金を狙われるような事も無いから安心したんでしょうね」
「そういえば、デイズルークスが迷宮に入る時に支払ったお金ってどうしたんだろうかねえ。どこかで日雇いの仕事でもしたのかな?」
「卒院するときに支度金が出るの。私も冒険者として使うものはその支度金で揃えたんだから。それがないと、卒院と同時に路頭に迷っちゃうじゃない」
「そうだね」
そう話したところでサラダが運ばれてきたので、会話を止めてサラダを食べる。
「ああ、やっぱりティーノの店のドレッシングは美味しいわね。これを食べちゃうと他の店のサラダが食べられなくなっちゃうのよ」
とスターレットはサラダドレッシングを絶賛した。
確かに、ここの店のサラダの味はステラで一番だと思う。
前世のサラダドレッシングを知っているので、現世ではサラダを食べるのが辛かったのだが、ティーノのおかげで今はそんなことはない。
「それで、デイズルークスに何の仕事をさせるのかは考え付いたの?」
スターレットに訊かれた時に、口の中にサラダが入っていたので首肯してみせた。
「やっぱり、どこかで農業をやらせるの?」
これは流石に無言では伝えられないので、口の中のものを胃に送り込んでから言葉で返事をする。
「いや、商売をやらせようかと思ってね」
「商売を?」
「そうだよ。ティーノに手伝ってもらって、屋台で食べ物を売るつもりなんだ。材料の提供についてはティーノに快諾してもらっているから」
スターレットは少し焦って
「でも、デイズルークスはジョブが農夫なのよ」
と言うが、俺は
「大丈夫だよ。ジョブなんて無い人よりもちょっと適性があるってくらいなんだから。料理人のジョブじゃなくても美味しい料理を作る事はできるじゃない。やり方を覚えさえすれば問題ないよ」
と答えた。
ジョブが有れば適性の他にスキルを使える事もあるんだろうけど、世の中の殆どの人はスキルを使って生活をしている訳ではない。
そんな世界だったら、家の掃除は全て家政婦に任せないといけないし、家庭で料理を作ることだって出来ないだろう。
そして、ジョブがあったとしても努力を怠れば、ジョブのない者に劣ることだってあるはずだ。
例えば全く訓練をしない格闘家がいたとしたら、日々肉体を鍛えている戦闘系のジョブではない者に喧嘩で負ける事だってあるというわけだ。
あとは、デイズルークスが仕事を覚えられるかという事にかかっている。
「まあ、アルトがそう言うなら大丈夫なんでしょうけど。いつからやるの?」
「デボネアに道具をお願いしてあって、それが一週間くらいかかるからそのあとだね。でも、商売をするにあたって計算と読み書きが出来ないといけないから、準備が出来るまでは勉強をしてもらうことになるかな。俺がデイズルークスを雇用するかたちになるから、勉強しているあいだも賃金は支払うけど」
「勉強していてもお金をくれるの?嬉しいけどそんなの聞いたことないよ」
俺の話を信じられないといた表情のスターレット。
ステラではたしかに聞いたことがないのかもしれないが、日本では企業内学校という制度は昔からあった。
社員として雇用した人物を、企業内の学校で学ばせるのである。
そして、その期間も給料はでるのだ。
技能オリンピックに出場するような社員を育てていたな。
工場では企業内の学校出身者はエリートであり、基本的な工程は全てマスターしているし、手先も器用だった印象がある。
「基本的な事を覚えずにやらせても、失敗するのが目に見えているからね。計算も出来ないのに商売は出来ないじゃない」
「それもそうね。そういえば、どんな食べ物を屋台で売るつもりなの?」
「小麦粉をつかったお菓子だよ。水で溶いた小麦粉を焼いて、その中に甘いのを詰めるんだ」
俺の考えているのは今川焼や大判焼き、たい焼きみたいなお菓子だ。
小麦粉の入手は問題ないが、あんこについてはティーノにお願いして作ってもらう。
ステラに小豆は無いが、豆を煮て砂糖で甘く味付けをすれば似たような物は出来るはずだ。
これから試作をしてもらい、あんこに使える豆の選定とかをお願いしてあるのだ。
そして、金型についてはデボネアにお願いしてある。
たい焼きみたいに魚や動物の模様ができる金型が出来ればよいが、難しいなら最初は単純な形状でもいいかと思っている。
「よくそんなのを思いついたわね」
スターレットに感心されるが、まさか前世の知識だとは言えずに偶然思いついたという事にしておいた。
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