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86話 わくらば 5
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スターレットとの食事を終えて、冒険者ギルドの応接室でデイズルークスとの面談となった。
なお、サクラは体調を考慮して宿でお休みである。
大きな病気にはなりにくいのだが、無理をすれば体力の消耗が激しく、当然ながら寿命が縮んでしまうのだ。
「さて、まずはこれからデイズルークス雇用しようと思っている。その条件だけど……」
と雇用条件を説明する。
月給制にしてしまうと給料日までの生活費が足りないので、まずは日給制での雇用となる。
日給手渡しだと、万が一俺が長期で外出するときの為に、雇用は冒険者ギルドを通しての依頼とした。
デイズルークスにはまだ冒険者の資格はないのだが、今回は事情を説明して俺からの指名依頼扱いとして処理をしてもらっている。
なので、依頼達成条件を満たせば冒険者ギルドで日給を受け取れるのだ。
「それでいいよ」
とデイズルークスは納得してくれた。
「それで、やってもらう事は屋台で食べ物を売ってもらうことなんだけど」
そこでデイズルークスは焦る。
「俺、計算が出来ないんだけど」
「スターレットから聞いているから知っているよ。開店準備が終わるまでは勉強をしてもらう。その期間も日給は支払うから安心して欲しい」
「うへぇ、勉強は苦手なんだよな。それに、俺のジョブは農夫だから農業だと思っていたのに」
デイズルークスの嫌がりようにスターレットの口吻がとがる。
「孤児院でも読み書きと計算は教えてもらえるでしょ。嫌がって逃げ回っていたつけよ。それに、どんな仕事をするにしたって計算が出来なければ騙されても気付かないじゃない。騙されてもいいの?」
「それは、そうなんだけど……」
口ごもり、いまいち煮え切らない態度のデイズルークスにスターレットの怒りが爆発した。
「無資格で迷宮に入って薬草を採取するのとどっちが危ないかわかっているの!?冒険者になって大金を稼ぐなんて、結果だけみて自分でも出来るなんて考えたんでしょうけど、トップの冒険者と計算が出来る人、世の中にどっちが多いかなんて直ぐにわかるでしょ!!つべこべ言わない!!」
「はい」
スターレットの勢いに押されてデイズルークスは返事をした。
確かに、死ぬ気で迷宮に入るのが出来るなら、計算を勉強するなんて比較にならない程楽だよなあ。
しゅんとして小さくなってしまったデイズルークスに俺は優しく語りかける。
「何も計算だけやるわけじゃない。文字も読み書きできるようになってもらうけど、それ以上に美味しいものを作れるような技術も習得してもらいたいんだ。余った材料でサクラの分を作って持って帰ってもいいんだからね」
「本当に?」
「勿論だよ」
アメとムチでいうなら、俺はアメだな。
スターレットが厳しくした後で優しい言葉をかけるのは詐欺師っぽいけど。
前世だと不良を出した作業者が班長にきつくしかられた後で、品管の俺が優しい言葉を掛けると簡単に心を開いてくれたものだ。
「でも、俺に料理なんて出来るのかな?農夫のジョブだよ」
「なんの問題もないよ。世の中で料理をしている人では、料理人のジョブを持っている人の方が少ないんだ。ジョブがあったところで、他人よりもちょっと美味しく作ることが出来るってだけで、努力すればすぐにそのレベルまで到達できるから。それに、つくりかたは作業標準書にしていつでも見られるようにしておくから」
「作業標準書?」
当然ながら、デイズルークスは作業標準書という言葉を知らない。
「作業の手順書だよ。ただし、これも文字が読めないとだめだ。それに、お金のやり取りもやってもらうからね。だから読み書きと計算が出来ないと駄目なんだよ」
「うへぇ……」
また肩を落とすデイズルークスをみて、少し喝を入れるべきかなと思った。
「いいかい、デイズルークス。君に今やってもらう勉強はサクラのためでもあるんだ。君が孤児院からサクラを連れ出したのはそんな程度の覚悟でしかなかったのかい?いいよ、やらなくても。でもその時はサクラは俺がスターレットと一緒に面倒を見る。そして、二度と君には会わせない。だってそうだろう、その程度の覚悟で孤児院から連れ出して、スラムで寝起きさせていたんだから。そんな無責任な人物とは一生関わらせることはできないよ」
「一生、会えない……」
「そうだ。覚悟の無いものに病葉なんてジョブのサクラを任せるわけにはいかないだろ。逆の立場ならどう思う?」
厳しいことを言ったが、サクラのことを考えたら当然だ。
普通のジョブならいざ知らず、彼女は誰かの手助け無しには生きられない。
スターレットならデイズルークスがダメなら自分が一生面倒を見ると言うだろうし、そうなれば俺も協力するつもりだ。
デイズルークスとサクラを会わせないかどうかは決めていないし、多分会わせるんだろうけど今それを言えば目の前の少年は安易な方へとながれるのは明白だ。
まだ幼くはあるが、サクラを連れ出した責任を放棄するようでは、今後の人生に良くないだろう。
前世は仕事のせいで死んだ俺なので、辛いことからは逃げてもいいよって言いたいところだけど、それは他人の人生を背負ってなければこそだ。
「俺が間違っていました。サクラのためにやります!」
デイズルークスは覚悟を決めて、そう宣言をした。
スターレットがサッと後ろを振り返ったが、一瞬見えた瞳が潤んでいたのがわかった。
本心から二人のことを心配しているのは、そのうち伝わるだろうか?
俺もスターレットも子供を育てたことがないのに、早くも親の気持ちとなったようだ。
若い二人には是非とも幸せになって欲しいという気持ちで、その後の勉強に熱が入った。
デイズルークスも真剣に学ぼうという気持ちが伝わってくる。
鉄は熱いうちに打てというし、このペースでガンガンやっていこう。
「ま、熱間鍛造よりも冷間鍛造のほうが精度はいいんだけどね」
「何?」
俺の独り言にデイズルークスは不思議な顔をする。
余計な一言だったな。
なお、サクラは体調を考慮して宿でお休みである。
大きな病気にはなりにくいのだが、無理をすれば体力の消耗が激しく、当然ながら寿命が縮んでしまうのだ。
「さて、まずはこれからデイズルークス雇用しようと思っている。その条件だけど……」
と雇用条件を説明する。
月給制にしてしまうと給料日までの生活費が足りないので、まずは日給制での雇用となる。
日給手渡しだと、万が一俺が長期で外出するときの為に、雇用は冒険者ギルドを通しての依頼とした。
デイズルークスにはまだ冒険者の資格はないのだが、今回は事情を説明して俺からの指名依頼扱いとして処理をしてもらっている。
なので、依頼達成条件を満たせば冒険者ギルドで日給を受け取れるのだ。
「それでいいよ」
とデイズルークスは納得してくれた。
「それで、やってもらう事は屋台で食べ物を売ってもらうことなんだけど」
そこでデイズルークスは焦る。
「俺、計算が出来ないんだけど」
「スターレットから聞いているから知っているよ。開店準備が終わるまでは勉強をしてもらう。その期間も日給は支払うから安心して欲しい」
「うへぇ、勉強は苦手なんだよな。それに、俺のジョブは農夫だから農業だと思っていたのに」
デイズルークスの嫌がりようにスターレットの口吻がとがる。
「孤児院でも読み書きと計算は教えてもらえるでしょ。嫌がって逃げ回っていたつけよ。それに、どんな仕事をするにしたって計算が出来なければ騙されても気付かないじゃない。騙されてもいいの?」
「それは、そうなんだけど……」
口ごもり、いまいち煮え切らない態度のデイズルークスにスターレットの怒りが爆発した。
「無資格で迷宮に入って薬草を採取するのとどっちが危ないかわかっているの!?冒険者になって大金を稼ぐなんて、結果だけみて自分でも出来るなんて考えたんでしょうけど、トップの冒険者と計算が出来る人、世の中にどっちが多いかなんて直ぐにわかるでしょ!!つべこべ言わない!!」
「はい」
スターレットの勢いに押されてデイズルークスは返事をした。
確かに、死ぬ気で迷宮に入るのが出来るなら、計算を勉強するなんて比較にならない程楽だよなあ。
しゅんとして小さくなってしまったデイズルークスに俺は優しく語りかける。
「何も計算だけやるわけじゃない。文字も読み書きできるようになってもらうけど、それ以上に美味しいものを作れるような技術も習得してもらいたいんだ。余った材料でサクラの分を作って持って帰ってもいいんだからね」
「本当に?」
「勿論だよ」
アメとムチでいうなら、俺はアメだな。
スターレットが厳しくした後で優しい言葉をかけるのは詐欺師っぽいけど。
前世だと不良を出した作業者が班長にきつくしかられた後で、品管の俺が優しい言葉を掛けると簡単に心を開いてくれたものだ。
「でも、俺に料理なんて出来るのかな?農夫のジョブだよ」
「なんの問題もないよ。世の中で料理をしている人では、料理人のジョブを持っている人の方が少ないんだ。ジョブがあったところで、他人よりもちょっと美味しく作ることが出来るってだけで、努力すればすぐにそのレベルまで到達できるから。それに、つくりかたは作業標準書にしていつでも見られるようにしておくから」
「作業標準書?」
当然ながら、デイズルークスは作業標準書という言葉を知らない。
「作業の手順書だよ。ただし、これも文字が読めないとだめだ。それに、お金のやり取りもやってもらうからね。だから読み書きと計算が出来ないと駄目なんだよ」
「うへぇ……」
また肩を落とすデイズルークスをみて、少し喝を入れるべきかなと思った。
「いいかい、デイズルークス。君に今やってもらう勉強はサクラのためでもあるんだ。君が孤児院からサクラを連れ出したのはそんな程度の覚悟でしかなかったのかい?いいよ、やらなくても。でもその時はサクラは俺がスターレットと一緒に面倒を見る。そして、二度と君には会わせない。だってそうだろう、その程度の覚悟で孤児院から連れ出して、スラムで寝起きさせていたんだから。そんな無責任な人物とは一生関わらせることはできないよ」
「一生、会えない……」
「そうだ。覚悟の無いものに病葉なんてジョブのサクラを任せるわけにはいかないだろ。逆の立場ならどう思う?」
厳しいことを言ったが、サクラのことを考えたら当然だ。
普通のジョブならいざ知らず、彼女は誰かの手助け無しには生きられない。
スターレットならデイズルークスがダメなら自分が一生面倒を見ると言うだろうし、そうなれば俺も協力するつもりだ。
デイズルークスとサクラを会わせないかどうかは決めていないし、多分会わせるんだろうけど今それを言えば目の前の少年は安易な方へとながれるのは明白だ。
まだ幼くはあるが、サクラを連れ出した責任を放棄するようでは、今後の人生に良くないだろう。
前世は仕事のせいで死んだ俺なので、辛いことからは逃げてもいいよって言いたいところだけど、それは他人の人生を背負ってなければこそだ。
「俺が間違っていました。サクラのためにやります!」
デイズルークスは覚悟を決めて、そう宣言をした。
スターレットがサッと後ろを振り返ったが、一瞬見えた瞳が潤んでいたのがわかった。
本心から二人のことを心配しているのは、そのうち伝わるだろうか?
俺もスターレットも子供を育てたことがないのに、早くも親の気持ちとなったようだ。
若い二人には是非とも幸せになって欲しいという気持ちで、その後の勉強に熱が入った。
デイズルークスも真剣に学ぼうという気持ちが伝わってくる。
鉄は熱いうちに打てというし、このペースでガンガンやっていこう。
「ま、熱間鍛造よりも冷間鍛造のほうが精度はいいんだけどね」
「何?」
俺の独り言にデイズルークスは不思議な顔をする。
余計な一言だったな。
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