21 / 54
四章 もう一つの組織
20話:そんなつもりは
しおりを挟む
城から離れてより砂漠化した場所で、荒くれ者たちが殴り合いを見世物にしていた。
そこにクレーエンとラメッタは現れて。荒くれ者たちが値踏みするような視線を向ける。
ラメッタたちがエアデ王国からやって来たことを知ると、バオムの王族らを馬鹿にしていた。
ラメッタが怒りを滲ませる。
それを見たからか、それとも最近のラメッタの活躍への嫉妬からか、クレーエンは仕切っていた男を蹴り飛ばして。
野蛮な男たちの殺気立つ視線を集めるのだった。
「お前」
「俺はクレーエン。魔王軍と戦うためにエアデ王国から来た」
「おらッ! どんな気持ちでここに来てるんだ?」
荒くれ者が銃を撃つ。
クレーエンの残像を追うこともできず、弾丸は空を穿ち続ける。
弾切れを起こした。
隙が生まれるとクレーエンは素早く近づき、腹部を殴って吹き飛ばす。荒くれ者は泡を吹いて倒れた。
「次は誰だ?」
クレーエンは牙を向ける猛獣のようだった。荒くれ者は勇気を振り絞って無茶をする。
僅かな望みのつもりだが。
「「なんだとコラァ!」」
クレーエンは剣を抜くと、風を起こして駆ける。一つ風が吹き、また一つ風が抜ける。
「クレーエン、流石じゃな!」
ラメッタの視線の先には怯えた荒くれ者がいた。
クレーエンを見ると地面に伏せる。
「どうか命だけは」
荒くれ者の言葉を聞く。
クレーエンは許したくないのか、刃先を見せた。
「お前は誰も殺していないのか?」
沈黙。
クレーエンは迷いなく剣を振ろうとして、ラメッタに止められる。
「わしの魔剣じゃ。そのためのものではない」
「分かった」
鞘にしまう。
クレーエンは気に食わないが。
「流石じゃな! クレーエンがいて助かった。わし、弱いからの」
「こんな雑魚を制圧して何になる?」
「クレーエン?」
クレーエンは足早に去ろうとする。ラメッタが咄嗟に腕を掴むが、クレーエンの力に敵うはずもなく突き飛ばされた。
「俺がそんなに役立たずか? 慈悲のつもりか?」
「何を言っておるのじゃ?」
「いいよな、ラメッタ。必要とされて楽しいだろうよ。ここに連れてきたのは成果のない俺のためだろ? 馬鹿にしているのか?」
ラメッタは黙る。
緊張と同様で目がキョロキョロと動く。震えた手を合わせて、人差し指をくるくると回した。
「いや、慈悲のつもりじゃなくて。クレーエンも豊かになっていくバオムを喜んでくれてると思って、これから一緒にッ!」
この国の英雄になろう、なんて言えなかった。
あの強者は、目の前で怒りに身を任せている。ラメッタはクレーエンの目がもはや歩み寄ろうとしていないことに気づく。
「分かってくれ、そんなつもりじゃない」
クレーエンは、しまったと思いつつも止まれなかった。
「そうかよ」
低く冷たい声が、水溜まりに一滴落ちる水の響きのようで。
ラメッタはクレーエンに背を向ける。時々クレーエンの表情を確認すると、その重大さに悲しむのだ。
なお。
「今のうちだ!」
とクレーエンに歯向かおうとした荒くれ者たちは、魔剣を介した氷の刃を受けて意識を削がれた。
「わし、先帰るからな。悪かった、本当に傷つけるつもりはなかった。クレーエンがいなければ」
これ以上言っても状況は変わらないか。
ラメッタは諦めて城へ戻った。
クレーエンは荒くれ者を城がある中心部まで連行する。
「クレーエン様!」
図ったように城からディーレが出てきた。執事や従者もいる。荒くれ者の身柄を引き渡した。
クレーエンは部屋に戻る。
その日からクレーエンはラメッタを避けた。ラメッタは何度も話しかけようとしていたが、クレーエンを見ると怖くなってしまうのだった。
いつオシュテンが襲撃してくるか分からない。クレーエンも今の状況が良くないことは分かっていた。
ラメッタを避けて三日後。
クレーエンは心機一転を考えて、城にある仕事を手伝おうと決めた。
だが。
「すみません、クレーエン様。ラメッタ様からクレーエンさまの不器用さはなかなかだと」
従者からラメッタの名前が出てくるのは気分が良くない。だが反論することもできなかった。
計画が実行できずに暇になってしまったクレーエンが城の中を歩き回っていると。
「クレーエン様、わたくしを守ってください」
はっきりと意見をするディーレに比べて、臆病でいつも隠れているベリッヒだった。
自分の弱さを自覚するところまではいい、だがベリッヒのように他力本願なのは嫌いなタイプだ。
だが今は姫様の相手をするのも良いかもしれない。
「どうした? いつ守るんだ?」
「もう、いつまでもですわよ。か弱き乙女ですもの」
クレーエンは考えながら歩いていたためベリッヒの部屋の近くまで来ていたらしい。
引きこもりの姫様はクレーエンに怯えながらも。
「やったあ! これでわたくし安全を確保しましたのお」
叫びを抑えて喜んでいる。
クレーエンは思う、この姫はだいぶ変な人だと。
そこにクレーエンとラメッタは現れて。荒くれ者たちが値踏みするような視線を向ける。
ラメッタたちがエアデ王国からやって来たことを知ると、バオムの王族らを馬鹿にしていた。
ラメッタが怒りを滲ませる。
それを見たからか、それとも最近のラメッタの活躍への嫉妬からか、クレーエンは仕切っていた男を蹴り飛ばして。
野蛮な男たちの殺気立つ視線を集めるのだった。
「お前」
「俺はクレーエン。魔王軍と戦うためにエアデ王国から来た」
「おらッ! どんな気持ちでここに来てるんだ?」
荒くれ者が銃を撃つ。
クレーエンの残像を追うこともできず、弾丸は空を穿ち続ける。
弾切れを起こした。
隙が生まれるとクレーエンは素早く近づき、腹部を殴って吹き飛ばす。荒くれ者は泡を吹いて倒れた。
「次は誰だ?」
クレーエンは牙を向ける猛獣のようだった。荒くれ者は勇気を振り絞って無茶をする。
僅かな望みのつもりだが。
「「なんだとコラァ!」」
クレーエンは剣を抜くと、風を起こして駆ける。一つ風が吹き、また一つ風が抜ける。
「クレーエン、流石じゃな!」
ラメッタの視線の先には怯えた荒くれ者がいた。
クレーエンを見ると地面に伏せる。
「どうか命だけは」
荒くれ者の言葉を聞く。
クレーエンは許したくないのか、刃先を見せた。
「お前は誰も殺していないのか?」
沈黙。
クレーエンは迷いなく剣を振ろうとして、ラメッタに止められる。
「わしの魔剣じゃ。そのためのものではない」
「分かった」
鞘にしまう。
クレーエンは気に食わないが。
「流石じゃな! クレーエンがいて助かった。わし、弱いからの」
「こんな雑魚を制圧して何になる?」
「クレーエン?」
クレーエンは足早に去ろうとする。ラメッタが咄嗟に腕を掴むが、クレーエンの力に敵うはずもなく突き飛ばされた。
「俺がそんなに役立たずか? 慈悲のつもりか?」
「何を言っておるのじゃ?」
「いいよな、ラメッタ。必要とされて楽しいだろうよ。ここに連れてきたのは成果のない俺のためだろ? 馬鹿にしているのか?」
ラメッタは黙る。
緊張と同様で目がキョロキョロと動く。震えた手を合わせて、人差し指をくるくると回した。
「いや、慈悲のつもりじゃなくて。クレーエンも豊かになっていくバオムを喜んでくれてると思って、これから一緒にッ!」
この国の英雄になろう、なんて言えなかった。
あの強者は、目の前で怒りに身を任せている。ラメッタはクレーエンの目がもはや歩み寄ろうとしていないことに気づく。
「分かってくれ、そんなつもりじゃない」
クレーエンは、しまったと思いつつも止まれなかった。
「そうかよ」
低く冷たい声が、水溜まりに一滴落ちる水の響きのようで。
ラメッタはクレーエンに背を向ける。時々クレーエンの表情を確認すると、その重大さに悲しむのだ。
なお。
「今のうちだ!」
とクレーエンに歯向かおうとした荒くれ者たちは、魔剣を介した氷の刃を受けて意識を削がれた。
「わし、先帰るからな。悪かった、本当に傷つけるつもりはなかった。クレーエンがいなければ」
これ以上言っても状況は変わらないか。
ラメッタは諦めて城へ戻った。
クレーエンは荒くれ者を城がある中心部まで連行する。
「クレーエン様!」
図ったように城からディーレが出てきた。執事や従者もいる。荒くれ者の身柄を引き渡した。
クレーエンは部屋に戻る。
その日からクレーエンはラメッタを避けた。ラメッタは何度も話しかけようとしていたが、クレーエンを見ると怖くなってしまうのだった。
いつオシュテンが襲撃してくるか分からない。クレーエンも今の状況が良くないことは分かっていた。
ラメッタを避けて三日後。
クレーエンは心機一転を考えて、城にある仕事を手伝おうと決めた。
だが。
「すみません、クレーエン様。ラメッタ様からクレーエンさまの不器用さはなかなかだと」
従者からラメッタの名前が出てくるのは気分が良くない。だが反論することもできなかった。
計画が実行できずに暇になってしまったクレーエンが城の中を歩き回っていると。
「クレーエン様、わたくしを守ってください」
はっきりと意見をするディーレに比べて、臆病でいつも隠れているベリッヒだった。
自分の弱さを自覚するところまではいい、だがベリッヒのように他力本願なのは嫌いなタイプだ。
だが今は姫様の相手をするのも良いかもしれない。
「どうした? いつ守るんだ?」
「もう、いつまでもですわよ。か弱き乙女ですもの」
クレーエンは考えながら歩いていたためベリッヒの部屋の近くまで来ていたらしい。
引きこもりの姫様はクレーエンに怯えながらも。
「やったあ! これでわたくし安全を確保しましたのお」
叫びを抑えて喜んでいる。
クレーエンは思う、この姫はだいぶ変な人だと。
0
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる