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六章 魔王軍
29話:姫のために
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翌日。
クレーエンとラメッタはトゥーゲント連合の人たちと魔族対策を進めるため、アジトにやって来ていた。オシュテン率いるオシュテン派閥には捕まえた魔族を拷問して話を聞き出す専門にして、トゥーゲント連合にバオム国の警察のような仕事を任せることにした。
一番の目的は統一が進むバオム国全体の管理と、潜んでいる魔族の確保である。
そして、拷問の最高責任者はラメッタ、警察の最高責任者はクレーエンと
なった。ラメッタは魔道具や魔法薬を製造して魔王軍相手に優位に進めるという使命があって、クレーエンはその強さで国民が暴動を起こさないように見張ったり国民の安全を確保することで安心感を与えたりする仕事がある。
トゥーゲント連合に行くのはクレーエンだけでも良かったのだが、栽培の様子やミルクの畜産体制を見ておきたいと考えている。もう一つ理由があるとすれば、バオム国の姫についての悩みを話し合いたかったのだ。
アジトでトゥーゲント連合の長であるシュヴァルツと話す。
それからフルーツを栽培するドーム型の建物を見学することにした。
休憩時間まで時間があるらしく、ふかふかなソファに座って待つことにした。
このドームで働く従業員の一人がここで栽培するフルーツを搾ったジュースを持ってくる。甘い香りがする赤色のジュースだ。
ラメッタとクレーエンがコップを受け取ると従業員は仕事へ戻った。
その隙にラメッタはクレーエンに話しかける。
「クレーエン。ディーレ姫が焦っているのは分かるだろう。姫の中でも最もしっかりしていて責任感も強いお姉さんだ」
「あれをお姉さん呼びするのは違うだろ。焦っているというか慌てているというか。落ち着きがないというか、鷹揚としている感じがお姉さんだからな」
「拘りが強いの。おぬしが言うお姉さんはこの世に実在するのか?」
「ああ」
「そうか。物語の中だけでなければいいのじゃが」
ラメッタはベリッヒが紹介した例の本(つまりはおねショタ小説)を知らないはずだが。
七十八年という生きた時間の長さがおねショタ本を想定させる、あるいは既に見ていることに繋がっているのかもしれない。
「いいか、ラメッタ。ディーレ姫は王族として先頭に立って物事を進めたいって思ってるだろうよ。でも現状は俺とラメッタが中心になってしまっている。他国の人間ばかりが役立っている状況に妬いているし悔しいんだろ」
「かもな。じゃが、ディーレ姫は王族としてすべきことがある。わしやクレーエンが王のように振舞えば、いくらバオム国がエアデ王国の従属国だろうと、完全な侵略行為だと思われて抵抗される、暴動を起こされる。王として見せ続けることは大事じゃろ」
「俺はそもそも分からないな。オシュテン派もトゥーゲント連合もラメッタを認めている。ごく一部の暴動くらいなんとでもなるだろ」
「他国の信用問題もある。でも実際は、わしは王の器ではないし、帰って研究を進めたいんじゃ」
「俺はエアデ王国のときよりも楽しそうだって」
ラメッタは自身が一口飲んだコップをクレーエンに押し付ける。
クレーエンはつい口を付けてしまった。
「あまり言うな」
ラメッタは怒っているようでもなくて。
やけに落ち着いた言葉に驚いてしまう。
すぐにクレーエンはラメッタと間接キスしてしまったことに気づくと頬を赤くしてそっぽを向く。そのぽかぽかした火照りは焦りだけでも恥ずかしさだけでもなくて、内からじんわりと広がっていくような感じで、でもそれが何かは分からない。
分からないが、痛みとか苦しみとかではないのははっきりしている。
「もしかして、お前って」
「なんじゃ。傾国の美女と間接キスしておいて」
「平気そうに言いやがって」
「押し付けた側は覚悟できておるからな。それにおぬしがいくら美少女でも年上お姉さんしか興味がないことも理解しておる。そうでなければ気軽にこんなことできぬ」
「なんだそれ」
クレーエンは呆れる。
自身のジュースを飲み干してラメッタを見るが、先ほどからジュースが減っていない。
意外と潔癖症だろうか?
「ラメッタ、残りもらうぞ」
「わしが飲む」
「そうか」
「だからいいのじゃ。それより、ディーレ姫を元気づけたい」
「難しいだろ。俺たちが気遣って用意してみたいなのは絶対嫌がるだろうし。表面では嬉しそうにしてくれるかもしれないが」
「そうかも」
「そっとした方がいいとまでは言わないけどさ。父が行方不明で、国としてはどんどん機能しなくなって、俺たちが来て自分の無力さを痛感して、でも既に魔王軍が国に潜伏していて。俺たちが何をしてもディーレ姫は元気出せないだろ」
「それくらい分かる。ベリッヒ姫に当たってしまったことを申し訳なさそうにしていた。クレーエンはベリッヒ姫と仲良くなってたな」
「まあ」
「だからこそかもしれない。姉なのに分かってやれない、でもクレーエンは違う。自分を追い込んでしまっている。今日もジュースを渡そうと思っていたが、受け取ってもらえると思うが、わしはどうするべきか分からないのじゃ」
「俺だって分からないな。でも本当に魔王軍をどうにかしなくてはならないだろうな」
「わしが処刑されないためにも、クレーエンが使命を全うするためにも、ディーレ姫やバオム国のためにも。目的は同じじゃな。それも分かっている。でも長引くのは気の毒じゃ」
「無策で戦って負けたら最悪だ」
「そうじゃな。今日もジュースを持っていく。わしがディーレ姫と話したい」
「お前が良いやつって分かって自分が情けなくなった」
ラメッタはジュースを飲み干す。
そして、満面の笑みを浮かべるものだからクレーエンは身構えた。
「そりゃそうじゃろ! わしは良いやつじゃ、クソガキとは違うのじゃ」
とか言ってくるやつだと思っていた時期もあった。
でもこの狂乱科学者は、見た目は子供なこいつは、本当は。
「頼りにしておるぞッ!」
気づけばいろんな人に気に入られてしまうような、生粋の人たらしでもあったのだ。
クレーエンとラメッタはトゥーゲント連合の人たちと魔族対策を進めるため、アジトにやって来ていた。オシュテン率いるオシュテン派閥には捕まえた魔族を拷問して話を聞き出す専門にして、トゥーゲント連合にバオム国の警察のような仕事を任せることにした。
一番の目的は統一が進むバオム国全体の管理と、潜んでいる魔族の確保である。
そして、拷問の最高責任者はラメッタ、警察の最高責任者はクレーエンと
なった。ラメッタは魔道具や魔法薬を製造して魔王軍相手に優位に進めるという使命があって、クレーエンはその強さで国民が暴動を起こさないように見張ったり国民の安全を確保することで安心感を与えたりする仕事がある。
トゥーゲント連合に行くのはクレーエンだけでも良かったのだが、栽培の様子やミルクの畜産体制を見ておきたいと考えている。もう一つ理由があるとすれば、バオム国の姫についての悩みを話し合いたかったのだ。
アジトでトゥーゲント連合の長であるシュヴァルツと話す。
それからフルーツを栽培するドーム型の建物を見学することにした。
休憩時間まで時間があるらしく、ふかふかなソファに座って待つことにした。
このドームで働く従業員の一人がここで栽培するフルーツを搾ったジュースを持ってくる。甘い香りがする赤色のジュースだ。
ラメッタとクレーエンがコップを受け取ると従業員は仕事へ戻った。
その隙にラメッタはクレーエンに話しかける。
「クレーエン。ディーレ姫が焦っているのは分かるだろう。姫の中でも最もしっかりしていて責任感も強いお姉さんだ」
「あれをお姉さん呼びするのは違うだろ。焦っているというか慌てているというか。落ち着きがないというか、鷹揚としている感じがお姉さんだからな」
「拘りが強いの。おぬしが言うお姉さんはこの世に実在するのか?」
「ああ」
「そうか。物語の中だけでなければいいのじゃが」
ラメッタはベリッヒが紹介した例の本(つまりはおねショタ小説)を知らないはずだが。
七十八年という生きた時間の長さがおねショタ本を想定させる、あるいは既に見ていることに繋がっているのかもしれない。
「いいか、ラメッタ。ディーレ姫は王族として先頭に立って物事を進めたいって思ってるだろうよ。でも現状は俺とラメッタが中心になってしまっている。他国の人間ばかりが役立っている状況に妬いているし悔しいんだろ」
「かもな。じゃが、ディーレ姫は王族としてすべきことがある。わしやクレーエンが王のように振舞えば、いくらバオム国がエアデ王国の従属国だろうと、完全な侵略行為だと思われて抵抗される、暴動を起こされる。王として見せ続けることは大事じゃろ」
「俺はそもそも分からないな。オシュテン派もトゥーゲント連合もラメッタを認めている。ごく一部の暴動くらいなんとでもなるだろ」
「他国の信用問題もある。でも実際は、わしは王の器ではないし、帰って研究を進めたいんじゃ」
「俺はエアデ王国のときよりも楽しそうだって」
ラメッタは自身が一口飲んだコップをクレーエンに押し付ける。
クレーエンはつい口を付けてしまった。
「あまり言うな」
ラメッタは怒っているようでもなくて。
やけに落ち着いた言葉に驚いてしまう。
すぐにクレーエンはラメッタと間接キスしてしまったことに気づくと頬を赤くしてそっぽを向く。そのぽかぽかした火照りは焦りだけでも恥ずかしさだけでもなくて、内からじんわりと広がっていくような感じで、でもそれが何かは分からない。
分からないが、痛みとか苦しみとかではないのははっきりしている。
「もしかして、お前って」
「なんじゃ。傾国の美女と間接キスしておいて」
「平気そうに言いやがって」
「押し付けた側は覚悟できておるからな。それにおぬしがいくら美少女でも年上お姉さんしか興味がないことも理解しておる。そうでなければ気軽にこんなことできぬ」
「なんだそれ」
クレーエンは呆れる。
自身のジュースを飲み干してラメッタを見るが、先ほどからジュースが減っていない。
意外と潔癖症だろうか?
「ラメッタ、残りもらうぞ」
「わしが飲む」
「そうか」
「だからいいのじゃ。それより、ディーレ姫を元気づけたい」
「難しいだろ。俺たちが気遣って用意してみたいなのは絶対嫌がるだろうし。表面では嬉しそうにしてくれるかもしれないが」
「そうかも」
「そっとした方がいいとまでは言わないけどさ。父が行方不明で、国としてはどんどん機能しなくなって、俺たちが来て自分の無力さを痛感して、でも既に魔王軍が国に潜伏していて。俺たちが何をしてもディーレ姫は元気出せないだろ」
「それくらい分かる。ベリッヒ姫に当たってしまったことを申し訳なさそうにしていた。クレーエンはベリッヒ姫と仲良くなってたな」
「まあ」
「だからこそかもしれない。姉なのに分かってやれない、でもクレーエンは違う。自分を追い込んでしまっている。今日もジュースを渡そうと思っていたが、受け取ってもらえると思うが、わしはどうするべきか分からないのじゃ」
「俺だって分からないな。でも本当に魔王軍をどうにかしなくてはならないだろうな」
「わしが処刑されないためにも、クレーエンが使命を全うするためにも、ディーレ姫やバオム国のためにも。目的は同じじゃな。それも分かっている。でも長引くのは気の毒じゃ」
「無策で戦って負けたら最悪だ」
「そうじゃな。今日もジュースを持っていく。わしがディーレ姫と話したい」
「お前が良いやつって分かって自分が情けなくなった」
ラメッタはジュースを飲み干す。
そして、満面の笑みを浮かべるものだからクレーエンは身構えた。
「そりゃそうじゃろ! わしは良いやつじゃ、クソガキとは違うのじゃ」
とか言ってくるやつだと思っていた時期もあった。
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