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本編
12話:落ち着いて、真由香さんっ
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梅雨が明けて。
講義後、真由香は緋色と集まる学生ラウンジに着いた。
「むうー」
真由香はその光景を見て拗ねる。
またか、と呆れながらも、分かりやすく怒っていた。
「節穴男と節穴女! またですか、後輩から緋色ちゃんを奪うなんて」
「落ち着いて、真由香さんっ」
緋色が真由香の頭を撫でると、真由香は一時的に怒りを収めた。
真由香が作った無責任な歌を緋色が無責任に歌おう、といった話をしてからというもの、緋色は明るい服を着て髪を整え背筋を伸ばすようになった。
元々高身長で綺麗な顔をしていることもあり、学内でも一際目立つ。緋色は同級生と仲良くするようになっていた。
緋色の魅力に周りが気づきだしたのだ。
「けどけど、二年以上同じクラスで、同じ教室で、いくらクラスの人数が多くて授業が選択制だからって、緋色ちゃんの魅力に気づかないものですかね。必修もあるのに」
真由香は顔を真っ赤にして怒鳴る。
緋色が席を案内して、真由香は黙って座る。
緋色の同級生らは緋色に手を振って去っていた。
「何怒っているんですか?」
「む。緋色ちゃん、色気づいちゃって」
「色気?」
「そうです、色気です。もうえちえちです。だから俺っちはおこなのです」
「よく分からないのだけど」
「ふんっ。そーですか」
真由香はスマートフォンを取り出して操作する。
「曲、引き続き編集してみました。本当に俺っちの元で歌ってくれるのですか?」
「もちろん」
緋色は快く答える。
「俺っち、一通りらぶらぶ・ホイップの曲は聴きました。アイドル曲っぽい曲を作りたいと思っています」
「よろしくね」
「音源、ちょっと聴いてくれませんか? 緋色ちゃん、イヤホン持ってます?」
「ちゃんと持ってるから」
スマートフォンを取り出して、イヤホンを付ける。
音源を再生すると、緋色の心臓の鼓動が共鳴した気がした。
緋色が所属していたアイドルグループであるらぶらぶ・ホイップが炎上して解散させられて、解散をきっかけにらぶらぶ・ホイップのリーダーが自殺を図って、炎上に関わった人はみんな死ねって思った、恨んだ。
リーダーがあのとき死んでいたなら、緋色はこの世界を恨むしかなかったどろう。
この先の人生で炎上を許すこともない。
それでも、リーダーが生きてくれただけで、緋色はまだ歌いたいと思えるのだ。
歌を一通り聞き終えた緋色はイヤホンを外した。
「タイトルは“人災人類絶滅論”です。人が人を傷つけるのは本質的な本能なのか。もし傷つけ合うことを止められないなら、人類は人類によって絶滅するだろう。少なくとも絶滅した方がましだって」
「テーマから窮屈な曲だと思ってたけど、広い芝生がありそうな曲ね」
「どんな例えですか」
真由香はペットボトルのコーラを呷った。
「真由香さん、ありがとう」
「急にどうしたんです?」
「曲聴いてたら楽しそうだなって思って」
「絶対楽しいですよ! 緋色ちゃんのための曲です」
「そっか。こっちの曲を聴いてもいい?」
緋色が再びイヤホンをして、曲を流す。
その曲は“気づいて”というタイトルらしい。
雨音が混じっている。
一人の少女が雨の中、大切な人の背中を見ている。少女は合羽を着ている。しかし、大切な人は傘を差していて、激しい雨にさらされる。後ろからでも大切な人が落ち込むのは見えてしまう。少女は寄ろうとして走るがすぐに躓いて転んでしまう。
少女が『気づいて』と叫ぶと大切な人は振り返る。ようやく大切な人が泣いていたことに気づく。ただ『気づいて』という言葉は届かない。
曲中では、『気づいて』については詳細がない。
緋色は体中が燃えているような気がした。
緋色はタオルハンカチで慌てて汗を拭く。
「真由香さん、あとはこれ?」
「俺っちが一番時間をかけた曲だよ。“小さな革命とこれから”ってタイトルにした。大抵のことは頑張れないけど、それでもたまには頑張りたいから」
「聞いてみるね」
緋色は曲を流した。
緋色は気づかなかったが、つい歌ってしまっていた。歌詞は先読みできないため、すべて『ラ』で間に合わせている。
真由香の目には涙が浮かんでいた。緋色の声は温かい。
緋色はイヤホンを外した。真由香は咄嗟に目を擦って涙を誤魔化す。
「一番好きだ。真由香さんの歌声好きかも。私が上書きするなんてもったいない」
「イメージしてほしいので」
「そっか」
真由香は嬉しそうな表情で緋色に寄る。
「緋色ちゃんの声は別格です、綺麗です。俺っちはもっと良いの作りたいです!」
「一緒に頑張ろう」
緋色が真由香の頭を撫でる。
真由香は目を閉じて身を委ねた。
講義後、真由香は緋色と集まる学生ラウンジに着いた。
「むうー」
真由香はその光景を見て拗ねる。
またか、と呆れながらも、分かりやすく怒っていた。
「節穴男と節穴女! またですか、後輩から緋色ちゃんを奪うなんて」
「落ち着いて、真由香さんっ」
緋色が真由香の頭を撫でると、真由香は一時的に怒りを収めた。
真由香が作った無責任な歌を緋色が無責任に歌おう、といった話をしてからというもの、緋色は明るい服を着て髪を整え背筋を伸ばすようになった。
元々高身長で綺麗な顔をしていることもあり、学内でも一際目立つ。緋色は同級生と仲良くするようになっていた。
緋色の魅力に周りが気づきだしたのだ。
「けどけど、二年以上同じクラスで、同じ教室で、いくらクラスの人数が多くて授業が選択制だからって、緋色ちゃんの魅力に気づかないものですかね。必修もあるのに」
真由香は顔を真っ赤にして怒鳴る。
緋色が席を案内して、真由香は黙って座る。
緋色の同級生らは緋色に手を振って去っていた。
「何怒っているんですか?」
「む。緋色ちゃん、色気づいちゃって」
「色気?」
「そうです、色気です。もうえちえちです。だから俺っちはおこなのです」
「よく分からないのだけど」
「ふんっ。そーですか」
真由香はスマートフォンを取り出して操作する。
「曲、引き続き編集してみました。本当に俺っちの元で歌ってくれるのですか?」
「もちろん」
緋色は快く答える。
「俺っち、一通りらぶらぶ・ホイップの曲は聴きました。アイドル曲っぽい曲を作りたいと思っています」
「よろしくね」
「音源、ちょっと聴いてくれませんか? 緋色ちゃん、イヤホン持ってます?」
「ちゃんと持ってるから」
スマートフォンを取り出して、イヤホンを付ける。
音源を再生すると、緋色の心臓の鼓動が共鳴した気がした。
緋色が所属していたアイドルグループであるらぶらぶ・ホイップが炎上して解散させられて、解散をきっかけにらぶらぶ・ホイップのリーダーが自殺を図って、炎上に関わった人はみんな死ねって思った、恨んだ。
リーダーがあのとき死んでいたなら、緋色はこの世界を恨むしかなかったどろう。
この先の人生で炎上を許すこともない。
それでも、リーダーが生きてくれただけで、緋色はまだ歌いたいと思えるのだ。
歌を一通り聞き終えた緋色はイヤホンを外した。
「タイトルは“人災人類絶滅論”です。人が人を傷つけるのは本質的な本能なのか。もし傷つけ合うことを止められないなら、人類は人類によって絶滅するだろう。少なくとも絶滅した方がましだって」
「テーマから窮屈な曲だと思ってたけど、広い芝生がありそうな曲ね」
「どんな例えですか」
真由香はペットボトルのコーラを呷った。
「真由香さん、ありがとう」
「急にどうしたんです?」
「曲聴いてたら楽しそうだなって思って」
「絶対楽しいですよ! 緋色ちゃんのための曲です」
「そっか。こっちの曲を聴いてもいい?」
緋色が再びイヤホンをして、曲を流す。
その曲は“気づいて”というタイトルらしい。
雨音が混じっている。
一人の少女が雨の中、大切な人の背中を見ている。少女は合羽を着ている。しかし、大切な人は傘を差していて、激しい雨にさらされる。後ろからでも大切な人が落ち込むのは見えてしまう。少女は寄ろうとして走るがすぐに躓いて転んでしまう。
少女が『気づいて』と叫ぶと大切な人は振り返る。ようやく大切な人が泣いていたことに気づく。ただ『気づいて』という言葉は届かない。
曲中では、『気づいて』については詳細がない。
緋色は体中が燃えているような気がした。
緋色はタオルハンカチで慌てて汗を拭く。
「真由香さん、あとはこれ?」
「俺っちが一番時間をかけた曲だよ。“小さな革命とこれから”ってタイトルにした。大抵のことは頑張れないけど、それでもたまには頑張りたいから」
「聞いてみるね」
緋色は曲を流した。
緋色は気づかなかったが、つい歌ってしまっていた。歌詞は先読みできないため、すべて『ラ』で間に合わせている。
真由香の目には涙が浮かんでいた。緋色の声は温かい。
緋色はイヤホンを外した。真由香は咄嗟に目を擦って涙を誤魔化す。
「一番好きだ。真由香さんの歌声好きかも。私が上書きするなんてもったいない」
「イメージしてほしいので」
「そっか」
真由香は嬉しそうな表情で緋色に寄る。
「緋色ちゃんの声は別格です、綺麗です。俺っちはもっと良いの作りたいです!」
「一緒に頑張ろう」
緋色が真由香の頭を撫でる。
真由香は目を閉じて身を委ねた。
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