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悪女になるはずだった
01. 転生しました
私の名はエリー=ラザフォード。
ラザフォード公爵家の次女として生まれた。
私達の母親は上位貴族の女性としては珍しく子供達にこまめに愛情を示してくれる人だったので、ごく小さな頃には姉も私も無邪気でいられた。
だが、ある時から母は体調を崩すことが多くなり、娘達を愛していないわけではないが、人間関係の構築に不器用なところもあってか公爵としての厳しさのほうが先に立つ父親との間を取り持ってくれることができなくなっていたので、次第に家族の仲は冷えていった。
私の姉は所謂天才で、幼いころからその才は大人たちが舌を巻くほどだった。そのため家のことを第一に考える合理的な父により爵位を継げない女性であるのに実質的に公爵家の跡継ぎと目されていた。
母の具合が悪いことから目をそらしたかったのもあるのだろう、姉を教育するという目標を定めた父は屋敷にいるときは姉の教育にかかりきりになり、姉はなまじ何でも出来るほど優秀だったがために父の言うがままにそれを受け入れ続け、私は、いつしか自分をいらないもののように感じるようになっていった。
そんなある日、私は夢を見た。
その夢は妙に現実的だが、一方でとても現実とは思えないような奇妙なものだった。
夢では既に成人した私であろうと思われる人物が、同じ年頃の令嬢に様々な嫌がらせをする場面やその令嬢を庇う私の婚約者であるところのこの国の第二王子の姿、最終的にはその婚約者に捨てられて嘆く姿などがまるで一編の物語のように流れ過ぎていった。
そして目覚めた私は、その夢がこれから起こる現実だとわかった。
私はその物語を知っていた。私は“前世”でその物語を読んだことがあったからだ。
物語の世界に生れ直すなんて荒唐無稽な話だが、現に私はこうして生まれ変わってしまった。
優秀な姉にコンプレックスを持ち、親からの愛情を感じられず、その代替として婚約者からの愛情を求めて突き進む女の気持が、今のありのままの私には非常にしっくりときた。
この物語のことを知る世界の私と今の私。どちらも間違いなく私であることがすんなりと納得できたのだ。
しかし、物語のエリーが婚約者となった王子に恋心と激しい執着心を持ち、結果としてまともな公爵令嬢としては破滅するというのは頂けないなと思った。
私は姉に対する嫉妬心も父に対する不満も納得できたが、まだ出会ってもいない第二王子に対する思いには共感できず、ただ恐怖を感じた。
しかも、物語について冷静に考えるとエリーってそんなに悪いことしてるかな? と思わなくもないような状況で王子達から糾弾されるというのが納得がいかなかった。
王子は鬱陶しい婚約者を放って、初心で純真な下級貴族の令嬢に現を抜かしているのだ。いや、アンタ、人を糾弾できるような立場じゃないよね? と普通に思うよね、コレ。
まあ、たしかに? 物語のエリーは王子の恋人に嫌がらせをするよ。
立場の弱い相手に酷い言葉を投げつけたり、時には手をあげたりする。
もちろん、前世の感覚ではそんなことをするのはいけないことだ。
今世であっても、推奨される行いではない。
でも、エリーは公爵令嬢で、王子は彼女の正式な婚約者だもの。この状況下において、相手の子爵令嬢が叱責されたりぶたれたりするのって、それほどのことか? となる。
エリーは自分の立場を守ろうとしてるだけだしね。ただなんとなく気に入らないから子爵令嬢を虐めてるわけではなく、そうされても仕方のないことを逆に子爵令嬢のくせにやらかしてるのはどーなるの? と言いたい。
んで、真実の愛かなんか知らんが、結局のところ、王子は公爵令嬢であるエリーよりも立場が上だからエリーを糾弾できたわけだよね? それってエリーが子爵令嬢にしたことと何が違うの? 違わないよね。
だがしかし、今世では身分は絶対だ。
前世の感覚では理不尽なこともぐっと我慢するしか無い。そう、相手の身分によってはね。
つまり、私ことエリーは王子の権力から自分を守る必要があるってこと。
可及的速やかにになんらかの手を打つ必要がある。
まずは何処から修正をかけるべきだろうか。
幸い、王子との婚約の時期ははまだ先だ。
これについてはとにかく抵抗するしかない。父親が娘達のことを実はちゃんと愛していているのなら、状況さえ整えば王子との婚約は無しにできるはず。
となると、父親との関係というか、家族の問題を解決すべきだな。
物語の中の私は家族のことが好きだからこそ満たされない思いを抱えてしまい、それを王子にぶつけて失敗する。
今の私の中にも、秘かにその歪んだ愛情は息づいていると思うのだ。
きっと、物語のこと以外は朧げな記憶しかない前世でも、私は恋愛とかよりも家族愛を求めていたのではないかなと思う。
私が今世の私に生まれ変わったのは、元を正せば王子とヒロインのちゃちな恋愛云々ではなく、偶々知ったこの物語の中で悪役だったエリーが、悪事を働いてしまったものの、最終的には家族の愛情を確認できたことで救われたところが気に入っていたからではないだろうか?
この物語は全体的に登場人物たちに優しい世界となっていた。
ヒロインの令嬢はエリーに虐められこそするが、子爵令嬢であるにもかかわらず、伯爵家の養女になって比較的すんなりと王子の妃になれるし、王子のほうもまわりの力で難なく王太子の座をものにするのだが、ヒロインの敵役であるエリーも家族のとりなしによって王子たちに糾弾がされたのちにはちゃんと救われる。
だから、ヒロインたちが結婚する頃には社交界からは遠ざかっているものの良い人の元へ嫁いで穏やかに暮らしているということになっていた。
「あの方も幸せだと聞いて嬉しい」
「あんなことがあったのに、そう言うなんて君は優しいな」
みたいなヒロインとヒーローのやり取りがあり、ヒロインの善性が強調される場面でさらりと触れられたエリーのその後の話は前世の私を満足させた。
そして、それは今の私にとって朗報だ。
万一、修正に失敗したとしても最終的には穏やかな暮らしが待っているというのはいい。幾分気持ちを軽くする。
でも、できることなら失敗はしたくないというのが未来を知る人間の本心だろう。
結末がわかっているのに、失敗したいなんて誰も思わない。
だから、エリーは王子とは婚約しない。
他の誰かと婚約すれば万事解決じゃない?
さしあたっては家族の不干渉の原因となる母親の体調をなんとかしよう。そうしよう。
ラザフォード公爵家の次女として生まれた。
私達の母親は上位貴族の女性としては珍しく子供達にこまめに愛情を示してくれる人だったので、ごく小さな頃には姉も私も無邪気でいられた。
だが、ある時から母は体調を崩すことが多くなり、娘達を愛していないわけではないが、人間関係の構築に不器用なところもあってか公爵としての厳しさのほうが先に立つ父親との間を取り持ってくれることができなくなっていたので、次第に家族の仲は冷えていった。
私の姉は所謂天才で、幼いころからその才は大人たちが舌を巻くほどだった。そのため家のことを第一に考える合理的な父により爵位を継げない女性であるのに実質的に公爵家の跡継ぎと目されていた。
母の具合が悪いことから目をそらしたかったのもあるのだろう、姉を教育するという目標を定めた父は屋敷にいるときは姉の教育にかかりきりになり、姉はなまじ何でも出来るほど優秀だったがために父の言うがままにそれを受け入れ続け、私は、いつしか自分をいらないもののように感じるようになっていった。
そんなある日、私は夢を見た。
その夢は妙に現実的だが、一方でとても現実とは思えないような奇妙なものだった。
夢では既に成人した私であろうと思われる人物が、同じ年頃の令嬢に様々な嫌がらせをする場面やその令嬢を庇う私の婚約者であるところのこの国の第二王子の姿、最終的にはその婚約者に捨てられて嘆く姿などがまるで一編の物語のように流れ過ぎていった。
そして目覚めた私は、その夢がこれから起こる現実だとわかった。
私はその物語を知っていた。私は“前世”でその物語を読んだことがあったからだ。
物語の世界に生れ直すなんて荒唐無稽な話だが、現に私はこうして生まれ変わってしまった。
優秀な姉にコンプレックスを持ち、親からの愛情を感じられず、その代替として婚約者からの愛情を求めて突き進む女の気持が、今のありのままの私には非常にしっくりときた。
この物語のことを知る世界の私と今の私。どちらも間違いなく私であることがすんなりと納得できたのだ。
しかし、物語のエリーが婚約者となった王子に恋心と激しい執着心を持ち、結果としてまともな公爵令嬢としては破滅するというのは頂けないなと思った。
私は姉に対する嫉妬心も父に対する不満も納得できたが、まだ出会ってもいない第二王子に対する思いには共感できず、ただ恐怖を感じた。
しかも、物語について冷静に考えるとエリーってそんなに悪いことしてるかな? と思わなくもないような状況で王子達から糾弾されるというのが納得がいかなかった。
王子は鬱陶しい婚約者を放って、初心で純真な下級貴族の令嬢に現を抜かしているのだ。いや、アンタ、人を糾弾できるような立場じゃないよね? と普通に思うよね、コレ。
まあ、たしかに? 物語のエリーは王子の恋人に嫌がらせをするよ。
立場の弱い相手に酷い言葉を投げつけたり、時には手をあげたりする。
もちろん、前世の感覚ではそんなことをするのはいけないことだ。
今世であっても、推奨される行いではない。
でも、エリーは公爵令嬢で、王子は彼女の正式な婚約者だもの。この状況下において、相手の子爵令嬢が叱責されたりぶたれたりするのって、それほどのことか? となる。
エリーは自分の立場を守ろうとしてるだけだしね。ただなんとなく気に入らないから子爵令嬢を虐めてるわけではなく、そうされても仕方のないことを逆に子爵令嬢のくせにやらかしてるのはどーなるの? と言いたい。
んで、真実の愛かなんか知らんが、結局のところ、王子は公爵令嬢であるエリーよりも立場が上だからエリーを糾弾できたわけだよね? それってエリーが子爵令嬢にしたことと何が違うの? 違わないよね。
だがしかし、今世では身分は絶対だ。
前世の感覚では理不尽なこともぐっと我慢するしか無い。そう、相手の身分によってはね。
つまり、私ことエリーは王子の権力から自分を守る必要があるってこと。
可及的速やかにになんらかの手を打つ必要がある。
まずは何処から修正をかけるべきだろうか。
幸い、王子との婚約の時期ははまだ先だ。
これについてはとにかく抵抗するしかない。父親が娘達のことを実はちゃんと愛していているのなら、状況さえ整えば王子との婚約は無しにできるはず。
となると、父親との関係というか、家族の問題を解決すべきだな。
物語の中の私は家族のことが好きだからこそ満たされない思いを抱えてしまい、それを王子にぶつけて失敗する。
今の私の中にも、秘かにその歪んだ愛情は息づいていると思うのだ。
きっと、物語のこと以外は朧げな記憶しかない前世でも、私は恋愛とかよりも家族愛を求めていたのではないかなと思う。
私が今世の私に生まれ変わったのは、元を正せば王子とヒロインのちゃちな恋愛云々ではなく、偶々知ったこの物語の中で悪役だったエリーが、悪事を働いてしまったものの、最終的には家族の愛情を確認できたことで救われたところが気に入っていたからではないだろうか?
この物語は全体的に登場人物たちに優しい世界となっていた。
ヒロインの令嬢はエリーに虐められこそするが、子爵令嬢であるにもかかわらず、伯爵家の養女になって比較的すんなりと王子の妃になれるし、王子のほうもまわりの力で難なく王太子の座をものにするのだが、ヒロインの敵役であるエリーも家族のとりなしによって王子たちに糾弾がされたのちにはちゃんと救われる。
だから、ヒロインたちが結婚する頃には社交界からは遠ざかっているものの良い人の元へ嫁いで穏やかに暮らしているということになっていた。
「あの方も幸せだと聞いて嬉しい」
「あんなことがあったのに、そう言うなんて君は優しいな」
みたいなヒロインとヒーローのやり取りがあり、ヒロインの善性が強調される場面でさらりと触れられたエリーのその後の話は前世の私を満足させた。
そして、それは今の私にとって朗報だ。
万一、修正に失敗したとしても最終的には穏やかな暮らしが待っているというのはいい。幾分気持ちを軽くする。
でも、できることなら失敗はしたくないというのが未来を知る人間の本心だろう。
結末がわかっているのに、失敗したいなんて誰も思わない。
だから、エリーは王子とは婚約しない。
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