寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ

文字の大きさ
36 / 99

三十五

しおりを挟む
「ほんと、アイツと仲が良さそうだな。彼はトラの獣人か……フウッ、俺よりも色々とデカイな」

 カートラお兄様の瞳がキラキラしてる、ナサと戦いたいのね。

「お兄様ダメよ、彼との戦いは国が許可しないわ」

「そうだろうな。実際にあの獣人、ナサと戦うにしても、かなり手加減をされるだろう」

(騎士団長のお兄様がナサを見てそう言うなんて、ナサは相当強いのね)

 小さくなっていくナサの横を、この国とは違う鎧を身につけて長めのオレンジ髪を揺らして、こちらへと走って来る副団長で伯爵のランドル・ベラルコス様の姿が見えた。

「こんな所にいたのか、カートラ。騎士団の宿舎にもいないから探したぞ、勝手に動き回るな」

「悪い、ランドル。ガレーン王族との話し合いは終わったのか?」

「ああ、終わった。日時も決まったよ、いまから三ヶ月後のガレーン国王祭の日に」

「ガレーン国王歳の日か、わかった。明日、リルガルドに戻って国王陛下に伝えないとな」

 三ヶ月後の国王祭? 何の話をしているのかわからないけど。二人を見てるとランドル様はカートラお兄様の横にいる、わたしに視線を送った。

「ところで、この綺麗なお嬢さんは誰?」

 その問いにお兄様はニヤッと笑い、わたしの腰を引き寄せた。

「あ、」
「この綺麗な子は俺の彼女だ、どうだ可愛いだろう?」

(まあ、お兄様ったらランドル様に意地悪をしているわ)

「お前に彼女? 私でさえ、まだいないのにって、……あれっ?」

 わたしの顔を間近くで見て首を傾げた。何処となく、カートラお兄様に似ていたのだろうか、ランドルは考える素振りを見せる。

「フフ、お忘れですかランドル様? カートラお兄様の妹のリイーヤです」

「ええ、カートラの妹? もしかして、リイーヤちゃん?」

「はい、リイーヤです」



 ランドル様の驚いた声が北口の門に響く、かなり驚いた様子。

「カートラ、お前はリイーヤちゃんがこの国にいる事を事前に知っていたな。ガレーン国に行くと言って聞かなかったのもリイーヤちゃんに会うためか?」

「ああ、そうだ。それと、この国の騎士団にも興味あったし、何より、ワーウルフの話だ」

 まだ、リルガルド国ではワーウルフが噂になっている。

 お兄様はわたしに。

「リイーヤは知らないか、強制に召喚されたワーウルフトと冒険者が戦った話を」

 え、カートラお兄様は知らないの? アトールはこの国にわたしがいるとは伝えたけど、ワーウルフの事まではお兄様に伝えていないのね。

(知ったら、飛んできてしまうものね)

「えーっと、その話は……北門の近くにワーウルフが二体出たとは聞きましたけど、戦った冒険者と女性がどんな人までかは知りません」

「ん、女性? ワーウルフが二体? フムフム……そうか、ワーウルフと戦ったのはリイーヤ、お前だな。俺は戦った冒険者とは言ったが、女性の事は言っていない。それに、ワーウルフは二体もいたのか」

「あ、ああ……」

 しまった誤魔化そうとばかり考えて、自ら墓穴を掘ってしまった……お兄様とランドル様の瞳が痛い、これは二人に全部話すしかない。

「そうです、ワーウルフと闘ったのはこの国の冒険者ーーいいえ、騎士団の騎士と私です」

「騎士団の騎士か、こちらに伝わってきた話とは少し違うな。で、どうだった? ワーウルフ二体はデカかったか? 戦った感想は? 強さはとうだ、相当強かったのか?」

「私もワーウルフの強さは知りたいですね、魔法は効きましたか?」

 話に食いついた、剣士のお兄様と魔法使いのランドル様の、瞳が生き生きとしている。

「ワーウルフは二体いたのですが、片方は雄で体はニメートル以上で突進や引き裂き攻撃をしました。もう片方は雌で、雄よりも一回り小さく口から衝撃弾、突進攻撃をしました。魔法は……騎士団の魔法使いの方は訓練後だったようで魔力がなく、魔法は使用できませんでしたが、わたしの雷魔法は効いたと思います」

 わたしの説明に二人は頷く。

「そうか、怪我はしなかったか?」

「先に雌の魔法陣を破り消した時、怒りに満ちた雄の体当たりを受けてしまい、脇に痣か出来ました」

 アザと聞いた、カートラお兄様の額に深いシワがより、怖い顔になった。

(もしや、ここで!)

「リイーヤ、脇の痣を見せてみろ!」

 やっぱり、こうなった。

「カートラお兄様、ここは外ですし、ランドル様と近くに警備の騎士もおります。きゃっ、こんな所で服を掴まないでぇ!」

「俺に傷をみせろ!」
「おい、落ち着けカートラ!」

「お兄様!!」

 学園のときも怪我をすると、いつも『見せてみろ!』と言うお兄様。子供の頃は良かったけど、わたしはすでに大人で淑女なので無理。

「アザは、ナサに貰った傷薬でもう目立たなくなりました、手を離して……」

「ナサ? さっきの獣人か」
「獣人、ああ、こちらに来る時にすれ違った、半獣のあの方ですか?」

「はい」

「そうだ、カートラ。あの獣人、何処かで見たことがありませんか?」

「ナサを何処かで見たこと? んー、俺は覚えていないな」

「そうですか、私の覚え違いですかね」

「そうじゃないか? 学園、国にも獣人はたまに来るし……あれほど、ガタイのいい獣人は一度見たら忘れねぇ」

 ナサも村から出稼ぎに来ていると言っていたから、ランドル様の見間違いかな。それよりナサは宿舎に戻ったかな、また早くからミリア亭にいたりして……

(そうだ、わたしも一度家に戻って、店に行く支度をしないと……いまは何時?)

 北門からだと時計台は遠くて見られない、そのとき、ボーンボーンと時計の鐘の音が十二回なった。

 十二時だ。

「カートラお兄様、ランドル様。この後、仕事があるので、わたしは家に帰ります」

「仕事? ミリア亭か?」

「そうです。カートラお兄様、ランドル様、今日はお会いできて嬉しいですわ。失礼します」

「リイーヤ、その店は何時に開く?」

「…………え?」

 まさか、お兄様はミリア亭にまで来るきですか。しかし、いまここで時間をお兄様に伝えておかないと、家まできてしまう……、いいえ、わたしの家の場所はお兄様にすでにバレている。だけど、洗濯物とか、掃除が行き届いていない家に、お二人を招くわけにはいかない。

「今日はミリア亭は定休日です。ニ時頃に先程あったナサ達ーー亜人隊の方が休憩に来るので、お兄様とランドル様は来ないでください!」

「なに、亜人隊だと!」
「亜人の方達ですか」

 二人の瞳がキラリと光る。
 コレは火に油を注いだ感じ。

「二時だな、わかった。ランドル、俺たちは一旦、宿に戻って着替えるぞ」

「そうですね、私もこの目立つ鎧を早く脱ぎたいです」

 じゃまた後で、と二人はうきうきして戻って行った。

「ええ、お兄様、ランドル様!」

「また後でな」
「リイーヤちゃん、また後で」

 カートラお兄様とランドル様に来ないでと言ったのに……話を聞いてくない。

(……フウッ、みんなになんて言おう)

 小さくなっていくお兄様とランドル様の背中を見て、わたしは北門で肩を落とすのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...