寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ

文字の大きさ
84 / 99

八十二

しおりを挟む
 ミリア亭の掛け時計がなる、時刻は四時半。
 アサト、ロカ、リヤ、カヤはリキとミカと合流して、今夜の警備の話をするため、騎士団の訓練場に向かった。

 わたしは洗い物をすませてナサの隣に座った。

「ナサ、緊張してる?」
「シッシシ。緊張は、してるな……お袋のこともあるしな」

 突撃訪問の後、帰ってきたナサは時間ができたら話すと言ってくれた、わたしはそれに頷いた。



 今夜の舞踏会は六時から受け付けが始まる。
 それまでわたしとナサはドレスの気付けのこともあるからと、ミリア亭にいさせてもらえることになった。

(五時前から着付けを始めて、ここを五時半に出ればいい。ナサはソワソワしているから、わたしに話してくれるみたい)

 わたし達が出るまで店を開けると言ってくれた、ミリアさんにお礼を言う。

「ミリアさん、ありがとうございます」
「気にしなくていいよ、リーヤのドレスの着付けも手伝うからね」

 と、カウンターにコーヒーをコトッと三つ置いた。
 ナサのそれにも体をピクッと揺らした。

(わたしにどう話すか、頭の中でグルグル考えていたのかな?)

「ナサ、言いたくないことは言わずに、ゆっくり話して」

「ありがとう、リーヤ。……フウッ、よし、聞いてくれ」

 ナサは頷き、カウンター席でわたしの瞳をまっすぐ見た。

「はい」

「リーヤ、オレの故郷ーー実り豊かな土地ユーシリン国はガレーン国に十年前、オレが十三歳の時に敗戦した。とうじ国王の親父は一人で国を国民を守った……」

「え、ナサのお父様が一人で!」

 テーブル席で新聞を広げて、話を聞いていたミリアさんも驚いている。

「凄かった、親父は盾を持ち門の前に立ち『ここから先は行かせない!』と、向かってくるガレーン騎士を"守り覇気"で近寄らせなかった。三日三晩、ガレーン騎士と親父のにらみあいが続いたが、親父は四日目の夜に膝を突いた……ガレーン国王もいたらしくて王同士の話し合いの末、ガレーンはユーシリンの国民に手を出さないとの約束でユーシリン国は敗戦となった」

「……うん」

 親父はそのあと、体を壊して、床にふせり一年後に天にのぼった。泣きそうな顔になるナサ、お父様が好きだったんだ。

 スッと息を吸い。

「ガレーン国王はーー土地の実りの多い土地、ラベンダーなどの税をガレーンに収めるだけで、国民には手を出さずと王は親父との約束を守ってくれた。しかし、五年後、ガレーンの北門をモンスターが数体襲った。当時の北区の自警団と騎士団が応戦してなんとかモンスターを退けることができたが、たがいなる犠牲が多く出たと聞く」

 北区の北の奥の地には廃止された施設が残ったり、冒険者、騎士などしかはいれない、洞窟、ダンジョンなどがあると聞いているわ。

 どんな一流の冒険者でもモンスターを一体を倒せるかどうかわからない。だから、モンスター討伐には多くの人が参加する。

「そこでガレーン王は考え、戦力の高い亜人国ユーシリンから数人、戦力の高い騎士を支援してくれないか? と、そうすれば、戦争、税を取らないと持ちかけてきた……」

 ーーそれにはただ一つ、それには条件があった王の息子を一人参加させよと。

「それって、ナサのお父様と同じ"守りの覇気"が使えるから?」

 ナサはそうだと頷く。

「兄貴は頭も力もある次期王だし、弟はまだ十三歳で妹十二歳で女性……親父譲りの体と力しかないオレがいくと言い、とうじ冒険者をしていたアサトとロカが名乗り出てくれた。まあ、他にも、オレの悪友とか執事とか着いてきちゃったんだけどな」

「紹介してくれた、レンさん、ギギさん、ルフさん?」

「そうだ、まだ他にも北区にいるけどな……人がいるから、来るなって言ったんだけど。アイツらお前ばかり嫌な思いはさせねぇ、させません、させるかよってさ、シッシシ」

 ナサにはいい仲間がいたのね。

「仲間も一番に嬉しいが。こんなオレにさらに一番ができた、リーヤだ。リーヤと会えてオレは心を鷲掴みされた、初めて出会っときに一目惚れをして、ワーウルフでオレの心はかき乱されて、美人て、綺麗で、可愛くって……笑った顔が可愛くって、怒っても可愛い、がんばりやで、好きで、大好きで、オレを好きだって言ってくれた……」

 ナサに優しい瞳で見つめられて、

 わたしも。

「嬉しい、わたしもだよ。初めは獣人だわ……可愛い、耳と尻尾だったわ。ワーウルフのときの盾を構えたナサは素敵で、怒ったナサは少し怖かったけど。どんどんナサを知っていくうちに好きになって、大好きになったの」

 えへへっと照れるわたしに、ナサの手が伸びて頬を撫でられる。

 ーーあ、キスされる。

 テーブル席のミリアさんがガサッと、新聞に隠れる音がした。気付いたのかナサの耳も動き、二人で、笑っておでこをくっ付けた。

「ミリア、二人の世界に入った、すまん」
「いいって、新婚はこれじゃなくちゃねぇ」

 三人で笑っていた。



 時間も来たからとドレスに着替えようとなり、ミリアさんに手伝ってもらい着付けに入ろうとした。


 ドゴッと何かが壊れる音と、悲鳴が聞こえた。


「「ガオオオォォォォーーーーンン!!!」」


 そのあと、大きな獣の鳴き声が北区に響く。

「な、親父?」

 ナサがその獣の声にボソッとつぶやき、瞳を大きくした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

処理中です...