お別れを言うはずが

にのまえ

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婚約破棄いたしましよう

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  "私にしかできないこと"をずっと考えていた。

 そしてみつけた。

 婚約者、第二王子ルーク・マルクスとの別れだ……

 彼とは幼い頃から婚約者として、隣にいたので彼の性格はよく知っている。

 好きな人ができたのに心優しいルークは私に婚約破棄が言えず、好きな人のところにもいけない板挟み。


  ーーだから、私から伝えることにしたの。


 春の日差しが降り注ぐ、王城の庭園のテラスで私は言うと決めた。
 メイドがいれた紅茶を一口飲み、心を落ち着かせて口を開いた……退屈そうに。

「フゥッ、つまんない。――ルーク殿下、私、あなたとの婚約をやめるわ……政略結婚もしたくないし」

 蜂蜜色の髪をなびかせて、ツンとしたブルーの瞳を向けて、わがまま令嬢っぽく演じた。

(この言葉を言うため、一ヶ月前から何度も練習したのよ。……うまく、言えたかしら?)

 チラッとルークの顔を伺うと、整えられたシルバー色の髪と琥珀色の瞳の彼は、深く眉をひそめていた。


 そして、彼はいきなりテーブルを叩き、
 紅茶入りのカップがガチャンと音たてる。


「ローラン嬢、なにを言っているんだい? 僕たちは一年後には結婚するんだぞ……今更、婚約破棄などできるか!」


 ーーさらに冷たく


「えーっ、私、あなたとの結婚が嫌になったの……ルーク殿下は私の代わりに好きな人と結婚すればいいじゃない? 昨今、婚約者が代わるのもよくある話よ」

「婚約者が代わるだと? そんなことあるか! それに、僕に婚約者以外の好きな人などいない」


 ーールークの嘘つき!


 今年になって新しく入った、伯爵家から来た令嬢メイドと仲がいいと――
 二人仲良く手を繋ぎ庭園を散歩する姿をみた。
 書庫での密会していると色々うわさを聞かされた。


 そして、二日後に開催されるルークの生誕を祝う舞踏会で、その伯爵家の令嬢をエスコートすると知った。

(あなたの好きな色のドレスを用意したけど、もういいの……だからはやく、ルーク。はやく私と婚約破棄すると言って……そうでないと……)

「わ、私に、う、嘘なんて付かなくてもいいのですわ……ウッ、ウ」

「ローラン?……」

 あなたがグズグズしているから、胸が苦しくて、悲しい涙がでちゃったじゃない。一度でもこの涙がでたら止まらないのに。

「…………ううっ、う、」

「こんなに泣くほど、僕との婚約破棄が嫌なくせに……それにローランは何か勘違いをしている……」

「し、していないわ!」

「フゥッ、わかった。僕はもう我慢はしない……もうすぐ僕とローランは結婚するんだ、いまからキスより先に進む! 僕の熱い思いをローランにぶち込み、ローランのすべてを僕のものにする!」


「ふぇっ? キスより先ですかぁ?」


 驚きのあまり、すっとんきょうな声がでた。

「もしこのような事があったらと、君の両親、僕の両親に承諾済みだ。僕はローランを手離す気はない。初めてローランと会ったときから好きだ、愛している。僕から離れるのは許さないし……逃がしもしない」

 え、ええ! ルークに手を引かれて彼の寝室に連れていかれる。

 扉がパタンと閉まり、中で嘘だと……瞳をパチパチしても状況は変わらない。
 どういうことなの? 
 あなたは伯爵家からきた令嬢メイドと仲がいいと聞いた。
 だから、好きな人と結ばれてほしいと、決心して婚約破棄を伝えたのに。

「訳がわからないって、顔してるね」

 フッと笑い、ルークは軽く私の唇を奪い、チュッチュッと何度もキスを繰り返す。

「んっ、フゥッ、……ルーク殿下?」

「違うルークだよ、ローラン。キミの唇は柔らかくて、甘くて美味しいね。あの女の兄貴が僕のローランに好意を寄せて、見た目は良いけど頭がわるい妹を送ってくるとはな……僕がどれほど、ローランだけを愛しているか知らないくせに!」

 ルークの腕が腰に回り私を引き寄せ、首筋に顔をうめた。

「ひゃぁん! ルーク、ルークしゃま、ま、待って……先に、お、お風呂に」

 その私の言葉にルークは目を細めた。

「お風呂か……嬉しい、ローランもその気かな? 一緒に入ろうな」

 あ、ああ……ドレスはパサッと足元に落ち、器用にコルセットも取られて……下着姿。


 あ、あ、見られた……


 混乱しているうちに私はルークと一緒にお風呂に入り、隅々まで体を洗われてーーそのあと、彼のベッドで「愛している」と、何度も愛を囁かれた。

(ルーク様……)

 はじめは激痛が走ったけど、徐々に快感に変わった。
 ルークの掠れた声と汗ばんだ引き締まった体……好き、好き、ルーク、大好き。


「ローラン、無理をさせたね」

 翌朝、起きられない私のために朝食をとりに行くルーク。
 ベッドから見送った、彼の後ろ姿は何処か嬉しそうにみえた。


(お互いはじめてなのに……あんなに、何度もするものなの?)


 この日からルークはさらに優しくなり、王太子の手伝い中も私を離さなくなったし。
 彼の両親と私の両親も知っているみたいで、私達を温かく見守ってくれている。



 
 ーー初夏、テラスでお茶の時にルークに聞いた。


「そういえば、さいきんあのメイドを見ませんが、どうなさったの?」

 ルークとその令嬢の噂を流していたメイド達も見ない。


「彼女達にはやめてもらったよ」


 伯爵家の令嬢メイドは首になったそうだ。
 それから一週間後


「ルーク様、あの伯爵家が没落したと聞きましたが」

「そう? そんなこと、ローランは知らなくていいよ」

 と、彼は意味深な笑みを浮かべていた。
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