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57話
叔父様は涙をこぼしながら、お母さんオオカミを強く抱きしめていた。その足元に、まだ幼い子オオカミがとことこと近づく。
「ねぇママ、この人が……僕のパパ?」
「ええ、この方があなたのパパよ」
「な、なんと……私に子がいたとは。そうか……そうか、とても嬉しい……君がいてくれることも。しかし――まだ仕事の途中で、しばらく一緒には……」
「それは、わかっているわ」
「だけど今だけは……会えた喜びを噛みしめて、君と息子を抱きしめたい」
オオカミと人。種族を超えた親子の再会だった。叔父様は真っ赤に充血した目のまま、震える腕でオオカミの親子を抱きしめ続ける。
「よかった……。ノエール、本当にありがとう。間に合わないと思っていたの……でも、あなたのお陰でまた会えた。ありがとう」
事情を知るチェルシーが、堪えきれずに大粒の涙をこぼした。
その隣でラテは静かに微笑んでいる。温かな空気の輪の中で、僕だけが取り残されたように胸の奥がひどく寂しくなる。
けれど、話せないことなら聞かない。無理に踏み込んでも、きっといいことはないから。
抱き合うオオカミの家族を見つめていると――
「おい! ノエール!」
この声。
一番上の兄、ジールの声が外から響いた。
なぜここに兄が? いま、ここまで来られたら、みんなの姿を見られてしまう。どうする――?
⭐︎
僕は、みんなにここで待つよう告げ、屋敷の外に急いで出た。
兄は騎士団の鎧を身につけ、馬にまたがっていた。その馬にまたがる兄の前に駆け寄ると、よれたシャツとスラックス姿の僕を見て、兄は眉をひそめる。
「なんだ、その汚れた格好は……? はぁ、まあいい。ノエール、ちゃんと食べているか?」
「は、はい、食べています」
琥珀色の瞳が僕を射抜く。
──まさか、その目。僕を探ろうとしている?
嫌な汗がにじみ、ドクンと鼓動が跳ね上がる。
「なぁお前、近くの原っぱと森に行っていないよな」
「近くの原っぱ? 森?」
なぜ兄は、そんなことを僕に?
まさか、あの森に冒険者だけじゃなく、王都の騎士団まで来ていたのか。
「森が光るほどの、魔力を魔法使い達が感じたそうだ。急ぎ現場に向かったが、残っていたのはオオカミらしい血の跡だけだった」
「魔法? オオカミの血? その森に、オオカミがいたのですか⁉︎」
驚きを装う僕に、ジール兄は頷く。
──なんて、下手な演技だ。
羞恥で顔が熱くなるが、それでも続けなければならない。ここで怪しまれれば、奥にいるみんなが兄に知られてしまう。
「……知らないのならいい。気をつけなさい」
「はい。気をつけます」
「また、近々会おう」
「え?」
それ以上何も言わず、兄は馬を走らせ帰って行った。
だが去り際、わずかに振り返った兄の横顔が目に焼きついた。
あれは――疑いを残したままの眼差しだった。
「ねぇママ、この人が……僕のパパ?」
「ええ、この方があなたのパパよ」
「な、なんと……私に子がいたとは。そうか……そうか、とても嬉しい……君がいてくれることも。しかし――まだ仕事の途中で、しばらく一緒には……」
「それは、わかっているわ」
「だけど今だけは……会えた喜びを噛みしめて、君と息子を抱きしめたい」
オオカミと人。種族を超えた親子の再会だった。叔父様は真っ赤に充血した目のまま、震える腕でオオカミの親子を抱きしめ続ける。
「よかった……。ノエール、本当にありがとう。間に合わないと思っていたの……でも、あなたのお陰でまた会えた。ありがとう」
事情を知るチェルシーが、堪えきれずに大粒の涙をこぼした。
その隣でラテは静かに微笑んでいる。温かな空気の輪の中で、僕だけが取り残されたように胸の奥がひどく寂しくなる。
けれど、話せないことなら聞かない。無理に踏み込んでも、きっといいことはないから。
抱き合うオオカミの家族を見つめていると――
「おい! ノエール!」
この声。
一番上の兄、ジールの声が外から響いた。
なぜここに兄が? いま、ここまで来られたら、みんなの姿を見られてしまう。どうする――?
⭐︎
僕は、みんなにここで待つよう告げ、屋敷の外に急いで出た。
兄は騎士団の鎧を身につけ、馬にまたがっていた。その馬にまたがる兄の前に駆け寄ると、よれたシャツとスラックス姿の僕を見て、兄は眉をひそめる。
「なんだ、その汚れた格好は……? はぁ、まあいい。ノエール、ちゃんと食べているか?」
「は、はい、食べています」
琥珀色の瞳が僕を射抜く。
──まさか、その目。僕を探ろうとしている?
嫌な汗がにじみ、ドクンと鼓動が跳ね上がる。
「なぁお前、近くの原っぱと森に行っていないよな」
「近くの原っぱ? 森?」
なぜ兄は、そんなことを僕に?
まさか、あの森に冒険者だけじゃなく、王都の騎士団まで来ていたのか。
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「魔法? オオカミの血? その森に、オオカミがいたのですか⁉︎」
驚きを装う僕に、ジール兄は頷く。
──なんて、下手な演技だ。
羞恥で顔が熱くなるが、それでも続けなければならない。ここで怪しまれれば、奥にいるみんなが兄に知られてしまう。
「……知らないのならいい。気をつけなさい」
「はい。気をつけます」
「また、近々会おう」
「え?」
それ以上何も言わず、兄は馬を走らせ帰って行った。
だが去り際、わずかに振り返った兄の横顔が目に焼きついた。
あれは――疑いを残したままの眼差しだった。
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