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54話
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「ノエール様、スノートの原っぱが見えてきたっす!」
ラテが指差した先には、原っぱというよりも、手つかずの広大な草原が広がっていた。人の手が入った様子はなく、自然のままの草、草花が風に揺れている。
「ラテ、すごく広いね。あの木の根元が開けてるから、そこに降りるよ」
「了解っす!」
木の根元の開けた場所へと降り立ち、僕はアイテムボックスを開いて、敷物、テーブル、チェアを取り出して設置した。
「ここを休憩の場所のしよう。いまから、お昼の時間まで自由時間だ。原っぱを散策してもいいし、チェアでのんびりしてもいいよ」
「俺っちは、しばらくここにいるっす。そうだ、ノエール様。原っぱの奥にある《ギギロの森》には絶対に入らないでくださいっす。その森には、危険なオオカミが住んでいるっす。約束っす」
「森にオオカミ? ……うん、わかった。絶対に入らない。約束するよ」
「それと、毒草と麻痺草にも気をつけてくださいっす。あと……魔法を使って光らないように、これを身につけてください」
そう言ってラテは、持ってきたカバンの中から、黒いロープを取り出して手渡してきた。
魔法を使うと、体が光ってしまう僕のために、ロープを持ってきてくれたのだろう。優しいな。
「ありがとう、ラテ。毒草や麻痺草は、チェルシーの本でちゃんと勉強してきたから、大丈夫だよ」
僕は黒いロープを身につけ、草原へと歩き出した。ラテは再びカバンに手を入れ、今度は小瓶を取り出して、敷物の周囲にまいている。
(あれは……何だろう? 後で聞いてみよう)
僕は原っぱに足を踏み入れ、薬草や草花の種を生成する、作業に取りかかった。
⭐︎
「おお、ここはまさに宝の山だ!」
風邪薬に使うガメ草、かゆみ止めに効くハーラン草……。僕は魔法を使って種を抽出し、小さなチャック付きのプラスチック袋に、それぞれ収めていく。
「本で読んだ薬草が、こんなにたくさん……!」
ラテがくれたロープに守られながら、僕は草原を進んでいった。やがて、原っぱの奥、森の手前に近づいたとき──
「……くぅ~ん、くぅ~ん……」
どこかから、か細い鳴き声が聞こえてきた。小動物のような、今にも消えてしまいそうな声だった。
(……でも、森には入るなって、ラテと約束した。勝手に入っちゃだめだ)
僕は迷った末、大声でラテを呼んだ。
「ラテ! ラテ、こっちに来て!」
「ノエール様? どこっすか? ……森の近くっすね。すぐ向かうっす!」
しばらくしてラテが駆け寄ってきた。僕が鳴き声のことを説明すると、彼は頷き森に耳を傾ける。
「あ、この声は……オオカミの子供の声っすね。でも、あのか細さ……ただ事じゃないっす。森の中で、何かあったのかもしれないっす」
ラテは森の方をじっと見つめ、さらに耳を澄ませた。ラテの表情が曇り、言葉に詰まる。
「すぐ、見に行きたいっすけど……チェルシー様からも『森には絶対入るな』ときつく言われてるっす」
僕たちが迷っていると──
森の影から、小さな影がふらつくように現れた。
それは、血だらけのオオカミの子供だった
ラテが指差した先には、原っぱというよりも、手つかずの広大な草原が広がっていた。人の手が入った様子はなく、自然のままの草、草花が風に揺れている。
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「了解っす!」
木の根元の開けた場所へと降り立ち、僕はアイテムボックスを開いて、敷物、テーブル、チェアを取り出して設置した。
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そう言ってラテは、持ってきたカバンの中から、黒いロープを取り出して手渡してきた。
魔法を使うと、体が光ってしまう僕のために、ロープを持ってきてくれたのだろう。優しいな。
「ありがとう、ラテ。毒草や麻痺草は、チェルシーの本でちゃんと勉強してきたから、大丈夫だよ」
僕は黒いロープを身につけ、草原へと歩き出した。ラテは再びカバンに手を入れ、今度は小瓶を取り出して、敷物の周囲にまいている。
(あれは……何だろう? 後で聞いてみよう)
僕は原っぱに足を踏み入れ、薬草や草花の種を生成する、作業に取りかかった。
⭐︎
「おお、ここはまさに宝の山だ!」
風邪薬に使うガメ草、かゆみ止めに効くハーラン草……。僕は魔法を使って種を抽出し、小さなチャック付きのプラスチック袋に、それぞれ収めていく。
「本で読んだ薬草が、こんなにたくさん……!」
ラテがくれたロープに守られながら、僕は草原を進んでいった。やがて、原っぱの奥、森の手前に近づいたとき──
「……くぅ~ん、くぅ~ん……」
どこかから、か細い鳴き声が聞こえてきた。小動物のような、今にも消えてしまいそうな声だった。
(……でも、森には入るなって、ラテと約束した。勝手に入っちゃだめだ)
僕は迷った末、大声でラテを呼んだ。
「ラテ! ラテ、こっちに来て!」
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しばらくしてラテが駆け寄ってきた。僕が鳴き声のことを説明すると、彼は頷き森に耳を傾ける。
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「すぐ、見に行きたいっすけど……チェルシー様からも『森には絶対入るな』ときつく言われてるっす」
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それは、血だらけのオオカミの子供だった
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