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1話
夕食の席で、お父様――ドーリング公爵は、姉のミミリアに王家からの通達を告げた。その言葉を耳にした姉は、みるみる顔を青ざめさせ、食事の手を止めた。
「お父様、それは本当なのですか? わたくしが、アーイス殿下の婚約者候補を決める舞踏会に? 冗談ではありませんわ! すでに寵愛がいる方となど、絶対にお断りです!」
ドーリング公爵家の長女、ミミリア・ドーリングは、涙を浮かべてお父様に強く訴えた。
その第一王子、アーイス・ダシャイア殿下は、つい半年前、学園の卒業舞踏会の場で、婚約者として国王に定められていた令嬢との縁を一方的に破棄し、異界より現れた「聖女」を選んだことで、王国中に衝撃を与えている。
当然ながら、国王は激怒。いまだに殿下と聖女の関係を、正式なものとしては認めていない。しかし、殿下は唯一の王子であり、王妃を寵愛する国王には側室がいないゆえに、廃嫡という選択肢も取れず、事態は宙ぶらりんのままだった。
そして今、新たな婚約者候補を選出するため、王家主催の舞踏会が開かれることになった。
――けれど、そこには大きな問題がある。
そう、殿下にはすでに寵愛が存在しているという事実だ。
誰が婚約者に選ばれようと、その人はただの「お飾り」名ばかりの妃として、周りからも、冷たい扱いを受けることになるだろう。そんな未来を望む令嬢など、どこにもいない。
だからこそ、国王は「勅命」という、誰にも逆らえぬ手段を用いたのだ。
「……すまぬ、ミミリア。これは王家からの勅命だ。我らには拒む術がない」
「そんな……お父様!」
ミミリアが肩を震わせる中、沈黙を守っていたお母様が静かに口を開いた。
「でも、あなた。たしか通達には「公爵家から娘を一人」とありましたわよね。ならば、同じ歳で、同じ学園に通っていた、妹のミーシャで良いのではなくて?」
お母様の提案に、お父様は顎に手を当てうなずいた。
「なるほど……ミーシャか。確かに、あの殿下と学園が同じで、同じ歳だったな。ミミリアがこれほどまでに嫌がっているのだ。代わりを務めてもらうのも、致し方あるまい」
その言葉に、ミミリアはぱっと顔を明るくし、にっこりと笑った。
「まあ、なんて良いお考えですの、お父様、お母様。どうせ家にいてもなにもできない、出来損ないのミーシャには、せめて家の役に立ってもらわなくてはね」
少し離れた席で黙々と食事をしていた私は、すべてを悟った。この話を拒めば、姉からの嫌がらせが待っているのは目に見えている。
――それだけは、絶対に避けたい。
「……わかりました、お父様。そのお話、私が引き受けます」
私は精一杯の微笑みを浮かべた。口答えさえしなければ、お父様、お母様、ミミリア姉も、機嫌がよい。きっと今夜は最後まで、夕飯を食べさせてもらえるだろう。
正直なところ、私はアーイス殿下にほとんど関心がない。学園時代も一度も話したことがなければ、遠くから眺めるだけの存在だった。
唯一印象に残っているのは、、殿下が婚約者に冷たく接し、聖女と楽しげに過ごす姿。そして生徒たちが、陰でこう噂していたこと。
「幼い頃から連れ添っていた婚約者を捨て、異界の女にうつつを抜かすとは、なんとも愚かだ」と。
私も、そう思う。アーイス殿下が選んだのは、この国一番の才媛で淑女な彼女ではなく、なにもできずに、後ろに隠れて泣いてばかりの「聖女」だった。
私は、殿下には興味がない。
ただ、王城の舞踏会には、きっと美味しい料理が山ほど並ぶはず。
どうせ私のような、くすみのある淡い水色の髪と瞳を持つ平凡な娘が、選ばれることなどありえない。せめてその日くらいは、美味しいものをお腹いっぱい食べて帰ろう。
勅命が届いてから三日後、私は姉の代わりに美しく着飾り、王城の舞踏会へと向かう馬車に乗り込んだ。
「お父様、それは本当なのですか? わたくしが、アーイス殿下の婚約者候補を決める舞踏会に? 冗談ではありませんわ! すでに寵愛がいる方となど、絶対にお断りです!」
ドーリング公爵家の長女、ミミリア・ドーリングは、涙を浮かべてお父様に強く訴えた。
その第一王子、アーイス・ダシャイア殿下は、つい半年前、学園の卒業舞踏会の場で、婚約者として国王に定められていた令嬢との縁を一方的に破棄し、異界より現れた「聖女」を選んだことで、王国中に衝撃を与えている。
当然ながら、国王は激怒。いまだに殿下と聖女の関係を、正式なものとしては認めていない。しかし、殿下は唯一の王子であり、王妃を寵愛する国王には側室がいないゆえに、廃嫡という選択肢も取れず、事態は宙ぶらりんのままだった。
そして今、新たな婚約者候補を選出するため、王家主催の舞踏会が開かれることになった。
――けれど、そこには大きな問題がある。
そう、殿下にはすでに寵愛が存在しているという事実だ。
誰が婚約者に選ばれようと、その人はただの「お飾り」名ばかりの妃として、周りからも、冷たい扱いを受けることになるだろう。そんな未来を望む令嬢など、どこにもいない。
だからこそ、国王は「勅命」という、誰にも逆らえぬ手段を用いたのだ。
「……すまぬ、ミミリア。これは王家からの勅命だ。我らには拒む術がない」
「そんな……お父様!」
ミミリアが肩を震わせる中、沈黙を守っていたお母様が静かに口を開いた。
「でも、あなた。たしか通達には「公爵家から娘を一人」とありましたわよね。ならば、同じ歳で、同じ学園に通っていた、妹のミーシャで良いのではなくて?」
お母様の提案に、お父様は顎に手を当てうなずいた。
「なるほど……ミーシャか。確かに、あの殿下と学園が同じで、同じ歳だったな。ミミリアがこれほどまでに嫌がっているのだ。代わりを務めてもらうのも、致し方あるまい」
その言葉に、ミミリアはぱっと顔を明るくし、にっこりと笑った。
「まあ、なんて良いお考えですの、お父様、お母様。どうせ家にいてもなにもできない、出来損ないのミーシャには、せめて家の役に立ってもらわなくてはね」
少し離れた席で黙々と食事をしていた私は、すべてを悟った。この話を拒めば、姉からの嫌がらせが待っているのは目に見えている。
――それだけは、絶対に避けたい。
「……わかりました、お父様。そのお話、私が引き受けます」
私は精一杯の微笑みを浮かべた。口答えさえしなければ、お父様、お母様、ミミリア姉も、機嫌がよい。きっと今夜は最後まで、夕飯を食べさせてもらえるだろう。
正直なところ、私はアーイス殿下にほとんど関心がない。学園時代も一度も話したことがなければ、遠くから眺めるだけの存在だった。
唯一印象に残っているのは、、殿下が婚約者に冷たく接し、聖女と楽しげに過ごす姿。そして生徒たちが、陰でこう噂していたこと。
「幼い頃から連れ添っていた婚約者を捨て、異界の女にうつつを抜かすとは、なんとも愚かだ」と。
私も、そう思う。アーイス殿下が選んだのは、この国一番の才媛で淑女な彼女ではなく、なにもできずに、後ろに隠れて泣いてばかりの「聖女」だった。
私は、殿下には興味がない。
ただ、王城の舞踏会には、きっと美味しい料理が山ほど並ぶはず。
どうせ私のような、くすみのある淡い水色の髪と瞳を持つ平凡な娘が、選ばれることなどありえない。せめてその日くらいは、美味しいものをお腹いっぱい食べて帰ろう。
勅命が届いてから三日後、私は姉の代わりに美しく着飾り、王城の舞踏会へと向かう馬車に乗り込んだ。
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