浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と共に幸せに暮らします。

にのまえ

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「いい加減なことばかり、言わないでぇ!」

 掴んだ手のひらにとてつもない力を感じたが、この魔王が放つ黒い霧――瘴気を直に触っても熱くもなく、何故か私には効かなかった。

《何! おまえの、この力は聖女なのか!》

 ――聖女?

「いいえ、私は聖女ではないわ。浄化が出来る魔法使いよ!」

 ランタンの中にある、カケラを見つめさらに声を上げた。そんないつもとは違う私を、シシは眉をひそめ見つめた。

「アーシャ、カケラを離せ! それに、いま誰と話しているんだ?」
 
「……シシ、このカケラが私に話しかけてくるの。それも願っていない、私にとって嫌なことばかりだったから……つい、我を忘れて声を上げてしまったの」

「……アーシャ」

 私は令嬢、王妃教育、王太子妃だった頃に培ってきたはずなのに、感情の起伏を表にあらわしてしまった。それぐらい私には我慢できないことだった。

《ほぉ、余の声が聞こえるのはおまえだけか。なかなかの魔力を持っているな、それに浄化は聖女以外、誰にも簡単にはできんぞ。――うむ。感じる魔力はそこのフェンリルと同じだが、微かに聖魔法の力を感じるぞ》

 私に聖魔法を感じた? ……そんな特別な魔力を私が持つはずがない。

「嘘よ、嘘をつかないで、私にそんな力があるわけないじゃない」

《嘘か。ハッ、ハハ。おまえ、自分で気付いていないのか!》

 私が、気付いていないですって?

 子供の頃におこなった、魔力測定の後に配られた属性報告書に火水風土の他に、聖魔法は書いていなかった。それに前世、この物語の小説を読んで内容を一応はいるから、自分が悪女で、聖女ではないことも知っている。

 ――なのに、このカケラは私を聖女だと言うの?

「アーシャ、大丈夫?」

 シシがソファのチェルを背中に乗せ、私の側に来てくれた。私はカケラのランタンをテーブル置き、シシの首に抱き付く。

「ねえ、シシ……私、」

「アーシャが、あのカケラに何を言われたのかは分からないが。――昔の魔王といい、あのカケラは人の心を見透かし操ろうとする」

「ああ、僕の父の世代に……操られた同胞を見てきタ」

「そうなの? でも見当違いばかり言うから……腹正しい」

《馬鹿にするな! 余は嘘をつかない。本当のことしか言っていない、おまえはそこの女を憎んでいる》

 ――私が、ロローナさんを憎む?
 
 恨んでなんかいない。あの時の私は彼女を、側室を迎えてもいいと思っていた。まあ、ルールシア王太子殿下を愛していたし、心痛くも感じた時はあったけど……王太子妃となり、時期に王妃となるのだから、徐々に気持ちの整理はしていた。

 幸せを手に入れた、いまとなっては昔のこと。

「まったく、いつの話をしているのかしら?」

 ――そのカケラが言った。私に聖魔法の力があるなら消せるんじゃない? カケラの声は私にしか聞こえないから、誰もこの場の人達は操られはしない。

 私はありったけの浄化魔法を、カケラに叩きつけようと決めた。その前に一度は声を上げたが、私達のやりとりに入れず。ただコチラを睨むことしかできない、ロローナさんに眠りの魔法をかけ眠らせて、ソファに寝かせた。

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