浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と共に幸せに暮らします。

にのまえ

文字の大きさ
106 / 110

101

しおりを挟む
「いい加減なことばかり、言わないでぇ!」

 掴んだ手のひらにとてつもない力を感じたが、この魔王が放つ黒い霧――瘴気を直に触っても熱くもなく、何故か私には効かなかった。

《何! おまえの、この力は聖女なのか!》

 ――聖女?

「いいえ、私は聖女ではないわ。浄化が出来る魔法使いよ!」

 ランタンの中にある、カケラを見つめさらに声を上げた。そんないつもとは違う私を、シシは眉をひそめ見つめた。

「アーシャ、カケラを離せ! それに、いま誰と話しているんだ?」
 
「……シシ、このカケラが私に話しかけてくるの。それも願っていない、私にとって嫌なことばかりだったから……つい、我を忘れて声を上げてしまったの」

「……アーシャ」

 私は令嬢、王妃教育、王太子妃だった頃に培ってきたはずなのに、感情の起伏を表にあらわしてしまった。それぐらい私には我慢できないことだった。

《ほぉ、余の声が聞こえるのはおまえだけか。なかなかの魔力を持っているな、それに浄化は聖女以外、誰にも簡単にはできんぞ。――うむ。感じる魔力はそこのフェンリルと同じだが、微かに聖魔法の力を感じるぞ》

 私に聖魔法を感じた? ……そんな特別な魔力を私が持つはずがない。

「嘘よ、嘘をつかないで、私にそんな力があるわけないじゃない」

《嘘か。ハッ、ハハ。おまえ、自分で気付いていないのか!》

 私が、気付いていないですって?

 子供の頃におこなった、魔力測定の後に配られた属性報告書に火水風土の他に、聖魔法は書いていなかった。それに前世、この物語の小説を読んで内容を一応はいるから、自分が悪女で、聖女ではないことも知っている。

 ――なのに、このカケラは私を聖女だと言うの?

「アーシャ、大丈夫?」

 シシがソファのチェルを背中に乗せ、私の側に来てくれた。私はカケラのランタンをテーブル置き、シシの首に抱き付く。

「ねえ、シシ……私、」

「アーシャが、あのカケラに何を言われたのかは分からないが。――昔の魔王といい、あのカケラは人の心を見透かし操ろうとする」

「ああ、僕の父の世代に……操られた同胞を見てきタ」

「そうなの? でも見当違いばかり言うから……腹正しい」

《馬鹿にするな! 余は嘘をつかない。本当のことしか言っていない、おまえはそこの女を憎んでいる》

 ――私が、ロローナさんを憎む?
 
 恨んでなんかいない。あの時の私は彼女を、側室を迎えてもいいと思っていた。まあ、ルールシア王太子殿下を愛していたし、心痛くも感じた時はあったけど……王太子妃となり、時期に王妃となるのだから、徐々に気持ちの整理はしていた。

 幸せを手に入れた、いまとなっては昔のこと。

「まったく、いつの話をしているのかしら?」

 ――そのカケラが言った。私に聖魔法の力があるなら消せるんじゃない? カケラの声は私にしか聞こえないから、誰もこの場の人達は操られはしない。

 私はありったけの浄化魔法を、カケラに叩きつけようと決めた。その前に一度は声を上げたが、私達のやりとりに入れず。ただコチラを睨むことしかできない、ロローナさんに眠りの魔法をかけ眠らせて、ソファに寝かせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱えて、離縁をつきつけ家を出た。 そこで待っていたのは、 最悪の出来事―― けれど同時に、人生の転機だった。 夫は、愛人と好きに生きればいい。 けれど、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 彼女が選び直す人生と、 辿り着く本当の幸せの行方とは。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

完結 女性に興味が無い侯爵様、私は自由に生きます

ヴァンドール
恋愛
私は絵を描いて暮らせるならそれだけで幸せ! そんな私に好都合な相手が。 女性に興味が無く仕事一筋で冷徹と噂の侯爵様との縁談が。 ただ面倒くさい従妹という令嬢がもれなく付いてきました。

婚約者に「ブス」と言われた私の黒歴史は新しい幸せで塗り替えました

四折 柊
恋愛
 私は十歳の時に天使のように可愛い婚約者に「ブス」と言われ己の価値を知りました。その瞬間の悲しみはまさに黒歴史! 思い出すと叫んで走り出したくなる。でも幸せを手に入れてそれを塗り替えることが出来ました。全四話。

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

処理中です...