女神様の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界で愛を手に入れる。

にのまえ

文字の大きさ
12 / 59

11

 まずい、まずい。全身の毛がゾワゾワして、立つ感じがしてお尻がジュクンと疼くのを感じた。……え、オレがあの人を求めている? ……この場にいてはと、オレは後退りしてシンギとマヤがいる方へ足を進めた。

 あの人のそばにいては"駄目だ"と警報が頭の中に響く。だが、その考えとは裏腹に体はあの人を求め……熱くゾク、ゾクした。あの人をもう一度だけ見たい。オレは男性が気になり振り向くと、綺麗な切れ長の青い瞳が見つめていた。

 ドキッ⁉︎ それと同時に香りがした。

(な、なに? このスパイスのような刺激的な香りは。この香りを嗅ぐと……体がますます熱くなる)

 こんな事は初めてだ。心はざわつき、己の体の変化にオレは驚くしかなかった。だって、5日前にヒートは終わったばかり。それなのに――まるで、ヒートが始まるときに似ていた。

「どうされました、フォルテ様?」

 オレを見つめ、足を止めている男性に側にいた豹の騎士が声をかけた。――フォルテ? 耳のいいオレに男性の名前と二人の会話が聞こえた。どうやら、フォルテという人はオレのことが気になっているらしい。

「そこにいる、小さな黒ウサギは誰だ?」
 
「ウサギ? ああ、あの者は熊クマ食堂で働くタヤと言う、黒兎族の青年です」

「熊クマ食堂で働く黒兎? そうか、一瞬あの人かと思ったが……彼からした香りは甘い香り。私が探している彼は柑橘系の香りだったな。姿が似ているが――人違いだな」

(あ、甘い香り⁉︎)

 あの男性に、サロンナ特性の魔導具のブレスレットが効いていない? 「タヤ、よくお聞き。強いアルファにこの匂い消しのブレスレットは効かない。気をつけなさい」と、サロンナばあさんがくれる時に言っていた。

 ――となると。

 あのフォルテとかいう男性は強いアルファ? じゃ、王族、上流貴族のどちらか? 彼らに見つかると、オメガのオレは連れていかれる……これ以上、彼に近寄らない方がいいだろう。

(でも、あれがアルファなのか)

 オレは初めて見たアルファが気になってしまい、つい目で追ってしまった。ザワッ――ふたたび森の中を心地の良い風が吹き、さらにオレを刺激する香りを届けた。

「クッ!」

 この香りを嗅いではダメだ。だが、その考えに行き着くのが遅く、オレはもろにその香りを深く嗅いでいた。

 ――うわぁ。体が燃え上がり、完全にヒートを起こして、足元から崩れ落ちた。

(まってくれ。今朝、薬まで飲んできたのに……こ、こんなにも強いアルファは凄いのか。それに、この場所でヒートを起こすなんて、知らない奴らにヒートの姿を見られたくない……けど、体が動かない)

「タヤ? 大丈夫か、タヤ!」
「タヤ!」

 崩れ落ちるようにその場に座ったオレのところに、シンギとマヤが駆け寄ってくる姿が見えて安心したが、それよりも早くオレの体は宙に浮いた。

「えっ、な、なに?」  

 オレを持ち上げた人物は、オレの首筋をクンクン嗅いだ。

「やめろ……」

「先ほどより匂いが濃い。……お前ヒートを起こしているな。……なんだ? 甘い桃の香りの中に微かな柑橘系な香りもするな? ――そのブレスレット? ああ、匂い消しか?」

 オレを肩に担ぎ上げて、スピスピ鼻を鳴らし匂いを嗅いだのは……さっきまで見ていたフォルテという男性だ。その男性はオレから、さっきまで言っていた甘い香りではなく、桃のような甘い香りがすると言った。

 ヒートのときの俺の香り。サロンナばあさん特製の柑橘系の腕輪の効果がかき消されて――オレのフェロモンが漏れている。

「あ、あの、いますぐ……シンギさんとマヤさんのところへ帰らないと。すみません、下におろしてください」

「ダメだ。騎士団はアルファの者が多い、その中に君を下ろせない……そこの熊クマ食堂の者、しばらくこの黒兎を借りる」

 オレを借りると言ったフォルテに、シンギとマヤは眉をひそめながらも、2人はその場で足を止めて深深く頭を下げた。

「えっ、どうして? シンギさん? マヤさん?」

「すまない、タヤ」
「ごめんね……」

 謝る2人をオレは呆然と眺めた。フォルテはフウッと息を吐くと、側にいる騎士にも声をかける。

「ロイ、カハ、しばらく私の天幕に誰も近付けるな!」

「はっ、かしこまりました」
「かしこまりました!」

 フォルテは騎士2人にそう言い残して、オレを肩に担いだまま、自分の天幕へと歩き出した。

あなたにおすすめの小説

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。番外編をちょこちょこ追加しています。

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。