魔力なし悪役令嬢の"婚約破棄"後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。

にのまえ

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 私は店の裏の階段を駆け上がり、キャンドルランタンの灯りをともして部屋に入ると。いま体験したことに足が震え、ホッとして玄関で座った。 

 無事にカロール殿下から逃げ切れたことと。

「ウフフ、フフ、私、妖精に会っちゃった、また魔法も体験できた、嬉しい」

 鼓動はドキドキを通り越してバクバクしている、興奮が抑えれない。

 魔法ってキレイで、やっぱり凄い、凄いよ。

 魔力なしの私は興奮最大で「キャーッ」と、ベットに飛び乗り、枕を抱えてゴロンゴロンと転がり悶えた。

 それにシエル先輩がくれた、この魔法のブレスレットには複雑な術式が組み込まれているのだって、カッコいい。

 ーーもしかして、これがカロール殿下のことを教えてくれたのかしら。

「先輩、シエル先輩、凄いよ。こんなに凄い物をありがとう」

 私はブレスレットを見て、しばらくニマニマ、グフフッと部屋で一人笑った。

 





「魔法屋さんはまだかなぁ?」

 今日は魔氷が魔法屋から届く日。私は夕飯を厨房を借りてつくり、店内で魔法屋さんと子犬ちゃんが来るのを待っていた。


 本日、カリダ食堂の日替わりは唐揚げ定食。
 おろしニンニクとおろし生姜、醤油に前日から漬け込んだ大きめな鶏肉に、片栗粉をまぶしてカラッと揚げる。この唐揚げは、ひと口噛めばカリカリの衣、肉汁がジュワーっと口いっぱいに溢れる。

 揚げたてをそのまま食べても、味付けがしっかり付いていておいしい唐揚げに、大根おろし、タルタルソース、お好きにつけて食べられる。

 今日も多くのお客がおとずれ、唐揚げ定食はお昼過ぎには完売した。

 終始、唐揚げを揚げつづけた大将さんとニック、唐揚げ定食を運んだ女将さんは。たまに私も通う、港街の商店街にある温泉施設に疲れをとりに行った。

 私はというと店にのこって、今日届くはずの魔氷を待っている。

「ふわぁ……そろそろ魔法屋さんまだかな?」

 時刻は三時を過ぎ。私は読みかけの本の上でうとうとしていた。店の扉がひらき子犬ちゃんの鳴き声が聞こえる。

「キュ」
「遅くなって、すまない」

「おかえり、子犬ちゃんと……魔法屋さん?」

 子犬ちゃんと黒いローブ姿の男性が魔氷を持ってあらわれた。このローブの人は二日前に会った魔法屋さんじゃない。彼の指には"青色の石"がはめ込まれた指輪をしていた。

  だけど、この男性の手には"赤色の石"がはめ込まれた指輪をつけている。 

 赤い石の指輪……

(えっ、嘘)

 私は男性を見つめた。魔法屋さんより少し高い身長と、ニヒルに笑う口元。この独特な薬草の香りを私は知っている。

「もしかして、シエル先輩?」

 みつめると、フードの男性は笑った。

「ハハ、やっぱり気付いたか。そうだ……久しぶりだなルー。半年前、カロール殿下に婚約破棄されたんだってな……そのとき会場にいなくて、ごめん」

 深く被っていたフードを脱くと、懐かしい銀色の髪がさらりと落ちて、赤い瞳がが私をみつめた。

「謝らなくていいの。彼の気持ちが変わって、なるようになっただけ、仕方がないわ。いまはガリタ食堂で、毎日たのしく働いているよ」

「楽しくか、元気そうで良かった……頼まれた魔氷を届けに来たんだが、冷蔵庫はどこだ?」

 と、先輩は持ってきた魔氷を見せた。それは二日前に魔法屋さんに頼んだ魔氷。

「どうして、シエル先輩が魔氷を届けに来たの? それに魔法屋さんに預けた子犬ちゃんも一緒だし?」

「魔法屋は俺の双子の弟がやっている、魔道具屋の店なんだ」

 先輩と魔法屋さんが双子?

「えぇ、シエル先輩、弟さんいたの?」 
「あれっ? ルーに学園のときに言わなかったか?」
 
「そんな話は聞いてません」

 学園で一年以上もシエル先輩と一緒に過ごしたのに、先輩に双子の弟さんがいるなんて初耳だわ。

「そうか、言ってなかったか……ゴメンな、ルー。俺には双子の弟がいる」

「……フフ、わかりました。シエル先輩には魔法屋を営んでいる弟さんがいるのね。もう、知っていれば挨拶できたのに……」

 先輩の弟さんに失礼なことしてないかしら?
 今度、店が休みの日に魔法屋さんへお礼に行かなくっちゃ。

「キュン」

「ん? 子犬ちゃん、抱っこ?」

 足元で鳴いた子犬を抱っこしようとしたのだけど、横から手が伸びて先輩が奪い子犬を抱っこした。

「ギッ、キューン」

「ルーは疲れてるんだから我慢しろ。子犬は俺がみてるから、魔氷をしまってくるといい」

「ありがとう、先輩」

 厨房に入り、木製の冷蔵庫に魔氷を袋から.透明で綺麗な氷がでてくる。こ、これが魔法で、できた純度の高い魔氷。

 この氷で、かき氷を作ったら絶対に美味しいわ。シロップは苺ジャム、果肉をのせるか、レモン果実をたっぷりかけて食べたい。

(ゴクリ)

「ルー、いくら氷が美味そうだからって、そのままかじるなよ。冷蔵庫を開けっ放しだと……いくら、魔氷でも溶けてしまうぞ」

 いつの間にか私の後ろにいた先輩。

 先輩は笑って氷を氷箱に仕舞うと、パタンと冷蔵庫の扉を閉めた。いま「美味しそう」って、独り言を聞かれたんだ……恥ずかしい。

「ククッ、ルーはあいかわらず食いしん坊だな」

「食いしん坊って酷いのだけど……そうだ、先輩はこのあと時間ある?」

「時間?」

 先輩は胸元から懐中時計をだして確認した。

「んーっ、少しならあるよ」

「ほんと!」

 ガリタ食堂の二階にある「私の部屋に寄っていきませんか?」と先輩の手を掴んだ。

 シエル先輩は。

「俺が? ルーの部屋に入ってもいいのか?」

 と焦っている。

 笑って「シエル先輩は特別ですよ」と返すと、しばらく黙り込み。困ったように微笑んで、お邪魔するよと返してくれた。
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