魔力なし悪役令嬢の"婚約破棄"後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。

にのまえ

文字の大きさ
30 / 108

26

しおりを挟む
 先輩はそうだと頷いた。

「俺は海を越えた先にあるリーベストという魔法国から、弟と2人で王子の婚約者を探しに来たんだ。いま国で問題がおきたらしくてな、戻るから元の髪色に戻したんだ」

「え、シエル先輩の国で問題が起きて、帰るために髪の色を戻した? ……あ、そ、そっか、先輩は自分の国に帰っちゃうんだ」

 そうだよね。先輩は、先輩の家族が心配だろうし……

「ああ、国に戻る。それにルーだって、こんな黒髪は"不吉"で気味が悪いだろう?」

 先輩の黒髪が不吉? 気味が悪い? 私は小さな体で首を思いっきり振った。

 なぜ、先輩がそんなことを言ったのか、私は知っている。この国に伝わるおとぎ話ーー黒き魔女の影響。物語の黒い魔女は魔法を使い人々に呪いを、災いを起こした。

 しかし、元を正せば人々のせい。優しい魔女に振られた男が流したほんの一言の悪口がーー人から人へと伝わるまでに大きく、凶暴なものに変わった。

 魔女は知らぬうちに、自分が悪い魔女だ言われていると聞いてしまう。「悪い魔女め」「ここから出ていけ、魔女」人の投げかけられた言葉に傷付き、己を守るためにしたこと。

 この悲しい物語を読んで私はーー魔女は悲しかったんだ、その悲しみが恨みに、憎しみに変わったと思う。

 "魔力なし"だといわれ、何もしていないのに悪女だと言われた私と被って涙した。

「先輩は何を言っているの? そんなことあるわけないじゃない……銀髪でも、黒髪でも、シエル先輩は私の大切な先輩だよ」

 そう、叫んだあと。先輩の息を飲む音が聞こえた。いつも自信満々な先輩の意外な一面をみた。先輩もその黒髪のせいで何か酷いことを言われたのかな。

「ルー、それはほんとうなのか? ……ルーは、この黒髪を不気味だと、気味が悪いとは思わないのか?」

「絶対に思わない、思うわけないじゃない!」

 小さなハムスターの体を使って、精いっぱい先輩に伝えた。先輩は眉と顔をしかめて、一瞬泣きそうな顔をしたあとに「ありがとう」と、小さく笑った。


「でも、怒ってはいるわ。……先輩に、その黒髪は似合っているけど……」


 その後に続く言葉が恥ずかしくて、言葉を濁すと。先輩は「けど、なに?」と、赤い瞳が心配に揺れた。

 
「……わ、私はシエル先輩と、お揃いの銀髪でひそかに嬉しかったのに!」


 ちいさな頬を膨らませた。


「はあ? 俺と、お揃いの銀髪が嬉しいって、マジか!」

 今度は驚きで目を見開いた。

 いつの先輩とは違う雰囲気と、いま勢いに任せて言ってしまった自分の言葉が恥ずかしい。それを誤魔化す為にお行儀悪く、先輩のお弁当箱の卵焼きにかぶりついた。
 
「モグ、モグ……ゴクン。フン、先輩のお弁当箱の卵焼き、ぜんぶ食べちゃうんだからね」

「待てルー、それは俺の大好物だからダメだ! ルーの手作り卵焼きは全部、俺のだからな」

 と、先輩は取られないよう。自分のお弁当箱を私よりも高く持ち上げ。すばやく私のお弁当箱から、卵焼きを取って食べてしまった。

 その、先輩の行動に一瞬ポカンとする。

「ああ、私のお弁当から卵焼きとったわ。酷い、私も卵焼き好きなの知っているくせのに!」

 プンプン怒って、下でぴょんぴょんと跳ねだけど、知らん振りをして食べる先輩。小さくてお弁当箱の防御ができない、私の卵焼きが、一つ、また一つと消えていく。

 ーー最後の一切れ。

「食べちゃダメだって、先輩、シエル先輩って、黒髪の素敵なシエル先輩……お願い。私の卵焼き、お弁当箱から取らないで!」

「俺におべっかは効かない。先に食べたのはルーだ」

「うっ。それはそうだけど、全部はだめ」

 下で、ぴょんぴょん飛んだ。その姿に我慢できなくなったのか、肩を震わせて笑い出した。

「クク、ハハハッ……ルー、あーん」

 あーん? 口を開けると、小さく切った卵焼きが口元に運ばれてきた、その卵焼きにぱくついた。 

「んんっ、卵焼き美味しい」
 
「いい、笑顔だな。今度は唐揚げだ」

「あーん!」

 シエル先輩に食べさせてもらいながら、作ってきたお弁当を二人で食べ尽くして、私は膨らんだお腹をなでた。

「ふうっ、お腹いっぱい」

「ルーは……ハムスターになっても、よく食べるな」

「先輩のせいです。途中から面白がって口元に持ってきたからでしょう。持ってきたら食べちゃうもの」

「食べちゃうって。ハハハッ、ルーらしいな」

 楽しげに笑う、シエル先輩。
 学園で過ごしてきた頃より、よく笑う先輩に私は釘づけになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した

葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。 メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。 なんかこの王太子おかしい。 婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

婚約者の命令により魔法で醜くなっていた私は、婚約破棄を言い渡されたので魔法を解きました

天宮有
恋愛
「貴様のような醜い者とは婚約を破棄する!」  婚約者バハムスにそんなことを言われて、侯爵令嬢の私ルーミエは唖然としていた。  婚約が決まった際に、バハムスは「お前の見た目は弱々しい。なんとかしろ」と私に言っていた。  私は独自に作成した魔法により太ることで解決したのに、その後バハムスは婚約破棄を言い渡してくる。  もう太る魔法を使い続ける必要はないと考えた私は――魔法を解くことにしていた。

処理中です...