リンゴが結んだ恋

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リンゴが結んだ恋

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 ――この日のお城は大騒ぎ。

「王城に来ているはずなんだ、王子の婚約者を探し出せ!」
「かしこまりました」

 第二王子の婚約披露の舞踏会が今宵、王城で開かれました。
 しかしながら、その婚約者の姿が見えないと。
 探しておられるようです。



「大変ね。いるの、いないのかわからない婚約者を探すなんて……」

 まあ、男爵令嬢リリー・ローニャには関係のないこと。
 急用が出来てしまったお父様の代わりに来ただけの。
 リリーは田舎者の男爵家の令嬢ですもの。


 屋敷を出る時。
 お父様に『好きな場所で遠慮せず、沢山食べておいで』と、言われ馬車で飛んできましたわ。
 だって男爵令嬢のリリーでは招待状なしに王城になんて入れませんし。
 王城でだされる食事と聞いて出向かわない理由なんてありませんもの。

 この日の為にと、お父様がドレスを新調してくれましたの。
 でもお父様、奮発し過ぎではないかしら? 
 煤けたオレンジの髪色に緑色の瞳、中肉中背の健康体な体型のリリー。

 そのリリーがオートクチュールの水色のドレスを着込み。
 髪も編み込んで後ろに流し、腰の花の髪飾りとお揃いの花飾りだなんて。

 今朝――メイドのナタリーに着付けてもらったとき。
 姿見に映った自分を見て『何処のお嬢様?』と叫んでしまいましたわ。
 



「舞踏会の会場にはいない、他を探せ!」

 夕闇の中――ランタンを片手に場内を庭園を走り回る、家臣や騎士の足音がリリーのいるバルコニーに聞こえていた。

 必死に騎士は第二王子の婚約者を探しているみたいですが。

 その婚約者の方は王城の中に隠れていると言うのかしら? 
 そうなのだとしたら、そのご令嬢は無理矢理、連れてこられて逃げだした。
 王子と婚約なんて王家の敷きたりとか、淑女としての在り方とかで面倒よね。

 男爵令嬢のリリーはというと立食形式の舞踏会でしたので。
 皿に好物を沢山盛りバルコニーの休憩スペースにて、城内を走る騎士を見ながらの黙々と食事中です。

「このお肉、分厚いのに柔らかくて、ソースとあって美味しい」

 これはお代わりしなくちゃ。

「魚のパイ包みもパイはサクサク、魚の身はホウホク最高!」

 これもおかわりね。

「お野菜もシャキシャキ新鮮で美味しい」

 ワインもいつもよりも高級で進んじゃう。
 今宵は心ゆくまで堪能いたしましょう。



 +



「殿下の婚約者は見つかったか?」

「いいえ……どこにも、おられませんでした」
「離れにもおりません」

 あらっ? バルコニーの下から声がしてリリーはワイングラスを片手に覗くと。
 騎士達が数人下に集まり確認作業をしていた。

「もう一度確認する。探すのはオレンジ色の髪、緑色の瞳、水色のドレスの女性だ!」

 オレンジの髪?
 緑色の瞳?
 水色のドレス?

「はい、畏まりました!」
「髪には目印になる、ピンクの花髪飾りを付けている!」

 ピンクの花髪飾り?

(あらやだ、私の姿格好は第二王子の婚約者と瓜二つ)
 
 舞踏会、会場の外で騎士達が王子の婚約者が居ないと探している。
 このままバルコニーにいては婚約者と間違われてしまうわ。

 面倒ね。

「お料理もっと頂きたかったのに……仕方ありませんわ」

 会場に戻り楽しく談話やダンスを楽しむ人々を眺め、コソコソと派手な貴族の中に紛れていた。

「まだ帰れない。王城に来るのに半日以上もかけて来たのですもの、デザートをだけではいただきましょう」

 会場では騒ぎを気にせず生演奏に合わせてダンスを踊る貴族。
 今宵の相手を探す貴族、談笑に花を咲かす貴族いた。
 
 その奥、王の席で舞踏会を鑑賞している国王陛下と王妃はおらず空席。
 とうぜん当事者の第二王子も舞踏会の会場にいらっしゃらない。

 婚約発表がなく、帰る貴族の姿も見えた。
 舞踏会はもうじき終わりそうね。

 そうなる前にデザートはいただかないと……
 リリーは周りの貴族達の噂話に聞き耳を立てながら、デザートの元へと向かった。

(まぁ、林檎のデザートばかり)

 アップルパイ、タルトタタン、焼き林檎、林檎のタルト……
 リンゴは好きなので全部いただきましょう。
 デザートを皿に乗せていると、近くで立ち話をする貴族の話が聞こえてきた。

「第二王子の婚約者の話を知ってるか?」

 何々、当事者の第二王子の話だ、どんな話かしら?

「あぁ、王子は婚約者をかなり溺愛しているらしい」
「その噂は聞いた事がある。なんでも子供の頃に結婚の約束をした令嬢を今夜、婚約者として紹介すると私は聞いていた」

「しかし、その婚約者の顔を見た者はいないとも言われている」

「誰も顔を見た事がないのか、本当に第二王子に婚約者などいるのか?」

「さあな、会場に残る者は皆、それを期待して残ってるんだろう」

 誰も顔を見たことのない第二王子の婚約者。
 第二王子が、かなり溺愛している令嬢なのね。
 その愛しい方が逃げてしまって、必死に探している。

 でも、婚約者の方はどこに逃げたのかしら?
 探しても見つからないなんて不思議ね。

 あら、この方達、不倫の話を始めたわ。
 この手の話は気になる、リリーはダメだと思いながら話に耳を傾けた。

 まあ、あの方とそこの方が不倫関係なのですか。
 面白い話を聞きながらタルトタタンを一口とり口に運ぶ。

 んんっ、林檎の甘味と酸味、キャラメルのほろ苦さは大人な味で美味しい。
 デザートも最高ですわ、お皿に乗せたデザートを全部いただいてお腹も膨れました。

「さてと、遅くなりましたし帰りましょう」

 最後に切り身のリンゴを頂いてと、手を伸ばした手首をガシッと掴まれた。


(え?)


「ようやく、見つけた!」

 リリーの腕を掴んだ銀髪に碧眼、金の刺繍が入った、ジュストコールを身につけた高貴な貴族。
 まさかリリーが田舎男爵のくせに良いドレスを着ているからかしら? 

 それとも料理の食べ過ぎ?


 ありうる。


「あの、すみません……私、食べ過ぎでたのしょうか?」

「食べすぎ? ああ、見事な食べっぷりだったね」


 この方ーーずっと、リリーを見ていたの?


「リリー、ようやく会えた」

「人違いですわ。私は第二王子の婚約者ではありません」

「いや、そのドレス……」

 やはり、このドレスのせいね。

「すみません。私が紛らわしいドレスを着たせいです、脱ぎます。すぐにでも脱がせていただきます」

「いや、ここで脱がなくていい……脱ぐのは僕の前だけにして。そのドレス、リリー嬢に似合ってる、サイズがピッタリでよかった」

 サイズがピッタリ? 
 これはお父様が用意したドレスですわ。

「やはり、誰かと間違われていますわ」

「リリー嬢は僕を忘れたの? リンゴを僕に届けてくれて、屋敷で一緒に本を読んだり勉強を一緒にしたよね」

 リンゴを届けた?
 一緒にお勉強もした?

 子供の頃、夏に過ごした、カイザー君。

「嘘、カイザー君……第二王子だったの」

  "そうだ"と、笑った顔に昔の面影が残っていた。




 カイザー君と出会ったのは十一年前。

 リリーが住むリーデン大陸の北の端、ローニャ領地にも短い夏が始まった。
 リリー・ローニャ(七歳)も学校が夏休みに入り、近くに住む友達数人と外で追いかけっこをして遊んでいた。

「待てぇ」
「捕まるかよ!」

「逃げろぉ!」
「リリーから逃げれると思って!」

 領地の中を使い、大規模な鬼ごっこ中に足が止まった。


(あれ?)


 それは誰も住んでいないはずの屋敷。
 その一階の窓から、リリー達を見つめる男の子の姿が見えた。

 幽霊? 

 リリーは一瞬そう思ったけど、思い出した……それは一週間前に屋敷の家具を全部変え、何日もかけて掃除していたこと。
 昨日――朝早くに屋敷の前に馬車が並び荷物が運びこまれていた。

 リリーは窓辺に寂しげに立つ男の子が気になってしまった。
 夕食の時にお父様にそれとなく屋敷のことを聞いてみた。
 お父様は「あぁ」と頷き、あの屋敷のことを教えてくれた。

「王都王立学園に通う貴族の息子が夏休みの間だけ、別荘に療養にいらっしゃたんだよ。あの屋敷には護衛騎士などもいるから、リリーは近寄ってはダメだよ」

「はい、お父様」

 あの子、王都から療養するためにあの屋敷に来たのか。



 +
 


 ――また、あの子だ。

 友達と遊んだ帰りに屋敷の前を通ると、やはりリリー達を窓から眺めていた。

 次の日も、また次の日も。
 彼は寂しそうに外を眺めていた。

 お父様は病弱とおっしゃっていたわ。

 あの子を元気付けてあげたいとお節介が発動した。
 リリーは家の庭に実るリンゴの木によじ登り、実ったリンゴを採ってその子の屋敷へと向かった。

 お父様の言う通り屋敷の前には騎士が見張りをしていた。
 王都王立学園に通う貴族だとお父様はおっしゃっていたけど。
 あの男の子を元気付けたくてこっそり屋敷の庭に忍び込んだ。

 庭の茂みから覗くとちょうどあの子が見えた。
 あの子がいる部屋の窓が少し開いている、リリーは見つかったら怒られる覚悟で、扉をそっと空けて中に忍び込んだ。 

「お邪魔します」

 中に入ると外と同じく広く豪華な部屋だ、リリーの家とは違う家具に高貴さを感じた。

「誰?」

 ベッドで本を読んでいた男の子は窓を超えて入ってきたリリーに叫んだ。
 リリーは慌てることなくスカートを摘み貴族の挨拶をした。

「私はリリーと申します」
「リリー? そのリリー嬢はここになんのよう?」
「これをあなたにプレゼントしたくて、持ってきました」

 庭で採ってきたリンゴを一つ両手に乗せて、男の子に見せた。

「林檎?」

「いつも窓から寂しそうに私達を見ていたから気になったの。この林檎を食べて元気になってリリー達と一緒に外で遊ぼ……えっと、あなたの名前は?」

「僕はカイザー」
「カイザー君」

 リンゴを近くのテーブルに置いて、帰ろうとしたのだけど、男の子がベッドから出てきてしまった。

「リリー嬢の顔と服が汚れているのは……このリンゴを採ったからなのか?」

 そう言われて、リリーは近くの姿見で自分を見た。

「あぁ、服ボロボロ」

 顔も汚れていて、恥ずかしさで顔を手で隠した。

「カイザー君……こ、これは違うの。友達とさっきまで遊んでいたら汚れたの。私に近寄らないでカイザー君が汚れちゃう」

 と、言ったのだけど。

 カイザーは近くまで来てしまい互いの顔がはっきりと見えた。
 銀髪の碧眼の彼はまさに貴族の男の子。
 それに反してリリーは煤けたオレンジの髪に緑の瞳――どっからどうみても田舎男爵の娘だ。

「君のこと……どこかで見たことがあると思ったら、友達と屋敷の前を楽しそうに通る女の子だ」

「そうです。窓からあなたの姿が見えて気になって……お母様が体調の悪い時に『これを食べれば元気100倍!』と庭の木に実ったリンゴを剥いてくれたの……これを食べればあなたも元気になると思って……」

「そうか、ありがとう。リリー嬢帰った方がいい、もうすぐ薬の時間でメイドが部屋に来る」
「わかった、帰るね。明日もリンゴを持ってくるわ」

 バイバイと、リリーは入った窓から外に出て家に戻った。



 その日の夕食のとき。

「リリー、庭の林檎の木に登ったな」
「は、はい」

 お父様にバレていた。

「お父様ごめんなさい……友達と食べようと思って、一つ貰いました」

「そうか……危ないから、今度から庭師のトシに言って採ってもらいなさい」

「はい、お父様」

 庭師のトシに頼んで採ってもらったリンゴを持って、カイザーの部屋に訪れた。
 今日はリンゴを剥こうとナイフを持ったリリーに。

「えぇ、リリー嬢が剥くの?」

「そうよ……果物ナイフを持ってきたわ。剥き方も見たことがあるから知ってる。ここをこうやって……くっ、そりゃ、おぉ? 剥けた⁉︎」
 
 小さなリンゴを部屋に置いてある、皿に乗せて彼に渡した。

「随分、小さなリンゴだね」
「……うん、一口サイズ」

 この日――彼と一緒に食べたリンゴが甘かったことを覚えてる。

「また明日来る?」
「うん、また明日のこの時間に来るわ」

 毎日、彼の部屋に行き本を読んだり、夏休みの課題をしたり楽しい日々を過ごしていた。




 そんな、ある日。
 リリーは今度、知り合いの男爵家で行われる、舞踏会でデビュタントする話をカイザーに伝えた。

「舞踏会に出るの?」

「うん、その舞踏会で婚約者を見つけるんだって、私の婚約者になる人って誰だろう?」


 ベッドで本を読んでいた、カイザーは本を読むのをやめた。


「はぁ、君に婚約者だって? おてんばの君では無理な話だよ」

「そんな事ないわ。今、家庭教師に刺繍とダンスも習ってるもの」

 カイザーの前で踊る真似をすると、彼は本を置いてベッドから出てきて。

「リリー嬢、今から僕と踊ってみろよ」 
 
 強めの口調で彼に強引に手を引かれ、習ったばかりのホールドを組み踊った。
 違う……カイザーとのダンスはリリーとは比べようの無い、上品で優雅なダンスだった。

「凄い、カイザー君」
「そうだろう? だからリリー嬢は僕以外と踊っちゃいけないから」

「えっ? それはどう言う」

 意味だと聞こうとしたのだけど、ごほっと、カイザーが辛そうに胸を抑えて咳き込見始めた。
 助けようと手を伸ばしたけど、カイザーはリリーに『帰れ!』と窓を指差した。


「早く、誰か来る前に出て」


 窓から出たと同時に咳き込むカイザーの元にメイドがやって来た。
 メイドは彼の状態を見て慌てて医者を呼んでいた。

 ――無理をさせた私のせいだ。
 
 彼とのダンスが楽しくって、何度もダンスを踊ろうと我儘を言ってしまった。
 ……次の日、窓をコッソリ覗いだけど。メイドが数人そばにいてカイザーを看病をしていた。

 彼は熱が下がらず数日もの間、寝込んでいた。

 リリーはカイザーの熱が下がっても会わずに窓枠にリンゴを置いて帰った。
 彼が窓枠に立ちリリーを待つ姿を見た日は走って家に帰った。


 夏休みが終わるまでカイザーに会わずに過ごしていた。
 ある日の午後……彼の屋敷の前には何台もの馬車が止まっていた。

 あと数日で夏休みが終わるからカイザーは王都に帰るんだ。
 帰ったら、二度とカイザーには会えない。

 馬車に乗ろうとする彼を呼んだ。

「カイザー君」

「リリー嬢、久しぶり。もうすぐ学園が始まる……リリー嬢、林檎ありがとう。僕はもっと強くなって学園を卒業したらここに帰ってくる。僕も婚約しないから、君も婚約なんてしないで待っていて欲しい」

 その言葉が嬉しくてリリーは頷いた。

「わかった、カイザー君を待ってる」

 約束のキスを交わした。




 あの時のリリーは子供過ぎた。
 調べてわかったのだけど――王都学園は初等部が終わると中等部、そして高等部に通う……
 
 それに引き換え、私は同じ学校に六年通い卒業をした。

 彼からの手紙は三日に一度きていたけと……
 それが週一にのなり、一ヶ月になって、仕舞いには途絶えてしまった。
 あの夏の日に来ていらい、カイザーは夏休みに入っても屋敷に来なかった。


 それから月日が流れた……でも、リリーはカイザーが"会いに来る"と。
 言っていた約束を信じて待っていたけど……現実はそう甘くないと知る。

 十七歳になったリリーは待っても迎えに来ないカイザーを諦めて。
 何度か地元で開催された舞踏会と晩餐会に参加をしたのだけれど……相手は見つからなかった。

 リリーはお父様が選んだ方と結婚を考え始めていた。




「よかった……リリー嬢が今宵の舞踏会に来てくれて」


 息を切らし汗だくのカイザーはリリーの手を掴み声をあげた。


「僕、カイザーは婚約者を見つけた!」


 婚約者を見つけた? 
 探し人は私だった……。

「すみません、カイザー殿下。男爵の私では殿下の婚約者にはなれません。釣り合いがとれる、他の方を見つけてください」

「リリー嬢……ごめん、僕が悪いんだ。君に会いに行くといった約束を守らなかった」

"いいえ"と、リリーは首を横に振った。

「仕方がありません。約束を交わしてから十一年も経っているのですもの……もう無効ですわ」

「嫌だ、リリー嬢……この約束を無効にしないでくれ。……大人になるにつれて病弱だった体も強くなり、やれる事が増えてそれに剣術、乗馬と夢中になったことは認める。父上にも『学園を成績優秀で卒業しろ』と言われていたから必死に勉強もした。言い訳にしかならないけど僕には時間がなかった」

 あなたは王子だもの。

「何度も父上とは話をしたし説得をさせた。僕の結婚したい姫は他にはいない。君なんだ、僕のリンゴ姫」

「カイザー殿下、いけません!」

 リリーの言葉を無視して、カイザーは私を引き寄せた。

「君がこの会場に来ていた……そして僕はリリー嬢を見つけた。今宵の舞踏会で君を見つけれなかったら、僕の父上と君の父上に全て白紙に戻されてしまう所だった」

「全てを白紙に?」

「一度、会いに行ったんだその時――君の父上に言われた。娘を長年ほっておいて、僕は娘の顔もお忘れいると……もし、今宵の舞踏会で娘を見つけることが出来れば『二人の婚約を認める』と言われていた」


 ――お父様。


「探して僕は君を見つけた、後はリリー嬢の気持ちだけだ」

「私の気持ちですか? ……カイザー殿下は私で良いのいいのですか? 殿下はこの国の第二王子で私は田舎男爵の娘です、釣り合いが取れませんわ。それに私がリンゴを渡したからカイザー殿下が元気になったのではありません。ご自身で努力をなさったからです」

「違う、僕は病気を理由に全て諦めていた。あの日、リリーが笑顔でリンゴを持って現れたからだ……僕のリンゴ姫」

「リンゴ姫!」

 ……恥ずかしい。

「それに僕はリリー嬢との婚約が決まりしだい、王子の座を退き君の家に婿養子に入る……リリー、僕をカイザー殿下と呼ばないでくれ」

「……カ、カイザー様」


 そうだと、カイザーは嬉しそうに目を細めた。


「君にプレゼントもある。俺達が初めて出会ったあの屋敷だ」

「あの、お屋敷ですか?」

「ああ、屋敷を直す手配も済んでる。君の実家も近いし、そこにリリー嬢と住んで子をたくさん作りたい」

「カイザー様との子供?」

「あぁ、たくさん作ろ。離れていたぶん、リリー嬢を愛したい」

「……カイザー様、不束者ですがよろしくお願いします」


『おめでとう! カイザー殿下!』と、見守っていた貴族、騎士達は声を上げて祝福してくれた




 一年後、リリーはカイザーと領地で結婚式を挙げた。
 初夜を迎え、明け方、カイザーはベッドの中でリリーの髪を撫で。

「可愛い僕のリンゴ姫、愛しても愛しきれない」

 ガバッと少し膨れっ面で、リリーは布団から顔を出した。

「ほんと、元気すぎるわ」
「ははっ、僕の奥さんのお墨付きだね」

 カイザーは笑い、リリーの髪にキスを落とす。


 彼は体も元気になられた……しかし、あっちの方は数倍も元気。
 そんなカイザーに毎晩求められたら……寝不足よ。
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