3 / 38
第3話
しおりを挟む
*
近所にあるいつも遊びに行く公園。ブランコや、滑り台といったいくつかの遊具が置かれるぐらいにはスペースの広い公園でその日は一人で遊んでいた。
けれど、それはたまたま一人だっただけだ。いつも遊んでいる友だちはその日は用事があってこられなかったからだ。一人で、遊んでいた。ブランコに乗ってギコギコとした音を鳴らしながら左右に揺れ動くのを楽しんでいる。たった一人で遊んでいるのは寂しい筈なのに、けれど自分の動きに答えるようにブランコが動くのがとても楽しかった事を覚えている。
それだけの記憶だった筈だけど。
「ブランコ、楽しい?」
呼びかけられる。少し高くて、穏やかで安らかな声だった。声のした方へ向くと、そこには
*
そこで、目が開く。視線の先にはいつも朝起きる時に見る、天井が。
ベッドから体を起き上がらせた和也はそのまま、学校へ行く準備を始める。着替え、荷物確認……。
けれど、頭の中には先ほどの夢がこびりついてくる。
何故か、自分でもわからないのにずっと覚えていた記憶。その記憶の内容が……書き換わった。そうとしか言えない様な感覚に見舞われたからだ。
先ほどの夢が、あまりにも鮮烈に脳に焼き付いていた。あの声は、一体なんだったのだろう。
目を覚ます直前に、聞こえたあの声。自分を呼び掛ける声が今でも脳の中で繰り返し再生されている。今まで何度か思い返す事はあっても、誰かに呼びかけられた事があった訳がない。
けれど、それを考えている暇もなかった。まずは、今日の出来る事を少しずつ片づけていこう。
朝の支度を終えた後、和也はカバンを背負って家を出る。
徒歩でも十分余裕がある距離に高校があるため、時間としては十分間に合う。和也は、高校まで一人で歩いていく。
「お~い和也~!」
校門前で和也は龍に声をかけられる。
「おう、龍。今日もか?」
今日は、昨日の勉強の続きの事について声を掛けてきたんだろうと予想した和也はそのことについて触れる。
「そうそう! マジでありがたい!」
「……まあ、なるべく一人で頑張れたほうが良いと思うけど」
「いいじゃねーか、人に頼るのも大事だぜ?」
「そうだけどな……」
勉強に関してはもう少し、自分一人でどうにかしようとしている所を見せてほしい。そう思わずにはいられなかった。
「それに一応、あの後は復習したんだしな、ホラ!」
そう言って龍はノートを取り出して、あるページを開くとそれをこちらに見せつけてくる。
そのページは問題や、その問題の解き方。そして、覚えるヒントと言った内容が書かれていた。一見しただけで和也はこのページを見るのは初めてだと気づく。昨日、自分が教えた事を復習するように、そして自分が覚えやすい様に組み替えられた内容とざっくりと見た感じでその印象となった。
「お、ちゃんと昨日教えた事をやってるじゃん」
「だろ? これでも俺だってちゃんと成長しているという事だ!」
胸を張るように龍は、ノートをリュックの中にしまう。
「それはわかったよ。じゃあ行くか」
お、おいちょっと待ってくれよ~! と後ろから声が聞こえる。
*
そんな形で和也たちは教室へ向かう。
「それにしても、夏が終わって寂しいわ……」
「あんなに遊んでそんなに寂しいのか…?」
「そうだろ! たくさん遊べるのは良いだろ?!」
龍は相変わらずだ。夏休みが終わった事に対する未練を漏らしている。和也の記憶の限りだと出会う度に何かしらで遊んでいた記憶しかないが……。ゲームしていたり、スポーツしていたり、寝そべっていたり……。
「それに! 疲れる事がないだろ夏休みは!」
「いや遊んだら疲れるだろ……」
夏休みの良さを力説する龍を他所に和也は少し引き気味ではあった。
けれど、何となく離れようって気にはなれないとは思いはした。
教室に着いた後もいつもと変わらないまま。龍やそれ以外の友人と他愛のないような会話をしていたり、授業の準備を行っていたり……だ。別に特筆する事はないだろう。
放課後の龍の勉強の手伝いは、その中だとちょっと特殊だろう。何時間にも渡って勉強の面倒を見る事になるから、どうしても帰りが遅くなる。
こういう展開がある度に、徒歩で行けるような場所の高校にしておいて良かったと思う自分がいるわけなのだが……そういう事は考えないでもいいだろう。とにかく、放課後の勉強の手伝いをしている訳ではあるが、早めに終わらせておきたいとおも考えている。
というのも、無駄に一つの問題に時間を掛けるような場面を見ているとスムーズに問題を解けるようにはしておきたいという事ではあった。それで、昼休みは事前に図書室へ向かって勉強の整理に向かおうとしていた所だったのだが……。
「あ、あれは……」
図書室に向かう途中、たまたま通った家庭科室の横。そこには、思わず足を止めるような相手が家庭科室の中にいる事に気づく。凛がいた。
何かに集中しているような様子の凛は、こちらに気づいてもいないようだった。
窓越しからは何をしているのかはわからない。少し様子は気になるが、わざわざ声を掛ける程でもないとは思った。だから、そのまま家庭科室を通り過ぎて行く事にした。
近所にあるいつも遊びに行く公園。ブランコや、滑り台といったいくつかの遊具が置かれるぐらいにはスペースの広い公園でその日は一人で遊んでいた。
けれど、それはたまたま一人だっただけだ。いつも遊んでいる友だちはその日は用事があってこられなかったからだ。一人で、遊んでいた。ブランコに乗ってギコギコとした音を鳴らしながら左右に揺れ動くのを楽しんでいる。たった一人で遊んでいるのは寂しい筈なのに、けれど自分の動きに答えるようにブランコが動くのがとても楽しかった事を覚えている。
それだけの記憶だった筈だけど。
「ブランコ、楽しい?」
呼びかけられる。少し高くて、穏やかで安らかな声だった。声のした方へ向くと、そこには
*
そこで、目が開く。視線の先にはいつも朝起きる時に見る、天井が。
ベッドから体を起き上がらせた和也はそのまま、学校へ行く準備を始める。着替え、荷物確認……。
けれど、頭の中には先ほどの夢がこびりついてくる。
何故か、自分でもわからないのにずっと覚えていた記憶。その記憶の内容が……書き換わった。そうとしか言えない様な感覚に見舞われたからだ。
先ほどの夢が、あまりにも鮮烈に脳に焼き付いていた。あの声は、一体なんだったのだろう。
目を覚ます直前に、聞こえたあの声。自分を呼び掛ける声が今でも脳の中で繰り返し再生されている。今まで何度か思い返す事はあっても、誰かに呼びかけられた事があった訳がない。
けれど、それを考えている暇もなかった。まずは、今日の出来る事を少しずつ片づけていこう。
朝の支度を終えた後、和也はカバンを背負って家を出る。
徒歩でも十分余裕がある距離に高校があるため、時間としては十分間に合う。和也は、高校まで一人で歩いていく。
「お~い和也~!」
校門前で和也は龍に声をかけられる。
「おう、龍。今日もか?」
今日は、昨日の勉強の続きの事について声を掛けてきたんだろうと予想した和也はそのことについて触れる。
「そうそう! マジでありがたい!」
「……まあ、なるべく一人で頑張れたほうが良いと思うけど」
「いいじゃねーか、人に頼るのも大事だぜ?」
「そうだけどな……」
勉強に関してはもう少し、自分一人でどうにかしようとしている所を見せてほしい。そう思わずにはいられなかった。
「それに一応、あの後は復習したんだしな、ホラ!」
そう言って龍はノートを取り出して、あるページを開くとそれをこちらに見せつけてくる。
そのページは問題や、その問題の解き方。そして、覚えるヒントと言った内容が書かれていた。一見しただけで和也はこのページを見るのは初めてだと気づく。昨日、自分が教えた事を復習するように、そして自分が覚えやすい様に組み替えられた内容とざっくりと見た感じでその印象となった。
「お、ちゃんと昨日教えた事をやってるじゃん」
「だろ? これでも俺だってちゃんと成長しているという事だ!」
胸を張るように龍は、ノートをリュックの中にしまう。
「それはわかったよ。じゃあ行くか」
お、おいちょっと待ってくれよ~! と後ろから声が聞こえる。
*
そんな形で和也たちは教室へ向かう。
「それにしても、夏が終わって寂しいわ……」
「あんなに遊んでそんなに寂しいのか…?」
「そうだろ! たくさん遊べるのは良いだろ?!」
龍は相変わらずだ。夏休みが終わった事に対する未練を漏らしている。和也の記憶の限りだと出会う度に何かしらで遊んでいた記憶しかないが……。ゲームしていたり、スポーツしていたり、寝そべっていたり……。
「それに! 疲れる事がないだろ夏休みは!」
「いや遊んだら疲れるだろ……」
夏休みの良さを力説する龍を他所に和也は少し引き気味ではあった。
けれど、何となく離れようって気にはなれないとは思いはした。
教室に着いた後もいつもと変わらないまま。龍やそれ以外の友人と他愛のないような会話をしていたり、授業の準備を行っていたり……だ。別に特筆する事はないだろう。
放課後の龍の勉強の手伝いは、その中だとちょっと特殊だろう。何時間にも渡って勉強の面倒を見る事になるから、どうしても帰りが遅くなる。
こういう展開がある度に、徒歩で行けるような場所の高校にしておいて良かったと思う自分がいるわけなのだが……そういう事は考えないでもいいだろう。とにかく、放課後の勉強の手伝いをしている訳ではあるが、早めに終わらせておきたいとおも考えている。
というのも、無駄に一つの問題に時間を掛けるような場面を見ているとスムーズに問題を解けるようにはしておきたいという事ではあった。それで、昼休みは事前に図書室へ向かって勉強の整理に向かおうとしていた所だったのだが……。
「あ、あれは……」
図書室に向かう途中、たまたま通った家庭科室の横。そこには、思わず足を止めるような相手が家庭科室の中にいる事に気づく。凛がいた。
何かに集中しているような様子の凛は、こちらに気づいてもいないようだった。
窓越しからは何をしているのかはわからない。少し様子は気になるが、わざわざ声を掛ける程でもないとは思った。だから、そのまま家庭科室を通り過ぎて行く事にした。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」
「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」
「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」
県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。
頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。
その名も『古羊姉妹』
本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。
――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。
そして『その日』は突然やってきた。
ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。
助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。
何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった!
――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。
そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ!
意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。
士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。
こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。
が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。
彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。
※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。
イラスト担当:さんさん
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる