記憶の中の彼女

益木 永

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第4話

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 図書室で事前に行っていた準備を終えた後、元の道を辿るようにして教室に戻る事にした。その途中で、家庭科室の前を通る直前に、家庭科室前のスライドドアが開く。
「あっ」
 家庭科室から出てきたのは凛だった。
「あ、伊豆野……さん」
 少し、呼び方に迷ってしまった。凛の表情は何かに気づいたように目が少し大きく開く。
「あ、もしかして呼び方に悩んだ感じかな、高野くん」
「いや……ま、まあそうだけど」
 真っ先にその事を指摘されて和也は少し恥ずかしくなる。そんなにわかりやすい感じだったのかとは思いながらも、疑問にしていた事について触れる。
「伊豆野さん……はどうしてここに?」
「私? 私は部活動だね。手芸部なの」
 あっさりとした口調で、そう答える。と、なると次の疑問が。
「まだ昼休みだし、部活動の時間ではないと思うけど」
「まあそうなんだけどね。でも、出来れば空いている時間にしておきたい事があって……今年の文化祭の準備が主にしていた事なの。私が立候補して準備のリーダーを担当してるの」
 文化祭……そういえば、後一、二カ月もすれば、開催される時期だ。
「そうか。文化祭の準備……」
「うん、そう……ごめん、高野くんもだろうけど、急いで教室戻らないと」
 彼女にそう言われて、そういえば昼休みはそろそろ終わり、午後の授業が始まる時間である事に改めて思い出す。
「あ、そうだ。じゃあ行こうか」
「うん」
 そうして、和也たちはそれぞれの教室まで戻っていった。その際、凛から和也のクラスの隣のクラスである事を伝えられた。

  *

「あ~! 全然終わらねえよ、これ!」
「そりゃ簡単に終わるわけ無いだろ。あとそんな大声出したら目を付けられるぞ」
 龍が悲鳴をあげながら勉強に勤しんでいる様子を見るのは最早恒例といっても良いだろう。こうも、毎日同じ様な光景を見ていると、少し飽きてくるような……。
 そんな風に、和也は龍の様子を眺めながら、彼に分かりやすい様に問題の解き方を少しずつ教えている所だった。
 最早、恒例行事と言わんばかりに周囲の反応は薄い。利用者や管理をしている人は殆ど固定なためが故なのだが、マナー的にはどうなのだろう。
「……あ、そういえばお前!」
「なに?」
 不意に龍が何か思い出したかのようだ。急に肩に龍の手が力強く置かれる。
「教室から戻ってくる時、女子と一緒だったよな?!」
「っ今そんな話してる場合か?!」
 一瞬喉が詰まるが、何とか話を逸らせようとする。
「おっと? その反応、やっぱりあの女子と!」
「待て待てっ! 今そんな事してる場合じゃないだろ!」
 龍がその隙を見逃す事なく、更に追及してくる。彼の言う女子というのは、つまり昼休みの終わり、凛と一緒に教室に戻っていた時の事についてだろう。こいつに女子の存在が知られると、今の様に不味い事になるから昨日の事は黙っていたが、これはまずい。
「い~や! お前が先駆けするのは駄目だからな! ここで追及しておかねえと!」
「なんだその理由! というか、ここ図書室だから……」
 その時、ゴホンと近くでせき込む声が。龍はその声に反応するかのように急に黙り込んだ。
「あー、じゃあ……この続きはまたという事で、な?」
「え、ちょっと何荷物を……って!」
 龍は出していた荷物を雑に全部、カバンに放り込むとそのまま図書室から逃亡していった。
「……高野くん、図書室では静かに。あと、城築くんにもその事を話す様に」
「……は、はい」
 せき込む声を出した本人……担任の先生がやってきた。どうやら、たまたま通りがかった所でこの場面を見たようだ。
 幸いにも、その注意だけで終わったものの……下手したらそこそこ長い時間拘束されていたかもしれない。龍には、文句を一つでも言いたい気持ちになりながらも、和也は荷物をまとめた。


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